#101 ベクール王都・東門。
しかし、その代償として高速飛行恐怖症のローグが一名追加され、三名の症状が悪化した。
(ううう。皆、ごめんなさぁぁあい!)
◇◆◇同時刻・フスカ村跡地◇◆◇
メルがベクール王都入りを目前としていたその頃、黒い球体となって正体を隠していたルベルアに捕らえられた調査隊の騎士二名は、まだ絡み付いた影から抜け出そうと抗っていた。
「くそっ……もう、もがく体力も残っていないぞ……!」
「はぁ……せっかく貴族の家系に生まれたというのに、俺の人生ってロクなもんじゃなかったな……。イム、俺達このまま死ぬのかな……?」
「ラグ……まだ諦めるな!隊長達もここへ向かっているんだ……きっと助けてくれる!こんな訳の分からぬ物体に捕まったまま死んでたまるか……!」
「(誰を訳の分からぬ物体と!?ルベルア様、人族の二人くらい、消えても気づくものは居ないでありんしょう)」
いやいや、そんな事ないだろ。っていうか、モルドーと俺が話していたのを聞いていたなら俺の心が人族寄りなのは知ってる筈だよね!?
にしても、こいつらだって言うほどの抵抗はしてなかっただろ。捕まえて五分くらいはジタバタしてたけど、その後は動かないでブツクサ言ってるだけだし。
あからさまに怪しい筈の俺に警戒も無しに近づいて来たと思ったら、石をぶつけてきたり、剣でつついてきたりするから捕まえてみたけど、はてさて、どうしたもんかな。
◇◆◇ベクール王都東門付近◇◆◇
「空からも見えていたと思うけど、これがベクールだよ」
少し歩いたことで落ち着きを取り戻したヤハスが言った。
王都を視界に捉え、気持ちの高揚を隠しきれずにいるメルがあまりに微笑ましかったのだろう。
「はい!凄く、すっごーく大きい!!それに、思っていたよりもずっと綺麗なんですね!」
「一応、人界で三番目に大きな都らしいからね」
まずメルの眼に飛び込んできた景色は、切り出した岩で作られた、どこまでも続いていそうな石垣。
石垣の高さは二、三メートル程であり、それほど高い物ではないが、これほど大きな都をぐるりと囲んでいるのだから、想像もつかないような数の岩石が使われた事だろう。
囲いの外から見える街並みは花崗岩や瑪瑙などの岩石が本来持つ美しさを基調とした建物が多く、芸術物と言っても過言ではなかった。
もちろん、このような景色を見たことがなかったメルの感動も一入である。
それらの奥、都の中央高台にそびえ立つ王城は巨大であり、まだ門の外に居るメルからでも易々と存在感を受けとることが出来た。
メルの現在地からでも見える城の上部は要塞のような造りであり、煌びやか、というよりも、強固そう、という印象である。
が、白や黄系の綺麗な岩石によって作られた外観は、やはり芸術的であった。
「あの一番大きいのが王様の居るお城ですか?」
「そうニャ。今はゆっくりもしていられないから、さっさと城に向かうニャ」
「突然押し掛けても大丈夫ですかね?」
「大丈夫だと思うよ」
「調査隊がまだフスカから戻っていないのなら、レコード・ルーラーの声を聞いただけの王は状況を把握したくてしょうがないでしょうしね」
「うん。自分達が行けば、トーラスはすぐにでも謁見を許可するだろうね」
「それなら私たちにとっても好都合ですね!」
「あたしも行かなきゃダメだよね?……なんか、謁見の時を思い出したら面倒くさくなってきた……」
「あれ?そう言えばリエルは何処ニャ?」
「え?さっきまでここに……って!あそこ!もう中に入っちゃってる!」
「おおっ!?なんか門番と揉めてないか!?」
アーマスの言う通り、皆の視線の先には確かに、いかにもお堅そうな、というよりも物理的に堅そうな鎧を身に纏った二人の門番と何やら言い合いあっているリエルの姿。
「同僚が審査官を連れ戻るまで待てと言っているのに、話の通じぬ奴め!やはり貴様は魔族ではないか!?」
「貴様のような怪しい者を通す訳にはいかない!ここへ来た目的はなんだ!?」
「魔族じゃないもん!メルの友達だって言ってるでしょ!急いでるんだから早く通してよ!」
「我々だけでは判断できぬから審査官が来るまで待てと言っているのだ!」
「メルとは一体何者だ!?ここらでは聞かぬ名だぞ!」
審査官とはあらゆる分野に対する見聞を持ち、希少アイテムの識別を行ったり、種族を含む身元や身分の分からぬ者の来国の際に入国審査を行ったりもする、ライフの上級職のひとつである。
数百年前から他種族との合流を極少に抑え生活してきた天使族の姿をこの門番が知る由もなく、審査官を手配するのは当然であった。
が、リエルはそんな常識を持ち合わせていない。
「私はお城に行きたいだけだし!メルはメルだもん!大岩を持ち上げられるくらい力持ちで鳥より早く空も飛べて、すっごくすっごく強いんだから!」
「はっ!?」
(ビッグベアーの丸太のような腕にホーンバードのような大きな羽でもあるというのか!?“メル”なんて名前のモンスターなど聞いたこともないが、恐らくはとてつもない奴に違いない!)
門番は思わず身震いした。東門の門番として選ばれた自分達の実力には自信があった。
というのも、人通りが少なく、先に広がるのはほぼ未整備の雑木林。稀にモンスターが迷い込む事もあれば、奇怪なモンスターや、強大な力を持った魔女が住んでいるという噂まである地域であり、数ある騎士の中から腕の立つ三人が選ばれ、東門の門番になるからだ。
しかし、東門の門番としての自信と覚悟はあれど、魔族の可能性を持つ見たこともない種族が語る化物はどう考えても自分の手に余る。
自分達が太刀打ち出来ずに怪物を通してしまえば、都の住人達にどれ程の被害が出るのだろうか?
そう考えると自然と震えが走ったのだ。
門番が脳内で架空の怪物を造り終えた頃、リエルと門番のやり取りを遠巻きに聞いていた五人も、“これ以上はリエルが何を言い出すのか分からない”という共通の思いを抱き、言い合いに割って入る事に。
大きな東門の影から始めに声を掛けたのは、気まずそうなメルであった。
「あ、あの……ちょっと良いですか?」
「悪いが貴様のような不安要素を城に向かわせる訳には――――!むぅ!?今日は随分と東門から人が来るな……すまないが、今は取り込み中、少し待って頂きたい!」
門番の一人がメルに気付き丁寧な応対をするも、もう片方の門番とリエルは熱が入りすぎており、メルには全く気付かない。
「審査官が来るまで大人しくしているんだ!拘束されたくはないだろう!?」
「いーだ!拘束したいならすれば良いじゃん!どんな鎖で縛ったってメルなら簡単に引き千切れるんだから!」
「リエル!!」
メルは叫んだ。リエルの言葉により自分像がどんどん怪物化する事に我慢出来ず、堪らず大きな声に。
一番近くに居た門番は真横で爆竹を鳴らされたかの様に耳を塞ぎ目玉をひん剥いたが、ようやく言い争いをしていた二人がメルの存在に気が付いた。
「あっ!メル!」
「何っ!?この女の子がメルだと!?」
「えっと……はい。私がメルです」




