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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
三章 ゲンナマを求めて
33/108

ダナヒの決断

 翌日の朝には港に寄って、二日分の食料を船に積んだ。

 ここまでは全く順調だったのだが、ひとつの事件がそこで起こった。


「先の軍船に間違いありやせん。どうやら後をつけられていたようです」


 見張りをしていた水夫の言うように、二隻の軍船が沖合に現れ、明らかにこちらを意識した動きで、海上を封鎖し始めたのである。


「待って居ても新手が出て来るだけだな……しゃーねー! もういっぺん突破するぞ!」


 ダナヒの決断は再度の突破で、ゴートゥ・ヘル号は沖へと向かう。

 だが、相手も分かっているらしく、今度は停船命令無しで、大砲を突然放ってきたのだ。


「うろたえ弾だ! こんなもんにゃ当たらねぇ!」


 舵を切りつつダナヒが叫び、射撃をかわして突破を図る。

 幸いにも封鎖の前に辿り着き、二隻の間を何とか抜けられた。


「さぁ後ろからドンドン来るぜー!! つまんねぇ弾に当たんなよー!!」


 ダナヒの言葉の直後には、後方から雨あられと砲弾が飛んで来た。

 相手は軍船で大きさは倍。大砲の数はざっと見でも片側だけで五十門はある。

 それらが一斉に火を吹いている訳で、あちらにすればこれはもう、殆ど狩りのようなもの。こちらとしては逃げの一手が、最善の手段で間違いなかった。

 

 唯一の武器である速度を生かし、ゴートゥ・ヘル号は敵から遠ざかる。

 あちらもまだまだ打ってはいたが、精度は段々と落ちて行っていた。


「油断はするな。当たるときゃ当たるぞ」


 そう言いながら水夫と代わり、操舵輪を離してダナヒが下りて来る。

 すぐにも近くに弾が落ち、海面に数メートルの水柱が上がった。


「しっかし良い船使ってやがんなぁ……金がある国はやっぱ違うねぇ」

「そうなんですか? 良く分かりませんけど……」


 ダナヒが言って俺が言う。

 直後に弾が頭上を通り、前方の海面に水柱が上がる。


「五十門以上は戦列艦っつってな。そうそう造れる船じゃねぇ。

 ああいうのが一隻でもあると違うんだがなぁ」


 多分、戦況的な何かがだろう。俺にはそれは良く分からない事だが、格差があるのは痛い程に分かる。

 例えるなら棍棒でマンモスに挑むような物か。自虐的だが俺達の国とヨゼル王国の差はそれ位はあるはずだ。

 ダナヒがボヤき、頭を掻いた頃「マズイですぜ!」と水夫が言ってきた。


「どうした?」


 ダナヒが聞くと、「順風です!」と言い、聞いたダナヒが「ヤベェな……」と呟く。


「何がヤバイんだろ?」

「さぁ……?」


 ヤバい理由が分からなかった俺達は何とはなしに後方を見る。

 すると、かなり離していた軍船が、先程よりも近付いて来ていたのである。


「あ!」


 よくよく見ると敵船は殆どの帆が所謂横帆。

 順風、つまり、追い風で推進力を得やすい帆をつけていた。

 しかもマストは三本もあり、帆の数にしても倍以上。

 追い付かれている理由が分かり、焦った顔でダナヒを見つめる。


「こればっかりはどうにもな……風魔法でも覚えてくるか?」

「冗談言ってる場合ですか! 距離を詰められたら……ッ!?」


 言っている傍で水柱が上がり、言葉の途中で顔を顰める。


「あぁ~~サイアク~!!」


 大量の海水をその身にかぶり、ユートが泣きそうな顔を見せた。


「だ、だ、大丈夫なのですか海王陛下!? 明らかに追い付かれておるようですが!?」

「うるせぇ! すっこんでろ!」


 ミールと妻子はダナヒに怒鳴られ、一瞬浮いた後に客室に退避。

 残されたサーヤが動揺していたので、「サーヤさんも!」と声をかけた。


「あ、はい! ヒジリさんも気を付けて下さい!」


 返されてきた言葉がそれで、それには小さく頷いて見せる。

 サーヤはそれを目にした後に、船尾楼の中の船室に消えた。

 気を付けろ、と言われても大砲の弾が当たったら終わりだ。

 しかし、そんな事を言っても無意味なので、解決法を必死で考えた。


「まぁ、しゃーねーな。やるしかねぇだろ……」


 何かの考えがあるのだろうか。

 立てかけていた斧を持ち、肩を鳴らしてダナヒが言った。


「やるって、一体何をやるんですか?」

「追いつかれねー為の工夫」


 聞くと、ダナヒはそう言って、水夫の何人かを近くに呼び寄せる。

 何を考えているかは不明だが、何かをやろうとしている事は分かる。

 俺とユートもそこに近付き、終わりかけていた会話を耳にした。


「しかし、それでは海王陛下が……」

「大丈夫だ。ヒジリも行く。最悪はデルフェスで待ち合わせだ」


 終わったらしいが内容は謎。俺の名前が出た事だけは分かる。

 どうにも嫌な予感だけがするのは、「最悪は」と言う単語を聞いた為だろう。


「ウワァ!?」


 直後に船が反転し始め、思わず右に何歩か歩く。

 どうやら舵を右に切り、船を右へと傾けたらしい。

 この事によって相手に対し、俺達の船は横っ腹を晒し、こちらから見るなら右側に相手の船の正面が見える。


「行くぞヒジリ」

「は、はい」


 どこに行くのか。それは謎だが、とりあえずの形で言葉を返す。

 向かった先は船の右側の八門の大砲が設置された場所で、すぐにも水夫が数人やって来て、大砲の中に弾を詰めた。

 大砲を撃つのか? そう思っていると、ダナヒが大砲の「上」に乗る。


「タイミングは自分で見つけな。とりあえず俺様が先に行くぜ」


 そして、唖然とする俺に対し、大砲の上からそう言ったのだ。

 そのまま発射口の近くに歩き、先端に立って「やれ」と言う。


「まさか……」


 と俺が顔色を変えた時、水夫が大砲に火を近づけた。

 轟音が鳴り、大砲が火を吹き、それと同時にダナヒが動く。

 直後のダナヒは大砲の弾に乗り、迫り来る軍船に向かって飛んでいた。


「バケモノすぎる……!」

「ダナヒさん優勝!」


 俺とユートが同時に叫ぶ。

「さぁヒジリさんも!」と水夫に言われたが、流石に「嫌です!」と拒否したかった。

 だが、ダナヒ一人を逝かせられない。

 認めて貰ったばかりなのだ。故に仕方なく決心をして、大砲の上に足を乗せた。


「行きやすぜ!」

「あ、はい……」


 そして二発目が放たれたが、タイミングを計れずにこれは失敗。

 誰も乗せずに弾は飛び、敵船の眼前で海面を爆ぜさせた。


「次、行きやす!」


 当たり前のように水夫が言った。本来の使用法とは絶対違うのに。

 それでも一応「はぁ」と返して、タイミングを計る為に動きを良く見た。

 弾が込められ、火がつけられる。短い導火線に火が走り、砲門の中の弾へと向かう。


「ドゥゥアアアアア!?」


 そこで足を動かす事で、何とか放たれた弾に乗れ、俺とユートは凄まじい勢いで軍船に向かって迫るのである。


「前! 前ー!!」


 直後の声はユートの注意。前を見ると、ぶれる風景に船首から放たれた弾が映る。


「ずああっ!?」


 身をよじってそれを避け、落ちそうになったので思い切って飛ぶ。

 辿り着いた場所は敵船の舳先で、両手を使って這い上がった。

 それからすぐに目にしたものは、大暴れをしているダナヒであった。

 戦斧を両手に敵を薙ぎ、時に蹴飛ばしてマストに近付き、戦斧をそこに振りつけて、巨大なマストを傾けていた。


「おぉ来たか! 手伝ってくれや!」


 俺に気付いたダナヒが言って、群がる敵を一気に払う。


「は、はい!」


 それに答えた俺は飛び、新品の槍を空中で呼び寄せた。

 倒れ行くマストの上に乗り、少し走って更に飛ぶ。


「アレをやって見るか!!」


 滑空しながら思い出して、炎の魔法を試みる事にした。

 イメージとしては大きな火の球。帆に燃え移れば上出来である。


「よおぉし! 行っけぇぇぇ!!」


 左手を突き出して気合を入れて、巨大な球を眼前に呼び出した。

 それは火の球と言うレベルでは無く、業炎を絡ませて燃え盛る巨石。

 大きさで言うなら十mはある、家でも潰せそうな巨石であった。


「いぃ!?」


 あまりの事に自分が驚き、危うく着地に失敗しかける。

 燃え盛る巨石はマストを飲み込み、落下した先の甲板を凹ませ、そこから周囲に燃え広がって、辺りを宛ら地獄絵図に変えた。


「(やべぇ!? やりすぎたかっ……!)」


 思った直後に視界がブレて、体の力が一瞬抜けた。

 少々の眠気も感じた為に、精神力が尽きたとすぐに分かった。

 普段はあまり使わない魔法を、意識せずに全力で使った結果だ。


「やるじゃねえか! それで十分だ!」


 そうとは知らないダナヒは言って、敵を蹴散らして船尾に向かう。

 そして、そこに居た兵士を倒し、軍船の操舵輪を強引に占拠。

 正面を進むゴートゥ・ヘル号の船尾と平行になるように操作した。


「おし!!」


 操舵輪に剣を刺し、軍船の航路をそこで固定。


「こっちだ! 来い!」


 と、俺を呼びつけ、発火剤を拾って大砲に近付いた。


「先に行け!」


 近付くなりに火を点けられて、慌てた動作で上に乗る。


「癖になるぅぅぅぅ!!」


 それはユートで、俺の肩を掴み、なぜかの笑顔で大絶叫。

 今度は一発目でタイミングを掴め、放たれた大砲の弾に乗ってゴートゥ・ヘル号の船尾を追った。


 二発目はすぐに放たれて、それにはダナヒの姿が見えた。

 一方の軍船は僚艦を救う為に、砲撃をやめてそちらに向かった。


「全く、なんて人なんだろうな……無茶苦茶だよ本当に」

「でも楽しいよ!! スローガン通りだね!!」


 ユートのその言葉に微笑んだ後に、俺達は弾ごと海に落ちた。

 全くもって届いていない。ゴートゥ・ヘル号は遙か彼方だ。


「だぁーっ! 全然届かねー!!」


 これはダナヒで、少し遅れて俺達の近くの海へと落ちる。

 幸いにも水夫達が戻って来てくれたので、俺達は生還する事が出来たのだった。




 それから二日後の夕方頃に、船は母港がある街へと着いた。

 あれからのトラブルは何も無く、心にゆとりを持っての帰還だが、責任者であるダナヒはそこで、肩の荷をようやく下ろしたようだった。


「……さて、最後の一仕事と行くか」


 まだ仕事があったのだろうか。

 それには少し疑問して、何も言わずにダナヒに続く。


「ここが首都ですって……? あり得ないわ」

「まぁ、そう言うな……しばしの我慢だ。じきにワシが王国色に……」


 そして、先に上陸していたミールの一家の後ろに降りた。


「す、素晴らしい街並みですわね! これこそまさに南国の楽園!

 これからの生活が楽しみですわ!」

「そ、そうだろうそうだろう! ワシもそう思っておった!」


 それに気付くなり夫婦は言って、息子と共に「ハハハ」と笑う。


「おぉ?! これは海王陛下! そこにおられたとは気付きませんでした!」


 ダナヒがそれに笑った事で、一家が今気付いたような反応を見せた。


「(全部聞こえてたって言ってやりてー……!)」


 直後の俺は無理に苦笑い。

 心の中だけでそう呟いて、両目を細めて一家を眺める。


「さて、とりあえず約束通り、安全な所まで連れて来た訳だが、この点はあんたも納得してくれるか?」

「それはもう……! 海王陛下には感謝をしております!」


 おそらくダナヒも聞こえて居ただろうに、それには構わずミールに聞いて、聞かれたミールがそう言って、家族と共に頭を下げた。


「あ、あっ!」


 少し遅れてサーヤも続き、それにはダナヒは「ふっ」と笑う。


「そうか。それなら安心したぜ」


 それから言って、右手を上げて、甲板から何人かの水夫を呼び寄せた。


「やれ」


 続く言葉はそんな一言。何をやるのかと俺も慌てる。


「へい!」


 そんな中で水夫達が動き、ミール一家をあっという間に捕らえた。


「な、何をするのです!? 海王陛下、これは一体!?」


 当然の疑問にミールが叫び、慌てた顔でダナヒに聞いた。

 俺とユートも訳が分からず、隣に立っているダナヒを見つめた。


「生憎、俺様の新しい国に、あんたらみてぇな人間は要らねぇ。

 約束だから亡命はさせたが、早速追放させて貰うぜ」

「なっ?!」


 答えたダナヒが顎を動かし、ミールの一家が水夫に連れられる。


「ふ、ふざけるな! こんな事をしてタダで済むと……」

「思っちゃダメか? 金も、地位も、人徳もねぇ奴に何かが出来るとは思えねぇけどな。ま、それでも復讐してぇなら勝手に色々やってみろや。

 こちとら一応海賊なんで、次に遭ったら殺すけどな」

「くっ……!」


 すれ違い様の脅迫には、ダナヒは鼻くそをほじって返し、黙ったミールと家族達は水夫に連れられて遠ざかって行った。


「ど、どうするんですか?」


 サメの餌にする。そう言いそうで、ちょっと怖いが聞いてみる。


「箱詰めにしてエイラスにでも送るさ。ここよりあそこのが安全だろう。

 ただし私財は頂くからな。生きて行けるかはあいつら次第だ」


 すると、ダナヒはそう言って、右手を上げて歩いて行った。


「ダナヒさんもオニだね~。でもまぁジゴージトクかな?」

「もうちょっとマトモな人達ならね……財産の没収はちょっと気の毒だけど」


 自業自得。因果応報。気の毒だとは思うが同情はしない。

 何だかんだで見ていたんだな、と、ダナヒの采配には感心をした。


「あ、あの、私はどうすれば……?」


 これはサーヤで、突然の展開について行けずにおどおどしている。

 口を押えて近付いて来たので、とりあえずの形で微笑んで見せた。


「あの人自身が納得したように、安全な場所には到着しました。

 だから、契約も終わりなんじゃないですか?」

「じゃ、じゃあ家に帰っても……?」

「それは勿論。家の近くまで送ってくれるように海王陛下に頼んでみますよ」


 それにはそう答えると、サーヤは俺に抱き付いて来た。

 むにゅりと言う感触。そして良い匂い。抵抗できない破壊力がある。

 サーヤは余程に嬉しかったのか、「ありがとうございます!」と涙しており、それを押し返す事が出来なかった俺は、初めての感触にどぎまぎしつつ、「良かったですね」と何とか返すのだ。


「はい! はい!」


 サーヤはそれで俺から離れ、涙を拭って笑顔を見せた。

 柔らかい感触が名残惜しいが、もっとして! なんてとても言えない。

 故に冷静を装って「行きますか」と言って館に向かった。

 館に到着し、執務室に行くと、デオスに怒られていたダナヒを見つける。


「ま、約束を果たしたという事実が残れば、そう悪いようにも広がらないでしょう。ミール公爵の人となりを見れば、本当か嘘かは分かるでしょうし」


 しかし、怒りは上辺のようで、俺達に気付いたデオスはそう言い、微笑を湛えて部屋から去った。


「ダナヒさんにお願いがあるんですけど……」


 そのタイミングで話しかけると、ダナヒが「あん?」と振り向いて来た。

 先生に怒られた生徒の如く、何だかふて腐れた顔をしている。

 それでもサーヤの事を頼むと、「ああ、分かった」と返答してくれ、この事によりサーヤは二日後に故郷に帰れる事になったのだ。

 それを聞いたサーヤは俺と、ダナヒに何度も頭を下げた。

 そして、せめてものお礼と言う事で、二日間の奉仕を申し出たのである。

 奉仕と言っても普通に掃除やら、料理の手伝いやらなので、そこはエロイ意味に取らないでほしい。


「何だかんだで良い終わり方だったね! 悪は滅びる! カンゼンチョーアク!」

「そんな言葉どこで覚えてんだ……?」


 部屋に戻るなりユートが言って、疑問に感じた俺が聞く。


「主にコレです」


 ユートは即座に本棚に飛び、そこに並んだ漫画を指さした。

 誰の物かは不明であるが、最初からそこにあった漫画である。


「三巻だけ無いんだよ! 買ってよ三巻! キャロラインがどうなったのか気になるんだよぉ!」

「誰それ……」


 それには全くついて行けないが、あまりにうるさいので「分かったよ……」と言い、閉めたドアをもう一度開け、漫画を探す為に外へと向かった。


詳しくは同作者の「私を「魔」医者と呼ぶなッ!」を見て下さい!(露骨な嘘宣伝)


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