9位。
9位。ばばあ、ぶすだな。
そもそも私が「あたし」の記憶を思い出したのも、婚約者様のせいだった。
あれは、そう、私が5歳でこいつが6歳のときだった。
二つの会社を将来融合させようというお話が出ていて、ちょうどいいところに年の近くて性別の違う子供たちがいた。そう、若宮の令嬢ー私のことねーとこいつだ。よし、じゃあこの子達が結婚したら全部円滑だね!という、私たちの意見を思いっきり無視した親どもの考えの下、私たちは婚約をした。これは全てまだ私が「わたくし」だったころの話だ。あのままだったら幸せだったのだろうか。まあ、話を戻そう。
あれ、でも二人が婚約をする前に顔を合わせてなかった!大変!と大人たちが慌てたので、婚約を済ませた後のある晴れた日、綺麗な薔薇の庭園で初めて「わたくし」は婚約者様と出会った。
彼は、天使のようだった。
少し赤く色づいた、ふくらんだ頬。ぱっちりとした、吸い込まれそうなくらい大きな瞳。ふわふわの黒い髪には、名のとおり、天使の輪が浮かんでいた。
「わたくし」はこれほど綺麗な人を見たことがなかった。綺麗、という言葉がこれ以上似合う人がいるとは思えなかった。
一目惚れだった。
。。。あいつが口を開くまでは。
それまで無口だった天使が「わたくし」に初めて言った言葉。
「ばばあ、ぶすだな。」
一瞬、何を言われたのかも分からなかった。世界が真っ白になった。そして「わたくし」は薔薇の庭園の美しい石畳の道につまずき、転び(護衛なにしてた)、頭を強く強く打った。
そのとたん、小さな5歳の頭にあふれこんだ17年分の「あたし」の記憶。「わたくし」に急に流れてきた膨大な情報を整理するのはとても大変だった。三日間、私は(前世では信じられないほど豪華なベッドで)うなされていたらしい。両親たちはとても心配したそうだ。やっと「わたくし」と「あたし」がひとまず納得しあった末にできた「私」が目覚めた時は、全員でほっとため息をついたそうだ。
あのころはまだ「わたくし」のほうが「あたし」より強かった。
「あたし」はこれが恋愛小説の舞台で、私が悪役で、いずれか追放・死亡・没落してしまうことは知っていたけれど、それより「わたくし」がずっと強かったため、「わたくし」の行動をとめられなかった。
あんな暴言を吐かれたというのに、まだあいつに媚を売ったり、べたべたくっつきまわったり、猫なで声で話しかけたり。ああ、追放・死亡・没落まっしぐらだっつーの!
「クールで綺麗で素敵!」という「わたくし」と、「あんなSで俺様なやつどこがいいんだよ、けっ」という「あたし」の狭間で「私」は揺れまくった。
。。。多重人格とか言うな。言ったら終わりだ。
そんなこんなでまあなんとかやっていたんだけれど、私の世界が再び変わったのは4年後のあいつの10歳の誕生日パーティーだった。
ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございます。あと8話続きます。