精霊たちの戯れ
クスクス
白一色に光輝いている部屋の中、世界の秩序を司る為に英雄たちにより創られた大精霊たちが集まり、ソファーに腰かけたり、床に寝そべったりと、各々好き勝手に過ごしていた。
「あらあら、やっぱり商業ギルドを潰してはくれないのね。」
部屋の天井に目を向けて笑う、『迷宮の大精霊』ラヴィリンソス。
その天井には、大精霊たちの間でも話題の的となっている集団が経営する店『カラミタ』を上空から眺めた映像が映し出されていた。
そして、今その映像の中では、セイと『暴虐の野獣』のメンバー達が黒ずくめの縛られた男たちを担ぎ、外に出てくる様子が流れている。
店の中で交わされていた会話もまた、部屋の中に流れ込んできていた。
だからこそ大精霊たちは、彼等が商業ギルドに襲撃はせず『もぐら叩き』という方法を取ることも知っていた。
「あぁあ…姉さんの一人勝ちかぁ」
『迷宮の大精霊』の微笑みに、床に寝転びながら事の成行きを眺めていた『書の大精霊』ヴィヴリオが口を尖らせた。
実は大精霊たち。商業ギルドが差し向けた襲撃者に対して、彼等がどう対応するかで賭けをしていた。商業ギルドを壊滅させる、新しい組織を造り出し今までの英雄たちの様に大精霊を生み出す、など様々な意見があったが、『迷宮の大精霊』だけは「きっと、積極的には相手にせず、迎え討つだけにするでしょうね。」と微笑んでいた。弟たちも、他の大精霊たちも、喧嘩を売られたら買うのが普通だと彼女の意見を笑っていたが、結果は『迷宮の大精霊』の言う通りのものになった。
けれど、『迷宮の大精霊』は自分の予測が外れてしまえばいいと思っていた。最近の商業ギルドの行いは目に余り、冒険者ギルドさえも支配してしまおうという傲慢さに腹を立てていたからだ。彼女にとって冒険者ギルドは自分達姉弟そのものであり、大切な御父様が残した組織。人間が勝手に作った、一部の人間の利益を求めるだけの商業ギルドが触れようとすることが汚らわしく、微笑みの下で憎悪を募らせていたのだ。
「やはり、お父様の同胞の方々を利用するなんて出来ませんでしたね。」
通常の英雄のように世界が望んだ存在ではないから、利用出来るのではないかと考えていた。けれど、よくよく観察してみれば、ヘタをすれば英雄たちよりも危うく強力な者たちだった。対応を間違えれば大精霊こそが消される危険もある。
それでも、自分の身を賭けることも辞さない程、『迷宮の大精霊』の怒りは限界を迎えていた。
「なら、他にやらせればいいんじゃない?」
落胆する『迷宮の大精霊』に、頭から足の先まで黒で多い尽くした女が声をかけた。
「『魔道の大精霊』」
白い肌の中に浮かぶ真っ赤な口だけが覗く、長い黒髪を床に引きずる女。それは、冒険者ギルドを創った英雄タクマと同時期に降り立ち、多種多様の魔術を世界にもたらした英雄ケンジが生み出した『魔道の大精霊』マギア。
「教えて貰った彼等を召喚した術。探ってみたら、また使おうとしている人間を見つけたのよ。しかも、複数。」
マギアがケラケラと笑いながら言った言葉に、大精霊たちは音一つ立てることもせず、真剣な面持ちを向けた。
「数日後には実行するでしょうね。すでに、世界が繋がろうとしているわ。それが成功したら、そいつらを使えばいいんじゃない?彼等のような異質な存在が呼び出される確立は低いだろうから、簡単に導いてしまえるわよ?」
「怖い。」
両手で体を抱え込み、『戦場の大精霊』が呟く。
「愚かね。」
鼻で笑う『共生の大精霊』。
「面白い」
そう言いながらも虚空を睨みつける『医蛇の大精霊』
言葉を発する事はなくとも、目を鋭く尖らせる『魔具の大精霊』に『宝庫の大精霊』たち。
そして、英雄たちを祀り、それを崇める事で人々の心の平穏を図る事を役割とする『秩序の大精霊』が怒りに満ちた笑みを浮かべた。
「愚か者たちには、仕置きが必要ってことだね。」
神の領分に触れる行いを『大精霊』たちは許しはしない。
「どうして、放っておいたの?マギア。」
「だって、人間は一度痛い目を見ないと何度でも繰り返すでしょ。だから、よ。」
「わざと見逃したのね、やっぱり。」
「…先に進もうとすることは大切だわ。それを否定しては人間は進化を止めてしまう。けれど、触れてはいけない事はある。それを魂に刻み込むことも大切でしょう?」
「いいよ。僕はマギアの考えに賛同するよ。しばらく泳がせてから叩く。絶望に叩き落せば、大人しくなるだろう。」
『秩序の大精霊』エクリシアが声を高々に上げて、同胞たちの顔を見まわした。
大精霊たちは少しの間考え込み、そして『魔道の大精霊』と『秩序の大精霊』の意見に頷き、同意する事を示した。




