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「とまあこんなことがあったんですよ☆ 桜屋さん☆」
「大変だったみたいね……」
狙撃戦後の勉強会後の帰り道。スマ子が今日あったことを桜屋に報告している。
「いやー生きてて良かった。心からそう思えるね」
体育用のシューズを履いた流星が自転車を押しながら呟く。桜屋はバス通学、ハコとCPは歩いてここまできた。流星は二人を置いていくわけにもいかないので自転車を押し歩いている。
「まあ勝てたのはあたしのドラグノフのおかげだよねー」
ハコがふんぞり返りながら言う。
「いやいや俺のエイム力の高さだろう」
放っておけばいいのに、流星はそれに対抗する。
「わたしのサポートもお忘れなく☆」
ややこしいことにスマ子も参戦する。
「間違っているな。あの布陣を考えたのは私だ。私こそ功労者にふさわしい」
普段は突っ込んできそうなCPまで乗ってくる。
実のところ、CPは何が一番の勝利の要因だったかの推測はついている。
「すぐ私にツッコミさせるんだから……。みんなの話を聞く分には、全員の力があってこその勝利なんじゃない?」
全員の力があってこその勝利。何となく気恥かしい響き。
「委員長は割と恥ずかしいことも躊躇なく言うよね」
「こういうのは恥ずかしいと思うから恥ずかしいのよ。それに事実でしょ? 誰かが欠けていたら、きっと勝てなかったと思う」
桜屋の台詞を聞きながらハコは、少し後ろを歩いているCPの横に並ぶ。
少しの間、何も言わなかったハコだが、言い難そうにしながらも何とか言葉を紡ぐ。
「えっと、つまり……いつまでも根に持って悪かった……」
目を合わせようとせず、等間隔で並ぶ並木を眺めながらハコが言う。
「元はと言えば私が悪い。許してくれてありがとう」
ハコとは対照的にすっきりしたような表情でCPが言う。
「まあ、あれだな、これからはもう少し、仲良くしてやってもいい……」
「ああ、よろしく頼む」
ハコとCPは共に歩きながら、お互いの手の平を軽くタッチする。
それは勝者二人のハイタッチにしては、随分と控えめなものだった。
帰宅し、何故か自室がスマ子とCPに占領された流星は居間で桜屋からの課題を片付けている。そこにレイがやってくる。
「今日は大変だったそうだな。加勢出来なくてすまなかった」
「なんとかなったし、大丈夫だよ。それにすぐに連絡しても間に合わなかったと思う」
「以後は今日のようなことがないように気をつけよう」
レイは申し訳なさそうな顔をしている。それが何だか辛くて流星は話題を変えることにする。
「そうだ。前にみんなでカレー食べた時にそれぞれ地球に来た理由話してただろ。レイはどんな経緯でここに来たんだ?」
「……」
「ごめん、言いたくないことならいいんだ」
「いや、聞いてくれ。私は……私は大勢の部下を死なせてしまったんだ……」
重い空気が二人の間に充満する。流星は選択する話題を間違えた、と後悔する。
「私は士官学校を卒業し、なんの実績もなく部隊の長になった。そして初陣で、ある星での戦闘に参加した。新米に前線を任せる訳もなく、私が率いる部隊は後方の僻地に配属された。だから、油断していた。ヴァイストロンが総力戦を仕掛けてきた時、ドゥカティの部隊と遭遇したんだ。おそらくは前線に戦力が向けられている隙に乗じて側面を叩くという戦法だったのだろう。すぐに戦闘状態に入った。しかし、私は指揮が上手くとれなかった。実はドゥカティと私は同じ士官学校に在籍していたんだ。彼女とは袂を分かったはずなのに……。私は旧知の人間に刃をすぐに向けることが出来なかった。その甘さで皆を殺してしまった……。運良くコアストーンが回収されたものは復元されたが、数名は……」
「レイ……」
「その責任をとって私はここに来たんだ。すまない、こんな話をして……。だが、安心してくれ。もうあのようなことにはならない。いや、させない」
レイが悲壮な決意を滲ませて宣言する。
何か言葉をかけたいと流星は思うが、出てこない。
「私は弱い……。時々私のようなものが皆の先頭に立つ立場にいていいのだろうか、と思うことがある……」
慰めの言葉をかけようとしていた流星は、色々考えたが結局は自らの内から素直に出てくるに任せる。
「レイは強いよ。自分の弱さにきちんと向き合えるのは、強い証拠だよ」
「流星……ありがとう」
「ど、どういたしまして」
衒いのない感謝の言葉に照れる流星。
「このことは誰にも言わないでくれよ?」
「ああ、わかってるよ」
レイと流星の間に見えない何かが、確かに結ばれた。それはか細くも、何よりも強い。
「さてそろそろご飯の時間じゃないか?」
「そうだな。今日は何作ろうかな」
流星は朗らかな気持ちでキッチンに向かう。
『とまあこんなことがあったんだ。レイ』
夕食後の流星宅。CPはスマ子にオープンチャンネルを頼み、ゼントロン全員で同時に思念通話をする。そして流星の左手の事を報告する。
CPの話を聞き終わったレイは疑問を投げかける。
『間違いないのか? ヴォルテカは人に宿ることがあるのか?』
『決まりだと思う。流星の左手の甲にはヴォルテカ特有のあの刻印があった。今日の戦闘で流星の撃った弾がドゥカティにダメージを与えたのは、ヴォルテカの力が作用していたと考えるほかない。人の身に宿っているというのは初めてのケースだが、ヴォルテカの性質は未知数だ。有り得ないことではない』
『わたしも後でCPさんに言われてヴォルテカの反応を調べてびっくりしました☆ ちょうど流星さんが最後の弾丸を撃った際に、反応が急激に強くなっていました☆』
レイは尚も桜屋からの課題に取り組んでいる流星を一度見てから、自身に問うように思念する。
『我々はどうするべきだ?』
律義なCPはレイに自分なりの解答を送る。
『流星にこのことを伝えるべきか、ということか? 判断が難しいな。だが伝えても流星ならまあなんとかするだろう』
『CPがそんな曖昧な表現を使うとは意外だな』
『全くだ。しかし、なぜだろうか、心からそう思える。具体的な見通しなんてついていないのだがな』
『あーそれはあたしも何となくわかる』
ハコはCPに同意する。レイはハコとCPが以前よりも少し打ち解けていることに気付く。しかし、二人に改めて指摘することではないと判断する。
『それもヴォルテカの力だったりするのか?』
『かもしれないな』
一同はひとしきり笑い合う。
『……流星には伝えよう。今日の戦闘データで恐らくヴァイストロン陣営もいずれこの事に気付くだろう。流星が一躍渦中の人物になってしまうな……。しかし、我々は我々の全てを賭して、流星を守ることを誓おう』
『了解!』
ゼントロン一同は、心からレイに同意する。




