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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
十二章 そして、その星は終末に向かう
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レナスの変装 潜入作戦 三

戻って来ました。今回の台風はヤバかったですね(汗)

 何事も無く三日が過ぎた。

 ここで働くようになってからなら、もう五日は居る事になる。

 そろそろ仕事に慣れてきた為に、フォルトの監視は先日外れ、ある程度の自由が効くようになった私は、館の調査を密かに進めた。

 だが、これと言った怪しい物は、一階部分では発見できず、未調査の二階を調べる術を仕事をしながら黙々と考える。

 考えて居ないで行けば良い。と、理由を知らない物は言うだろう。

 しかし現在……と言うかあれから、ティレロはずっと館に滞在し、食事の時以外には二階の部屋から私達の前にも姿を見せない。

 その上でこれはフォルトに聞いたのだが、二階には彼女しか近づけないようで、それ以外の者が近付こうとすると、ティレロは激しく怒るのだと言う。

 ちなみにフォルトが仕えている年数は、メイド達の中でも最長の物。

 挙句に彼女はティレロが故郷――つまり、アルフ共和国に居た頃から、ずっと仕えているメイドのようだった。

 流石に特別な関係と言うか、恋愛関係には無いと思うが、信用と実績は当然ながら、メイド達の中で一番にあるだろう。


 二階に一体何があるのか。

 それを聞くなら彼女に聞くのが一番早いと私は思う。

 しかし、誰かに聞かれたからと言って、簡単に口を割らないからこそ、彼女はおそらく重用されている。

 試しに聞いてみれば良い。私も一時期そう思ったが、高い確率で疑問に思われるのは火を見るよりも明らかである。

 ここは忍耐し、隙を伺っていれば、必ずそれはどこかで生まれる。

 二階に何かがあるとは限らないが、こうなると最早徹底的に行かなければ、私個人の気が済まないのだ。

 せめてそう、ティレロさえ居なければ、行動高速化で何とでもなる。

 居ても何とかなるとは思うが、どんな場面に出くわすかは分からない。

 故に二階への執着を置き、指示されたままに窓を拭いた。


 前回――今から二日前だが、その時には私はガラスを割った。

 当然、そんな事をやった事が無いので、力の加減が分からなかったのだ。

 だが、前回で学習したので、撫でるような動きでそれを拭く。


「メナスさん」

「ヒッ?!」

「メナスさん!?」


 そんな時にフォルトに呼ばれ、驚いた私は加減を間違えてガラスを突き破ってしまうのである。


「ああーちょっとどいてどいて」

「すまない……加減を誤った……」


 幸いにも大事に至る事無く、使用人の男が掃除をしてくれる。

 それに対しては私なりの謝罪の気持ちを示して置いた。

 フォルトはと言うと少々呆れ。

「あなたには本当に驚かされるわ……」と一言。


「言葉遣いも直らないし、ご主人様に対する態度も不遜。

 お金にも困って居なさそうだし、もしかして何か企んでいるんじゃ、なんて思っちゃう」


 その後に更に言葉を続け、ぐうの音も出せない私を見つめた。

 なぜなら全て当たっているから。

 普通のメイドなら、給金が欲しいメイドなら、そこは必死で修正するはずで、そこに対して危機感の無い私には必死さがまるで無かったのである。

 案外、私の正体を見抜くのは、ティレロでは無くこの女かもしれない。

 そう思って若干目を細めると、フォルトは「まぁ良いわ」と勝手に納得する。


「今夜、時間は空いているかしら? ご主人様があなたと少し、夕食を摂りながらお話をしたいと言う事なの」

「何!? ティレロが!?」

「……ご主人様よ」


 あまりの事に呼び捨てしてしまう。すかさず注意されて訂正し、「一体なぜ?」と聞いてみる。

 すると、フォルトはため息をついてから、少し悲しそうにこう言った。


「気に入られたのでしょう……眼鏡を外したら、あなたはとても綺麗な気がするし。

 それにその……雰囲気が、ご主人様のお母様に何となく似ているから……」


 正直、全然嬉しくは無い。どちらかと言うと迷惑である。

「ご主人様」の特権を生かして「ママって呼んで良い?」なんて言ってきたら、流石の私もグーパンチでティレロの横っ面を殴り飛ばすだろう。

 そうでは無くて、女として見られても……ハッキリ言ってドーラスの方が、ティレロの千倍以上はマシだった。

 だからと言って付き合うだとかは……本人には悪いが考えられないが。

 顔と性格以前の問題で、本当に、今は考えられないのだ。


 ともあれ、心では嫌ではあるが、これは大きなチャンスと言える。

 私を私と見抜いて居ないなら、色々と聞き出す最大の機会だ。


「……分かった。ご主人様の命令だからな。

 具体的には何時にどこで、私は待機をして居れば良い?」


 質問をするとため息を吐かれた。続けて「何を言っているの?」と言って来る。


「まさかとは思うけど、そのままで居るつもり? お食事会にはドレスアップがマナーよ。あなたにはきちんとした淑女になって貰います。さ、早速ついて来て」

「は!? いや、それはマズイ! それでは変装をした意味が……」

「変装?」

「いやいや違う! フェンソーだ! 私の故郷であの、その、あれだ。

 丹念に剣を磨くと言う意味で……」

「訳の分からない事を言ってないで来なさい! もう馬車は待たせてあるんだから!」


 そして無理に連れて行かれる。言い訳と拒絶が全く通じない。

 何とかしなければ。そう思いつつ、ついには私は馬車に乗せられ、二分ばかりを走った後に、調髪師の店先で馬車は止まる。


「まずは髪の毛ね。あなたは三つ編みより、普通に伸ばしていた方が綺麗だと思うの。そこはまぁ、調髪師の方と話し合って、納得の行く形で決めると良いわ」


 冗談じゃない。それだとそのままだ。厚底の眼鏡をつけただけのレナスだ。

 しかし、フォルトの話しぶりだと、話し合いの余地がありそうである。

 元に戻す必要が無いのであれば、何とかなる可能性もありそうだった。


「……分かった。最早覚悟を決めよう。あなたはどうする? そのままで良いのか?」


 聞くと、フォルトは「どういう意味?」と言って来る。


「いや、食事会が開かれるなら、当然皆も居る訳だろう?

 ついでと言うのは違うかもしれないが、あなたも整髪して貰うと良いのでは?」

「……私達は参加しないのよ。あなたとご主人様の二人きり。

 勿論、料理の用意はしておくけど、私達はその後に館を空けるわ」


 その後に言われた言葉を聞いて、私は「これは……」と思うのである。

 おそらくだが、見抜かれている。何かを仕掛けてくる可能性が高い。

 メイド達と使用人を遠ざける理由は……事件の目撃者を減らす為か?


「そんな事はただの一度も、私にはしてくれなかったのだけれどね。

 若いって良いわ。羨ましい」


 そこでフォルトはぎこちなく笑った。そんな物では無いと思うが、どうやら誤解をされたようだ。

 というか、鈍い私でも分かるが、彼女はティレロを慕っているのだろう。

 あんな男を……と、正直思うが、私は奴の過去を知らない。

 或いは、故郷ではもう少し、マシな奴だったかもしれないのだから。


「だが、私にはその気は無い。それ所では無いのでな」


 励ましになるか、とりあえず言って見る。するとフォルトは複雑な顔で「そう」と一言だけを発した。




 髪型は変えた。ドレスも着た。

 そして服屋でフォルトを撒いて、武器屋に行って剣も買った。

 それはセキュアに送っているが、一応、最低限の準備は整えた。

 後は油断せず、チャンスがあれば、奴のやろうとする事を探るだけだ。

 今、私は館の前に立ち並ぶ、一軒の店の出窓の前に居る。

 そこに並んでいる子供の玩具――説明書きでは「首つり人形のツーリーさん」と書かれているが――それに興味がある訳では無く、自分の姿を確認する為だ。

 髪型としては何と言うのか……全体的に恐ろしくアップされ、全てを纏めてねじる様にして後頭部に向けて固められている。

 その名は確か「スーパーアゲアゲミラクルドリル一本突き」だったか。

 最近、古都エイラスで流行っていると言う髪型らしい。

 私としては普通に無いが、変装と言う意味ならそれは打って付け。

 その意味すらも無いかもしれないが、私は黙って調髪師に従った。

 そして服だが、胸回りが寒い。赤を基調としたドレスを着ているのだが、胸が半分は露出している。

 まぁ、こういう格好は淑女の嗜みで、一方的に見慣れていたが、いざ、自分がそういう格好をすると、思った以上に照れ臭い物だった。

 最後に眼鏡。この格好では冗談だが、一応の形でまだつけている。

 

 そんなこんなで準備は整い、私は武器屋で時間を潰した。

 こんな格好なので視線が痛かったが、うろつくにしても当てが無かった。

 時間は過ぎてやがて夜になり、閉店と共に館に移動。

 話はそこで今に繋がり、確認を終えた私は館に向かう。

 一部を除いて非常に暗い。話通りならティレロ以外は居ないのだ。

 明るい場所は私の左手。つまり、玄関を正面に見て、木々の向こうの食堂だけだ。

 窓から入るなら話は別だが、直接入る方法は無く、玄関のドアをゆっくりと押し空けて、館の中の気配を探った。


 効果範囲は十m強。勘ぐる限りでは人の気配は無い。

 館に入って玄関を閉め、警戒しながら食堂に行く。


「(居るな……やはり……)」


 視界の先に灯りが見えた頃、人の気配を一気に感じる。

 数はおそらく五十程か。少なくともメイド達の気配では無い。

 剣を呼ぶべきか、呼ばざるべきかで私は少し迷ったが、万が一での誤解を考慮して、剣を呼ばずに食堂に入る。


「ようこそヘール・メナスさん。最後の晩餐へのお付き合い、心から感謝致します」


 直後の声はティレロの物で、拍手をしながらそう言って来る。

 方向は右、長テーブルのどちらにも着かずに間に立って居て、一頻り拍手を終えた後に。


「随分と変わった髪型だ」


 と、トーンを落として呟いた。

「そこに触れるな……」と言いたい所だが、優先順位はそれに非ず。


「食事をしながら話がしたい……と、メイド長からは聞いていますが?」


 真意を問う為に質問すると、ティレロは下を向いて少しだけ笑った。


「お互い、臭い芝居は止しましょう。レナス卿。分かって居ないとでも?」


 やはりはバレていた。どこでバレたのか。疑問に思うが口には出さない。

 しかし変装、特にこの「スーパーアゲアゲミラクルドリル一本突き」が無駄になった事には舌打ちをする。


「ならば芝居は止めるとしよう……貴様の目的を話して貰おうか。

 一体何をしようとしている? そして、一体何をして来た?」

「答えても構いませんが折角の食事会だ。ここは一つ、余興を楽しんでから、メインディッシュに移りませんか?」


 聞くと、ティレロが指を鳴らす。食堂の二階――窓があるだけだが――そこに伏せていた者達が一斉に姿を見せて来る。

 それはいつか、私とアイニーネを襲った黒い外套を着た者達で、聞かずとも暗殺者、或いはそれに近い、裏の仕事を引き受ける者達に見えた。


「勿論、勝てるとは思ってませんよ。血に濡れたステージを作りたいだけです」

「貴様……頭は大丈夫か?」


 ティレロはそれに答えずに、「やれ!」と奴らに命令をした。

 私はすぐに剣を呼び、飛びかかって来た一人を二つに両断。

 顔にかかった血に構わずに、左に向かって更に斬る。

 正面から二人が駆けて来る。その左右にも二人ずつだ。

 長テーブルを踏み、左右が飛び上がり、三方向からの同時攻撃。

 私はそれを一振りにして、群がって来た六人を一気に葬る。

 確かに早い。そして一般の兵士より、彼らの腕が立つのは分かる。

 だが、マジェスティを相手にこの人数等……彼らには悪いが自殺行為だ。

 着実に一人、時には数人を斬り、勝ち目が見えなくなった相手が逃げる。


「クソおおっ! 金は約束通り払ってくれよ旦那ぁ!!!」


 それでもかかってくる相手を斬り倒し、五十人程の敵は消え去った。

 賊とは言えどそこはプロか。覚悟を持っていた男のようだ。

 そこには若干の敬意を示し、剣を片手にティレロに近付く。


「いやはや流石。流石です。良い物を見させて頂きましたよ」


 余裕だな。と、私は思う。いや、むしろ諦めきっているのか。

 ティレロはそう言って左に移動し、椅子を動かしてこちらに向かう。

 それから自分でワインを注いで、「さて、何から聞きたいですか?」と、グラスを傾けながら私に聞いて来た。

 正直訳は分からなかったが、話して貰えるなら聞きたい所で、警戒心はあくまで解かず、私は最初の質問をする。

 それは即ち、何をしたいのだ。と言う、ティレロの最終目的への質問。

 ティレロはそれに「フッ」と笑って、質問の答えを紡ぎ出した。


「そうですね。手短に話すとこう言う事になるのでしょうね。

 つまり私は混乱を招きたかった。

 この大陸、この世界の一国による統一を遅らせたかった。

 理由はそれこそレナス卿。あなたになら推測する事も出来るのではないですか?」


 私は何も答えない。推測は出来る。だがそれは、残念ながら口には出来ない代物である。

 真実の十。それを知らなければ推測できない事である為、自然、私の次の質問は「貴様はもしやマジェスティなのか?」と言う物になる。


「いいえ。残念ですがそうではありません。

 私はこの星で生を受け、この星でずっと育ってきました。

 そんな私が色々と知っている理由は、レナス卿にはもう話して居ます。

 覚えて居ますか? それが何かを」


 思い当たりはある。それを聞いたからこそ、ティレロがマジェスティでは無いかと疑い出したのだ。


「……私には女神がついていますから。だったか」


 実際に言うと、ティレロは「そうです」と言い、グラスを置いて少しを黙る。


「と、思っていたのですが、どうやら私は用済みらしい。

 最早、私にやれるべき事は何も無いと言う事なのでしょう」

「どういう意味だ……?」

「そのままの意味ですよ。

 そうとは知らなかっただけに、察した時は衝撃でしたがね。

 タイミングとしてはモルト島沖海戦ですか。あの戦いでヘール諸島に敗北を喫した辺りから、女神との連絡が取れなくなりました」


 要するに、ティレロは「女神」と言う物に、指示を受けた上で動いて居たようだ。

 おそらくアルフ共和国――奴の故郷の名前だが――あの国の不戦降伏自体が、指示の始まりだったのかもしれない。


「あのマジェスティ……名前は忘れたが、貴様の副官だった女は、その女神から借り受けた物なのか?」


 それがそうなら殆ど確定だ。女神とやらはティレロに何か、つまり一国による統一なのだが、それをさせない為の力として、自分のマジェスティを貸した事になる。


「ソフィーヤ……彼女には悪い事をしましたね。

 ですが、答えは無回答で。私は女神を今でも愛し、狂信者のように崇めて居ます。

 私がした事は話しますが、彼女がこれからしようとしている事は、推測であっても話す事は出来ません」


 それでは意味が無い。思わず舌を打つ。


「では、その女神の名前は何だ? なぜお前はそれを崇拝する?

 どこで出会った? きっかけがあるだろう?」


 どれか一つでも良い。情報が欲しい。そういう意味でまくしたてると。


「私はね。レナス卿。不治の病にかかっているのです。

 二十五まで生きられれば、儲け物と言う病です」

「何……??」


 唐突に、ティレロが何かを話し出す。質問の答えには当たらない気がして、私は両方の眉根を寄せる。


「人生を諦めて絶望して居ました。そんなある日の夢の中に、彼女が、女神が現れたのです。

 ……一目惚れでしたよ。美しい女性ひとだった。

 私の残りの人生を、彼女に捧げたいとすぐに思った。

 すると彼女は私の力が必要なのだと話してくれた。

 私の選択は……一つしか無かった」


 なるほどそういう事だったのか。分からないなりに納得し、それが誰かを思案する。

 その星に住む人間への干渉は、間接的でも禁じられている。

 それが分からない神が居たのか。とすれば、そいつは一体誰なのか。


「ですが、私の生きる目的は、どうやらもう無いらしい」


 考えているとティレロが動き、左手を伸ばして剣を拾う。

 まさか戦って死ぬ気なのか。そう思って右手を「ピクリ」と動かすと。


「私の妹。偽物ですが、彼女が今夜、国王を殺します。

 ヨゼル王国は滅茶苦茶になるでしょう。

 これが私の最期の奉仕。我が女神への、愛の証」

「おい!?」


 ティレロはそう言って自分の喉を斬る。

 そして、倒れ様にクロスを引いて、テーブルの上にある燭台を倒した。

 蝋燭の火がクロスに燃え移り、見る見る内に広がって行く。

 倒れたティレロが炎に包まれたのは、それからすぐの出来事だった。


「くっ……! 肝心な所は話さずに逝くかッ!」


 結局の所分かった事は、ティレロが「女神」に操られていたと言う事。

 しかし、それが誰なのかは分からず、悶々とした気持ちで私は動き出す。


「……気の毒な奴だった。と、言っては置こう」


 一時いっとき立ち止まり、振り向かずに言う。

 それから私は剣を収めて、燃えあがるティレロ邸から姿を消した。



「女神」の正体は鋭い方なら、もう分かって居るかもしれません。

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