魔法の裏技的な活用法
どれくらいの時間が経ったのだろう。
アジトの中の崩落は収まり、ようやく辺りは静かになった。
私は幸いにも生存しており、壁と、岩と、土砂に囲まれた密室のような空間でもたれかかっていた。
背中の痛みはもう引いている。
現在であれば普段のように動き回る事が可能であろう。
「(くっ……狭いな……)」
が、すぐにも気付いたように、そこでは立ち上がる事すら出来ず、僅かの隙間に気付いた後に、思い出したように「おい」と言って見た。
「へーい? 何ですかー?」
現れたのは相棒妖精。その存在に今だけは感謝する。
「そこの隙間から探って来てくれ。分かると思うがゼーヤの安否だ」
それから言うと、妖精は「ハイハイ」と言って動き出した。
「こういう時だけ頼りにすんだよなぁ」
グサリと刺さる。図星だからだ。だが、私は両目を瞑って、それを聞かなかった事にした。
両目を瞑ってしばらくを待つ。
「よぉいしょっと……」
五分程が経っただろうか、やる気の無い声で妖精が戻る。
「うぃーす」
そのすぐ後ろにゼーヤの妖精、バルクが続いていた為に、私は安堵の息を吐くのだ。
相棒妖精が生きていれば、主人の方は必ず生きている。
真実のどこかで手にした情報が、こんな所で活かされるとは。
ちなみに逆ではそうでは無いらしく、妖精が死んでも主人は死なない。
そう考えると気の毒な連中だが、そこを気にしても仕方が無かった。
「ゼーヤはどうした? 気を失っているのか?」
一応聞くと、バルクは「ああ」と言い、「もうちょっとで起きるんじゃね?」と言葉を続けた。
「で、何なんだこれ? どういう状況なんだ?」
それだけ聞けば十分なので、続く質問は完全に無視。
無視されたバルクは「これだよ!」と言い、私の妖精と愚痴を言い合った。
「この前なんか目の前で屁だぜ? あんな顔でもスゴイのすんだから」
「オィィィ!?」
流石にそれには一言を言い、妖精を黙らせる私であった。
ちなみに私はその時寝ており、妖精はなぜか掛布団の上に居た。
その時にたまたましてしまったらしく、起きると奴が悶絶していたのだ。
正直、私も人間であるし、そんな状況には「知るか!」と言いたい。
だが、こいつはそれを根に持ち、こんな所でぶちまけたのである。
「良いじゃん屁なんか。俺なんてアレだぜ? 飛んで来たアレが顔にかかってさー。キッタネーやら臭いやらでさー」
「オイィィィ!!」
もうやめろ! 話すのをやめろ! そう言う事で奴らを黙らせ、心と耳の安全を確保した。
何の話か詳細は不明だが、きっとロクな話ではあるまい。
「レナス様! レナス様ー!!」
そう思っていると、岩の向こうから声が聞こえてきたのである。
間違い無くゼーヤが発したものだ。
それには「ここだ!」と言葉を返すと「お怪我はありませんか!!?」とゼーヤが聞いて来た。
「私は大丈夫だ! そっちはどうだ!?」
「大丈夫です! あっ……妖精が居ないんですけど、別にそんなのどうだって良いです!」
これにはバルクが「ヒデぇ!」と言って、私の妖精が「けけけ」と笑う。
「どの辺りに居ますか? 閉じ込められてんですか?」
ゼーヤが更に続けて来たので、「ああ」と返すと物音が聞こえた。
どうやらあちらは動けるようで、こちらの位置を探しているらしい。
それに気付いた私は岩を、繰り返し剣の柄で「こつこつ」と叩いた。
「ここか? レナス様?」
ゼーヤの声が近くで聞こえる。岩の向こうに居るようだ。
「ああ」
叩くのをやめて言葉を送ると、「うらああ!」と言う気合の声が聞こえた。
おそらく、岩を押しているのか、或いは引いているのであろう。
「ちょっと一言言ってやらにゃ……」
その時にはゼーヤの妖精は、隙間からあちらに移動を始めた。
どうだって良いです。と言われた事に文句を言うつもりだと推測される。
「待ってて下さい! すぐ助けますから! 何とかしてここから抜け出して、ヤールさんに伝えれば……」
「いや、それよりそっちはどうなっている?」
押し引きする事ではこの岩は動かせない。それに下手をすればバランスを崩し、崩落が再び始まるかもしれない。
そう思った私が岩越しに聞くと、ゼーヤは状況を教えてくれた。
「えーっと……岩とか土砂があって……でも割と隙間はあります。
結構デカいのも落ちてますけど、殆どは上にも上れる位です。
出口は……完全に塞がってますね」
どうやら私の周囲以外は、割と隙間が存在するらしい。
出口の方は絶望的のようだが、ここを出られれば何とかなるだろう。
「分かった。少し下がって居てくれ。この岩を壊して脱出する」
それにはゼーヤは「マジッスか!?」と言い、「マジっすかじゃねぇよ!」とバルクが怒った。
「生きてたのかお前?」
「生きてるよ!! 扱いヒデェよ! 俺とお前の仲はそんなモン!?」
どうやら喧嘩を始めたらしいが、その声が少々遠ざかっていたので、確認の為に「下がったか?」と聞く。
「あ、はい、大丈夫っす!!」
ゼーヤが返した言葉を聞いて、狭い空間で体を動かした。
岩を見据えて剣を抜き、二十回ばかりを高速で振る。
それから切れ目が見えたと同時に、体をぶつけて外に飛び出した。
入れ替わるようにして土砂が落下し、今まで居た空間がそれに埋もれる。
「ふぅ……」
その様子を見ながら欠片を払い、私は小さく息を吐いた。
「す、すげぇ……流石はレナス様……俺みたいなザコには真似できねえっす」
「いや、こんな事はいずれ出来るようになる。
それよりも初陣で敵を追い詰めたお前の方が余程に凄い。
自信を持て。少し位はな」
それにはゼーヤは「はい!」と言って、妖精と何かを話し合った。
私はそれに構わず歩き、周囲の様子を少し探った。
「……運が悪かったな」
言葉の対象は仮面の男で、腰から下が潰されていた。
勿論、すでに絶命しており、右手を伸ばしたような形でうつ伏せになって倒れている。
「(悪いが確認はさせて貰う)」
心の中で呟いて、その場に屈んで仮面を外した。
「……この男は」
男の正体は第六だったか、第七だかの王位継承者で、それを目にした私は何となく、反乱分子との取引を察した。
あくまで私の予想であるが、この男は反乱分子と結託し、王、もしくは王位継承者の抹殺を企んだのではないかと思う。
爆薬はその為の道具であり、どこかにこれを仕掛ける気だった。
しかし、その前に発見されて、慌てて逃げようとした訳である。
「何者なんですかそいつ? あ、ちょっとレナス様!?」
ゼーヤを無視して更に調査し、舞い散っていた何枚かの羊皮紙を見つける。
「(やはりか……)」
おそらくメモとして使っていたのか、それには日時や場所が書かれ、殺害対象の名前も記された計画書と言って良いものだった。
他にも契約書や領収書等があり、第六か第七の王位継承者の性格の緻密さが伺えたが、流石に名前は記しておらず、証拠になるかは微妙と言えた。
「何なんですかレナス様!?」
「いや、何でも無い。手分けして出口を探すとしよう」
ゼーヤに向かってそう答え、それらを折って懐にしまう。
それからは二人で出口を探したが、潰れた坑道以外の場所に、外に通じる道は無かった。
「レナス様に掘って貰えよ! さっきのあれを繰り返して貰うんだよ!
十回もすりゃ外に出られんだろ!?」
「アホか! 周りが崩れて終わりだろ!」
相棒妖精の言葉に怒り、ゼーヤが岩の上に飛ぶ。
どうやら少し疲れたらしく、そこに腰かけて天井を眺めた。
私もそれに倣って飛んで、ゼーヤの横で上を見上げる。
「やるとしたらあそこだな……」
と呟くと、「えっ……?」と言ってこちらを見て来た。
岩が落ち、土砂が落ちたなら、その分天井は薄くなっている。
或いは地上に繋げる程の薄さになっているかもしれない。
だが、それを確認するには今は少々時間が早い。
それ故に私は「座って良いか?」と聞き、頷いた事を見てから座った。
「聞いても良いっすか……?」
「ん?」
それは私が座った後の、少ししてからゼーヤの言葉だ。
顔を向けずに私が返すとゼーヤはぽつぽつと話を始めた。
「もし、自分の世界に帰れたら、時間って一体どうなってんすかね?
こっちで過ごした時間がそのまま、元の世界にも乗せられるんすか?
例えばこっちで一年過ごしたら、あっちでも一年経った事になってて、もし十年こっちで過ごしたら、あっちも十年経ってるんですかね!?」
言葉の最後は必死な顔だった。帰れる事を前提としたものだ。
私自身、帰った事が無いので、それには何も言えないのだが、その事自体を話す事は、ゼーヤの為には必要な事だった。
「すまないが答えを持って居ない。
全てを知って居ると言う訳では無いのだ。
その辺りの事は私より、自分の……そう、月に一度の、審判の日に会う相手に聞くと良い」
「そ、そうっすか……すんません……」
答えを返すと、ゼーヤはそう言い、まずは私に謝罪した。
悪くは無いのだ。当然の疑問だ。私だって過去に考えた事はある。
尤も私は誰にも聞かず、自ら答えを見つけたのであるが。
「でもなんか信用出来ないんすよ……
いや、レナス様じゃなくて俺の担当なんすけど……
ていうかまず上から目線が最高にムカつくっていうんですかね?」
そこは実際、上位の存在なので、私には何も言う事は出来ない。
しかし、若干の微笑みを見せると、ゼーヤは笑って話題を変えた。
「俺……元の世界ではチャレグの選手やってたんすよ。
チャレグって言うのは浮遊する三角形の乗り物なんすけど、それに乗って森の中とか、谷の間とかでレースをするんです。
こう見えて結構有名だったんすよ?」
「ほう……」
興味が無いと言う訳では無く、相槌の意味で一言を言う。
聞いたゼーヤは「信じて無いっすね?!」と、少々不満げな表情だったが、私が「いや」と一応言うと、気を取り直して続きを話した。
「……で、あるレースで優勝したんですけど、二位の奴が言ってきたんすよ。「負けたのは腕のせいじゃなくて、チャレグの性能の差だ」ってね。
流石にちょっと頭に来たんで、一対一で勝負をしたんです。
勿論、チャレグは交換して、俺はそいつのを使いました。
最後のコースまでは良かったんですけどね……
そいつのチャレグ、壊れちまって、気付いたら「あんたは死にましたよ」って、ホント、馬鹿みたいな話ですよ……」
ゼーヤが言って笑うので、私も「そうだな」と返して微笑んだ。
馬鹿みたいな話。私もそうだ。そんな話の末に今ここに居る。
「ちょっ、酷いっすよレナス様!」
「いや、私も似たようなものだ。馬鹿にした訳じゃない。誤解するな」
直後にはゼーヤがむくれて見せたので、そう言って誤解を解いておいた。
「はぁ……」
納得したのかゼーヤは黙り、暫くの間は下を眺める。
「れ、レナス様は何をしてたんですか?」
黙っているのが苦手なのか、それから私に質問して来た。
舞台を鑑賞している際にもこいつはきっと黙ってないだろう。
そう思って少々笑い、「興味があるのか?」と逆に聞いてみた。
「そ、それはもう! あるっす! ありまくるっす!」
「……変わった奴だな」
それには息を吐き、そう返す。
「私は騎士だ。今も昔も。そういう家柄に生を受けた。
そして死んで、ここに来た。ただ、それだけの話だな」
続けて言うと、ゼーヤは「そ、そうですか……」と言い、再び下を見つめたのである。
そこからもぽつぽつと会話を続け、やがて朝となる時間が訪れる。
その頃にはゼーヤは眠っていたので、私は立って頭上を見つめた。
「見えた……」
岩盤の隙間から僅かだが、太陽の光を見る事が出来た。
高さとしては三十m程。
マジェスティにやれない高さでは無い。
「起きろ、ゼーヤ。脱出するぞ」
顔を向けてゼーヤに言って、右手を貸して立ち上がらせる。
「あそこを砕いて脱出する。私が飛んだ直後に続け」
それから頭上の一点を指し、ゼーヤの横顔に顔を向けた。
「わ、分かりました! 俺はレナス様について行きます!」
「そうか。ならばしっかりとついて来い。私はそうそう振り向かないからな」
そう言った後に剣を抜き、頭上に向かって魔法を撃った。
直後に落ちて来る巨大な岩盤。
「てやあああああっ!!!」
飛び上がる事でそれを斬り、分かれた岩に足を乗せる。
ゼーヤが別の岩に乗った事を見て、次の目標に魔法を放った。
バランスの均衡を失った為だろう、アジトの中の再崩落が始まる。
「落ちるなよゼーヤ!!」
「はいぃぃ!!」
その様子を眼下に見ながら、私とゼーヤは次々に飛んだ。
「これが最後だ!!」
最後の岩盤に魔法をぶつけ、それがえぐれて接近してくる。
「せやああっ!!」
気合の声でそれを斬り退け、土砂を払って岩に飛び乗った。
それから更に跳躍し、穴から飛び出て風を感じる。
遠くに見える眩しい太陽。眼下には山々が広がっている。
私はそれらを目に入れながら、髪をなびかせて斜面に着地した。
「うおったった!!」
少し遅れてゼーヤも着地。
斜面で危うく転げかけたが、粘った後にそれに耐えきった。
直後に穴から煙が上がり、空洞が完全に埋まった事を知る。
「そうだ。全く関係ないが、お前に便利な事を教えてやろう」
それを見てからそう言うと、ゼーヤは「は?」と両目を細めた。
「魔法の裏技的な活用法だ。お前は暖かい湯に浸かるのは好きか?」
心が少しだけ開いた証。私自身はそう推測する。
しかしながら脈絡が無い為か。
「はぁ……」と言う、困惑した顔のゼーヤに気付き、私は小さな笑い声を発した。
一般的には湯浴みは手間なので、濡れた布等で拭いて終了です。
つまりゼーヤは教えられても…




