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最初の選択

 戦いが終わって一時間程が経ったが、カレルは意識を取り戻して居なかった。

 ニースもそれと同様だったが、顔色は少しずつ良くなっている。

 ギース達の家が吹き飛ばされた為に、俺達はデアジャキアのアジトに向かい、ニースとカレルをベッドに寝かせて、二人の回復を脇で待って居た。


「ああ、ここに居たのか」


 と、やって来たのは見た事が無い女の人で、ギースが「リモーネ……」と言った事で、その人がリモーネだと俺にも分かった。


 年齢的には二十二~三才。

 金髪黒眼の背が高い人で、長い髪の毛を天辺でねじる様にして、一本にしてから背中に下げている。

 体は豊満で露出は多めだが、腰には剣を下げており、腹筋あたりをよくよく見れば、引き締まった体をしていた人なので戦う人だと理解が出来た。

 よくよく見れば先の援軍――

 つまり、カレルと共にやってきた百人の中に居た金髪の女性のようだった。


「で、あんたが例の?」


 ギースの方には構わずに、俺に向かってリモーネが言ってくる。

 直後には前屈みで見下ろして来たので、俺の鼓動は一瞬高鳴った。


「ウワーオ! すごいオッパイ!」


 これはユートで、直後に飛んで、リモーネの胸辺りで「コレコレ!」と指差す。

 しかし「オイ!」とも「やめろ!」とも言えず、「えっと……」と、リモーネへ言葉を返した。


「村を守ってくれたんだってな。あんたのお蔭で何百人もが助かった。

 隊長に変わって礼を言うよ」

「あ、いえ……別にそんな……ギース達が力を貸してくれたお陰です」


 目のやり所に少々困り、横を見ながらそう言うと、リモーネは「そうか」と言った後に、


「それでもありがとう。謙虚なんだな」


 と、握手を求めて右手を出して来た。その際に胸が「ぶるん」と揺れる。

 見てはマズイと思いはしたが、視線は自然とそちらに向かった。

 殆どガン見で握手に応じると、リモーネが「ふふふ」と笑い出す。


「な、何か?」


 気付かれのか? そりゃあそうだ……

 自分突っ込みを入れつつ質問すると、リモーネは「可愛いな」と笑顔で言ってきた。


「いぃ!?」


 可愛いなんて言われたのは初めての事だ。

 全く嬉しく無い訳では無いが、なんだかこう、むず痒い。


「冗談だ冗談」


 そう思っているとリモーネは、軽く笑って右手を離した。

 柔らかな匂いがその場に残る。香水では無く自然な匂いだ。

 これ以上彼女に参らないように、俺はそれを敢えて避けた。


「しかし、隊長はまだ戻らないか……まさかとは思うがやられたのか……」

「ど、どういう事だよ?」


 直後の言葉にはギースが食いつき、リモーネが直立して腰に手を当てる。

 そして、その後に「罠だ」と言って、俺達二人を困惑させたのだ。


「魔物退治の依頼は嘘だった。待って居たのは軍隊だったよ。

 隊長の方もおそらくそうだろう。無事で居てくれれば良いんだが……」


 続けた言葉で何とか理解し、俺とギースは顔を見合わせる。


「副長のフェイバーですが、やっぱりあの人はスパイだったんですか?」


 それから聞くと、リモーネは唸り、その後に「断言は出来んがな」と、短い言葉で肯定をした。


「う……んん……」


 ここで、ニースが声を出し、俺とギースが「ニース!」と叫ぶ。

 すかさずベッドの横に立つと、ニースはゆっくりと両目を開けた。


「良かった……本当に助かったんだな……」


 その場に屈んでギースが言うと、「そうみたい……」と言ってニースが微笑む。


「ありがとうニース。君のお蔭で命拾いをしたよ」


 そう言えばお礼を言って居なかったと思い、腰を落としてニースに伝えた。


「ぃぇ……そんな……」


 ニースはそれにはにかんで、シーツを掴んで顔を隠した。


「いっちょまえに照れてやんの」


 と、ギースがからかって笑うので、「オイ……」と呟いて困り顔をして見せた。


「あとはカレルが目を覚ますだけだな……大丈夫かな……本当に」

「ああ、多分、大丈夫だと思う。マジェ……じゃない、カレルの回復力は普通の人よりは高いから」


 続く心配にはそう返し、ギースと共にカレルを見つめる。


「(まさかこのまま目を覚まさないなんて事は、流石に無いと思うんだけどな……)」


 しかし、それは確信では無く、ある意味希望のようなもの。

 それから六時間後の午前二時にカレルが目を覚ますまでは、心配し続けていた俺であった。




 翌朝。

 デアジャキアのリーダーであるピーターがアジトに帰還した。

 話によると彼もまた、罠にハメられて襲われたのだそうだ。


「半数程がやられたが、獣化する事で何とか切り抜けた。

 念の為に遠回りをしたせいで、戻るのが遅くなってしまったがね」


 これは俺達に向けたものでは無く、リモーネと団員に向けたもので、ピーターはその後に俺達に向かい、協力に対するお礼を述べた。


「フェイバーの話ですが、あれは本当ですか……?」


 続く質問には「はい」と答えると、ピーターはしばらく無言になった。

 そこからはお互いに情報を交換し、今回の事件の真相を推理した。

 色々な意見が出されたものの、有力なのは以下のような説。


 即ち、フェイバーがいずれかの王子のスパイで、前々から作戦を練っていたというものだ。

 それが二人の暗殺だったのか、それとも村への攻撃かは不明だが、フェイバーはそれを実行する為に、まずはアジトから二人を遠ざけた。

 そして。二人が居なくなった村に、第一王子の軍を呼んだのだ。

 ここからの推測はカレルのもので、証拠が無い為に信頼性は薄い。

 しかし、全員が納得したものなので、一応、記して置こうと思う。


 フェイバーはおそらく第一王子のスパイだが、第二王子とも途中で通じた。

 理由は勿論、第二王子がローエンス砲を手に入れた事を知ったからである。

 作戦を実行に移したフェイバーは、第一王子の軍を呼んだ。

 しかし、同時に第二王子の軍も呼び、デアジャキアと戦って疲労していた第一王子の軍を襲わせたのだ。


 そこからの事は知っての通りで、第一王子の軍は壊滅。

 続く砲撃でデアジャキアも、危うく全滅する所だった。

 それは幸い、ニースのお蔭でなんとか避けられた訳であるが、フェイバーと第二王子にとってはこれは大きな誤算であった事だろう。

 今にして思えば開戦のきっかけとなった住民が放った矢もおかしく、それ故にフェイバーと第二王子が結託していたと言うこの説に、俺達は強く納得するのだ。


「実際の所は分かりませんが、その節が最も現実的ですね。

 フェイバーが第二王子の陣営に居れば、そうだと言っているようなものでしょう。奴が今どこに居るにしろ、私の見る目が問題だったと言う事ですが……」


 推測を聞いたピーターが言い、リモーネが背中を「ぽん」と叩く。

 ピーターはそれに小さく頷き、「それはそうと」と話題を切り替えた。


「同盟の件ですが、引き受けさせてはいただけませんか?

 デアジャキアは今日より生まれ変わり、彼らからの独立を目指そうと思います。

 平和は待って居る物では無く、自分達の力で勝ち取る物……

 今回の事でそれを痛感しました」


 それには「えっ……」と驚いてから、「も、勿論です」と言葉を返す。


「それではよろしくお願いします。これからはお互いに手を取り合って進みましょう」


 聞いたピーターは言葉と共に、右手を「ずい」と突き出して来た。

 展開はどうあれ、結果はOK。カレルもニースも皆無事で、ダナヒを喜ばせる事も出来る。

 俺は自然、明るい顔で握手に応じる為に右手を動かした。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「ようやくやる気になってくれたか……ギース、あんたにも期待をしているよ」


 その手を取って握手に応じると、リモーネがギースに向かって言った。

 言われたギースは「あ、ああ……」と、心からの言葉を返しておらず、隣のニースも表情的には、決して喜んでは居ないようだ。

 やはりどこかで嫌がっているのだ。ここにしか居られないと思いながらも。

 或いは余計なお世話かもしれない。本人は望んで居ないかもしれない。

 だが、二人のそんな表情を見ては、俺は黙って居られなかった。


「……あの、ピーターさん。ひとつだけ、個人的なお願いがあるんですが」

「んっ?」


 俺の言葉に短く答え、ピーターが目を大きくしてこちらを見て来る。

 それから体も向けてくれたので、そこから本題を切り出してみる。


「ギースとニースを脱退させてくれませんか?

 今まで十分頑張ったと思いますし、二人にはもっと年齢に相応しい、楽しい事を知って欲しいんです」


 続けた言葉にはギースが「えっ?!」と言い、ニースが無言で口を押える。

 ピーターはと言うと、「どういう事ですか?」と、温和な顔で質問して来た。


「学校の話を二人にしたんです。

 俺の勘違いじゃ無かったら、二人はとても行きたそうでした。

 でも、自分の体の事が分かるから、希望が持てないから行くとは言えないって……

 俺は何も言えませんでしたけど、それってやっぱり違うと思うんです。

 希望って言うのは先が見えないからこそ、持つものなんじゃないかって。

 一度の人生楽しまなきゃ損って言う、ダナヒさんの言葉が正しいんじゃないかって……

 だから、ギースとニースにはもっと楽しんで生きて貰いたいんです」


 そう答えると、ピーターは「なるほど……」と言って二人に向かった。


「お前達の気持ちは?」


 それから聞くが、ギースとニースは俯いたままで答えない。

 やっぱり余計なお世話だったのか、と、思った俺が下唇を噛む。


「行きたくないの?」


 これはカレルで、それをきっかけとしたのだろうか、二人は揃って顔を上げた。


「行きてぇよ!! オレだって行って見てぇよ!!」

「行きたいです! ヒジリさんの作った学校に……!」


 両目からは涙が溢れ、顔はすでにグチャグチャだ。

 二人は涙を隠す為に、俯いたままで耐えていたのだ。

 それを見たピーターは「分かった」と言い、二人の頭に両手を置いた。


「今まで本当に良くやってくれた。今日をもってお前達を退団処分とする。

 ついて行くと良い。彼と一緒に」


 そして、二人を退団処分とし、その身を自由にしてくれたのだ。

 いや、身だけでは無い、きっと心も。


「良かった! 本当に良かったよぉ~!」


 ユートが涙を流して言って、カレルが「そうね」と微笑んで見せる。

 俺もまた滲んだ涙を拭い、「ああ」と返してギース達を眺めた。




 二日後の未明にはいつもの場所に立っていた。


「あ……今日はそうだったのか……」


 と、忘れていた事に今更気付く。

 時刻は未明。花畑が見える庭。背後にはドアが開けられた教会が見える。

 ここに来るまでは船の中に居て、ヘール諸島へ帰っている途中であったが、今現在は俺の足はしっかりとした地面の上にあった。


「やぁヒジリ君。一ヶ月ぶり。どうだい? 元気にしてたかい?」


 この空間の主と言うべきPさんは庭で屈みこんでおり、気付いた俺は「はい」と返して、石畳の上に歩みを進めた。

 Pさんが居る場所は右斜め前方。以前に二人で種を植えた辺りで、芽吹いた花を眺めている。


「芽が出たんですね。でも、ちょっと遅く無いですか?」


 それに気付いて聞いてみると、Pさんは「どうなのかな?」と言って顔を上げた。


「どうなんでしょう……?」


 実際には俺も全く知らない。向日葵の種ですら植えた事が無い。

 だが、小さなナエミが「おいしいらしいよ?」と言ったので、かじった事は過去にある。

 味は無味。「うげぇえ!」と言って直後には吐き出していたと思う。


 故に、苦笑いで言葉を返し、聞いたPさんが「駄目だね二人とも」と言って笑うので、釣られるようにして少しを笑った。


「それはそれとしてアレを見てよヒジリ君」


 そう言いながらに立ち上がり、Pさんが自身の右手に向かう。

 その先には以前には見られなかった、綺麗な川が存在しており、気付いた俺が「あれっ……」と言うと、Pさんは「そうなんだよ」と小さく頷いた。


 川幅としては二十m程。水の流れは右から左。

 対岸には少々の林が見えて、その先は何やらぼんやりとした感じだ。


「こんなもの無かったですよね……?」

「うん。何だか不思議だよね」


 質問するとPさんは答えて、木の柵を乗り越えて歩き出した。

 向かう先は教会の裏では無く、新たに現れた川の方だ。


「もうここにも随分居るけど、こんなものが現れたのは初めて事だ。

 折角だから今日はこっちで、色々とお話をする事にしようよ」


 そして、川の手前で止まり、水面に木製の小舟を召喚。


「さ、どうぞ」


 と、乗船を勧めて、その際にメニューも手渡してきた。

 それを受け取って俺が乗り、少し遅れてPさんが乗る。

 すると、小舟は何もしていないのに、下流に向けて動き出した。

 ちなみに上流の側がPさんで、下流の側が俺であり、小舟の枠組みに尻をつけて、向き合うようにして腰を下ろしている。


「さて、じゃあ結果を言うよ……残念だけど今日でお別れだ」

「えっ!!?」


 直後の言葉にビックリすると、Pさんは「冗談だよ」と言って笑う。


「合格合格。そりゃあそうでしょ」


 冗談じゃないとはまさにこの事。気持ち的には冷や汗をかいた気分だ。

 もし、寝る前にトイレに行ってなかったら、若干量を漏らしていたかもしれない。


「人が悪いですよ……」


 拗ねて見せると、Pさんは罪悪感無く軽く笑った。


「ゴメンゴメン。たまには刺激が必要だと思ってね」


 しかし、素直に謝罪をしてくれたので、「もうやめて下さいよ……」とお願いをして置いた。

 それにはPさんは「はいはい」と言って、今回のポイントを教えてくれた。


 取得したポイントは四十六P。

 徐々にだが、ポイントが増えて行っている。

 そこには「多いですね!?」と素直に驚くと、「流れがキてるね?」とPさんは微笑んだ。

 意味は分からないがそこはノリで、俺も「ですね」と言葉を返す。

 メニューを見ると、全てが一新され、以下のように発展していた。


 言語五 亜人型の魔物との会話 十三P

 魔法四 回復魔法 十二P

 特能五 魔法耐性(取得した属性) 十三P

 真実四 相棒妖精とマジェスティの関係 十二P


「説明はいるかい?」

「あ、お願いします」


 直後の問いのはそう答え、Pさんがそれぞれの説明を始める。


「まずは言語五。亜人型と言うのは、簡単に言えば人に近い魔物の事だ。

 ゴブリンやオークなんかは知って居るよね? あいつらの言葉が分かるようになると思って良い。

 次の魔法四の回復魔法は、他人に対して使える回復だね。

 ただし、これは精神力じゃ無くて、キミ自身の生命力を上げるという事になる。

 だから、場合によっては自分が死ぬし、あまり上げ過ぎると寿命にも関わってくる。余程の事じゃない限り、使用する事はオススメしないね」

「えっ……という事はカレルさん……

 あ、いや、仲間のマジェスティなんですけど、彼女の寿命も減ったって事ですか!?」

「相手の弱り方次第かな。死にかけてたならその可能性は高いよ」


 そこには疑問を感じて聞くと、Pさんは表情を変えずに言った。

 実際の所はどうなのだろう。カレルは倒れ、しばらくは昏睡していた。

 せめて寿命に関わって無ければ良いが、正確な所はまるで分からない。


「で、次の魔法耐性は君の場合は火になるね。

 相手の火の魔法を喰らった場合、威力を相当に抑えられる。

 最後の真実四のそれは、説明無しでも分かるよね?」


 最後のそれには「はい……」と返し、カレルの自己犠牲を引き摺って感謝した。

 そんな事とは知らなかったが、相当の覚悟で臨んだ事だろう。


「(帰ったらもう一度お礼を言おう……それでも足りるとは思えないけどな……)」


 そんな事を密かに決めて、何を取得するかを考え出した。

 全てを取れば五十Pだが、それには僅かにポイントが足りず、個人的には「これ!」と言う物が、今回の発展の中には見えない。

 だが、先を見据えれば色々と取得しておかねばならず、興味が無い中でどれを取るかで、俺は頭を悩ませるのだ。


「いっそ来月まで取っておくかい?」


 それを見兼ねたかPさんが、景色を見ながら聞いてきた。


「あーー……いえ、何か一つか、二つくらいは取っておきたいです」


 そう答えると「なるほど」と言い、Pさんは再び口を閉じる。


「(待たせても悪いな……)」


 これは性格か。勝手に悪いと考えてしまう。

 爺ちゃんの無言が怖かったと言う点が、或いはトラウマになっているのかもしれない。


「じゃあ魔法四と真実四で。残りはモトセカでお願いします」


 ともあれ、適当にそれらを選び、ポイントの割り振りをPさんに伝える。

 一応の選択した理由としては、それを取れば来月で全てが五になるからだった。


「分かった」


 そうとは知らないだろうPさんは、答えた後に話し出す。


「相棒妖精とマジェスティの関係ね。まず第一に相棒妖精は死なない。

 実の所は攻撃を喰らっても、魔法を喰らっても死ぬ事は無い。

 でも、主人となっている者が死ぬと、彼らは無条件で死んでしまう。

 だから相棒妖精が死ぬと言う事は、主人であるマジェスティが死ぬと言う事なんだ。

 そして、彼らは僕達とキミ達を繋げる橋渡し役でもある。

 より正確な評価を得る為には、彼らの存在が必須な訳さ。

 逆に言えば正確な評価、つまりポイントが欲しくないなら、彼らをつけずに生活するのも、アリと言えばアリなのかもね」

「なるほど……っていうか死なないんですか? 戦いの時には逃がしてましたよ」

「彼らからの攻撃が通じ無いように、彼らにも攻撃は通じないのさ。

 例外として妖精同士と、主であるマジェスティの攻撃は通じるから、戦いから遠ざけるという判断はあながち間違いでは無いのかもしれないね」


 要するに同士討ちは当たると言う事らしい。

 最後に「はぁー……」と言葉を発し、真実四をしっかりと理解する。


「それでどうする? 元の世界に帰れるけど?」


 という、直後の言葉には「へ……」と言い、呆然とした顔でPさんを見つめた。


「やだなぁ。モトセカに突っ込んだじゃないか。ポイントが目標に到達したのさ」

「へっ!? へっ!?」


 訳が分からず慌てると、Pさんは静かに両目を閉じた。


「今、帰ると言う事を選択しないと、この先はいつになるか分からないよ。

 それこそ一万Pかもしれないし、それ以上が必要になるかもしれない。

 決断するなら今なんだヒジリ君。もう一度聞くよ。元の世界に帰るかい?」


 そして、そのままで言葉を続け、俺に選択を迫ってきた。

 帰りたいかと聞かれれば、それは勿論帰りたい。

 だが、色々とやり残した事がある為に、帰りたくても帰れなかった。

 ここで帰ればギース達はどうなるか。

 必ず戻ると約束をしたピシェトとリースも悲しむだろうし、ダナヒだってきっと困ってしまうだろう。

 それはあまりにも無責任と言う物で、自分の事しか考えて無さすぎる。

 それ故に俺は迷った末に、「今じゃないと駄目なんですか……?」と、縋るように聞いてみたのだ。


「そうだね。今じゃないとまた先になる」


 返されたのはそんな言葉で、顔を顰めて「分かりました……」と言う。


「先送りにします……今は帰れません……」


 その後に言って、気持ちを伝え、両目を瞑ってがっくりと項垂れた。

 目の前の扉が閉まる気がする。それは実際には存在して居ないが、明かりを狭めつつ閉まって行くような感じだった。

 期待は全くしていなかったのに……実際にこうなると相当に凹む。


「分かった……すまないね」


 そんな声が聞こえた後に、俺の右手からメニューが奪われた。


「あと、キミとはしばらく会えなくなるんだ。

 野暮用があって二か月程ね。その間はイサーベールに頼んでおくから、分からない事があったら彼女に聞くと良い」


 それには「えっ……」と顔を上げると、Pさんは遠い目で正面を見ていた。

 何かがあるのかと振り向くと、川の途切れが目に入る。

 その先は漆黒の闇になっており、小舟はそこへと近付いていた。


「今はここまでか。じゃあヒジリ君。三か月後にまた会おう。

 それまでにサヨウナラをされないようにね」


 Pさんが微笑んで姿を消して、小舟の舳先が闇へと入る。


「ちょっ!? Pさん!?」


 と叫んだ直後に、俺は傾いた小舟と共に、闇の中へと落ちて行った。


帰ってたらギースとニースはもうね……

「出て来いやヒジリ! ああああん!?」ってなりますね。ニースが。

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