ゼーヤの初陣
ジェイ〇ムネットのメンテの影響でいつもの時間にアゲられませんでした。
遅れてしまってすみませんです……
反乱分子達の居場所が分かったのは、それから五日が経った後の事だった。
報告して来たのは副官のヤールで、椅子に座った私がそれを聞く。
「潜伏場所はワーズ鉱山です。
今は廃鉱になってますので、近付く人間は殆ど居ません。
それと、まだ、未確認なんですが、どうも黒幕はこの国の貴族の誰かさんらしいですね。
あ、残念ながらドーラス卿では無いです。念の為にご報告を」
「そうか。相手の数は分かるか?」
それは残念、と言いたい所だが、流石の私でもそこまでは思わない。
奴は卑劣だが、忠誠心はある。能力も高いと言って良いだろう。
だが、一方で世間の蔑みや非難に耐え抜くだけの度胸は持たない。
奥方達が小声で話し、顔を見るなり逃げただけで、奴はきっと数日中に胃を痛めて医者に駆け込むはずだ。
我ながら良く観察しているが、嫌うが故の観察である。
ならば気にするな、と言う話になるのだが、人は自然に気にする物なのだ。
ある意味でドーラスを信じた上で、質問の答えを黙って待ってみる。
すると、ヤールは報告書を見ながら、私の質問の答えを返した。
「えー……おおよそですが五十人前後かと。どうします? おびき出しますか?」
それから続けて聞いて来たので、「いや」とすぐに言葉を返す。
「ここからの事は二名以下で行う。後々の為にもここは厳守したい」
「分かりました。「実行は」命令書通りに二名ですね」
命令自体は遵守しないと、後で何を言われるか分からない。
そこには「そうだ」と言葉を返し、私は椅子から立ち上がった。
「ゼーヤを正門に。出撃だと伝えてくれ」
「了解!」
それから言って、隣室に行き、鎧を纏って剣を呼ぶ。
そして、それを腰に佩いてから、王宮の正門でゼーヤを待った。
「す、すみませんレナス様! 遅れました!!」
三十分位待っただろうか。慌てた顔でゼーヤが出て来る。
「いや、今来たばかりだ」
と、嘘を言うと「そうっすか! 良かったっす!」と、ゼーヤは微笑んだ。
「(単純な男だ……悪い奴では無いが……)」
そんな事を思った後に、小さく笑って歩き出す。
もしも恋人なら最初は許すが、毎回だったら張り手物だ。
「い、い、い、い、い、いよいよっすね!!?」
どうにも固い表情である。思えばゼーヤは初陣だったか。
思い出したが為に立ち止まり、「いつも通りにやれ」と声をかけた。
「そうだゼーヤ! いつも通りだ! レナス様ハァハァ! レナス様ハァハァだ!」
これはゼーヤの相棒妖精のバルクが発した言葉であった。
聞いた私も、ゼーヤ本人も、それには揃って「はぁ!?」と言う。
「はぁ!? って、お前いつもヤってんじゃん? 寝る前にズボンとパンツ脱いで……」
「わぁあああああああ!? なんでもねえっす! なんでもねえええっすううう!!」
バルクが答え、ゼーヤが叫ぶ。
それには何だか微妙な気持ちになり、私はひたすらに視線を泳がせた。
相手は思春期の少年である。そういう事もそれはするだろう。
だが、それの……何というか……
あれに……されているというのは、正直、複雑な気分と言える。
「あー……私は何も聞かなかった……と、いう事にしておく……から、な……?」
「ぁ……はぃ……」
最終的にはそう言って、ゼーヤから小さな返事を貰う。
微妙な気まずさを咳をして吹き飛ばし、私は再び歩き出した。
「(テメーこのぶっ殺すぞクソ妖精が! とんでもねーこと言ってんじゃねー!)」
そんな声がうっすら聞こえる。相棒妖精は「サーセンッした」と軽い。
何はともあれ普段通りになり、それで良しとして目的地に向かった。
到着したのはそれから半日後。廃鉱山の前には報告通りに、不釣合いな姿の男達が立っていた。
国の兵士、或いは用心棒。そんな風体の男達で、木陰の私とゼーヤに気付かず、入口の前で談笑している。
時刻としてはそろそろ夕方か。夜の方がこちらに有利だ。
それ故に木陰に潜んだままで、陽が沈むまでを待つ事にした。
「そういえばお前は暗視は取っているか?」
それにはゼーヤが「はい」と言うので、照明無しでの突入を決める。
数では不利だが状況では有利。この程度の事で死ぬようならば、ゼーヤには悪いがそれまでの男だろう。
一時間程が過ぎただろうか。辺りがようやく闇に包まれる。
「よし! 行くぞ! 私から離れるな!」
「は、はい!!」
林の奥からフクロウの鳴き声が聞こえ出した頃、私はゼーヤに声をかけて、武器を呼び出してアジトに乗り込んだ。
突入してから数分が経ち、私達は五本の分岐路がある、ひとつの空洞に辿り着いていた。
敢えて見張りを逃したお蔭で、敵はあちらから姿を現し、ここに至るまでに六人を殺害、もしくは失神させていた。
「大丈夫か?」
聞くと、ゼーヤは「はい……」とは言ったが、初めての戦いに体を震わせ、おそらく人を殺した事に、顔色をかなり曇らせていた。
「……慣れろとは言わないが覚悟は決めろ。私達の仕事とはこういうものだ。
強くなればなるほどに人の命を奪う事になる。
それが嫌なら今すぐ引き返し、この世界で生きていく道を選べ」
それにはゼーヤは何も言わず、右腕の肩辺りで汗を拭う。
しかし、構えを解いてはいないので、理解はしたのだと私は感じた。
元の世界に帰る為。原動力はそれであろうが、強烈な動機である事には違いなく、修正の必要は感じなかった。
「侵入者が居たぞ!!」
「こっちだ! 来てくれ!!」
直後に眼前の分岐路から、新たに二人が姿を現した。
松明の灯りがある為だろう、こちらの場所にすぐに気付く。
「囲め囲めー!!」
「一気にねじ伏せろ!」
すぐにもそれは七人となり、私達を囲んで襲い掛かって来る。
ひと振りで二人を。ふた振りで三人を倒した時、相手の一人が「無理だ!!」と叫ぶ。
「おりゃああっ!!」
そこを突いてゼーヤが攻撃し、立て続けに残りの二人を倒した。
「ま、参った! 殺さないでくれ! 俺は食い物に釣られただけなんだ!
ヨゼル王国に恨みなんてねぇんだよ!」
倒した相手の一人が言って、剣を振り上げたゼーヤを見上げる。
「リーダーはどこだ? 命を助ける交換条件だ」
流石に斬りはしなかっただろうが、間に割り込んで私が聞いた。
ゼーヤは背後で剣を下げ、荒い呼吸を繰り返す。
「あ、あそこの奥だ! 多分、あんた達を待ち構えていると思う……
嘘は言ってねぇ! 本当だ!!」
「分かった。二度目は無いぞ。覚えて置け」
そう言うと、男は「すまねぇ!」と言い、アジトの外へと逃げて行った。
「……良いんすか?」
下っ端を斬っても仕方が無いし、ああ言った男は単独では何も出来ない。
ゼーヤの質問には「ああ」と返し、坑道の一本を選んで進んだ。
場所としては左から二番目にあたる坑道である。
襲撃はそこでぱたりと途絶え、私達は坑道を静かに進む。
やがて、辿り着いた最深部では、残りの敵が待ち構えていた。
その数はおおよそで四十人程。
十人ばかりがボウガンを構え、剣を持った者達が後列でそれを見守っている。
「止まれ!!」
と、誰かが警告してきたので、状況を知る為に足を止めた。
待ち伏せされていた事。それ自体には私は何も感じて居ない。
事前に聞かされて知っていたし、いざとなればこのような状況は、どうにでもする事が出来るからだ。
しかし、ゼーヤは相当に焦り、脂汗を流して相手を凝視。
剣を強く握りすぎる様には、私が若干の痛みすら感じた。
「(少し落ち着け。私を信じろ)」
それだけ言って視線を動かす。状況を良く知る為である。
ボウガン持ちは十一人で、剣を持つ者は二十八人。
一人だけ武器を持たない者が居るが、仮面を付けていて顔は分からない。
だが、どうやら焦っているようで、隣の男に耳打ちした後に、顔を背けて集団から離れた。
「(あれは何だ……?)」
方向的には左前方。
そこには大量の箱が見え、積まれるようにして置かれてあった。
しかし、それが何かを察するより早く、奴らの一人が口を開いた。
「久しぶりだな、レーヌ・レナス。
いや、鮮烈の青と言った方が、俺達の復讐心は煽られるな」
おそらく彼らのリーダーなのだろう、一人の男が「へへへ」と笑うが、生憎、記憶には無い男だったので、私はそれを完全に無視した。
「ゼーヤ。おそらく奴がリーダーだ。やれるか?」
「え? じ、自分っすか!? レナス様がやらないんすか……!?」
「お前が出来ないなら私がやろう。やれるのならばお前に任す。
その際は雑魚は私が引き受ける」
その言葉にはゼーヤは悩み、リーダーらしき男が「おい……!?」と言った。
それをも無視して待って居ると、ゼーヤは「やります……」と一言を言い、「やらせてください!」と言葉を変えて、覚悟の表情で私を見たのだ。
「ならば見せて見ろ! 訓練の成果を!」
「はい!!」
言葉の直後に魔法を放ち、奴らの眼前に氷塊を生み出す。
「うわぁあ!? なんだぁ!!?」
「う、撃て撃て!!」
慌てた相手が矢を放ったが、それらは全て氷塊に阻まれ、私とゼーヤはその隙に飛び、相手の前に着地した。
そして、散る前に敵を一閃。
ボウガンを持っていた相手は全滅し、後列に立っていた男達が、慌てた様子で武器を構える。
「遅い!!」
それらを飛ばし、または薙ぎ倒し、ゼーヤの行く道を確保する。
「ウォォォォォォ!!」
ゼーヤ自身も数人を倒し、一気にリーダーに向かって行った。
「く、くそお! やっぱりこいつはバケモノだ!!」
「勝てる訳がねぇ!!」
自棄になった者達を斬り、逃げ出した者の背中を見送る。
「ひ、ヒィィィ……!!」
その中に仮面の男を見つけ、それは逃すまいと前に飛び出した。
「ち、違う! 私は違うんだ! たまたま奴らに捕まって……!!」
「少し寝て居ろ」
手刀を入れて男を黙らせ、斬りかかって来た敵を倒す。
その隙にゼーヤの方を見ると、決着はすでにつきつつあった。
見る限りではゼーヤが優勢。
狼狽した様子の相手は下がり、少しずつ壁に押し込まれつつある。
そこに安心した私は動き、残っていた敵を一気に片付けた。
「ウワァ!!?」
ゼーヤが相手の武器を弾いた。
弾かれた相手は周囲を見回し、手近にあった松明を取る。
そして、それを足掻きで振って、「へへへ……」と笑いながら箱へと近付いた。
「終わりだ……どうせ捕まっても終わりだ……!
なら、なら、お前らも道連れだァァ!!」
何かがマズい。
そう思った時には、そいつは松明を箱に入れていた。
激しい爆発は直後に起こり、男の体を即座に飲み込む。
「ゼーヤ!!」
ゼーヤの体も爆発に巻き込まれ、私自身も爆風に飛ばされた。
「がっ……!?」
背中を強打し、片目を瞑る。
アジトの中が揺れ始め、崩落が始まったのはその時の事。
私の苦痛の表情は、降り注いで来る大量の土砂と、巨大な岩の間に消えた。
バッドエンドルート その2
「ゼーヤに任せてしまったが故に……」




