謎の島で武者修行
「この間の戦いで思ったんだけどよぉ。オメェの攻撃って地味なんだよな」
ヘール諸島に戻って四日。
そんなある日の夕食前に、ダナヒが突然言ってきた。
場所は食堂で、居るのは二人だけ。距離を置いた対面にダナヒが座って話しかけて来ている。
「じ、地味……ですか……まぁ、槍ですから……?」
あまり意味は分からなかったが、とりあえず返すと「いやいや」と言い、
「やっぱ必殺技って欲しくね?」と、訳の分からない言葉を続けたのである。
「欲しい欲しい! ヒッサツワザ欲しいー!」
これはユートで、肩の上で謎の構えから「ヘアー!」と正拳突き。
「オリャー!」
続け様に蹴りを繰り出して「ねっ!?」と、俺に意見を聞いて来た。
「ねっ、て言われてもそう簡単にはな……ていうかただの連続攻撃だろ、今の」
「だから欲しいんじゃーん! 分かって無さすぎー!」
それには「お前が欲しいの?!」と言って置き、「どうなんだよ?」と、聞いてくるダナヒに向かう。
「ま、まぁ、そりゃあ貰えるものなら……」
苦笑いで返す。必殺技なんて、技のバリエーションの一つなだけで、それに名前をつけるだけの厨二病的なものだと思っていたからだ。
あれば確かにアツいと思う。全力で叫べたら気持ちが良いだろう。
「無双三段!」なんて言って連続攻撃を叩きこんだとする。
しかし、もしも防御をされて冷静な顔で「なんすかそれ?」とか言われたら。
俺は多分「すみません……」としか言えない。
「良し、じゃあ行くか」
だが、そんな気持ちが伝わらなかったのか、ダナヒはそう言って何かを決意。
「え……ど、どこに……?」
「どっかの島。出来るだけ原始的なとこ」
聞くと、それだけを答えに立ち上がり、ダナヒは食堂から出て行くのである。
向かった先は執務室で、そこではデオスが仕事をしていた。
「そうですね……そういう事は漁師に聞くのが一番では無いですか?」
「なるほどな」
そして、ダナヒが何かを聞いて、答えを貰って再び歩くのだ。
察するに、本人曰くのどっかの島――つまり、原始的な島の事だろう。
「三日程でしたら何とかなります。それが過ぎたら戻るように言って下さい」
最早、その辺りは諦めているのか、困った顔でデオスが俺に言う。
「あ、はい……分かりました……」
その頼みには苦笑いで応じて、ダナヒの背中を走って追った。
館を出てから港に向かい、作業をしていた漁師を捕まえる。
「ちっと聞きてー事があんだが」
そして、ダナヒはその漁師を相手に色々と情報を聞き出したのである。
「すかすあのすま(島)にはおっそろすぃ魔物が……」
そんな声が聞こえた気がしたが、ダナヒは「あんがとよ」とその人を解放。
「どんぞご無事で……」
と、漁師は言って、魚の入った籠を持って、頭を下げて去って行った。
「始まるぜ、サバイバルが! 覚悟は良いか野郎共!」
「おぉ~!!」
反応したのはユートだけ。
それに気付いたダナヒは「おいおぃ~」と、どういうテンションか俺を突いた。
クラスメートでたまに居る、悪ふざけで股間や尻を触って来る奴に似ている。
「……いや、なんか恐ろしい魔物とか、そんな言葉が出てませんでした?」
「いやいや、おっそろすぃ魔物だから。恐ろしいじゃねぇから大丈夫だろ」
ついて行けない理由を話すと、ダナヒはそう言って両手を広げた。
「そうだよー」と続けるのは隣のユートで、お前はどっちの相棒妖精よ、と、俺としては若干寂しくもなる。
「そうですか……」
まぁ、もう何を言っても無駄だろう。
諦めた俺はそう言って、卑屈な笑顔をダナヒに見せる。
「まぁ、丁度良いっちゃ丁度良いだろ。
修行のついでに魔物退治とくりゃ、こっちに取っては良い事尽くしだ。
百パー遭うとも限らねぇし、ブッチャケこういうのは言う程に、恐ろしい魔物なんかは居ねぇモンだ」
それにはダナヒは笑って言って、「だろ?」と言って肩を叩いて来た。
「そうそう。大抵はコーモンから侵入してきて、内臓を食い破るような虫とかなんだよね」
「それはそれで恐ろしいわ……!」
ダナヒは兎も角ユートにはそう言い、「あんだぁ……?」と、驚くダナヒに向かった。
見えて居ないし、聞こえて居ないのだから、それは当然の反応である。
「と、とにかく三日ですからね。デオスさんがそれ以上は無理だって言ってましたから、それが過ぎたら帰るんですからね?」
それから言うと、ダナヒは「あいよ」と言い、桟橋の水夫に近付くのである。
その後に小型の船を出し、それに乗船して目的地に向かう。
必要とされた時間はおよそ半日。夜中に出航して朝方に到着した。
普段の航路からはまるで外れた、怪しげな島々の中にそれは見つかった。
島に生える木からして、それはもう不気味の一言で、俺の気のせいで無いのであれば、不気味なオーラすら漂っていた。
「うッひょォ! こいつはヤベー感じだな! ぜってー居るわ! アブネーのが!」
「コーモンに絆創膏! 絆創膏忘れないで!」
が、ダナヒとユートはここに来ても、むしろ喜んでいる様子すらあり、その考え方には呆れを通り越し、敬意すら抱く俺であった。
十数分後、下船した俺達は、小舟を使って島に上陸した。
食糧を持たず、水すらも無い、本当の意味でのサバイバルで、ダナヒの話では二日後の昼まで、ここで過ごすと言う事だった。
上陸した先は島の浜辺で、やたらと倒木が転がっている。
島のその他は殆ど森で、切り立った崖がそこら中に見られる、原始的な雰囲気の島である。
「斧」
上陸するなりダナヒは言って、俺のセキュアから斧を受け取った。
そして、「じゃあな」と右手を上げて、浜辺の奥の森へと向かうのだ。
「あ、あの……別々に行動するんですか?
何が居るか分かりませんし、一応、一緒に行動した方が……」
そこには若干の恐怖があった為に、呼び止めてみるとダナヒは振り向き、「なぁに言ってんだ」と言った上で、自分の言葉を更に続ける。
「必殺技ってのはな……一人で修行して、努力の結果として身につけるモンだ。二人で仲良く修行したって、得られるモンは思い出だけだろ。
それともアレか? ダナヒさんとの楽しい思い出が欲しいのかオメェは?
「火がなかなかつかないよぅ♡ アハハハー」的な、甘ったるい思い出が欲しいのかオメェは?」
それには「い、いえ……」と言葉を返すと、ダナヒは「だろ?」と一言を言い、「じゃあ二日後の昼前にな」と言い残して、森へと歩いて行くのであった。
「ボーイズラブ」
その一言のユートは謎で、とりあえずの形で「なんだそりゃ……」とだけ言う。
「「貸して見ろよ。点けてやるぜ。お前のハートに恋の灯火を」「あっ、近いよ、やめてよロドリゲス」みたいな?」
続けたそれには呆れて黙り、そろそろカレルの趣味に対して、口出しするかを悩むのである。
「あー……とりあえず、水探しかな……食べ物はまぁ、なんとかなるだろ」
独り言のように呟いて、島の東側に向かって歩く。
ダナヒは北に行ったので、それ以外なら西でも良かったが、ここはまぁ、何となく、気分で東を選んでおいた。
「にしてもホント、倒木が多いな……丁度流れ着くような場所なのかな?」
浜辺の上には倒木が多い。材木置き場が崩れたかのようだ。
「かもしんないねー。もしかしたら、おっそろすぃ魔物がカンケーしてるのかも?」
「なるほどなー……」
それにはユートが一例を示したので、否定はせずに浜辺を進んだ。
「あ! 川だ!」
しばらく歩くと小川が見つかり、ユートがそこに飛んで行く。
俺も遅れてその場に辿り着き、見た目と匂いを確認してから、右手に掬って舌先に当ててみた。
「んー……大丈夫……かな……?」
どうやら異常は無いようなので、今度は両手に水を掬う。
そして、それを飲み干した後に、浜辺の先に足を向けた。
左手の森が崖へと変わり、やがて大きな滝が現れた。
高さはおよそで二十m程。
白く美しい滝の水は、そのまま海へと流れ出ている。
「一発打たれとく?」
「いや……少なくとも今はいいや……」
聞いてきたユートにはそう言ってから、終わっていた浜辺を引き返す事にした。
「(となるとやっぱり森の中か……絶対何か居るだろここ……)」
言葉には出さずにそう思い、引きつった顔で森を眺める。
殆ど原始のままの森なので、本当に「鬱蒼」と例えるに相応しく、入るなりに鳥が「ギャーギャー」鳴いて、飛び出しそうな印象すらある。
まぁ、要するにハッキリ言えば、俺は森には入りたくなかった。
なぜかと言うと森の中では槍と言う武器は不自由であり、その上で自分の感情として、「正体が分からないモノが居る場所」には、近寄りたくないと言う気持ちがあったのだ。
「ねー。ヒジリー。今日はずっと浜辺をお散歩ー? 森には行かないのー? シュギョーしないのー?」
そうとは知らないユートは言って、森の探索を猛プッシュして来て、それを聞く俺は「うーん……」と言う、曖昧な言葉を返し続けた。
「もしかしてアレ? 絆創膏貼り忘れたの? ボクがちゃんと貼ってるよ? ヒジリにも貼ってあげようか?」
これにはすぐに「良いです……」と答え、立ち止まった上で森を眺めた。
「すかすあのすま(島)にはおっそろすぃ魔物が……」
脳裏に浮かぶは漁師の声で、それを振り払う為に頭を動かす。
「(むしろハッキリしてればな……正体が分からないのが一番怖いよ……)」
ホラー映画でもそうであるように、正体が分からないのが一番怖く、故に、立ち止まって悩んだ末に、島の西側を探索した後で、もう一度考える事にしたのであった。
サインと言う映画が良い例で、出て来た瞬間「ハ…?」となりました。
いっそ出ない方が怖かったです。みたいな。




