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流星の通う県立山田高校はその土地ではそこそこの進学校として知られている。暗記と机に長時間向かうことがそこまで苦痛でない近隣の中学生は、山田高校に進学するのが通例となっている。流星は数式や英文を見ると頭痛に悩まされるタイプではなかったし、前述の二点もクリアしていたので、現在一生徒として在籍している。
山田高校の学舎は上空から見るとアルファベットのFのような形をしている四階建ての建造物だ。一階には昇降口、職員室や校長室などがあり、二階には三年生の教室、三階には二年生、四階には一年生と中々複雑な階数割り当てがされている。Fの上部の横棒には一組から三組、下部には四組から六組の教室があり、それらから外れた部分に特別教室が散らばっている。体育館、武道場、プール、グラウンドといったお決まりの施設ももちろん併設されている。クラブ活動には少し力を入れているのか、校舎と比べると小規模なクラブ棟なる二階建ての建物もある。
そんな特筆すべき点はないような山田高校校舎三階の二年三組の教室で、流星は古文の授業をのんべんだらりと受けている。「現代では使われていない古語を学ぶことにどれほどの意味があるのだろうか」といった大体どの高校生も囚われる考えに至りつつ、いっそ寝てしまおうかとあくびを一つ。すると妙な殺気を感じた流星はちらりと後ろを窺う。そこにはいつぞやの冷気を感じさせる程の冷厳な眼差しを送る桜屋。これからは教室で居眠りすることも叶わないのか、と悲嘆に暮れる流星であったが、程なくして授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「じゃあ続きはまた今度」
初老の男性教諭がそう言って退出し、教室はにわかに活気づく。次は教室移動を伴う音楽の授業なので流星は教科書を取り出し、さっさと移動を開始する。廊下に出たところで桜屋が隣にやってくる。
「さっきの授業寝そうになってなかった?」
「まさかそんな! この俺がありがたい伊藤先生の授業を寝て過ごすなんて!」
「淀橋君は演技の才がないわね」
流星の言動をばっさりと切り捨てる桜屋。
「すいませんごめんなさい、ちょっと退屈でついつい船を漕いでしまいました……」
「確かに伊藤先生は授業の進め方が平坦だからそうなるのもわかるけどね。話しは変わるけど、今日スマ子ちゃん持ってきてるの?」
「ああ、ここにいるよ」
流星はブレザーの右ポケットを軽く叩く。するとポケットの中のスマ子が、暴れ出す。流星はそれを片手で押さえつける。
「相変わらず元気そうね。他の皆はどうしてるの?」
「町に出て探索を開始してるよ。はっきり言ってかなり心配」
流星は軽くため息を吐く。レイ達は本来の目的のためについに町に繰り出したのだ。流星が常に傍にいることが出来るはずもないので行動は各人に任せるしかない。下手を打って異星人であることがばれたりしていないといいのだが……流星の心配は尽きない。
「心配していても居眠りしそうになるのね?」
「それとこれとはまた別問題でありまして……」
「ふーん……」
桜屋にジト目で見られ、流星は目を逸らす。そして逸らした視線の先に、学校にいてはならないものの姿を見る。
「ちょちょちょっと野暮用が出来たので失礼!」
流星は血相を変えて先ほど視線に入ってきた異物に接近、首根っこを引っつかみ、近くの図書室に飛び込み、人目のつかない角に引っ張りこむ。
「アレー? グウゼンダネー」
先ほどの流星よりもひどい棒読みでそいつはいけしゃあしゃあと言ってのける。
「ハコッ! お前何で学校にいるんだよ!」
そこにいたのは山田高校の女子制服を身に纏ったハコであった。
「いやちょっとヴォルテカを探してたらここに……。ここが流星の通う学校だなんて……」
首を掴まれた猫のような体勢で白々しいことをのたまうハコ。
「制服まで用意しといてよくそんなことが言えるな……。いつの間に用意したんだ?」
「もちろんわたしスマ子です! 桜屋さんの制服を元にハコちゃんの体のサイズに合わせて寸法を計算し直すというサービスまで行いました!」
「犯行を自白とは……ていうかお前ら……」
「あらハコちゃんじゃない」
ヒョイっと流星の後ろから桜屋が顔を出す。
「おはよー、イーンチョー」
委員長という単語の発音が妙に間延びしており外来語のように響く。
「おはよう。学校にヴォルテカとかいうのを探しにきたの?」
「違うんだよ委員長。どうせなんか面白そうだからとかそんな理由で付けてきたんだよ!」
「まあ大体そんな感じだけど……」
「学内には関係者以外立ち入り禁止だから、遊びに来ちゃ駄目よ」
桜屋は屈んでハコの目線に自らの目線の高さを合わせ、しっかりと言う。それはもっと小さい子供に対する時のやり方だ、と流星は思う。諭されたハコは不服に思いながらもこう返事をする。
「はーい……。でも来たのは遊びだけじゃなくて何か役に立てるかもと思ったんだ……」
厳重に注意しようとも思ったが、ハコの気持ちはありがたいものだし、一方的に叱りつけるのも可哀想だと思い、怒りを収める。
「何にせよ今日はもう帰れよ」
そう言って帰宅を促しつつ、図書室内を窺うと、流星はこれまたそこにいてはならない人物を発見する。
ハコと同様に山田高校の女子制服に身を包んだCPが図書室の窓際の席に陣取り、静かにページを繰っている。金髪の少女が物憂げに本に向き合う姿は妙に絵になる。こちらには一切気がついていない様子で視線は書物に釘付けだ。流星はそろりと近づき、手近な本を手に取りCPの頭をポコンと一撃する。
「あいた」
「あいた、じゃない。何でCPもここにいる」
「も、とはどういうことだ? ああ、ハコもここに来ていたのか」
二人はどうやら示し合わせて学校に来たわけではなく、居合わせたのは単なる偶然のようだ。淀橋家での戦闘以来、二人が揃うと緊張感が生まれてしまうが、根底にある考え方や行動パターンは似ているらしい。
「部外者は学内に入っちゃいけないんだぞ」
「それはわかっているが、微弱ながらヴォルテカの反応をこの辺りでキャッチしたんだ」
「そうか。じゃあここにやってきた一番の理由は?」
「そういえば流星が通っている学校だと思い、実際にどんなものか知りたくなった」
「正直でよろしい」
どうもCPは好奇心を様々なものより優先する傾向にある。
突然、CPの表情が険しくなり、溜め息を一つ吐いてからパタンと本を閉じる。
「流星が帰れ、というなら帰ろうと思っていたのだが……そうもいかないようだ」
CPは窓から校門の付近を見て、右手で指示をする。流星、スマ子、ハコ、桜屋が窓の近くに行き、CPの示した先を確認すると、そこにはヴァイスロトンがいた。
「何であいつらこんなところに……」
「大方、私かハコの後をつけてきたんだろう。さすがにあいつらを放って帰るわけにはいかないだろう?」
校内に侵入してきたヴァイストロンはゴリラ、カブ、電動アシスト付き自転車の三体。既に人型の形態をとっており、ゼントロンを探しているのか辺りをきょろきょろと見回している。
「今日は校内への不法侵入者が多いわね。それにしてもあれが淀橋君たちの敵……。コスプレをした人達にしか見えないわね」
「あれで結構危険な奴らだから委員長は近づいちゃ駄目だよ……」
「なっ! 役に立てる時が来ただろ、流星!」
妙に嬉しそうにハコが言う。結果的には確かに良かったのだが、そもそもハコもしくはCPのどちらかがつけられていたのでは? という疑問が浮かぶ流星。
「迎撃に向かうぞ、ハコ」
「……わかってるっつーの」
「ちょっと待て! こんな人目がつく場所で一戦交える気か!?」
流星としては異星人が地球にいるということはなるべく秘匿したいことだ。それに好き勝手暴れられては関係のない人間を巻き込んでしまうかもしれない。なるべく人がいない場所に誘導してそこで戦うしかない。敵は三体。こちらにはCPとハコしかいない。流星は渋々決心をする。以前のようにはいかないかも知れないが、他にやる相手がいないのだから仕方ない。
「……俺も行くよ。申し訳ないけど委員長、次の授業には出られそうもない。先生には上手いこと言っておいて」
「はぁ……本来ならそんなこと絶対に許さないんだけど……今回は特例中の特例。私が誤魔化しておいてあげる。ねえ、淀橋君、今日の放課後はまた勉強会があるから。必ず、絶対、帰ってきてね」
表情こそいつも通りだが、そこに込められたメッセージにはさすがに気付く。
「もちろん。今日は課題もちゃんとやってきたからね」
ならば流星もいつも通りの返事をする。
キーンコーンカーンコーン。
間延びしたチャイムが始業を知らせる。間抜けなゴングだ、と流星は思う。
流星は桜屋と別れ、人気のない廊下を走り階下に向かう。桜屋は別れ際、何かあったら連絡して、と言っていた。末期の言葉を残すときにはそうさせてもらおう、と縁起でもないことを考える流星。
「あれだけ恰好つけたんだから、何かしらの作戦があるんですよね?」
スマ子がポケットから上半身を出し、疑問を投げかける。
「方針はあるが、作戦は特にない。方針ってのは『なるべく人目につかないところで各個撃破』だ。ひとまず挑発して体育館裏に移動、それからは各自で頑張ってくれ」
そこそこの進学校である山田高校には、授業をさぼって体育館裏で一服するような人間はいない。つまり授業中にそこに立ち寄る人間は皆無ということだ。
「えらくざっくりしているがまあそんなところだろう。策を弄する時間も道具もない」
「あとハコに一つ言っておく、学内では銃とか飛び道具は使うなよ」
「わかってまーす」
人気のない廊下を走り抜けながら、簡単な打ち合わせを済ませる。
「あっ! いた! とりあえず挑発は任せてよ!」
先頭を走っていたハコが、昇降口を出てすぐのところで前方にヴァイストロン一行を発見する。ハコは手近な小石を拾い、力一杯ヴァイストロン三体に向かって投げつける。ハコの手から離れた石は美しい直線を描き、見事にゴリラの顔面に激突する。そしてハコは軽く息を吸い、挑発を開始する。
「おうおうおう! ここは神聖な学び舎だぞ! てめぇらみてえなヴァイス野郎はお呼びじゃねぇンだよ! 揃いも揃ってバカッ面並べやがって! 今スグここから失せやがれ!」
ハコは止めとばかりにヴァイストロン三体に向かって中指を突き立てる。
「うわー正義の味方がすることじゃありませんよ☆」
スマ子も若干引き気味である。しかし、これは挑発なのだ、怒りで我をなくさせるくらいでちょうどいい。
ハコの挑発が功を奏し、三体のヴァイスロトンは血相を変えてこちらに向かってくる。流星たちは方向転換をし、一目散に体育館裏に走り出す。跳ねるように駆けながら、ハコが流星に話しかける。
「どうよっ! あたしの挑発! マジキマッテタっしょ!?」
「ハコはこと戦闘になるとテンションが上がるなぁ……。お兄さん心配だよ……」
昇降口、渡り廊下、グラウンドを抜け、流星たちは体育館裏に到着する。流星の考え通り、この時間に体育館を使用しているクラスはなく、辺りに人影はない。
流星達は立ち止まり、追いかけてきたヴァイストロン達と相対する。
「てめーらマジ調子乗んなよ……」
女性版のトム・ウェイツのような乾き、嗄れた声が体育館裏に響く。聞き慣れない声に流星は一瞬誰が喋ったのかわからなかったが、その声の主が目の前のヴァイストロンの一人のカブであることに気付く。
「お前喋れたのか!?」
流星宅での一戦ではドゥカティ以外はまともに言語を発していなかった。
「当たり前だろ。つーかあの時はまだうちらはこっちについたばっかなのにドゥカ姐が行くっつって聞かねーもんだからよー。早めに潰したいっつーのはわかっけどさぁ」
「まだこっちの環境に馴れてなかったのにねぇ」
今度はアニメにでも出てきそうなえらく可愛らしい声がする。それはなんと流星とスマ子が追いかけっこをしたあの電動アシスト付き自転車のものだ。
「見た目の割に可愛い声だな」
「おい、言われてんぞ、原付もどき」
「モォォォォォタァァァァァァドォォォォォォォ! 私の名前は『モータード』って決めたでしょ! もういい加減にして!」
突然興奮した自称モータードは地団駄を踏みながらカブに食ってかかる。
「いやだって、似合ってねぇよ」
あくまでも冷静にカブは対応する。それがまたモータードの神経を逆撫でする。
「いやだってもディアマンテもない! 次言ったら怒るからね!」
「もう怒ってんじゃん……。てかお前も何か喋れよ! あいつは喋れねーのかな? って思われっぞ!」
「……別にいい……」
ゴリラは流星達に一切の興味がないのか、空を眺めてぼーっと吊っ立っている。
「あーもうやだ、なんでこの三人なんだよ……。ついてねーなぁ……。全くついてねぇ、地球に来てから何一つ良いことがねぇ……。だけどよぉ、今日はちょっとついてるかもな。何しろお前に会えた……」
カブは射るような視線をハコに向ける。一方ハコはきょとんとしている。ハコは前回の戦闘時暴走しており、その際の記憶が曖昧なのだ。
「えっ? 何?」
「てめぇ覚えてねぇのかよ! この声も! この目も! てめぇのせいだぞ!」
カブは顔の左半分を覆い隠している前髪を上げ、アイパッチをしている左目を見せる。
「あーごめん、覚えてない」
ハコはばつが悪そうに言う。それを聞いてカブは激昂する。
「てめぇぶっ殺す! 行くぞ!」
カブ、ゴリラ、モータードが一斉に流星達に躍りかかる。
戦いの火ぶたが切って落とされた。
先行したのはカブ。怒りに身を任せた勢いのある突進。ハコが迎撃の姿勢をとる。しかし、意外な伏兵が現れる。CPがカブの左側面から飛び蹴りをお見舞いしたのだ。視野が狭くなっていたカブは避けることも出来ずに直撃し、体育館裏の手入れがされていない地面に転がる。
「何しやがんだコラァ!?」
「君がそうなってしまったことには私も責任を感じているのだ」
「何だか知らねぇが死にてぇみてぇだから先に相手してやるよ!」
CPの言っていることを碌に聞かずにカブは攻撃を仕掛ける。力任せの連打、意外にもCPはその全てを軽くいなしている。頭に血が上った相手の攻撃は読みやすい、戦闘力がそれほど高くないCPでも対処が可能だ。
「あたしのエモノ~、ってまあ相手はまだいるからいっか」
ハコは一瞬不服そうな態度を見せたが、すぐに気持ちを切り換えゴリラを相手と定める。
「あんたとは相性が良さそうなんだよね。小細工なしでやり合うタイプの方が好きなんだ」
「……」
ゴリラは特に何も言わずに構えをとる。ハコは速攻をしかける。小柄な体を活かしてゴリラの懐に飛び込む。ゴリラはカウンターに正拳突きを繰り出す。
「もっらいー!」
ハコはゴリラの長い腕を半身で避け、その伸びきった腕を両手で掴みそれを支点に体を浮かせて右のこめかみに蹴りをお見舞いする。直撃。
「痛い……」
「マジかよ……」
ハコは直撃させたにも関わらず、ゴリラに致命的なダメージを与えることが出来なかった。一撃でキメてCPに格の違いを見せてやろー、なんて意気込んでいたハコはゴリラの堅さに唖然とする。体重をしっかりと乗せたキックはハコが出せる最大限に近い威力だった。いやしかし、効果が全くなかったわけではない、急所を責め続ければいつかは倒れるはず、とハコは考える。
「こいつは思ったより時間がかかりそうだ……」
敵を前にして、ハコは不敵に笑う。
一方、流星とスマ子は前回と同じ相手を前にして睨みあっている。
「CP対カブ、ハコ対ゴリラ、とくればやっぱり俺達の相手は……」
「似非原付さんですね☆」
「モモモモモォ~タァァァ~ドォォォォォ!」
廃自転車を前衛アーティストが人型のオブジェにしたようなビジュアルのモータードは体をガシャガシャさせながら怒りを露わにしている。しかし、やたらとキュートな声色は迫力を生みださない。そのミスマッチにより一種の不気味さはある。
「俺達はさ、話し合いで勝負の決着を目指そうじゃないか。やっぱり殴り合いで何でも解決するのは非常に文化的でないし……まあ君もそこに座って」
戦闘では勝てないとわかっている流星は何とか単純な戦闘力で雌雄を決することを避けようとする。
「うるさい! あんたなんかと話すことはない! 私を……私を……縛り付けておいて……放置だなんて……女の子に恥をかかせたことを死で償いなさい!」
モータードは流星に向かって走り出す。流星は尻尾を巻いて逃げ出す。
「結局このパターンかよ!」
流星はモータードに背を向け一心不乱に逃げていたが、ある地点でくるりと踵を返す。これ以上先に行くと体育館裏から出てしまうからだ。棒立ちの流星にモータードが迫り、拳を振り上げ力一杯打ちおろす。流星は間一髪それを不格好な横っ跳びで回避する。雑草がまばらに生えた地面に転がる流星は土埃まみれになる。そんなことには頓着せず流星は相手の動きを見る。モータードは振り返りつつ裏拳。動きに気付いたものの流星は両手でガードすることしか出来ない。ゴツっと鈍い音が鳴る。
「いっ! てぇぇ……」
流星は目に涙を浮かべながらも這うようにしてモータードから距離をとる。
「大丈夫ですか☆」
「大丈夫なわけあるかよ……。絶対折れた、これ絶対折れてる……」
「不安定な姿勢からの裏拳の威力なんてたかが知れてますよ☆」
「だったらお前も食らってみろよ! 超痛いよ!」
「わたしがあんなの当たったら砕けて死んじゃいます☆」
「そうだね、ごめん」
会話を打ち切り、戦闘に意識を集中する流星。といっても素手では心許ないので近くに落ちている程良い長さの棒きれを拾う。
「ひのきの棒を手に入れましたね☆」
「十中八九ひのきじゃないけどな」
異星人を相手にするには頼りない武器だが何もないよりはマシだ。それに、とある映画ではバットで宇宙人を撃退するシーンがあったような気がする。加えてこの長さの棒であれば以前のようにスポークに棒を挟んで相手の動きを止めることが出来る、と流星は考える。しかし、相手もそれを危惧しているのか、膠着状態が続く。
流星達の後ろでは激しい戦いが繰り広げられている。流星はハコとCPの様子が気になり、ちらりと視線を動かす。
その刹那。
一瞬の隙をついてモータードが駆ける。流星はそれに気付くが、最早逃げることは出来ない距離に詰められている。流星の心臓はドクドクと急激に脈打つ。それでもどこか冷静な頭、流星は握った棒でスポークを狙う。
「同じ手が! 通用すると!」
モータードが走り込みながら一度ぐっと体を屈ませ、バネのように跳躍、体を真横にするようにドロップキックに移行する。流星の持っている棒ではスポークに届く前に相手の蹴りが当たってしまう。
「あだっ!」
流星は相手の動きに反応出来ず、突き出すはずだった棒を体の前で制止させていた。運良くモータードのドロップキックは棒に当たる。しかし、棒は粉々に砕け、その反動で流星は後方に吹っ飛ばされ、またもや無様に地面に転がる。ひっくり返った拍子に流星の口内にざらっとした砂粒が入る。
「流星さん☆ 逃げましょう☆」
戦局を見てスマ子がいち早く結論を出す。
「スマ子に賛成……」
棒が砕かれた時点で、流星の戦意も砕かれた。
流星は思う。何故俺がこんなことをしているのだ、と。成り行き上ゼントロンの戦闘に参加しているが、本来これは俺がするべきことじゃない。地球の一般的な高校生の手に負えることじゃない。ゼントロン達との短い生活の中で、少しの情が沸いてしまったのが悪かった。媒体にしている製品を諦めてでも、すぐに追い出すべきだったのだ。
「流星さん! しっかりしてください!」
スマ子が耳元で叫び、流星の意識が戻ってくる。
「今、弱い考えに支配されかけた……」
先ほど思ったことは、レイ達と出会ってから、流星の頭に何度か浮かんでいたことだ。きっとその考え通りにすることも出来ただろうが、そうしなかったのは……。
「そんなのはどうでもいいから逃げて下さい!」
尚も考えに囚われている流星の耳元で再度スマ子が叫び、流星の思考が邪魔され、意識が完全に戻る。
「わかったよ、さっさと逃げよう。ハコー! CP! すまーん! 俺は逃げる!」
他人を巻き込まないためにヴァイストロン達をここに遠ざけたのに、という苦々しい思いを抱えながら流星は足を校舎に向ける。
「じゃあねー! 死ぬなよー!」
ハコがゴリラに素早く拳を叩きこみながら軽く言う。
CPはカブと睨みあいながら片手を上げ、こちらに振る。
二人をちらりと見てから、流星は背を向け全速力で走り出す。俺は逃げてばかりだ、という思いを振り切るように。




