ギースとニース
ピーターの代わりに現れたのは、副長と言う立場のフェイバーだった。
見た目の年齢は二十五~六で、ピーターと同じく元騎士らしく、二~三、軽く話をしたが、少々高圧的な人物だった。
そしてどうやら、自分の組織への情熱のようなものが無い人のようで、
「王子達が本気になれば、こんな組織は一瞬で壊滅さ。
あんた達も怪我したくないなら、さっさと自分の国に帰りな」
等と言い、俺達を困惑させたのである。
色々な人間が居ると思い、そこでは何も言わなかったが、ユートが言った「じゃあ何で自分は居るの?」と言う疑問には、心の中で「変だよな」と同意した。
「もしかしたらツンデレなのかもねー」
殆ど棒でカレルが言って、俺達が洞窟の外へと踏み出す。
「よっ! 待ってたぜ!」
そこで俺達を待って居たのは、カレルの天敵ギースであったのだ。
カレルの眉間に皺が走る。そこまで嫌わなくても良い物だろうに。
しかし「消えて」とまでは言わない辺り、今までの宥めが効いているのかもしれない。
「今日はウチに泊まってけよ。妹にも会って貰いたいし」
ギースが更に言葉を続け、小川の畔から近付いてくる。
「ついでだからお前も泊めてやるよ」
これはカレルに対しての物で、言われたカレルは「あーそー……」と、仏頂面。
「あ、ああ……じゃあ。お邪魔しようかな?」
と、それを気にしつつ言葉を返し、「よし!」と小さく拳を作ったギースの後ろに続くのである。
「……そういやそいつの名前って何? お前とは一体どういう関係?」
それは直後のギースの質問で、こちらに顔を向けてはおらず、先と比べて声も小さい。
「そいつって誰よ? あたしの事かしら?」
と、カレルが聞くと「別に……」と言うので、俺はようやく「なるほど」と察した。
ギースはおそらくカレルが好きなのだ。好きだからこそ、つっけんどんに絡む心理だ。
まるで小学生か中学生だが、実際その年齢だし、仕方が無いと言える。
「この人はカレルさん。関係的には、姉と弟みたいなもんですか?」
男だから分かる心理を察し、紹介ついでにカレルに聞いた。
「いつから姉弟になったのよ……ま、でも、そんな感じかもね」
その関係が妥当であったか、カレルが返して苦笑する。
「姉と弟? 逆じゃねぇ?」
見た目としてはそれで違いない。ギースの言葉には皆で笑う。
笑われたギースは困惑していたが、それを不快には思わなかった様子だ。
「そう言えば隊長、ピーターさんだっけ? あの人はどこに行ったんだ?」
「ああ、多分賊退治かな? それか魔物の退治だと思う。
大体リモーネの仕事なんだけど、なんか帰りが遅れてるみたいでさ」
それから疑問を聞いてみると、ギースはあっさりと教えてくれた。
「組織の名前の由来については?」
こちらはカレルで、ギースは直後は「さぁな……」と言って口を尖らせた。
「オレは知らねぇよ。決めたのは多分、隊長だったと思うけど」
しかし、すぐにもそう言い直し、カレルから「そう」と言われるのである。
「な、何でそんな事聞くんだよ? 組織の名前に何かあるのか?」
「と、思っては居るんだけどね。ただの興味よ。
気になったのならごめんなさい」
直後の二人の会話がそれで、「べ、別に謝らなくても……」とギースが返した。
反抗されるより謝られた方が、ギースとしてはやりにくいらしい。
まさに中学生。天邪鬼。何とも微笑ましい光景である。
「何かヘンな反応するねー?」
「(まぁ、良いじゃないか)」
言ってきたユートには小さく言って、歳の差恋愛の発展を密かに見守る俺であった。
ギースの家に辿り着いたのはそれからおよそ十分後の事で、玄関に立つなりドアが開けられギースの妹が姿を見せた。
「どこ行ってたのお兄ちゃん! ちょっと心配したんだからねー!」
第一声はそれであり、俺達に気付かず彼女は怒った。それから「はっ……」と、俺達に気付き、ギースの後ろに隠れたのである。
兄と同じく髪は白で、瞳も同じく緑色。
身長は兄より三十㎝は低く、髪の毛の長さは腰程だった。
特徴的なのはその眉毛で、他人と比べて若干太く、大人しい顔つきと相まって、守ってあげたい度が相当高い。
服装としてはワンピースと言うのか、若干粗末な水色の服を着ていた。
「妹のニース。ほら、挨拶」
ギースが言って体を避けて、結果としてニースが俺達の前に出る。
「あ、あ、あの……は、初めまして……」
と、ニースは一応挨拶したが、直後には再び後ろに隠れた。
姿としては似てないが、動きとしては魚に似ている。それも深海魚系の穴の中に住んで居る奴。
失礼ながらそんな事を思い、俺は少しだけ息を吐き出した。
「年は十二。カレルもそれ位か?」
これはギースで、妹をダシにして歳を聞こうと思ったのだろうが、
「あたしはさんじゅ……あ、いや、十才よ……」
と、危うく本当の事を言いかけたカレルには、むしろ俺が焦ったし驚く。
「ふーん……十才か。結構大人に見えるのにな」
果たしてどういう意味だったのか、ギースが呟いてドアを開ける。
まさか見抜いてはいないだろうから、おそらくそのままの意味だと思うが。
「さ、入ってくれ。って言っても大した歓迎は出来ないけど、その分ゆっくりして行ってくれよ」
それからドアの脇に立ち、俺達を我が家の中へと招く。
最初に見えたのは四角いテーブルで、そこには四脚の椅子がある。
床は地面そのままで、テーブルの下には布を敷いていた。
暖炉は見えず棚も無い。ある物と言えばテーブルと椅子だけで、奥にはどこかへの通路が見えたが、そこ以外に通路は無いようだった。
「あなた達だけ? ご両親は?」
聞いたのはカレルで、二人はそれにすぐには答えを返さなかった。
しかし、ギースが少ししてから「オレ達だけなんだ」と短く言った。
「悪いけどちょっと待っててくれるか? 知り合いから食べ物貰ってくるからさ」
その後にギースはすぐに言い、ニースと共に家から出て行く。
「何か悪い事聞いちゃったかしら……」
「そんな事無いですよ。普通は気になるし、ギース達もきっと気にしてませんよ」
直後の言葉にはそう言って返すと、「そうよね」とカレルは小さく言った。
表情としては普通であったし、多分、本当に気にして居ないだろう。
裏庭で木でも殴って居れば、その予測は外れた事になるのだろうが……
「しかし、ミゴトに何も無いねー」
これはユートで、そう言ってから、肩から飛び立って奥へと飛んで行く。
「おいおい! 人様の家を勝手に探るなよ!!」
と、慌ててそれを制止すると、「ちいぃぃぃ」と言いながら戻って来た。
興味心の塊みたいな奴だ。いくつになってそれなんだ?
そう思ったが直後には実際の年齢を知らない事に気付いた。
「とりあえず座って待たせて貰いましょう」
「そ、そうですね」
言われなければ聞いていたが、カレルに倣って椅子に座る。改めて聞こうと思った時にはユートは結局冒険に行っていた。
それから三十分程が経っただろうか。
ようやく二人は家に戻り、貰って来た食料をテーブルに広げて、食事が開始されたのである。
その場で俺達は色々と話し、彼らの境遇もある程度を察した。
親は早逝で親戚は無く、二人で何とかここで生きて来た。
食事は三日に一度が基本で、それすら危うい時もあった。
それが、デアジャキアの誕生により、ギースの隠された強さが分かり、その日からは面倒を見て貰える事になって、食べる分には困らなくなったと言う。
しかし、その代わりに危険な仕事――
つまり、戦いをさせられるようになってしまったが、木の根を食べなければ生きて行けなかったような、以前の生活と比べれば、何と言う事は無いと二人は笑った。
「(凄いな……俺より年下なのに)」
どちらかと言えば恵まれていた俺は、食事を止めてその話を聞き、そんな過去があるにも関わらず、屈託の無い笑顔を見せる二人に敬服せざるを得ないのである。
「まぁーオレ達の方はそんな感じかな? お前らの話も聞かせてくれよ」
感心していると、ギースが言って、身の上話を要求してくる。
この頃にはニースも警戒を解き、輝く瞳でこちらを見ていた。
「ヒジリンの話が一番ウケるんじゃない?」
ユートのそれには「あー……」と言い、ギース達の前では考えている風を装う。
それが聞こえたカレルは笑い、口を押えて体を震わせた。
「始めはそう、ラーク王国で俺は騎士として仕えていたんだ」
それを尻目に口を開き、ここまでに至る経緯を話した。
勿論、マジェスティ関連の事は、省いた上での成り行きで、学校建設の辺りの話に二人は特に食いついていた。
「学校かー……わたしも行って見たいなぁ……」
「バカ言え、そんなの無理に決まってんだろ…」
先に言ったのはニースであり、軽く怒ったのはギースである。
「どうして? もし本当に行きたいのなら、俺達の学校に招待するよ。
学費なんかは気にしなくて良いし、住む場所だって何とかするさ」
それを目にした為に言うと、二人は黙り、テーブルを眺めた。
「……お前、良い奴だよな。気持ちはありがたく貰っておくけど、多分、オレ達にはそれは無理なんだ。
第一ホラ、内乱が終わらないと、オレ達ここから離れられないし」
そして、しばらくが経ってから、ギースがそう言って「ハハハ」と笑った。
一方のニースはテーブルを見たままで、悲しそうな顔で沈黙しており、何かがあるなと思いはしたが、俺は何も言えないままで、その件を終えてしまうのである。
翌日の昼前には結論を出し、俺達はヘール諸島に帰る事になった。
その際にもう一度学校に誘ったが、二人はそれには頷かなかった。
「あの、さ。帰る前に、十分くらい時間をくれないか? ちょっと話しておきたい事があるんだ」
代わりにギースがそんな事を言うので、カレルに聞いてから時間を貰い、それから俺はギースに連れられ、初めて会った場所へと向かった。
そして、丘に辿り着いた後に、ギースから話を聞かされる。
「学校の話、ありがとな。昨日はあいつも喜んでたよ。
……でもな、例え内乱が終わっても、オレ達には行けない理由があるんだ。
多分、これでお別れだろうから、お前には知って置いて貰いたくてさ」
神妙な面持ちでギースはそう言い、丘の斜面に腰を下ろした。
それに倣って俺も座り、「それは……?」と言って話を促す。
「うん……」
ギースはまずは小さく頷き、その後にぽつぽつと話し出した。
「この地方って凄い昔には、犯罪者達の流刑地だったんだってさ。
その中には人間と魔物のハーフの、半魔って連中も含まれてたらしい。
特に悪い事をしていなくても、半魔ってだけでここに送られた。
まぁ、今で言う差別みたいな奴? そんな中にオレ達の先祖も居たらしい」
前半部分は知っていたが、後半部分は当然知らない。
しかし、ギースが何を言いたいのかが分からず、そこの部分では「そうなんだ」とだけ答えた。
「で、オレ達の先祖って言うのが、竜とのハーフの竜人って奴でさ。
ドラゴンって居るじゃん? デカいトカゲみたいなの。
あんなのと昔に結婚しちゃって、オレ達竜人がこの世に生まれた。
……そこまではまだ分かるんだけど、半魔ってそもそも短命らしくて、相手側の力が強ければ強い程、その分寿命が短いんだってさ。
だから、オレ達竜人は平均してハタチ位までしか生きていられない。
ニースに至っては竜化が出来るから、多分もっと早死にだと思う。
早ければ二年後……遅くても三年後位かな……
とにかくそういう血筋に生まれたから、オレ達は希望は持たないようにしてる。
お前の学校には行って見たいけど、行くって言えないのはそのせいなんだ」
続いた言葉で言いたい事は分かったが、直後には何も言えなかった。
住む世界が違うとはまさにこの事で、何を言って良いのかが分からなかった。
それでも酷いとは思った為に、「ヒドイな……」となんとか一言言えたが、聞いたギースは「ははっ」と笑い、何本かの草を引き抜いただけだった。
「ま、子供の頃から聞いてた事だから、今更そこにショックは無いけどな。
もう少しであいつともお別れだと思うと、寂しい気持ちは湧いてくるよ……」
あいつ、即ち妹の事だろう。そう言ってから草を投げ、悲しそうに俯くのである。
「……やっぱ暗くなっちまったな。
出来たらまた遊びに来いよ。それからこの話は他の奴には内緒な!」
直後にギースは立ち上がり、苦笑いを見せてから走り出した。
「ああ……来るよ。近い内に」
と、辛うじてそれに返事をすると、右手を上げて遠ざかって行った。
「(長くは生きられないから希望は持たない……か。
むしろ逆だと思うんだけど、気軽な事は言えないよな……)」
自分が彼らの立場であれば、或いはそうとは思わないかもしれない。
彼らと同様、未来に絶望し、希望を持たずに生きるかもしれない。
それは自分がそうなってみないと決して分からない事であり、それ故に俺はそうは思うが、「そうじゃないだろ」とは気軽に言えず、悶々とした気持ちを抱えながらギース達の家に戻るのである。
「うん? まだこの村に居たのか。海王の国は暇なんだな」
ギース達の家への帰り道で、俺はデアジャキアの副長であるフェイバーと言う男に捕まっていた。
どこに行くのか馬に乗っており、服装も明らかに遠出をするそれで、道を歩いていた俺を見つけてわざわざ話しかけてきたようだった。
「もう帰りますよ。ピーターさんによろしく伝えて下さい」
暇な人だなとまずは思う。
ギースとニースの事に加えて、フェイバーの無礼な態度に苛立ち、ぶっきらぼうにそう言うと、フェイバーはなぜか「ふっ」と笑った。
「何がおかしいんですか……?」
と、敢えて聞くと、フェイバーはまずは「いや」と一言。
「お前達にとっては間が悪かったな。
もう少し後にこの国に来ていれば、少なくとも答えを聞けないままで、帰ると言う事は無かっただろうに」
意味の分からない言葉を続け、手綱を引いて馬を動かすのだ。
「最後にひとつだけ忠告してやろう。
この村はじきに攻撃される。巻き込まれたくなかったらさっさと逃げな。
どちらの王子の言葉とは言えないが、これは、海王の使いのお前達への最低限の礼儀だと思え」
そして、最後にそう言い残し、馬を走らせて消えて行った。
どちらかの王子の言葉とは言えないが、最低限の礼儀……と言った。
「ドーユー事? 何であの人そんな事知ってるの?」
「俺が知るかよ……でも一応、ギースやカレルさんには伝えないとな」
意味は分からないがユートにはそう返し、止めていた足を再び動かした。
それにはユートは「んだね」と言って、俺の前方をゆっくりと飛び出す。
ギース達の家が見えて来たのは、それからすぐの事であり、こちらの気配に気付いたカレルが「あっ」と発して顔を向けて来た。
玄関の前にはギースとニースが見送りの為に出て来てくれて居り、丁度良いかと思った俺は先程の事を皆に話すのだ。
「普通に考えるならスパイだったって事よね。
あたし達がもしここで死ねば、海王の怒りを買うかもしれない。
だから、保険として情報を教えた。どちらかの王子の言葉としてね。
そうだと考えたら説明がつくけど……」
「……問題は誰のスパイかって事ですか?」
直後のそれはカレルの言で、補完したつもりで俺が聞く。
しかし、カレルは「それもだけど」と言った上で「攻撃がいつなのかの方が問題じゃない?」と、自身が思う問題を主張した。
「な、なんでだよ……オレ達は別に悪い事はしてないだろ?
一体誰に攻撃されるって言うんだ!? 隊長も居ないしリモーネも居ない……今、村を攻撃されたら……」
それを聞いたギースが焦り、「そっか」と小さくカレルが言った。
「だから、か」
と、更に続けたが、これを拾ったのは俺とユートだけだ。
「大変だギース!!」
と言う声により、ギース達がそちらに向いたからである。
やって来たのは住民達で、皆、相当に焦っており、ギースに口早に何かを言って、二人と共に駆け出した。
「何がだからなんですか?」
追おうと思ったがその前に聞き、「推測だけど」とまずは言われる。
「留守を狙ったんじゃないかしら。隊長と、そのリモーネって人の。
或いは、それすらも仕組まれた事だった。
そこにあたし達が絡んじゃったから、立ち去るように言って来たんじゃない?」
それから続けた言葉を聞いて、「そう……なんですかね?」と言葉を返した。
頭の悪い俺には分からない。だが、カレルがそう思うならそうなのかもしれない。
「本当の所は分からないわね。真実を知っている人に聞くしかないわ。
でも、今はその前にするべき事が有るんじゃないかしら?」
「そ、そうですね!」
それにはすぐにそう言って、ギース達を追って村へと走った。
「やっぱりそっちか……」
と、カレルが笑ったが、俺には意味が分からない。
後で聞いて分かった事だが、国に帰るか、それとも残るかで、カレルは選択を委ねていたらしく、俺が後者を選んだ事で笑顔がこぼれてしまったらしかった。
つまり、密かに試されていたのだ。行動の選択と言うか、道徳心を。
そして、それは正解だったから、カレルは笑顔を見せたのだろう。
もしも「帰りましょう!」と言っていたのなら。
或いは平手が飛んで来たかもしれない。聞かされた時には少しゾッとして、「そうだったんですかァァ……」としか返せない俺であった。
一分程を走っただろうか。村の中央辺りに辿り着く。
そこで立ち止まっているギース達を見て、俺達はその横で足を止めた。
「これは……」
視線の先、アーチの向こうには数千規模の兵士が見えた。
皆、重厚な鎧に身を包み、武器を片手に整列している。
「第一王子の軍隊だ……」
と、村人の一人が言った事で、それがこの国の第一王子である、アルフレッドの軍だと理解する事が出来た。
フェイバーの言葉は本当だった。この村を本当に攻撃する気なのだ。
「どうするギース……? 戦える者は百人も居ない。
住民を併せても四百人程だ……俺達は一体どうすれば良いんだ?」
「そ、そんな事オレに聞かれても……」
男の一人がギースに聞いて、聞かれたギースが戸惑いながらに言う。
「クソッ……! せめてリモーネが居てくれれば……!」
と、他の誰かが地面を蹴ったが、それをも無言で見ていただけだ。
「も、もしかしたら別の用件なんじゃないか?
誰か行って聞いて来いよ? 俺達別に悪い事なんて、何もやっちゃいねぇしな……?」
「そ、そうだ。そうに違いない! 早速誰が聞きに行くかを決めよう!」
やがてはそんな結論に辿り着き、村人達が相談し合う。
そんな中で入口近くから、数本の矢が軍隊に放たれた。
撃ちつけたのは住民らしき者達で、直後に北に逃走して行く。
撃たれた相手に被害は無かったが、少しの後に軍勢は反撃の矢を放ってきたのだ。
その数は軽く千を越え、村の建物や木に降り注ぎ、矢じりの先に点けられた火が、建物や木を燃やし出す。
「何!? 一体何が起こってるの!!?」
「とにかく逃げろ! 本部に逃げるんだ!!」
直後には住民達が惨事に気付き、村の奥へと逃走し始めた。
軍勢はそんな中で前進を始め、村の入口へと近付いて来たのだ。
子供や、女性や、老人達が、彼らを背にして逃亡しており、流れ矢に当たった人の中には絶命している人も見えた。
親が駆け寄り助け起こすが、倒れた子供は目を開かない。そうしている間に親までが矢に倒れ、我が子に覆いかぶさるようにして命を散らした。
攻撃される理由は謎だが、こんな事を見過ごしてはならない。
俺達やデアジャキアを狙うのならまだ分かる。
だが、何があっても子供は反則だ。
「……住民を避難させて下さい。入口は俺が守ります!」
気付いた時にはそう言って居て、俺は村の入口に向かって駆けていた。
無謀ではありますがそういう子なので…




