13
前回の最後の一行だけ修正してます。
リアンには私室があるけれど、私とルピナには私室がない。普段は女官が用意した部屋を使い、必要なものは持ってきてもらうという生活をしているからだ。会いたいと思ったら探さなければならない。
女官に探してもらうと、あの庭から出てきていないという。
私たちに知らせを送るくらいだから女官との話は終わっているのだろう。庭でも散歩しているのだろうか。
ルピナの行動力は私の予想を超えるので、庭の中を気ままに散歩しているのであれば見つけるのは骨が折れる。平気で木に登ったり垣根を乗り越えたりするから整備された道を通るだけでは見つけられないのだ。
ルピナとふたりで話したいからと女官は庭の入り口に置いてきた手前、探すのを手伝ってほしいとは言いにくい。どうしようか考えつつ進むとすぐにルピナの姿が見えた。
小さな噴水の前に置いてあるベンチにひとり腰かけていた。
「ルピナ」
声をかけるとびくりと震えてからこちらを見た。
「ナー? どうしたの?」
震えたのが嘘のようにいつもの笑顔だった。
「ルピナと話がしたいと思って…」
「街に行きたかった? ごめんね。ちょっとそういうわけにはいかなくなっちゃった」
ルピナの隣に座ろうと近付くと、ルピナが見たことのない花を持っていることに気が付いた。
「それは良いんだけど…その花、どうしたの?」
大ぶりの花で中央が茶色い。しかもその茶色い部分が結構大きい。その周りに黄色い花びらが生えているのだが、その花びらの数も五つ六つどころではなく結構な量がある。花占いとかしたら面白いかもしれない。
「ついさっき貰ったの。リアンの故郷の…夏の花だそうよ」
「へえ。変わった花ね」
この庭のどこかに咲いたのを庭師が持ってきたのだろう。この庭は広い上に庭師は熱心に植え替えているので知らない花があってもおかしくない。
「ナー、女官のことを気にして来たんでしょう? 彼女なら遠くへ行くことになったわ」
「遠く?」
「あの女官、すごく動揺していてなかなか話を聞いてくれなくて…騙してたのかって責められたわ。信じてたのにって。女官にそういうこと言われるとは思っていなかった」
そう言って花を握りしめた。
王女であるルピナにそういうことを言える女官がいるとは思わなかった。そしていつも自身に満ち溢れているルピナが女官の言葉に傷ついているようだった。
ルピナってこんな感じだった…?
さっき会った時は何を考えているのか分からなくて怖いと思っていたのが噓のようだ。
今はとても小さく見えて、隣に座りぎゅっと抱きしめた。
「ごめん。ナー。ちょっと最近、情緒不安定みたい。大丈夫よ。女官の問題はもう、お父様も分かってるから」
上に話が行っているのなら私にできることはない。少し体を離しルピナの顔を覗き込んだ。
「ルピナは大丈夫? 本当に?」
「うん。ナーも驚いたでしょう? ごめんね」
「さっきから謝ってばかりね。珍しい」
「あら、私も悪いと思ったらちゃんと謝るわよ。いつもそうでしょう?」
「そうかな?」
「ひどい!」
お互いにくすくすと笑い合った。
笑うルピナを見てほっとした。
庭にある燭台に庭師が火をともしに来た。そろそろ夕食の時間だ。
ルピナもそれに気付き立ち上がる。
「ねえ、ナー」
ルピナは私を見ずに持っていた花を見ながら明るい声で言った。
「これから色々なことが起きて私たちも今までとは色々変わったり、色々嫌な事が起きるかもしれないけど、私はナーの幸せを一番に考えているから」
「それは……」
ルピナは私が王弟から言われたことを知っているのだろうか。
ルピナが幸せを掴む時、私はいなくなる。
「私はナーのことが好きだから、幸せになって欲しいと思ってるの。忘れないで」
今度は私の目を見てそう言った。
昔ルピナが私を思って泣いた時、私はルピナのために生きようと思ったのに、自分の死を近く感じた時それを忘れてしまっていた。
ルピナはきっと、私が死んだら泣いてくれるだろう。でも、その前にきっと「生きて」と言ってくれる。
そんな気がする。
そんなルピナに、私は何ができるだろう。
私もルピナも両方とも幸せになれる未来はないのだろうか。
「私もルピナのこと、好きだよ」
私もルピナの目を見て言った。
「ホント? 私たち相思相愛ね!」
ルピナは嬉しそうに笑った。
女官がそろそろ食堂へ行くようにと声をかけてきた。ふたり手をつないで庭を出る。
庭の入り口で何を思ったのか、ルピナが持っていた花を燭台に近付けて燃やしてしまった。
「ルピナ?」
驚いて声を上げたが、ルピナは何も言わず花が燃え尽きるのを見ていた。
真っ黒になった花を庭に投げ捨てると、早く行こう、と私の手を引いた。
ルピナと話が出来て良かったと思っていたのに。
燃え尽きた花が煤の様に私の心に残った。
ルピナが持っていた花は向日葵です。




