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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
十一章 明かされて行く謎
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束の間の共同生活

 島での生活は色々あったが、結論から言うなら俺達は助かった。

 生活を始めて四日目の夜に、島の沖合に定期船が通りかかり、夜空に向かって炎を撃って、自分達の存在を報せたのである。

 そこに至るまでの経緯は長く、詳細を話せばキリが無い。

 なので、俺なりに短くまとめて、省略した形で伝えようと思う。


 まず、レナスの相棒妖精だが、彼は本当に消えてしまったようだった。

 消えた、と言うよりは死んだのだろうが、レナスはあまり気にしておらず、むしろ、俺が気にしている事に気付き、妖精の仕組みを話してくれた。

 それによると相棒妖精は、俺達が居なければ生まれてすら来ないらしく、その時の神の気分によって、適当に創られる存在らしい。

 故に、性格や姿は適当。寿命ですらも適当のようで、中には一年も経たない内に寿命で死んでしまう妖精も居ると言う。

 おそらくそこには俺達――

 つまり、マジェスティが長生きしないからと言う、根本的な理由があるのだと思うが、それでも彼らの存在に対して、酷すぎないかと俺は思う。

 ただでさえ相棒妖精は、俺達マジェスティが死んだ時にも死ぬ。

 その上で寿命が適当とくれば……俺だったら知った時に絶望するだろう。

 どこに行って、何をするのか分からないマジェスティになんかついていかないし、自分がいつ死ぬか分からないなら、好き勝手をして過ごしたいと思うかもしれない。


「(これはユートには話せないな……)」


 いくらあいつがノーテンキでも、こんな事を知れば怖くもなるだろう。

 それに、もしも引き篭もられて、漫画ばかりを読むようになられても辛い。

 言わない事にも辛さはあるが、そうなるよりは余程にマシなので、ユートには決して話さない事を、俺はその時に誓ったのである。

 ちなみにだが、妖精の復活を願えば、同じ妖精をくれはするらしい。

 しかし、そこまでの記憶を失った、新しい妖精としての扱いになるようで、それならむしろ、姿形が同じじゃない方が良いのではないかと、聞かされた俺は密かに思うのだ。


 順番的には確かこの話が、一番最初にされたと思う。

 そして、次にされた話が、食べ物についての事だったはずだ。

 島を調べて分かった事は、この島には動物すら居ないと言う事で、助けが来る、と信じた上で、それまで一体何を食べて生き延びて行くのかと言う質問だった。


「最悪は迎えが来ない事もあり得る。やつらも直接の手出しは出来ん。

 となると、この島での長期の生活を考えて置いても損は無いだろう。

 まずは食糧だが、その次は住居だ。泉はあるが、浴槽が欲しいな……

 その他に何か思いつく事があれば、お前も遠慮なく意見を言ってくれ」


 傾き始めた太陽を背に、倒木に腰かけたレナスが言って来る。

 それはまぁ、当然の心配で、考えて置いて損は無い事だ。

 だが、俺には奥の手があった為に、そんな心配は露ほどしておらず、むしろレナスの心配と言うか、生真面目さが不意におかしくなって、「いや」と返して笑ってしまうのだ。

 当然ながらレナスは訝しみ、「何がおかしい?」と俺に聞いて来た。


「いや、すみません。何でも無いんです。

 でも、すぐに帰れるんで、そんな心配はしなくて良いですよ」


 まずはレナスに謝罪する。失礼だったかなと思った為だ。

 その後の言葉の理由は奥の手、つまり、移動魔法があるからなのだが、そんな事とは知らないレナスは「すぐに帰れる? 何故だ?」と言って、顔を顰めて疑問した。

 色々言うよりは見せた方が早いので、それに答えず距離を取る。

 それからライバードの紡いでいた呪文の冒頭を思い出すのだが……


「……」


 それが、全く思い出せない俺は、両目を見開いて冷や汗を流すのだ。

 確か、「ギルス」とか「マルス」とか言っていた気がするが、ハッキリ言って確信は無い。

 そして、ライバードは二回とも「絶対に間違うな」と言っていたはずだ。

 間違えればどうなるかは予測できない。だが、念を押して言ったからには、「発動しないネ♡」だけでは済まされない、良くない結果に繋がる気がする。

 と言うか、おぼろげすらも、詠唱する呪文が思い出せず、適当の段階にすら到達できない俺はレナスに向かって「あー……」と言い。


「魚……魚を獲りましょう!」


 と続けて、瞬きを早められる結果となるのだ。


「いや、お前は先程すぐに帰れると……」


 当然の追求だ。俺が悪かった。繋がって居ない事は良く分かる。

 だが、だからと言って呪文を忘れたとは、恥ずかしすぎて伝えられず、「そんな気がしたんですがー……」と、曖昧に言う事で、誤魔化す道を選んだのである。


「不安の為に頭がイカれたか……身の安全も考えるべきか……」


 そんな事をレナスはボソリ。その後の警戒が増した気がした。

 だが、提案自体は拒否はされず、魚を獲る為に浜辺に移動し、俺達は尖った木を銛代わりにして、何匹かの魚を獲る事が出来た。

 その際に、レナスはカジキのような魚を捕まえ、それをすぐに冷凍化した。

 そして、事ある毎にそれを刃物や、武器として使って俺を怯ませ、挙句の果てには鳥を射落として、「使い方がヘン!」と叫ばせるのだ。


 まぁ、そういう事が様々あって、一日目が過ぎて二日目の夜になる。

 その時には仮初の小屋が作られ、レナスはそこで寝ていたのだが、俺は一応男なので、遠慮をする形で外に寝ていた。

 その時に役に立った……と言うか、思い出したのが、セフィアに貰ったラーク王国のマントで、それにくるまって眠っていると、女性の歌声が聞こえた気がした。

 方向的には入り江の方で、小屋の中からは寝息すら聞こえない。

 軽くホラーを感じた俺は、レナスを起こそうとしたのであるが。


「ヒッ?!」


 カジキを置いて寝て居たレナスに、それ以上のホラーを感じて断念。


「ううん……」


 と、無意識に切っ先(?)を向けられて、慌てて小屋から離れるのである。

 一人は怖いが仕方が無い、と、覚悟を決めたのはこの時の事で、歌声が聞こえる入り江に行くと、一人の女性が岩場に見えた。

 髪の毛は青か、もしくは黒色。はっきりしないのは薄暗い為では無く、何故か視界が歪んで見えるから。

 人間じゃないのか……そう思った時には、女性の腰から下に気付くが、その時にはあちらも俺に気付き、何事かを言って海に逃げていた。


 後で聞いた話だが、それはセイレーンとかマーメイドとか言われているモノらしく、歌の力で人を魅了して、行動を操るような存在だった。

 一体彼女が何を歌っていたのか。それは俺には分からない事だが、直後に俺は何となく……ソワソワと言うか、ムラムラと言うか、所謂劣情を感じてしまい、「やめろ! よせ!」と頭では分かりつつ、フラフラと小屋へと向かい出したのだ。

 頭では分かるが足が止まらない。昂る劣情と興奮が収まらず、言う事を聞かない部分が増える。

 殺されるぞ! 相手が悪い!

 と、死を盾にして言い聞かせるも、「そのスリルが逆に燃えるぜ!」と、第三の足もむしろやる気だ。

 その内俺は考える事すら、言い聞かせる事すら出来なくなって行き、小屋の手前で服を脱ぎ、飛びついた所で記憶が途切れた。


「ん……んんっ……? なんだコレ、痛っ……」


 気付いた時には朝になっており、まずは俺は痛みを感じる。

 それから目の前の小屋の壁を見て、前のめりに倒れて居ると言う現状に気付く。

 最後の記憶を辿ってみると、現在が裸な理由も分かる。

 もしかして俺は……ヤってしまったのか……? その結果としてこんなとんでもない体勢なのか?

 そう思って体を起こそうとすると。


「いってッ……!!?」


 腰の下に激痛を覚える。正確にはそれは尻であり、おそるおそる右手を伸ばすと。


「ぎゃああああああ!?」


 カジキ。レナスの凍らせたカジキの尖端部分が尻の穴に突き刺さり、それがゆらゆらと揺れる事で、大量の血を床に滴らせていたのだ。

 何があったのかは不明であるが、兎にも角にもそれを抜く。


「あふッ……」


 痛みでは無い何かもあったが、気にしないようにして立ち上がり、自己回復を意識して、レナスを探して小屋の中を見てみた。

 散らかっている。相当に。拳で作った穴だとか、血糊の跡等もあちこちにある。

 だが、当のレナスの姿が無いので、尻を押さえて外に出て、服を拾いながらに歩いて行くと、倒木に腰かけて居るレナスを見つけた。


「次は殺す」


 振り向きもせずにたったの一言。おおよその事を俺は理解する。

 とりあえずの形で「すみません……」と謝罪して、言葉少なにその日を過ごした。

 そしてついに、四日目になり、偶然の形で定期船を見つけ、先にも言った方法で俺達は島から脱したのである。


 現在、俺は紅茶を両手に、レナスを探して彷徨っている。

 船長の気遣いで貰った物だが、一人で飲むのは気が引けた為で、しばらく船内を探した結果、舳先に佇んでいたレナスを見つける。

 近付いて行くが、反応は無し。まだ怒っているのかもしれない。


「あの、一昨日のアレなんですけど、ああいう事はしない人間なんで……

 ってか、実際にした訳なんですが、何かに操られてたような気が……

 いや、言い訳にしか聞こえないと思いますが、本当に、全く記憶が無いんで、出来ればレナスさんにも忘れて貰えると……」


 故に、そう言って横に立つと、レナスは「何……?」とまずは一言。


「あんな事をしでかして置いて、謝りもせずに忘れろだと!?

 私も長く生きて居るが、あんな事をされたのは生まれて初めてだ!

 責任を取れ、等と言うつもりは無いが、反省が無いのはどうかと思うがな!」


 怒った様子で言葉を続け、紅茶を奪って去って行く。


「全く、アレを片付けるのに、私がどれだけ苦労をしたと……」


 そして、俺に背中を見せて、ボヤきながらに遠ざかって行くのだ。

 記憶が全て飛んで居る俺には事情がサッパリ分からない。


「もしかして今度は復讐される側になった……とかな」


 或いは体に触れたりしたのか。それとももっとヤバい事をしたのか。

 推測の域を出ない事だが、不安を覚えて小さく呟き、その後に俺は紅茶をすすって夜の海原に視線を移した。


片付けた、と言うのがポイントでして……

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