表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
七章 必殺技を手に入れろ! ヒジリとダナヒの修行編
60/108

ヒジリとユートの災難の日

 結果から言うなら島の西側も、東と殆ど同じだった。

 滝が無い分東側よりも、何も無かったと言って良いのかもしれない。

 兎も角、探索を終えた俺は、森へと入る覚悟を決めたが、そこで腹が空いた為に、まずは腹ごしらえをする事にした。

 狙うは入り江を泳ぐ魚で、木を削って作った銛が、それを獲る為の得物であった。


 ローブを脱いで浜に置き、ズボンの裾を上げて海へと入る。

 ふと見ると沖に居た船が居らず、そこには「帰るんだ……」と、軽く絶望。

 その後に視線を足元に移して、近くを泳ぐ魚を狙った。


「いぃぃ……こいつ、色キッモ……!」


 一匹の魚の体が赤い。その上で紫色の斑点までがある。

 顎はしゃくれて目は出目金。捕まえた直後にガスを吐いても俺はきっと驚かないだろう。


「いやいや、流石にコレはパス……多分ていうか絶対食べられないし」


 そう決めつけて見逃すと、青色の魚が近くにやって来た。大きさはおよそで二十㎝の、見た限りでは普通の魚だ。

 これならイケル。そう思って構えるが、直後に気付いた違和感に俺は両目を細めるのである。


「キモッ!」


 その魚には両手があった。そこだけはなぜか肌色の手が。

 しかも、小さな蟹を捕らえて、口に運んでバリバリと食べている。あまりの不気味さに一歩を下がると、そいつが俺の気配に気付いた。


「ぎゃあああ!? 来んなよ!?」


 或いは逆鱗に触れただろうか。両手を伸ばしてそいつが襲い来る。

 人間と魚。銛と素手。そんな立場を完全に忘れて、俺は浜辺に逃げ出すのである。


「ナニヤッテンノ……」

「いや、ヤバイって、この島ヤバイって!」


 呆れた顔のユートに言われ、右手を振って言葉を返す。

 しかしながらユートは「なにがぁ~……」と、呆れた顔を撤回しない。

 だったらやって見ろ! お前だったら食われるぞ!

 そう言いたい気持ちをぐっと堪え、「魚は諦めて木の実にしよう……」と食材の変更をユートに告げた。


「……もー仕方ないね。こうなったら、ユートさんのウデマエを見せてあげるよ。ちょっとそこで見てなさいよ」


 が、ユートは魚が良いようで、やる気になって腕まくりをする。

 それから入り江の上へと飛んで行き、呆然と見守る俺の前で、高度を上げて「ぴたり」と止まった。

 そして、「好機!」と、唐突に叫んで、カワセミの如くに海面に突撃。

 直後には「敵将!討ち取ったりぃ!」と言って、魚を抱えて飛び出してくるのだ。

 捕まえられた魚は両手を動かして、何とか逃れようと抵抗したが、ユートはそれをがっちりと押さえて俺の目の前へと戻って来た。


「アーク流捕縛術その一! カワセミ殺法ヘルダイブ!

 いやはや、こうもうまく行くとは」


 それから魚を投げたユートに「誰って!?」と、俺は驚くのである。


「アークさんだよアークさん。サバイバルキングのアークさん」


 その言葉には何も返せず、「ああ……漫画だな……」と俺は思う。

 良い影響なのか悪い影響なのか。判断に少し悩む所だ。

 ユートはその後に再び飛んで、アーク流捕縛術とやらで漁を続行し、

合計で三匹もの魚を捕まえ、俺達の食事を確保したのだ。


 ちなみに全てが「手つき」の魚で、そこには少々の悪意を感じる。

 だが、偶然の産物だと思うようにして、無難に焼いてそれを食べた。

 味としてはまぁ普通。近いと言うならカレイに近い。

 意外にイケるのか。

 そう思って、警戒を解いた事が命取りになった。


「ング!?」


 それは両手に噛みついた時の事。中から汁が飛び出して来た。

 まずは熱い。焼きたてなのだから、それは当然の事である。

 そして臭い。例えるのなら、一体何年掃除してないの……? と言いたくなるような公園の男子トイレの臭いに近い。

 つまり、そんな臭いを口の中にブチまけられてしまった訳で、それで悠然と食事が出来る程、俺の精神はタフでは無かった。


「次からはこの魚はやめような……」


 流石に食欲を失ってしまい、魚を刺した串を置く。

 残りはこれと丸々一匹。悪い事をしたな、と、少しだけ思う。

 命を奪って食糧にした以上は、本当は食べきるのが礼儀だからだ。


「あれ? 食べないの? じゃあボクが貰うねっ!」


 ユートが言って予約をして来た。自分の分は後は手だけだ。

 予約をしなくても食べはしないが、そこの部分には「ああ」と答え、手を一体どうするのかと、若干、意地悪に黙って見ていた。


「うん! コリコリしてておいしいね!」


 直後の反応はそれだった。満面の笑みで食べ続けている。

 コイツの味覚は大丈夫なのか……

 俺は不安に駆られた目で見て、顎の下に伝った汗を拭った。




 食事を終えて十数分後。

 森に行くか、と、思った直後に、強烈な腹痛に襲われた。

 それと同時に嘔吐感をも覚え、向かう事をやめて岩場に移動し、上下から出すべきものを出して、やつれた顔で岩場から出て来た。


「うっ……駄目だ!?」


 が、それでも双方が収まらず、再び岩場の影へとダッシュ。

 苦痛の声と脂汗を出して、見えない何かとの戦いを始めた。

 それから二時間は過ぎただろうか。太陽が真上で輝き出した頃。

 ようやく体調を落ち着けた俺は、一本の木を背に「ぐったり」として、「今日は無理……」と、一言を言って、引いては寄せる波を見ていた。


「同じモノ食べたのに不思議だよねー。やっぱり手がマズかったのかなぁ?」

「二つの意味でそうだろうな……あそこに毒素があったんだよ……」


 ユートに聞かれて言葉を返す。

 幸いにも、マズくて食べられなかったが、食べ切って居たら死んだかもしれず、マズいモノはそんなに食べられないと言う、人間の防衛本能に密かに感謝する。


「まぁ、とにかくちょっと寝るよ……精神的に疲れたって言うかさ……」


 言えないけれど尻も痛く、少し体を休めたかった。

 痛い理由は言わずもがな、使いすぎ、拭きすぎた結果の事だ。


「アイヨー。じゃあボク暇だからその辺見て来るねー」

「あまり遠くには行くなよ」


 ユートの返事にはそう言って、木を背にしたままで両目を瞑る。

 ポカポカ陽気が実に心地良く、俺はすぐに眠りに落ちた。

 再び目覚めたのは何時間後だったか。


「……どうわっ!?」


 目を開けるなりまずは驚く。

 引いては寄せていた海岸線が、目の前に迫っていたからである。

 それは、後、十分も遅ければ、俺の寝る場所にまで到達しており、下手をしたら寝たままで沖まで流される所であった。


「アッブネー……全くどんな島なんだよ……」


 ギリギリの所で立ち上がり、それから離れて一人でボヤく。


「あれ? ユート?」


 と、声をかけるが、周囲にユートの姿は無かった。


「おーい! ユート!!!」


 大きな声で呼んで見ても、返ってくる声は何も無し。

 注意深く見回す途中で、遠くに夕焼けの空が見えた。


「そろそろ夜か……ここに居ないとなると……」


「暇だからその辺見て来るねー」


 呟いた後に言葉を思い出し、視線を森の中へと向ける。

 行くとしたらここしかないと思い、時間が時間だが森に踏み込んだ。

 おそらくかなり薄暗いのだろうが、暗視のお蔭で明度は良好。

 しかしながら枝や蔦が、視界をかなり妨害しており、腰より高い草や木が、前進を露骨に遮っている。


「おーい! ユートー!! 返事してくれー!!」


 それでもユートを探さねばならず、苦労をしながらそれらをかき分け、時折出て来る虫や鳥に恐怖をしながら前へと進んだ。


「……ジリー……-ルプ!」


 森に入ってから十分程が過ぎたか。どこかからか細い声が聞こえた。


「ユートか!?」


 と言ってその場に止まり、眉根を寄せて耳を澄ませた。


「ヒジリー! ヘーーールプ!!」


 何度かの後にはっきりと聞こえ、声が聞こえた方へと向かう。

 方向的には右手の奥……のような気がして、一直線にそちらに進んだ。


 木々が途切れて小川が見える。おそらく東側の滝へと続く川だろう。

 そこには沢山の岩が転がり、そこの合間に何かが見えた。

 色は青色で見た目は芋虫。

 大きさとしては俺の腕程か。

 六匹程で何かに群がり、「もぞもぞ」と体を動かしていた。


「助けてヒジリー!!!」


 直後の声はそこから聞こえ、顔色を変えた俺が近寄る。

 それに気付いた芋虫は、一斉にこちらに顔を向け、「ブリャッ!」と何かを吐きつける事で俺への威嚇としたのであった。


「何やってんだお前らぁぁ!!」


 まさかの事に武器を呼び寄せ、すぐにも奴らに切りかかる。

 その際に、いくつかの体液が飛ばされたが、これらは全て回避して、奴らを全てなで斬りにして、岩の合間にユートを見つけた。


「助かったよぉヒジリィー……」


 ユートはそこに磔になっており、半泣きの顔で俺を見て来た。

 どうやら奴らの体液が粘着質に絡んでいるようで、どういう訳か衣服の殆どが「ギリギリのレベル」で破られていた。


「ちょ……ちょっと、何だよその格好は……

 何か色々とヤバいだろそれ……」


 こんなのでも一応女の子なので、そこには遠慮をして視線を逸らす。


「イヤー何か食べられちゃって……あいつら服とかが好物だったみたい」


 一方のユートは気付かない様子で、そう言った後に「アハハ」と笑った。


「まぁ、とにかく助けてよー。動けないんだよ本当にー」

「あ、ああ……」


 頼まれた為に視線を戻し、生唾を飲みつつユートに向かう。

 

「目が怖いよ!?」


 と、言われたが、それに構わずユートを掴んだ。


「ちょっ! どこ触っ……!? イヒヒヒヒ!

 くすぐっ、くすぐった!!?」


 暴れるユートを引っ張って、粘着質の何かから引きはがす。

 何だかんだで女の子である。体が凄い柔らかい。

 もう夜になっている為か、肌は白く照らされており、ギリギリの所で見えない事が、却ってユートをエロチックに映す。

 

「(思ったよりも大きいな……それに腰の曲線がエロい……

 完成度の高いフィギュアみたいな……)」


 と、密かに興奮した自分に気付き、頭を振ってからユートを放した。


「白濁液でグッチョグチョ……体中にぶっかけられた~……」


 完全にアウトな発言だったが、ユートは気付いて居ないようだ。

 背中を曲げてフラフラと飛び、流れる川に体を浸ける。

 まとわりついた粘液を水で落とす為だろう。

 俺の両手もグチャグチャだったので、それに倣って川へと近付く。


「水もあるしここで休むか……森の中よりは安全だよな?」


 同意が欲しくて質問すると、ユートが「だね」と答えてくれたので、芋虫の死骸から離れた場所で、今夜の床を作るのである。


オスと化したヒジリが危険れすうう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ