宝物庫に仕掛けられた罠
日曜ですがイッてしまいます!
ストックにまだ余裕があるので…
財宝の洞窟の内部は暗く、また、横幅も非常に狭かった。
と言っても二人は並べるようなので、三m位はあるのかもしれない。
俺とスラッシュは横並びに歩き、二十歩程進んだ場所で扉を見つける。
色は灰色で、さび付きが目立つ。よくよく見れば地面には扉が開かれた形跡が伺えた。
割と最近の事のようだが、果たして中は大丈夫なのか。
そう思って見るとスラッシュは頷き、左手にあるレバーを下へと下げた。
正面に見える扉が開き、代わりに背後の扉が閉まる。
どうやら連動しているようで、どちらかの扉しか開かない仕組みらしい。
地面の砂を僅かに避けつつ、形跡に沿って扉が開く。
その先に見えたのは四角い部屋で、広さとしては五㎡程。
見事なまでに何も無い、普通に見れば薄暗い部屋だった。
「やはりここは回収済みか。まぁ、予想はしていたがね」
スラッシュが言って中へと入る。回収済み、という事はここにも何かがあったのだろうか。
疑問に思って「ここは?」と聞くと、スラッシュはまずは「ああ」と言った。
「財宝だよ。ここにも置いてあったんだ」
「えっ!?」
それには驚き、声を上げると「いや、大丈夫」とスラッシュは笑う。
「ここに置いて居たのは言わば囮。本命から目を逸らす為の物さ」
それから歩き、部屋の左に向かい、壁の一部を「ぐっ」と押したのだ。
直後にそこが「ずずず……」と窪み、スラッシュの右手の壁がズレる。
その先に見えたのは下へと続く、所謂隠し階段だった。
この部屋を囮と言うのであれば、そこから先が言わば本命。
もし、そちらもスッカラカンなら、スラッシュも流石に鼻水を吹くだろう。
「フッヒョウ! スゴォーイ!」
「ぎゃっ?!」
これはユートで、甲高い声ゆえに、俺の耳が少々やられる。
「響くんだから急にデカい声を出すなよ……!」
「エヘヘ……ゴミンゴミン……」
「気をつけろよ……」
一応叱ると、素直に謝ったので、それで良しとして顔を戻す。
「……」
「あ……」
気付くとスラッシュがこちらを見ており、細い目をして引いていた。
言いはしないが、「また妄想かい?」と、呆れているような顔にも見える。
「ご、ゴホン……!!」
そこには気まずさからひとつ咳をつき、「そっちは大丈夫ですかね?」と話を振って見た。
「まぁ、多分ね」
答えは一言。呆れられている。言われたばかりなのにやらかしたからか? スラッシュはそれから振り向く事無く、現れた階段を下りて行った。
まさに泥沼。正常に見られるにはユートの存在を無視するしか無い。
或いはもっと小さな声で、聞こえないように話すのもありだが、それはそれで見られたら余計に危ない奴だと思われるだろう。
「なんかもうどうしようもないな……」
「良いじゃん? 別に変人扱いでも。そう思われた方が楽な事が沢山あるってカレルさんは言ってたよ」
「そ、そうなんだ」
そこは流石の三十五才。達観している考え方だ。
だが、まだまだそこには至れない俺は、どうにかして誤解を解く事を考えて、スラッシュの後を追うのであった。
現れた階段の横幅は先程より狭くて二m程。
高さもそれと同様で、俺の身長でも背伸びをすれば頭が付く。
そんな状態で二十段程を下りると、階段が終わって扉が見えた。
扉の前にはスラッシュが立って居て、右後ろには台座も見える。
俺達の姿に気付いたスラッシュは、右手を懐の中へと入れた。
「おっと……」
が、何かを取り出す際に、手を滑らせて石畳に落とし、落ちたそれが「キーン」と鳴って、俺は一瞬、顔を顰めた。
例えるなら金貨が落ちるような音だ。
「悪いね、手を滑らせた」
スラッシュが謝罪して右手を伸ばす。
どうやら本当に金貨だったようで、どういう訳かスラッシュは、なかなかそれを拾えないようだった。
「あれ……おかしいな……」
そう言いながら体を揺らし、不安定な様で金貨を拾い、それから俺達に背中を向けて、拾った金貨を台座に置いた。
「いかんな……眠くなって来た……」
「は!?」
謎の言葉に俺が驚く。夜はまだまだ先のはずだ。
見ると、耳が若干赤い。おそらく酔いが回って来たのだろう。
そして、ついには眠くなってきて、スラッシュは金貨を拾えなかったのだ。
あんなに飲むから……
なんて言えないので、呆れた顔でスラッシュを見る。
駄目亭主を見る妻の気持ちとは、おそらくこれに近い物だと思う。
「おぉー」
そんな中で扉が開き、ユートが遠慮がちに小さく喜ぶ。
「王女から預かった王家の金貨さ。コレが無ければ開けられない。
さ、ここが目的地だ。すぐに閉まるから急いでくれ」
金貨を見せたスラッシュが、それをしまって中へと入り、聞いた俺とユートが急ぎ、後ろに続いて中へと入った。
入った途端に扉は閉まり、空間には「ばっ」と明かりが灯る。
例えるならそこは玉座の間のようで、玉座があるべき場所辺りには、ひとつの台と宝箱が見えた。
「うん? 何だったかな……」
直後のスラッシュの言葉がそれだ。酔いのせいだろうが不安すぎる。
例えば「ダイジョーブ」と言われたとしても、頭上等には気を付けたい所だ。
「ちょ、ちょっとしっかりして下さいよ……?」
「ああ、大丈夫……あれだあれ。宝箱の中にあれがあるんだ……」
一応言うと、寝ぼけ眼のスラッシュが言い、俺は余計に不安になった。
スラッシュは「ダイジョーブ」を繰り返しながら、蛇行した歩みで宝箱へと近付く。
「ヒジリ君こっち。こっちだよー」
「(段々キャラが崩壊してきた……)」
そして、ついにはキャラを崩壊して、なぜかの笑顔で俺を呼ぶのだ。
危険に思うが無視は出来ず、俺とユートもそちらに向かう。
「さぁ、ようやくのご対面だ」
それから宝箱を開ける様を見守り、中から取り出される石板を目にした。
その数およそ三十枚。
取り出した石板は積まれて置かれ、「うーん……」と唸ったスラッシュが、宝箱を払うようにして台から退かせた。
「あ! なんかある!」
とは、ユートの言葉で、宝箱の下には正方形の少々窪んだ何かが見えた。
例えるならジグソーパズルの基礎か。先程の石板をハメるのかもしれない。
「ここにね、石板をハメて行くんだ。
パコパコパコンと九枚ね……
残りは全部ダミーだから、それを入れたら怒られちゃうよ?
そうなったらエライ事になっちゃうからね。
ホント、そこは気をつけようね……?」
「(駄目だ……もう完璧に酔ってる……)」
予測は合って居た。しかしスラッシュの今のこの様は予測が出来なかった。
こうなるとただの酔っぱらいだが、答えを知る(だろう)のはスラッシュ一人。
マズイなと思ったがまずは頷き、「ヒントはあるんですよね?」と聞いてみた。
しかし、スラッシュは「うにゃうにゃ」言って、まともな言葉を返さなかったのだ。
「(最悪だ……肝心な時にこれは無いわ……)」
そう思いながらに近付いて、スラッシュの体をまさぐって見る。
そうする理由はレイラから、何かヒントになるようなものを、預かって居ないかと思ったからだ。
「なぁにをするんだ!! 君は男に興味があるのくわぁ!!」
「ち、違いますよ! 何かヒントになるものをですね……!」
が、それは目前で拒否され、まさかの言いがかりに必死で抗議する。
「けしからんよ君はぁ! 寄らんでくれたまえ! もう良い! 私が一人でやるから!」
だが、それは酔っぱらいには通じず、スラッシュはそう言って石板を手に取った。
やると言うなら止めはしないが、何やら凄い勢いである。
「ちょ、ちょっと大丈夫ですか? なんかすごい勢いですけど!?」
それは適当とも取れる物なので、心配して俺は叫ぶのである。
「よし、出来た! これもうカンペキ!」
果たして三十秒が経ったかどうか。
九枚の石板をはめ込んだスラッシュが、自慢げな表情で俺を見て来た。
「本当に大丈夫ですか……?」
怪しみながらに覗き込み、完成した図を目の当たりにする。
「ちょっ!?」
そこに描かれていた物が、(´・ω・`) だった為に俺は驚愕し、「絶対この人わざとやったろ!?」と、睨むような目でスラッシュを見るのだ。
直後に「ガコン!」と音が鳴り、俺達の前後の壁が裏返る。
そこには全身が青色の鎧騎士が、大剣を掲げて立ち尽くしていた。
「もうね。嫌な予感がバッキンバッキン」
「偶然だな。俺もだよ……」
ユートが言って俺が言う。ここまで意見が合うのは初めてだ。
二体の鎧騎士はすぐにも動き出し、大剣を両手に襲い掛かって来たのである。
「やっぱりか!」
右手を突き出して武器を想像。
初めての次元セキュアは問題なく作動し、購入した槍が手の中に収まった。
「頑張ってー!」
と、ユートが飛んで、俺は背後の敵へと向かった。
「なっ!?」
俺の戦意は一撃で砕かれた。
攻撃を喰らった訳では無く、攻撃をした事によって砕かれたのだ。
槍の切っ先は敵を捉えたが、直後に槍はそこから粉砕。
カウンターで放たれた切り払いを避け、砕けた槍の先端を見つめた。
「駄目なんだヒジリ君! こいつらには攻撃は通用しないんだ!
なんでも遙か昔に採れていたルーコウ石から作られてるとか!!
だからこいつらが出て来た時点で! おっとォ!? 私達の負けは決まった訳だァ! ハッハー!」
それは背後からのスラッシュの声だった。
酔ってはいるが一応戦い、その最中にアドバイスをくれたようだ。
「それは分かったけどテンションが変でしょ!?」
思わず言うと、「ハハハ!」と笑い、「あー眠い……」と素でボヤく。
「ちょっと危ないですよ!?」
注意をすると、「んあ?」と言い、酔拳のような動きでかわした。
「凄いな……」
ある意味ではそれは神業レベル。喰らえばまず即死の為に、映画なんかより見応えはある。
ある意味で尊敬して眺めていると、「ヒジリ後ろー!!!」と、ユートが叫んだ。
「分かってる!」
振り返らずに気配を察し、その場に屈んでそれをかわす。
すかさず大剣が頭上を通り、横への転がり様に脇腹を突いてみた。
「ってぇ……!!」
が、相手へのダメージは無く、こちらの右手が痺れただけだ。
「くそっ!」
それを見た敵が剣を振り上げ、俺は飛び退いてそれをかわした。
「ならこれはどうだ!!」
次に試みたのは炎の魔法。
足元から一気に敵を燃やし、「やったか?!」とフラグのような言葉を吐いた。
「やっぱ駄目か!!」
やはりはそれも敵には通じず、炎を纏ったままでこちらに接近。
やがては炎は頭の先端で、輪になるようにして掻き消えた。
「魔法も攻撃も通じないんじゃ、どうやって倒せって言うんですか!?
それとも一旦引きますか!?」
スラッシュに聞くも、返って来たのは「扉が閉まってる~♪」と言うもの。
酔っているせいかテンションは変だが、回避力自体は侮れないものがある。
「(こうなったらもうコレしかないか……?)」
拳を見つめそう思う。漢の最後の武器である。
「いや、無理無理! 槍が砕かれたんだし!」
が、直後には冷静になり、敵の攻撃を飛び退いてかわした。
この時もしもダナヒが居たら、「行けヒジリ!」と言った事だろう。
居なくて良かった、と、心底思い、着地した後に顔を上げる。
「しまった!」
敵の標的が変わってしまった。俺が距離を取った為だ。
今はスラッシュの方へと向かい、背後から着実に接近していた。
「くっ!」
ダメ元で魔法を放ってみるが、敵はこちらに向かって来ない。
炎を纏った敵は進み、スラッシュの背後で剣を振り上げる。
「くそっ!!! 間に合ええええ!!」
急いで走り、空中に飛び、そこから俺は飛び蹴りを繰り出した。
ギリギリの所でそれは間に合い、蹴りは敵の頭に炸裂。
僅かに敵がぐらついた直後に、その敵の脇腹に味方の剣がめり込んだ。
回転した後に床に降りると、脇腹から敵が崩れるのが見えた。
攻撃したのは味方の青騎士。
それはスラッシュを狙ったものだが、かわされた為に味方に当たり、一方の相手もぐらついていた為に、それに対応する事が出来なかったのだ。
事前に図った訳では無いが、最高のタイミングで仕掛けたと言える。
攻撃した方の剣も砕け、された相手も脇腹から崩れる。
唯一の武器は崩れ去った奴が遺した材質不明の剣だけだった。
「よし!!」
選択肢はもはやたったのひとつ。
その剣を奪って攻撃する事だけ。
相手もそこまでは頭が回らないのか、素手でスラッシュを攻撃し、俺に構ってくる事は無い。
「おっも!!!」
重さはおそらく三百キロ程か、なんとか抱えて振りかぶる。
「スラッシュさん! 退けて下さい!!」
それからスラッシュに声をかけ、両手を支えに狙いをつけた。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」
そして、スラッシュがズレた瞬間、敵に目がけてそれを発射。
剣は勢いよく水平に飛び、敵に当たって相殺して砕けた。
「なんか、こういう話聞いた事あるな……
矛盾とか言う話だったっけ? ま、何にしても…」
倒せて良かった。
最後の部分は口には出さず、俺は大きく息を吐く。
もし、武器までが砕けて居たら――
奴らを倒す手段は無かった。
そうなると俺達はきっとここで、誰にも知られずに白骨化しただろう。
「あー! スラッシュさんがー!!」
ユートが叫び、飛んで行く。
見るとスラッシュが倒れており、まさかの事に目を見開いた。
「……寝てる」
が、続く言葉で額を押さえ、両目を瞑って思うのである。
「もうホント、一人で来た方が良かった……」と。
大概の場合、
酔ってやった事だから(笑)
と、悪びれも無く笑って終わらされます。




