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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
三章 ゲンナマを求めて
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宝物庫に仕掛けられた罠

日曜ですがイッてしまいます!

ストックにまだ余裕があるので…

 財宝の洞窟の内部は暗く、また、横幅も非常に狭かった。

 と言っても二人は並べるようなので、三m位はあるのかもしれない。

 俺とスラッシュは横並びに歩き、二十歩程進んだ場所で扉を見つける。

 色は灰色で、さび付きが目立つ。よくよく見れば地面には扉が開かれた形跡が伺えた。

 割と最近の事のようだが、果たして中は大丈夫なのか。

 そう思って見るとスラッシュは頷き、左手にあるレバーを下へと下げた。


 正面に見える扉が開き、代わりに背後の扉が閉まる。

 どうやら連動しているようで、どちらかの扉しか開かない仕組みらしい。

 地面の砂を僅かに避けつつ、形跡に沿って扉が開く。

 その先に見えたのは四角い部屋で、広さとしては五㎡程。

 見事なまでに何も無い、普通に見れば薄暗い部屋だった。


「やはりここは回収済みか。まぁ、予想はしていたがね」


 スラッシュが言って中へと入る。回収済み、という事はここにも何かがあったのだろうか。

 疑問に思って「ここは?」と聞くと、スラッシュはまずは「ああ」と言った。


「財宝だよ。ここにも置いてあったんだ」

「えっ!?」


 それには驚き、声を上げると「いや、大丈夫」とスラッシュは笑う。


「ここに置いて居たのは言わば囮。本命から目を逸らす為の物さ」


 それから歩き、部屋の左に向かい、壁の一部を「ぐっ」と押したのだ。

 直後にそこが「ずずず……」と窪み、スラッシュの右手の壁がズレる。

 その先に見えたのは下へと続く、所謂隠し階段だった。

 この部屋を囮と言うのであれば、そこから先が言わば本命。

 もし、そちらもスッカラカンなら、スラッシュも流石に鼻水を吹くだろう。


「フッヒョウ! スゴォーイ!」

「ぎゃっ?!」


 これはユートで、甲高い声ゆえに、俺の耳が少々やられる。


「響くんだから急にデカい声を出すなよ……!」

「エヘヘ……ゴミンゴミン……」

「気をつけろよ……」


 一応叱ると、素直に謝ったので、それで良しとして顔を戻す。


「……」

「あ……」


 気付くとスラッシュがこちらを見ており、細い目をして引いていた。

 言いはしないが、「また妄想かい?」と、呆れているような顔にも見える。


「ご、ゴホン……!!」


 そこには気まずさからひとつ咳をつき、「そっちは大丈夫ですかね?」と話を振って見た。


「まぁ、多分ね」


 答えは一言。呆れられている。言われたばかりなのにやらかしたからか? スラッシュはそれから振り向く事無く、現れた階段を下りて行った。

 まさに泥沼。正常に見られるにはユートの存在を無視するしか無い。

 或いはもっと小さな声で、聞こえないように話すのもありだが、それはそれで見られたら余計に危ない奴だと思われるだろう。


「なんかもうどうしようもないな……」

「良いじゃん? 別に変人扱いでも。そう思われた方が楽な事が沢山あるってカレルさんは言ってたよ」

「そ、そうなんだ」


 そこは流石の三十五才。達観している考え方だ。

 だが、まだまだそこには至れない俺は、どうにかして誤解を解く事を考えて、スラッシュの後を追うのであった。 


 現れた階段の横幅は先程より狭くて二m程。

 高さもそれと同様で、俺の身長でも背伸びをすれば頭が付く。

 そんな状態で二十段程を下りると、階段が終わって扉が見えた。

 扉の前にはスラッシュが立って居て、右後ろには台座も見える。

 俺達の姿に気付いたスラッシュは、右手を懐の中へと入れた。


「おっと……」


 が、何かを取り出す際に、手を滑らせて石畳に落とし、落ちたそれが「キーン」と鳴って、俺は一瞬、顔を顰めた。

 例えるなら金貨が落ちるような音だ。


「悪いね、手を滑らせた」


 スラッシュが謝罪して右手を伸ばす。

 どうやら本当に金貨だったようで、どういう訳かスラッシュは、なかなかそれを拾えないようだった。


「あれ……おかしいな……」


 そう言いながら体を揺らし、不安定な様で金貨を拾い、それから俺達に背中を向けて、拾った金貨を台座に置いた。


「いかんな……眠くなって来た……」

「は!?」


 謎の言葉に俺が驚く。夜はまだまだ先のはずだ。

 見ると、耳が若干赤い。おそらく酔いが回って来たのだろう。

 そして、ついには眠くなってきて、スラッシュは金貨を拾えなかったのだ。

 あんなに飲むから……

 なんて言えないので、呆れた顔でスラッシュを見る。

 駄目亭主を見る妻の気持ちとは、おそらくこれに近い物だと思う。


「おぉー」


 そんな中で扉が開き、ユートが遠慮がちに小さく喜ぶ。


「王女から預かった王家の金貨さ。コレが無ければ開けられない。

 さ、ここが目的地だ。すぐに閉まるから急いでくれ」


 金貨を見せたスラッシュが、それをしまって中へと入り、聞いた俺とユートが急ぎ、後ろに続いて中へと入った。

 入った途端に扉は閉まり、空間には「ばっ」と明かりが灯る。

 例えるならそこは玉座の間のようで、玉座があるべき場所辺りには、ひとつの台と宝箱が見えた。


「うん? 何だったかな……」


 直後のスラッシュの言葉がそれだ。酔いのせいだろうが不安すぎる。

 例えば「ダイジョーブ」と言われたとしても、頭上等には気を付けたい所だ。


「ちょ、ちょっとしっかりして下さいよ……?」

「ああ、大丈夫……あれだあれ。宝箱の中にあれがあるんだ……」


 一応言うと、寝ぼけ眼のスラッシュが言い、俺は余計に不安になった。

 スラッシュは「ダイジョーブ」を繰り返しながら、蛇行した歩みで宝箱へと近付く。


「ヒジリ君こっち。こっちだよー」

「(段々キャラが崩壊してきた……)」


 そして、ついにはキャラを崩壊して、なぜかの笑顔で俺を呼ぶのだ。

 危険に思うが無視は出来ず、俺とユートもそちらに向かう。


「さぁ、ようやくのご対面だ」


 それから宝箱を開ける様を見守り、中から取り出される石板を目にした。

 その数およそ三十枚。

 取り出した石板は積まれて置かれ、「うーん……」と唸ったスラッシュが、宝箱を払うようにして台から退かせた。


「あ! なんかある!」


 とは、ユートの言葉で、宝箱の下には正方形の少々窪んだ何かが見えた。

 例えるならジグソーパズルの基礎か。先程の石板をハメるのかもしれない。


「ここにね、石板をハメて行くんだ。

 パコパコパコンと九枚ね……

 残りは全部ダミーだから、それを入れたら怒られちゃうよ?

 そうなったらエライ事になっちゃうからね。

 ホント、そこは気をつけようね……?」

「(駄目だ……もう完璧に酔ってる……)」


 予測は合って居た。しかしスラッシュの今のこの様は予測が出来なかった。

 こうなるとただの酔っぱらいだが、答えを知る(だろう)のはスラッシュ一人。

 マズイなと思ったがまずは頷き、「ヒントはあるんですよね?」と聞いてみた。

 しかし、スラッシュは「うにゃうにゃ」言って、まともな言葉を返さなかったのだ。


「(最悪だ……肝心な時にこれは無いわ……)」


 そう思いながらに近付いて、スラッシュの体をまさぐって見る。

 そうする理由はレイラから、何かヒントになるようなものを、預かって居ないかと思ったからだ。


「なぁにをするんだ!! 君は男に興味があるのくわぁ!!」

「ち、違いますよ! 何かヒントになるものをですね……!」


 が、それは目前で拒否され、まさかの言いがかりに必死で抗議する。


「けしからんよ君はぁ! 寄らんでくれたまえ! もう良い! 私が一人でやるから!」


 だが、それは酔っぱらいには通じず、スラッシュはそう言って石板を手に取った。

 やると言うなら止めはしないが、何やら凄い勢いである。


「ちょ、ちょっと大丈夫ですか? なんかすごい勢いですけど!?」


 それは適当とも取れる物なので、心配して俺は叫ぶのである。

 

「よし、出来た! これもうカンペキ!」


 果たして三十秒が経ったかどうか。

 九枚の石板をはめ込んだスラッシュが、自慢げな表情で俺を見て来た。


「本当に大丈夫ですか……?」


 怪しみながらに覗き込み、完成した図を目の当たりにする。


「ちょっ!?」


 そこに描かれていた物が、(´・ω・`) だった為に俺は驚愕し、「絶対この人わざとやったろ!?」と、睨むような目でスラッシュを見るのだ。


 直後に「ガコン!」と音が鳴り、俺達の前後の壁が裏返る。

 そこには全身が青色の鎧騎士が、大剣を掲げて立ち尽くしていた。


「もうね。嫌な予感がバッキンバッキン」

「偶然だな。俺もだよ……」


 ユートが言って俺が言う。ここまで意見が合うのは初めてだ。

 二体の鎧騎士はすぐにも動き出し、大剣を両手に襲い掛かって来たのである。


「やっぱりか!」


 右手を突き出して武器を想像。

 初めての次元セキュアは問題なく作動し、購入した槍が手の中に収まった。


「頑張ってー!」


 と、ユートが飛んで、俺は背後の敵へと向かった。





「なっ!?」


 俺の戦意は一撃で砕かれた。

 攻撃を喰らった訳では無く、攻撃をした事によって砕かれたのだ。

 槍の切っ先は敵を捉えたが、直後に槍はそこから粉砕。

 カウンターで放たれた切り払いを避け、砕けた槍の先端を見つめた。


「駄目なんだヒジリ君! こいつらには攻撃は通用しないんだ!

 なんでも遙か昔に採れていたルーコウ石から作られてるとか!!

 だからこいつらが出て来た時点で! おっとォ!? 私達の負けは決まった訳だァ! ハッハー!」


 それは背後からのスラッシュの声だった。

 酔ってはいるが一応戦い、その最中にアドバイスをくれたようだ。


「それは分かったけどテンションが変でしょ!?」


 思わず言うと、「ハハハ!」と笑い、「あー眠い……」と素でボヤく。


「ちょっと危ないですよ!?」


 注意をすると、「んあ?」と言い、酔拳のような動きでかわした。


「凄いな……」


 ある意味ではそれは神業レベル。喰らえばまず即死の為に、映画なんかより見応えはある。

 ある意味で尊敬して眺めていると、「ヒジリ後ろー!!!」と、ユートが叫んだ。


「分かってる!」


 振り返らずに気配を察し、その場に屈んでそれをかわす。

 すかさず大剣が頭上を通り、横への転がり様に脇腹を突いてみた。


「ってぇ……!!」


 が、相手へのダメージは無く、こちらの右手が痺れただけだ。


「くそっ!」


 それを見た敵が剣を振り上げ、俺は飛び退いてそれをかわした。


「ならこれはどうだ!!」


 次に試みたのは炎の魔法。

 足元から一気に敵を燃やし、「やったか?!」とフラグのような言葉を吐いた。


「やっぱ駄目か!!」


 やはりはそれも敵には通じず、炎を纏ったままでこちらに接近。

 やがては炎は頭の先端で、輪になるようにして掻き消えた。


「魔法も攻撃も通じないんじゃ、どうやって倒せって言うんですか!?

 それとも一旦引きますか!?」


 スラッシュに聞くも、返って来たのは「扉が閉まってる~♪」と言うもの。

 酔っているせいかテンションは変だが、回避力自体は侮れないものがある。


「(こうなったらもうコレしかないか……?)」


 拳を見つめそう思う。漢の最後の武器である。


「いや、無理無理! 槍が砕かれたんだし!」


 が、直後には冷静になり、敵の攻撃を飛び退いてかわした。

 この時もしもダナヒが居たら、「行けヒジリ!」と言った事だろう。

 居なくて良かった、と、心底思い、着地した後に顔を上げる。


「しまった!」


 敵の標的が変わってしまった。俺が距離を取った為だ。

 今はスラッシュの方へと向かい、背後から着実に接近していた。


「くっ!」


 ダメ元で魔法を放ってみるが、敵はこちらに向かって来ない。

 炎を纏った敵は進み、スラッシュの背後で剣を振り上げる。


「くそっ!!! 間に合ええええ!!」


 急いで走り、空中に飛び、そこから俺は飛び蹴りを繰り出した。

 ギリギリの所でそれは間に合い、蹴りは敵の頭に炸裂。

 僅かに敵がぐらついた直後に、その敵の脇腹に味方の剣がめり込んだ。


 回転した後に床に降りると、脇腹から敵が崩れるのが見えた。

 攻撃したのは味方の青騎士。

 それはスラッシュを狙ったものだが、かわされた為に味方に当たり、一方の相手もぐらついていた為に、それに対応する事が出来なかったのだ。

 事前に図った訳では無いが、最高のタイミングで仕掛けたと言える。


 攻撃した方の剣も砕け、された相手も脇腹から崩れる。

 唯一の武器は崩れ去った奴が遺した材質不明の剣だけだった。


「よし!!」


 選択肢はもはやたったのひとつ。

 その剣を奪って攻撃する事だけ。

 相手もそこまでは頭が回らないのか、素手でスラッシュを攻撃し、俺に構ってくる事は無い。


「おっも!!!」


 重さはおそらく三百キロ程か、なんとか抱えて振りかぶる。


「スラッシュさん! 退けて下さい!!」


 それからスラッシュに声をかけ、両手を支えに狙いをつけた。


「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」


 そして、スラッシュがズレた瞬間、敵に目がけてそれを発射。

 剣は勢いよく水平に飛び、敵に当たって相殺して砕けた。


「なんか、こういう話聞いた事あるな……

 矛盾とか言う話だったっけ? ま、何にしても…」


 倒せて良かった。

 最後の部分は口には出さず、俺は大きく息を吐く。

 もし、武器までが砕けて居たら――

 奴らを倒す手段は無かった。

 そうなると俺達はきっとここで、誰にも知られずに白骨化しただろう。


「あー! スラッシュさんがー!!」


 ユートが叫び、飛んで行く。

 見るとスラッシュが倒れており、まさかの事に目を見開いた。


「……寝てる」


 が、続く言葉で額を押さえ、両目を瞑って思うのである。

「もうホント、一人で来た方が良かった……」と。


大概の場合、

酔ってやった事だから(笑)

と、悪びれも無く笑って終わらされます。

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