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モルト島沖海戦 前編

 船の名前はユキカゼに決まった。

「美少女の名前かよ」と、ダナヒは言ったが、反対した訳では無かったようで、その後の船名はユキカゼとして、周囲に認識される事になった。

 今、俺はそのユキカゼの手すりにもたれて槍を見ている。

 言うまでも無くナエミに貰った、ちょっと短めの手作りの槍だ。

 すぐ近くにはヨゼル王国の旗艦と思われる船が居るが、俺自身はユキカゼに残って、顔を見せない道を選んだ。

 理由はまぁ色々あるが、第一には余計な揉め事を避ける為。

 あちらの司令官の名前は知らないが、それがもしも知った顔なら。

 ――と言っても、レナスとその副官と思われる、中年の男しか知らないのだが、もしもどちらかがそこに居れば、なんでこいつがと向こうは思うだろう。

 こちらはこちらで逆恨みから、或いは睨んでしまうかもしれないし、最初から行かなければそういう事は起こらないだろうと俺は思った。


 それ故に、ダナヒに理由を話して、ユキカゼでの待機を承認して貰ったのだ。

 カレルとライバードが同行したので、何かがあってもダナヒは大丈夫。

 それに、何かがあったのならば、今頃はあそこは大騒ぎだろう。

 ヨゼル王国の旗艦を一瞥し、口の端を曲げて視線を戻す。

 それからナエミに作って貰った槍のある部分に両目を止めた。

 場所としては中心位に、例えるなら電気のスイッチのようなものがある。

 現在はそれは下が凹んでおり、上の部分がやや迫り出している。

 その状況をオンと見るか、オフと見るかは難しい所だが、冒険心を出して押すかどうかは、若干、躊躇われる所と言える。


 何しろ製作者はナエミである。好奇心が服を着て歩いているナエミである。

 過去には近所のブランコに手を加え、ストッパーを外した経歴もあり、それを知らずに漕がされた俺は、ブランコで無重力を体験した事もある。

 基本的には頭は良いのだが、勢いで行動する節があり、俺はそこを懸念するが故に、おいそれとスイッチを押せないで居た。

 例えばだが、槍の先がいきなり外れて、ミサイルのように飛んで行っても俺はビビらない。

 むしろ、「ああ。やっぱりな……」と、爽やかな顔で見送る自信すらある。

 だが、まぁ、見つけてしまった以上は、気にしないようにするにも限界があり、結果として俺はユートに離れるように言ってから、スイッチを押す事にしたのであった。

 それにあれだ。戦いの最中に、何かの間違いで触れたとしてだ。

 いきなり先っぽが飛んで行ったら、俺も敵もどうすれば良いのか。

 そこはやはり、自分の武器として確認しておかなくてはならない所で、ユートを背後に引け腰で、俺はスイッチを上へと入れるのだ。


ガチン! ジャキンジャキン!!


 直後の音はそんな音。槍の先が二段階に伸び、全体的な長さが水増しされる。

 以前の長さが百五十㎝程なら、伸びた後では二百㎝ばかり。

 敵との距離に応じて長さを調節できる仕組みのようだ。

 まず思う事は「ゴメン」と言う事。疑い過ぎてホントにゴメン。

 まさか真面目な機能とは思わず、俺は露骨に警戒していた。


「ヤバいってヒジリ! そこから更に、腕とか脚とかが生えて来るって!」


 と、変形ロボみたいなのを想像しているのか、ユートのそれよりは遙かにマシだが、どうやって戻すのかと探っている間にも、何かが無いかと警戒はしていた。

 が、結果としてはヤバい物は無く、柄の底をねじると長さは戻った。

 距離に応じての使い分けもそうだが、これはともすれば奥の手としても使える。

 接近戦でいきなり使えば、かわせる者はまずいないだろう。


「おう。戻ったぞ」

「あ、おかえりなさい。どうでした?」


 そう思っていると、ダナヒ達が戻った。当たり前の事だが全員が無事だ。

 一応の形で首尾を聞くと、「何なんだろうな」とダナヒは一言。


「掴みどころがねーっつーのか? 何だか良く分かんねー奴だったぜ。

 油断させておいて後ろからズドン、とか、平気でやりそうな感じの奴だ。

 表面上は手を結んだとは言っても、信用しねー方が良いかもしれねーな」


 そんな言葉を後に続け、船を動かす為に操舵手の元に向かう。


「嫌な空模様になって来たわね……もしかして嵐になるのかしら……」


 残ったカレルが遠くの空を見るので、俺達も揃ってそちらを眺めた。

 夕焼け空の更に向こうに、黒い、どんよりとした雲が見える。

 それはゆっくりとだが確実に、こちらの方に近付いて来ていた。

 衝突は今から六時間後程とされているが、もしかしたらカレルの言うように、その時には嵐が来ているかもしれない。

 それでも戦いになるのだろうか。いっそ引き返してはくれないものか。

 そう思っていた俺であったが、ヘール諸島とヨゼル王国、そして、魔の島の魔物達の軍勢は、それから六時間後の嵐の夜の中で、ついに衝突する事になった。


 時刻は夜半。詳しくは分からない。嵐に見舞われた海原に砲火の音が木霊する。

 戦いの始まりを告げる音に、俺達は一斉に甲板に飛び出し、荒れ狂う海と天候を目にして、視界を守る為に片手で覆った。

 降りつける雨、うねる海原、風は殆ど暴風に近い。

 ユキカゼの甲板も不安定に揺れており、ダナヒの船酔いに拍車をかける。

 俺の持ち場である船の中心は、現状では嵐以外には何も見えない。

 聞こえて来る音もヨゼル王国軍が放つ、砲音と嵐以外には何も無かった。

 そんな状況で一分程待ったか。

「何も来ないねー」と、ユートが言った。

 暴風に飛ばされてしまわないよう、俺の背中にひっついており、宛ら子供か恋人のように、両手を首に回して来ている。

 或いは誤射か試し打ちか……嵐を察して敵は退いたのか。


 そんな事を思った直後に、敵は、俺の頭上の闇から一斉に現れて来たのであった。




 肌は灰色で瞳は黄色。背中に翼を生やしたそれは、俺が不意打ちに気付くや否や、鎌を片手に飛びついて来た。

 見た目の印象は小悪魔と言う感で、大きさはおよそで六十㎝程。

 中にはそれより一回りは大きい、堅そうな悪魔も存在しており、そいつは自身の鉤爪を武器にして、仲間に紛れて攻撃して来た。

 嵐のせいで気付かなかったが、船の周囲はすでに敵だらけ。

 降りしきる雨の隙間からは、不意打ちに立ち向かう味方が伺え、俺自身もここで槍を召喚して、襲い来る敵への反撃を始めた。

 一匹、二匹と立て続けに斬り、三匹目の敵の脳天を刺す。それからそいつを突き刺したままで、右手に迫った敵を薙ぎ、背後からの攻撃を飛んで避けて、二匹の体を同時に踏んだ。

 肉を踏み潰す嫌な感覚と、二匹の発した鳴き声が伝わるが、俺はそれを無視する形で次々に敵を屠って行った。

 何と言う事は無い。慢心では無いが、この程度の敵ならどうとでもなる。

 千匹……は、流石に言い過ぎだろうが、百匹や二百匹には負ける気がしない。

 それに、ナエミがくれた槍だが、こいつの軽さと馴染みが別格で、凄惨な戦いをしていると言うのに、俺の気分は高揚していた。


 そして、実際に百匹程を倒したか。魔物の死体が山積みになって来た頃、唐突にユキカゼからの砲火が始まる。

 異常に気付いた射手達が、ようやく砲撃を開始したらしく、その事により敵の援軍と、攻撃が若干緩和された。一掃するなら今がチャンスだ。


「チャーンス! 一気にやっちゃえヒジリー!」

「言われなくてもそうするさ!!」


 ユートの言葉に答えた後に、俺は空中に飛び上がる。

 そこからは落ちるまでにひたすら攻撃し、密集していた敵の殆どを甲板や海に落としたのである。

 魔物とは言え気の毒ではあるが、これは戦争で、容赦は出来ない。

 それでも尚、襲い来る敵を排除しつつ、周囲の様子をちらりと伺う。

 激しい雨でハッキリとは見えないが、皆もまだ戦っているらしい。


「あークソ! 斧が返って来ねー!」


 と言う、ダナヒの声が聞こえて来たので、おそらく例の必殺技である「アックスブーメラン」を使ったのだと思った。

 この雨の中で良くやるものだ。返って来るにしても危なすぎる。

 人の事だが心配していると、カレルであろう悲鳴が聞こえ。


「誰よ!? こんなものを投げつけたのは!? 危ないにも程があるわ!」


 と、激怒している様子が伝わり、俺は「ほらぁ……」と思うのである。

 言葉から察するに、当たってはいないのだろうが、俺であってもまずはビビる。

 タイミング次第では命取りになりかねないし、それは当然怒りもするはずだ。

 だが、ダナヒは「パイレーツキック!!」と、新たな必殺技の発動の最中で、カレルの怒りに全く気付かず、体術での戦闘を継続しているらしかった。

 後はライバードだが、心配は不要だ。何しろ俺の師匠なのだから。


「(皆無事だな……ここもこいつで……!)」


 兎にも角にも全員が無事。そう思った俺は眼前の敵を斬り、左手をすかさず上方に突き出して、炎の矢を発現させるのだ。

 想像通りに矢は発現し、三匹の敵の体を包む。

 そして、そいつらが海へと落ちた頃、周囲の敵はようやく片付いた。

 死体の数を見る限り、二百匹以上は葬っただろうか。よくもやったな、と自分で思う。

 次に思うのが「ヒドイな……」と言う物で、これが魔物では無くて人間だったなら、俺はもっと凹んでいたかもしれない。

 しかし、先にも言った事だが、これは戦争であり、自衛の為だ。

 そう思わないとおかしくなりそうで、首を振ってから槍を払った。


「ヒジリ!?」

「なんっ!?」


 ユートが直後に声を出す。向かっている先は手すりの先だ。

 そこには高さが十mはあるだろう、高波がすでに迫って来ており、それをもろに受けた俺は、槍を手放して転んでしまう。

 幸いにも引き波には攫われなかったが、立ち上がるまでに時間がかかる。


「いい!?」


 そんな時に俺が見たのは、船の真横に現れて尚、五mはあるだろう体躯を誇る深蒼色しんそうしょくの大イカだった。

 名前位は聞いた事がある、クラーケンと言う名の魔物かもしれない。

 俺の思考は驚きで停止し、触手を振り上げる大イカを見るだけ。


「ちょっ!? ヒジリ!? 槍! 槍!」


 と、ユートが騒いで我に返ったが、イカの触手はもうすでに、俺の頭上に迫って来て居た。


「くっ!!」


 駄目を承知で腕を交差し、それを突き上げて防御として見る。

 行動高速化に慣れて居れば、そちらを使って逃げられたのだが、この時の俺はそれを喪失して、間抜けにも防御に走ったのである。

 直撃すれば死んでいたか、相当のダメージを受けていたはず。

 だが、俺を叩き潰す寸前で、大イカの体は閃光に包まれた。

 眩い光に集う雷撃。大イカの体が見る間に焦げて行く。


「あ、師匠だ」


 ユートが見る先は俺の右手で、そこには迸る雷撃を発す、杖を構えたライバードが立っていた。

 謎の物体――肩にあるひし形だが、これは現在真ん中から割れており、白い光をライバードの右手に供給しているように見える。

 その動きが何なのかは俺には分からないが、助けられた事は嫌でも分かる。

 故に、「助かりました!」と礼を言い、左手を軽く上げるライバードを目にした。

 大イカはその後の数秒程で、力尽きるようにして海へと沈む。


 そこからはユキカゼの砲撃に加え、ライバードやカレルが遠距離から攻撃し、波間に見える前時代的な船と共に、敵達の殆どは嵐に消えた。

 多勢が決したのはこの頃の事で、魔物達の攻撃はここから少しずつ、沈静化に向かって動き出すのだ。


 勝った。と俺達が確信するのは、この時からおよそ二時間後の事だが、まだ戦いが終わっていなかった事を、それと同時に知る事になる。



次回作なのですがもしかすると、「擬人化、女性向け物」になるかもしれません。

重機とか戦艦の擬人化では無く、割とそこら辺にある物の擬人化のお話で、形としては拙作の魔医者に近いような一話完結ものですか。

まぁ、あくまで予定ですので、もし見かけて興味があれば、その時にはよろしくお願いします(笑)


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