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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
三章 ゲンナマを求めて
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友情の花

 その日も花畑の前に居た。

 時刻は相変わらずの夜である。

 Pさんは区分けされた花畑の中にじょうろを置いて屈んでおり、右手にスコップのようなものを持って、目の前の地面を少しずつ掘っていた。


「やぁこんばんは。こっちにおいでよ」


 俺に気付いたPさんが言い、言われた俺が石畳を歩く。

 それからPさんの正面に迂回して、木の柵を越えて花畑に踏み入った。

 見ると、じょうろの近くには紙のようなものが置いてあり、その上には花の種なのだろうか、十粒程の種があった。


「ライラックの花の種さ。君も植えてくれるかい?」


 こちらを見上げてPさんが言う。

 それには「あ、はい」と言って答え、半分程の種を受け取り、等間隔で種を植えた。

 一方のPさんも種を植えて、植え終えた場所に土をかける。

 宛ら「花壇の係」のようで、直後に俺は少し苦笑した。


「協力してくれて嬉しいよ。ありがとう。ヒジリ君」

「い、いえ、そんな、これ位の事……」


 言うと、Pさんは「ははは」と笑い、じょうろの水をそこにかけた。


「さ、じゃあそろそろ行こうか」


 それから少々の時間が過ぎて、じょうろを持ったままで歩き出した。

 向かっている先は教会の裏。おそらく花棚が見える場所だろう。


「そう言えばここってどういう所なんですか……?

 時間がリンクしてるって事は、やっぱりナプティーズのどこかなんですか?」

「いいや。全然別の所さ。

 時間は確かにいつも夜だけど、それもそろそろ明ける気がするよ」

「はぁ……そうですか……」


 良く分からずにそう言うと、Pさんは「多分ね」と一言を加えた。

 場所は兎も角、時間にかけては自分でも良く分かって居ないようで、そこの部分を不思議に思いつつ、無言で歩くPさんに続いた。

 そして予想通り、裏庭に着く。Pさんが席に着いた事を見てから、その正面に俺が座った。


「はい。じゃあこれ。今月のポイントは二十四P。

 先月と併せて四十五Pだね」

「意外にありますね……今月はもっと少ないかと思いました」

「確かに戦いは高評価だけど、それだけが評価の対象じゃないからね。

 気になるんなら戻った後に相棒妖精に聞いてみたら?」


 それには「ですね」と言葉を返し、Pさんの手からメニューを受け取る。

 開くと新たに二つが追加され、選択の幅が広がっていた。


 魔法三 魔法効果+(最初に選んだ属性の魔法効果が上昇する) 八P

 特能四 毒、或いは麻痺耐性 九P


 これが新たに追加されたもので。


 言語四 その他の人間語 十P

 真実三 生き延びた果て 九P


 以上が前からの引継ぎである。疑問したのは特能の四。


「あの、特能の四なんですけど……」


 質問するとPさんは「ああ」と言って教えてくれた。


「毒か麻痺、そのどちらかに耐性を得る事が出来るってだけさ。

 言い換えればかなり効き難くなる。通常と比べて二十倍位。

 ここではどちらかしか取れないから、取るんだったらどっちかを教えて」

「あ、分かりました。ありがとうございます」


 納得した上でそう言うと、Pさんは「いえいえ」と言って笑う。

 取るとするなら毒……だろうか。結果として死ぬ物を取るべきだと考える。

 いや、麻痺でも敵がいたら、結果としては死ぬのは死ぬのだが……


「ええと……ついでに魔法三も良いですか……?」


 念の為にその前に聞く。立て続けの質問なので遠慮がちに。

 すると、Pさんは「良いよ」と言って、笑顔で説明を続けてくれた。


「最初に選んだ属性、つまり、ヒジリ君の場合は炎だね。

 それの効果が上昇する。下級、中級、上級があるとしたら、中級の威力だと考えると良いよ」

「なるほど……炎の中級魔法ですね……」

「そうだね」


 それにも一応納得したが、「要らないかもな……」と俺は思う。

 理由は単純に忘れがちで、使いこなせていないから。

 これはどうも性格なのか、物理に走る傾向があるからだ。


 故にとりあえずはそれを省き、俺は残りを計算してみる。

 言語と特能の二つで十九。真実を取っても二十八。


「(それなら魔法も取っておくか……)」


 と、考えを変えて含んでみると、それでも三十六Pだった。

 今はあれでもその先に便利なものがあるかもしれないし、取れるのならば取って置いて損と言うものは無いのかもしれない。


「……じゃあすみません。今月は全部で。あ、特能は毒の方で」

「おっと、攻めるねヒジリ君~。残りはモトセカに突っ込んじゃう?」

「そう、ですね……じゃあそうします」


 言われるままに全てを注ぎ、無意味になったメニューを返した。


「残念。まだまだ帰れそうには無いよ」

「ですよね……」


 そこは本当にですよね、である。

 正直あまり期待してないし、学校を作り出してしまった手前、「おめでとう! 帰れるよ!」と、言われても今は困る。

 それでも多分……帰るだろうが、少なくとも今回は期待して居なかった。


「えーと後は真実三だったかな。

 生き延びた果て。要するに、この世界で生き延びたとしてどうなるかの答えだね。

 率直に言うと何も変わらない。いつもの日々が普通に続く。

 ただし、そこには評価が付きまとい、規定値以下なら突然サヨウナラ。

 真実十を聞いた後に正式に住むかを聞かれるんだけど、そこで「はい」と答えた時に、初めてシステムから解放されるんだ。

 でも、殆どはそこまで行かずに、死んだり、元の世界に帰ったりしてる。

 その星に住む道を選んだ者は、僕の知る限りでは一人も居ないね」

「け、結構ヘビーですね……」


 思った事を素直に言うと、Pさんは「そうだね」と、真顔で言った。

 死んだ割合はどれくらいですか。と、聞きたい気持ちをぐっと堪え、俺は歯の隙間から空気を吐き出した。


「でも大丈夫。ヒジリ君なら、いつかはきっと辿り着けるさ」


 続けたそれでは笑ってくれたので、「だと良いんですけど……」と苦笑して見せる。

 他の人ならお世辞と受け取るが、Pさんの言葉は信じたい。

 友達……と言のは失礼だろうが、それに近いものを感じるからだ。


「あ、それはそうと、学校おめでとう。

 出来るなら僕も通いたいんだけど、立場上そうも行かなくて。

 だから完成したら話を聞かせてよ」

「分かりました。そんな事なら全然ですよ」

「ありがとう。期待して待ってるよ。じゃあまた来月。元気でね」

「Pさんも」


 笑顔で言うと、Pさんも微笑み、周囲はそこで闇に包まれた。

 完成したら話を聞かせる、なんて、それまでは居るって事じゃないか。

 だとしたら全力で突っ込んだとしても、簡単には帰らせてくれないのだろう。

 そう考えて苦笑しながら、俺は闇に飲まれて行った。




 その日の昼にはナエミと会って、話をしながら昼食を食べた。

 話の最中も、食事の間も、ナエミは片手に本を持っており、普段はつけない眼鏡をつけて、暇さえあればそれを読んでいた。

 あまりにそれが目についたので、「何なんだそれ?」と質問すると、ナエミは眼鏡を「くいっ」と押し上げて、


「参考書」


 と、俺に言ったのである。知的に見える。眼鏡の魔力だ。

 そしてそれは案外似合っている。言葉の意味をあまり考えず、俺はそんな事を考えていた。


「サンコーショ?」


 こちらはユートで、目を瞬かせ、俺からの答えを待って居る。


「な、何の……?」


 と、それを無視して聞くと、ナエミは「ひひー」と声に出して笑い、「今は内緒」と続けたのである。

 見た目は知的でも中身はナエミ。基本的には訳が分からない。


「ねー、サンコーショって何? ねぇねぇヒジリ、サンコーショって何?」

「あーもう分かった……教えるから引っ張るなよ……」


 ついには耳を引っ張られ、ユートに向かって説明をした。

 ナエミはそれに構わずに、パスタ(のようなもの)を啜りつつ本を読んでいる。


「(黙って本を読んでると、割と可愛い感じなんだよな……ていうか俺が眼鏡に弱いだけか)」


 知らなかったがそうかもしれない。思い出せばお気に入りの動画も眼鏡をつけていた人が多い気がする。いや、何の動画かは説明できないが、年齢と性格から察して欲しい。

 盗み見しながら思っていると、ナエミが「あっ」と言葉を発す。


「学校なんだけど、先生とかはどうする?

 最低でも文系理系、あと体育の先生とかで三人は居ると思うんだけど」


 それには「あー」とまずは言い、「まだ良いんじゃないか?」と言葉を続けた。

 何しろ完成はまだまだである。今から探すのは気が早い。


「甘い甘い」


 しかし、ナエミはそう言って、本を閉じてフォークを振った。


「求人広告とか見た事無いでしょー? 何か月も前から募集してるんだよ? 元の世界でもそうなんだから、こっちじゃもっと早くにしないと」

「そ、そういうもんか……」

「そういうもん。

 情報誌っていう概念が無いから、酒場とか、宿屋とか、そういう所で、じみーに今から募集しておこうよ」

「ああ……」


 そうは言ったが心の中では「まだ七カ月も先の話だろ……」と、高を括っている部分はあった。

 だが、ナエミがうるさく言うので、仕方が無しにそれを受け入れ、近隣の酒場や宿屋等に張り紙をするという事を決めたのである。


「それはそうと」

「うん……?」


 少ししてからナエミが言って、外を見ていた俺が言う。


「しばらく居なくなっても良いかな? 長ければ多分、半年くらい」


 顔を向けると本を見たままで、ナエミは「さらり」とそう言ったのだ。


「は!? 半年!? 何で!? ってかどこに!?」


 聞くと、ナエミは「修行」と言って、本から決して視線を外さない。


「何の!?」


 と、しつこく質問すると、ようやく本を「ぱたり」と閉じた。


「ヒジリの役に立つ為の、だよ」


 それから俺の目を見て言って、「良いかな?」と質問の答えを求めた。

 訳が分からない。いつもの事だが。


「訳分かんねぇ……」

「いつもの事でしょ?」


 実際にそれを口に出すと、思っている事をそのまま言われた。

 返せる言葉は「まぁ、そりゃあ……」というもの。


「お願い。学校が出来るまでには帰ってくるから。

 ってか、行って良いって言ってくれたら、場所を調べてヒジリにも話すし」

「分かった分かった……

 っていうかそもそも、俺にはそんな権利は無いしな。

 ナエミがそうしたいのならそうすると良いさ……」


 ナエミは俺の恋人では無い。恋人だとしてもそんな権利は無いが、そもそもそうじゃない以上、自由を阻害する理由は無かった。

 聞いたナエミは「ありがと」と言い、最後のパスタをするりと啜る。


「じゃあ、明日にでも場所を調べて、今度会った時にヒジリにも教えるね。

 お昼御飯ごちそう様~!」

「ちょっ!? 奢るとは言ってな……あーぁ。はっえぇ……」


 そして、最後にそう言って、本を片手に店から出て行った。

 残された俺はため息を吐き、駆け足でどこかに行くナエミを眺める。


「ねぇねぇヒジリ、ハルル食べて良い? 注文してよバナナハルル」


 ユートのそれには「ああ」と言い、言われたままにハルルを頼む。


「(なんかマイペースな女ばっか……)」


 と、心の中で愚痴を言い、ナプキンの一枚を意味も無く折った。




 その日の夜にはダナヒに呼ばれ、ダナヒの自室を訪れていた。

 風呂から出て来た直後のようで、ダナヒはパンツも履かずにうろつき、その尻を見たユートが「うわぁ……」と言うので、「何か着て下さいよ」と俺が頼んだ。


「んだよ……良いだろすぐに寝ンだから……

 それともアレか? ダナヒさんの肉体美が気になって、まともに顔が見れねぇってか?」

「いやいや、俺じゃなくてユートの為に……一応、これでも女の子なんですから」


 それにはダナヒが舌打ちし、ユートが「一応って!」と軽くキレる。

 その為ユートには「ご、ごめん」と謝り、ダナヒがバスローブを着るのを待った。


「これで良いか? ったくよう……」


 ブツブツと言いながらダナヒが座る。

 位置としては俺の正面で、大きく股を開いているので、出来るだけそこを見ないようにする。


「そもそも相棒妖精だっけか? そいつは俺様には見えねぇんだがな……

 そんなのを気にしなきゃいけねぇってんなら、オメェも色々と大変だな」


 大変と思った事は無いが、「撒きたい」と思った事はある。

 俺も青少年。プライベートな時間が欲しい時だってそれなりにあり、その時ばかりは付きまとうユートを撒きたいと考えた事はあった。

 だが、そんな時に限ってユートは鋭く「何かオカシー」と言って付きまとい、大概はトイレに篭る事で凌いできた事が殆どだった。

 それでもたまに「お腹壊した!? 薬貰って来ようか!」等と喚かれ、まるで集中できずに終わって、目の下にクマを作る羽目になったのだ。


「……そ、そんな事は無いですよ! そんな、全然、大変だなんて」


 嘘ばっかりだ。と、自分で思う。

 だが、聞いたユートは「うんうん」と満足した様子で頷いていた。


「って言うか何で見えないんですか?

 マジェスティじゃない人にだって、見える事もあるくらいなのに」

「知らねーよ……だが、強いて挙げるなら、何一つ獲得してねぇからじゃねぇか?」


 聞くと、ダナヒがそう言ったので、「獲得……?」と疑問の顔で聞く。


「あー、だから何だっけ?

 魔法だとか言語だとか、特殊? だとか何か色々あんだろう?

 アレを一つも獲得してねぇから、相棒妖精だかが見えねぇんじゃねぇのか?」

「いっ!? ひ、ひとつもですか!?」


 流石に驚き声を出す。

 聞かれたダナヒは「ああ」と言い、「何か飲むか?」と立ち上がった。

 要するにダナヒは例のメニュー。

 スキルツリーが書かれたメニューであるが、あれを一つも取らないままでここに至ってしまっているらしい。

 なのにあの強さ。あの身体能力。元々からしてバケモノだったのだ。


「い、いや、俺は良いです……っていうか、ホントにひとつもですか?」


 質問に答え、再度聞くと、ダナヒは「しつけーな……」と言って歩いた。

 それからボトルとグラスを探し、それらを持って元へと戻る。


「単純に嫌でな。誰かに力を与えて貰うっていうのが。

 考え方は人それぞれだから、他人の事はどうこう言わねぇが」


 そして、そう呟きながら、ソファーに再び腰を下ろすのだ。

 それこそ人の考えなので、俺もそれにはどうこう言えない。

 

「いや……でも、説明書位は、読んでおいた方が良いと思いますよ?

 やったらマズイ事とかも書いてますし、そうすれば多分相棒妖精も見えるようになると思うんですけど……」

「気が向いたらな。っていうか、そんな話をする為にオメェを呼んだ訳じゃねぇ。とりあえずアレだ。明日から空いてるか?」


 しかしそこには忠告すると、ダナヒは一応受け入れてくれた。

 そして、その上で聞いて来たので、それには「はい……」と言葉を返した。


「よし」


 ダナヒが言ってボトルを開ける。それから中身をグラスに注ぎ出す。


「ヨゼル王国で異変があってな。貴族や豪商の摘発が続いてる。

 詳しい事は良く知らねぇが、鮮烈の青とやらが何かしたらしい」

「(鮮烈の青……レナスの事か……)」


 そこの部分では言葉に出さず、心の中だけでそう思う。


「で、その内の貴族の一人がな、俺達達の国に亡命したいんだと。

 勝手にやれって話だが、割と重要な人物らしい。

 てわけで俺様とオメェの二人で、こいつを迎えに行く事になった。

 出発は明日の昼頃で、乗って行く船はゴートゥ・ヘルだ。

 それまでにきっちり準備をしとけ」


 亡命の手助け。つまりはそういう事だろう。

 ダナヒがそう言って酒を飲んだので、「どういう人ですか……?」と一応聞いてみた。


「だから知らねぇって。デオスが言うには割と影響がある奴らしい。

 そいつが王国を裏切れば、色々な奴が動くんだとよ。

 ま、正面切っては戦えねぇから、裏からチクチクとやる作戦だな。

 正直、あまり気は乗らねぇが、現状じゃそれも仕方がねぇやな」

「なるほど……分かりました。明日の昼ですね」


 その説明に納得し、腰を上げながら確認をする。

 ダナヒは「ああ」と答えを返し、グラスの中身を一気に呷った。


「結構大変だよな。国作りってのは。どうせなら正面からドカンとやりてぇが……」

「少なくとも今は無理ですよ……我慢して、人を集める時です。

 デオスさんも言ってたじゃないですか」

「ああ、分かってるから我慢してんだろ? ちっとは褒めろよ。つれぇんだから。ま、とにかく明日は遅刻すんなよ?」


 子供ですか……と思いつつ、それには「ええ」と言葉を返し、明日の出発に備える為に、部屋を後にして体を休めた。



褒めたら褒めたで「馬鹿にしてんのか?」と言うタイプ

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