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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
十二章 そして、その星は終末に向かう
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葬儀の後に

 街の住人三千人と、デオスの葬儀はそれから三日後に、海王ダナヒの主催の下で街の郊外で執り行われた。

 天候は晴れで、雲一つない青空。俺達は皆、黒服に着替えて街の郊外の山麓に来ている。

 その他の参列者は千人ばかりで、犠牲者の家族が殆どを占め、残りは悲劇に心を痛めた旧ユーミルズ王国の国民達で、賓客扱いのレイラも参列して、犠牲者に花を捧げてくれた。


「海王よ。あまり自分を責めるな。これは天災。やむを得ん事じゃ」

「……心遣いに感謝します。あなたの王国の国民達にも感謝をしていたと伝えて下さい」


 帰り際にレイラが言って、言われたダナヒが言葉を返す。

 その後には頭を深々と下げるので、俺も遅れてそれに倣い、ダナヒが頭を上げた事を見てから、俺も体勢を元に戻した。


「(ちゃんと敬語が喋れるんだな……)」


 口には出さないがそう思う。ナエミやカレルも思っているだろう。

 だが、それがこの場に於いて。その立場に居る者として。

 正しい物だと分かって居るので、わざわざ「今のはナンすか?」と指摘すると言う事は無かった。


「今のナニー? 何で敬語? ってかボク初めて聞いた!」


 ただ一人、残念なユートを除いては。

 幸いにもダナヒには聞こえないので、気分を害した様子は見られない。

 その為ユートを無視する形で、立ち去るレイラ達の背中を見送った。

 それから頭を上に向ける。カラスの鳴き声が五月蠅かったからだ。

 いつの間にそれだけ集まったのか、空には無数のカラスが集まり、隙あらば遺体を狙おうとしているのか、思い思いに旋回していた。


「自然の摂理に従っているだけ……って、分かってても嫌いになっちゃうよね。

 もうちょっと空気が読めれば良いのに」


 自然の摂理に従っているだけでも遺族としては良い気はしない。世の中には鳥葬ちょうそうと言う物が存在するらしいが、俺が遺族ならお断りである。

 ナエミの言葉に応えずに、俺は顔を右へと向ける。

 眼前には山麓。そして大穴。大穴の前には献花台があり、今は師匠とギースとニースがそれぞれ花を捧げてくれている。

 大穴の中には三千人と、デオスの遺体が入れられており、流石の数に火葬と言う手段で見送る事が決められていた。


「思えば妙な奴だったぜ、あいつは」


 不意に、ダナヒが話し出す。体は俺と同じ方向だ。


「五~六年前に異世界こっちに来たんだが、当時は言葉が分からなくてな。

 どうした物かと悩んでいる時に、ふらりと姿を現しやがった」


 どうやらあいつとはデオスの事らしい。俺もナエミも、カレルも黙り、会場を見つめて話に聞き入る。

 師匠とギース、そしてニースは献花を終えてこちらにやって来て、無言で頭を下げた後に、三人で街へと歩いて行った。


「お互いに言葉が通じなくてよ。そりゃあ最初は苦労したもんだ。

 だが、あいつはすぐに言葉を覚えて、俺様に言葉を教えてくれた。

 そこからはまぁ、兄弟みたいなもんだったな。元国王だって話しても、あいつは態度を変えなかった。だったら実力を見せて下さいよって、逆にけしかけて来る位だった。

 ……つれぇ事はあんましなかったが、楽しいと思う事は共有して来た。

 クソが付くほどのロリコン野郎だったから、女関係じゃ随分と苦労してたがな」


 ダナヒはそこで苦笑した。寂しさを含んだ痛々しい笑顔だ。

 ある意味での恩人を失ったのだから、それは当然の表情なのだろう。

 俺は笑って良いのかが分からず、ナエミと顔を見合わせる。


「あたしも随分言い寄られたわ」


 直後にカレルが首を振って言うと、ダナヒは「へっ」と短く一笑。


「あんたはピンポイントで野郎の好みだ。表面には出して無かったみたいだが、隙あらば堕とす気で居たみたいだぜ。

 縛り上げて目隠しをして猿轡ボールギャグを噛ませてヨダレを舐めたい。

 って、酔わせる度に言ってたしな。あいつ」

「そ、そう……出来れば知りたく無かった事だけど、知った以上はそうならなくて良かったと思うわ……」


 それから続けた恐怖の内容で、カレルと俺達の表情を凍らせた。


「ま、兎も角、寂しくならぁな……何か一言言ってから逝けってな」


 それについては俺もそう思う。だが、本人だって死にたくは無かったのだろうから、それは酷な注文ではある。

 考えてみれば俺もそうで、唐突に死んでしまったのだから、残された親父と母さんは、さぞや辛い思いをした事だろう。

 その点に関してはナエミはどうなのか。自殺をした事は知らされているが、何か書置きはしたのだろうか。

 それともそんな物を書く必要は無く、両親としては自殺した理由をおおよそ察せる状況だったのか。


「ん?」

「あ、いや、何でも無い……」


 そう思って見ると、目が合ってしまい、聞く事が出来ずに慌てて目を逸らす。

 きっと不思議には思ったのだろうが、ナエミは何も聞いては来なかった。


「さて、んーじゃそろそろ始めるか。盛大な炎で見送ってやろうや」


 ダナヒが言って歩き出し、献花台の前へと進む。俺達も遅れてそれに続き、ダナヒの後ろに並んで整列。

 カレルが無言で黙祷をした事を見て、ナエミと共にそれに倣った。


「海王陛下」

「ああ、わりぃな」


 誰かの言葉にダナヒが応える。おそらく火を渡されたのだろう。

 それから体を動かす音と、何かが落下した音が聞こえ、遺体を包む布に引火したのか、火が広がり始める音が聞こえた。


「あっちでロリガキとうまい事やれや……今までありがとうよ。キョーダイ」


 ダナヒはそれきり口を閉ざし、燃えあがる炎を無言で見つめた。

 俺達もまた何も言わず、天へと送られる住民達の魂と、お世話になったデオスを見送った。

 あっち。即ち天国と言う物があるのならば、そこでは幸せに生きて欲しいと誰にともなく願いながら。




 魔の島での出来事を皆に話したのは、その翌日の事だった。

 メイド達が居ない為に、食事は俺とナエミで作り、その際にナエミには話し終えたので、ナエミが聞くのは二回目となる。

 ちなみに一回目では皇帝の所――つまり、ミュリペーの事を話した時にはナエミはジト目で俺に言った。


「フーン……ヒジリが国の救世主様ねー……で、どうしたの救世主様は?

 どうにでも出来る王女様をどうして連れて帰らなかったの?」


 と。

 自慢気に言った覚えは無いのだが、どうやらナエミ的には気に喰わなかったらしい。

 それってもしかしてジェラシーか? 等と、少しは思ったが口には出さず、「嬉しいのは嬉しいけど何か怖かった」と正直に言うとナエミは豹変。


「へー! 嬉しかったんだ……!? やっぱりヒジリも男の子かぁー!

 色仕掛けなんかであっさりやられて、自慢げにそんな事話しちゃうんだしねッ!?」


 凄まじい勢いで魚を切り出し、片っ端から鍋へと入れて、熱さに悲鳴を上げる俺を押し退ける形で味付けを始めた。

 どう考えてもナエミは妬いている……タイミング的にはそうとしか言えない。

 むしろ、これが嫉妬で無いのなら、今後の付き合いを考えるレベルで、機嫌を直して貰う為にはどう言えば良いのかを無言で考えた。

 第一に浮かんだのはこんな言葉。


「色仕掛けなんかにやられてないよ! 確かにあの人はエロイ体だったけど!」


 ……これでは誤解が解けたとしても、機嫌は直らず顰蹙を買うだけか。


「自慢げになんて話してないだろ? 嫉妬はやめろよ。見苦しい」


 では、いくらそれが正論であっても、俺達の歳では受け入れがたいだろう。

 ならば誤解を解きつつも、少し持ち上げるような言葉が良いか。

 そう思った俺はナエミの横に行き、出来上がった野菜炒めの鍋を握った。


「いや、確かにあの人は魅力的だったけど、俺にはナエミの方が魅力的だから」


 完璧じゃないか……直後にそう思う。

 ミュリペーの魅力を認めた上で、色仕掛けにかかって居ない事を示し、ナエミの機嫌を直す為の、持ち上げる言葉も同時に言ってる。

 これで機嫌が直らなかったら、怒りの原因は俺には無くて、その場合はむしろ「何言ってんの……?」と、困惑されると言う恐れはあった。

 鍋を動かして料理を盛り付け、その後の反応を背中で伺う。


「バカッ!」

「いてっ!?」


 すると、ナエミは唐突に、俺の後頭部をオタマで殴るのだ。


「な、何言っちゃってんの!? 何なのそれ!? 告白か何か!?

 場所とか時間とか色々考えてよ!」

「ヒドイよヒジリ! 目の前で告白とか!

 せめてボクが見て居ない所でやってよ! ヒトデナシ! アクマ!

 ムッツリマジェスティ!」

「ぎゃああああ!?」


 どうやら怒りは消えたようだが、何やら激しく動揺している。ユートもそれに加わる形で俺の髪の毛を引っ張り出して、二人から逃れるべく動いた俺は。


「あぎゃあ!? フッホォォォ……!」


 台の角に股間を激突。声にならない声を出して二人に背を向けて屈み込むのだ。


「ちょ、ちょっとヒジリ大丈夫……?」

「自己回復だよ! 回復魔法だよヒジリ!」


 二人の言葉に「ああ……」とは返す。まさかこんな事で魔法を使うとは。情けない気持ちで魔法を意識し、股間の痛みを和らがせて行く。


「ふぅぅぅ……」


 聞いた話では女性の生理はこんな痛みがずっと続くと言う。

 そこには空恐ろしさを覚えながら、完治した事に息を吐いた。

 その後の空気は和やかな物になり、俺達は協力して朝食を作り上げる。

 そして、出来上がった朝食を食堂に運んで、ダナヒとカレルを食堂に呼んだ。


「なるほどな。まぁそういう事なら、手を取り合って行く事にも吝かじゃあねえな。

 アンティミノスの何とかとやらには、どっちも相当に痛ぇ目に遭わされた。 

 それだけにお互い痛みが分かるし、何とかやって行けるだろうさ。

 それにその黒真珠だったか? そいつは立派な交易品になる。

 教えてやるのは勿体ねぇ気もするが、かと言って騙すんじゃあ、人の道に外れるわな」

「そうですね。俺もそう思います」


 話を聞いたダナヒはそう言い、和睦と交易に応じてくれた。

 交易の方は甘いとは思うが、だからこそのダナヒで、だからこそ、俺はダナヒについて行くのだ。

 デオスもきっとそうだったのだろう。文句も言わずに支えて居た理由はそこにあるのだと俺は思う。

 それ故にデオスが居なくなった事は、この国にとって相当の痛手で、「では唐突に開始しますよ」と言う、第〇〇回新しい国を作ろう会議がふと懐かしく思えるのである。


「ま、これまで以上によろしく頼むわ。カレルも、ヒジリも、ナエミもな」


 同じ事をダナヒも思ったか、複雑な顔でそう言って来る。

 俺達はそれに苦笑いを浮かべて、バラバラの順番で頷きを返した。


実際の所、ヒジリの中ではナエミは親友未満と言う所で、恋人未満ですらもありません。

ナエミの方は恋人未満くらいで、ヒジリさえ良ければ……なんですけどね。

ちなみにヒジリは割と権威主義で、「王女」とか言う肩書きに弱いです。

童貞ゆえに夢見がちと言うか、そういう立場に居る女性に、幻想を抱いているのでしょうな……

ま、どうでも良い話ですが、またまたひとつの小ネタまでに(笑)

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