悪夢のダ・チン祭 二
前にも言いましたが本当に下品です!
通報はやめて! いやマジで!
テントの中には二人の人が居た。
一人はユラで、その右に居るのがユラの母親らしき人だ。
年齢にするなら三十五~六。
髪の毛の色は娘と同様で、寝床の前に二人で正座して、俺が座るのを待っている。
「あ……お邪魔します……」
一応言ってテントに入り、囲炉裏らしきものの手前に向かう。
黄色のござが敷かれていたので、二人に倣ってそこに正座した。
「娘を助けてくれたそうで……本当にありがとうございました」
「あ。いえ……」
母親らしき人物が、お礼を言って頭を下げた。
娘、とはっきり言った所を見ると母親と見て間違いなさそうだ。
一先ず言って、両手を動かしてから、「それで、一体何をすれば良いんですか?」と、お願いの内容をユラに聞いてみた。
「本当に不躾なお願いなんですが、ダ・チン祭に参加して欲しいんです……」
返されて来たのがそんな言葉で、「ダ・チン祭……?」と、オウム返しをする。
世界一下品な祭りというあの!?
と、聞いて居た言葉で返さなかったのは、我ながら大人な対応だと思う。
「はい……その、ダ・チン祭と言うのは……」
ここまで言ってユラは黙り、助けを求めて母を見た。
娘から言葉を受け継いだ母は、「ダ・チン祭と言うのは」とまずは一言。
「男の中のオトコを証明する、オトコの強さを競う祭りで、競技に優勝した強い男には、村の中にあるものならば、何でも好きな物が与えられると言う、古くから伝わる行事なのです」
と、続けて内容を説明したが、俺とユートはそれを聞いても、訳が分からず疑問顔だった。
なんとなく、まぁ、なんとなく嫌な予感を覚えはしたが。
「つまり、ラッド……あなたが倒した男ですが、彼は娘を狙っています。
そして、今年の優勝は、殆ど間違い無しとも言われています。
彼がもし娘を望めば、私達はそれを断れません。
……娘はおそらく、彼の優勝をあなたに止めて欲しいと思っているのでしょう」
その後の説明は種類は違ったが、参加して欲しい事への理解には繋がり、「なるほど……」と、納得してユラを見ると、「お願いします!」と頭を下げて来た。
祭りの内容は不明であるが、困っている人を捨てては置けない。
「その、ラッドって人の事は嫌いなんですね?」
「はい」
最後に聞くと、ユラが言うので、「わかりました」と言う返事を送る。
その事により親子の顔が「ぱあっ」と明るくなったので、それを良しとして息をついた。
「ちなみにあの、関係無いかもなんですが、どうしてここには女の人だけが?」
「それは祭りのせいなんですよ。
祭りの一か月前になると、女は村の外に出ると言う昔からの決まりがありまして」
答えてくれたのはユラの母だ。
ユラはと言うと苦笑いをし、直後には母もそれに続く。
深い理由がありそうなので、そこはそれとして話を切り上げ、具体的にどうすれば良いのかと二人に向けて質問してみた。
「参加する事を村長に伝えて下さい。外からの人には試験がありますが、あなたならきっと大丈夫です!」
答えてくれたのはユラであり、なぜかの確信で拳を見せて来る。
期待が重い。優勝出来なかったら露骨に唾とかを吐かれそうだ。
「そ、そうですか……」
故に引いて、同意はせずに、短く言葉を返した上で、二人の前で腰を上げた。
「あ、街道まで送ります」
それを目にしたユラが立ち、先行してテントの外へと向かう。
村長の家に行く、と言う事を動きで察してくれたようだ。
「お願いしておいて何なんですが、あまり無理はしないで下さいね。
毎年一人か二人くらいは、無理をするあまりに体を壊し、将来をふいにする若者も居ますから」
その後に言ってきたユラの母に、「はい」と答えてからテントの外に出た。
「(体を壊して将来がふい……か。割とハードな祭りなんだな……)」
直後の俺はそう思い、待って居たユラの後ろに続いた。
「男の中のオトコの祭りかぁ……
油を体に塗りつけて、パンツ一丁で闘い合う的な奴かな?」
「奴かな? って言われても、一致する祭りを他には一切知らないんだけど……」
聞かれた為にそう言うと、ユートは「エヘヘヘ」と苦笑い。
「でも世界一下品な祭りって言ってたから、もしかしたらもっと凄い奴かもね?」
と、ゾッとするような言葉をその後に続ける。
実際の所、それは当たっており、ダ・チン祭はもっと凄い奴だった。
その事が分かるのはフルンの村に行き、村長に参加を伝えた後の事で、あまりの内容にユラとの約束を破って逃げようかとすら俺は思うのだ。
「村の外からの参加者には、まずは試験を受けて貰う。
「御芯体」と呼ばれるダ・チン様の鉄像に希望者全員で登って貰い、先端部分に近かった者だけを五人選抜して本戦に迎える。
これは今から二日後に行われ、本戦は今から四日後に開かれる」
村に行き、村長に会い、俺はダ・チン祭への参加を伝えた。
ここまでの説明はまだマシだったが、ここからの説明が常軌を逸した。
村長の言った通りに伝えると、問題が生まれるので訳そうと思う。
まずは本戦、これは四日後で、村の者達は試験を受けずとも、希望者はそのまま参加が出来る。
しかし、村の外部の者は、御芯体とやらに登らねばならず、どこかは知らないが先端部分に近かった者だけが五人選ばれる。
そして、いよいよの本戦な訳だが、競技内容がすでにして狂気。
男のオトコ……
つまり股間を酷使して行う競技のようで、紫球と呼ばれる紫の球を遠くに飛ばすものらしかった。
求められるのは硬さと持続力。
長さもあると村長は言ったが……兎に角それらを備えた男は、一族の繁栄に大きく寄与する。
それ故に皆に褒め称えられ、英雄扱いされるという事だ。
具体的には村で用意した特別なパンツを履くようで、見せて貰ったが股間部分に動物の顔があるイカれたモノだった。
そこの部分は特殊素材で、薄いが、柔軟性に優れたモノらしく、男のオトコを露出しなくても、うまい具合に鼻だとか、口だかが伸びたように見えて誤魔化せる? モノらしかった。
要するに、ダ・チン祭の本戦と言うのは、
鼻やら口やらを伸ばした状態で、紐を括りつけて引っ張って貰い、それを離した反動で、紫球を飛ばすと言う競技な訳なのだ。
「(イカれてる……)」
聞いた直後はそう思い、約束を破って逃げようとも考えた。
しかし、一人の女の子の人生と、自分のプライドを天秤にかけ、旅の恥は掻き捨てと言う諺があったと言う事を思い出し、一日や二日の我慢だと思って、踏みとどまったと言う訳だった。
「それでは早速パンツを選びなさい。
個人的には象さんがおすすめじゃ。一番自然で人気もあるぞ」
「あ、はぁ……」
出されたものは木の箱で、中にはパンツが詰められていた。
中には豚やら鶏やら、種類様々なパンツが見える。
「じゃあ象で……」
しかし、村長のおススメに従い、俺は象さんパンツを選んだ。
「後はもう一つ、アドバイスじゃが、本戦が終わるまでは我慢をする事。
ナニをとは言わずとも理解が出来ようが、祭りのひと月前になると女が居なくなるのはそういう事じゃ」
そのアドバイスには「はぁ……」と言い、パンツを右手に村長家を立ち去った。
村には宿屋と言うものがなく、パンツをセキュアに送った後に、俺は再び森へと向かう。
「ああ、それならテントをお貸しします」
と言う、ユラ達の好意に甘えさせてもらい、二日後の選抜戦に備えるのである。
二日後の朝にはムメが出された。
作ってくれたのはユラの母で、大きな葉っぱに蒸したムメと焼いた魚が乗せられていた。
見た目は若干黄色いものの、ムメの匂いは完全に米で、思い切って食べてみると、味も食感も大差なかった。
「これだ……!おいしいです! もうサイコーにおいしいですよ!」
その言葉には二人は笑い、「大げさねぇ……」と言ってユラの母が照れる。
「いや、本当に最高です! なんか俺、泣きそうですもん……」
懐かしく、そして心が落ち着く。
ソウルフードと言うのはこういうものなのかもしれない。
言葉の通りに泣きそうだったので、それを否定して感動を伝えた。
続け様に魚を食べて、その後にムメを口に押し込む。
「フホォォ……♡」
と、思わずキモイ声を出し、二人に引かれていたと言う事は、ユートに後から聞いた事だった。
「ちょっと! ボクにも頂戴よ! ヒジリー!?
駄目だ、聞いて無い……」
この時のユートはそれを話さず、自身の食欲を優先させた。
勿論、それは聞こえていたが、二人の手前では何も言えず、かと言って肩にも持って行けないので、無言で少しを横に分けた。
「あ、ソーユー事……? ふぁーい。わっかりましたー」
それに気付いたユートが降りて、葉の横に座ってムメを食べる。
「ほほっ……? これはなかなか変わった味だね……
でもおいしいよ! 間違いなくロップより!」
と、若干、飯がマズくなるような事を言い、分けていたムメを一気に食べた。
「センセー! 魚も良いっすか……!?」
続く注文にも黙って従い、魚の肉を分けてやる。
その際にムメもつけてやると、ユートは「サーセン!」と頭を下げた。
「足りないようならお代わりもありますよ? 良かったら持ってきましょうか?」
「あ……じゃあすみません……甘えても良いですか?」
ユラの母にそう聞かれ、欲望に逆らえずにお代わりを頼む。
それには彼女は「にこり」と笑い、腰を上げてテントを出て行った。
「あの、今日の選抜戦頑張って下さいね! わたし達は本戦まで応援に行けませんが、ヒジリさんが勝ち上がる事を祈ってますから!」
直後の言葉はユラのものだ。
箸を止めて「ありがとう……」と言うと、ユラはまずは「いえ!」と言う。
「ヒジリさんがもし負けちゃったら、わたしはラッドのお嫁さんですから…
だからその、全力で、魂を込めて祈っていますね!?」
それから本心が混じった事を言い、素直に喜べない空気を生み出した。
「ま、まぁ、出来る限りは頑張るよ……」
気付けば、若干のタメ口だったが、ユラはその事は気にしておらず、
「さ、もっと食べて下さい! どんどん食べて精力を……」
と、そこまでを言って顔を赤らめた。
「あ……そ、そうだねー……」
それにはこちらも照れてしまい、ユラの母が戻るまで、無言で過ごす事になったのである。
まぁほら、原始的な部族っていうのは、繁殖力とかで物事を考えるから…




