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大剣のアリスティア  作者: 雉子谷 春夏冬
第一章「神様は赦してくれない」
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第二話(楽しみだったことは否定しません)・5

心底気味悪そうにナナシが指差す先は、2人の少し後ろをまるで生き物のように自走して付いて来るアリスティア姫の行李が2つ。


「ああ、だって面倒じゃありません? 自分で引いたり押したりするのは。重いですしね」


 あっけらかんとした答えにナナシはがしがしと頭を掻いた。


「あーそういうことを聞きたいんじゃなくてさ、もーなんて言ったら通じるのか……。いや、まて詠術鋼ってことか!? あんな行李が!?」


「ナナシさんはやっぱり高度な教育を受けていますね? 宝石の事といい、詠術鋼という単語自体、貴族じゃないと知り得ませんよ。詠術師でない方は七英雄と言うでしょう。最もこの行李を見て七英雄を思い浮かべないでしょうけど」


 引き潮の如く、ナナシの顔から表情が消え、沈黙する。


「ナナシさんは、詠術に興味があるんですね!」


 はじける笑顔に、あるわけがないという言葉を飲み込んでしまうナナシ。


「これは詠術鋼でも七英雄でもありません。機工詠術です」


「きこう、詠術?」


 初めて耳にする単語に反応してしまい、その言葉を倣ってしまったことにナナシは顔をしかめた。姫の目があからさまに輝きを増したからだ。


「そう、機工詠術! 前時代にあったとされる機械工業という業と現代の詠術の融合です!」


 キカイコウギョウが何を指しているのかまるで検討もつかない時点で、ナナシは聞き流すことに決めた。


「へーそうなんだ」


「詠術鋼は今回の依頼のきもでもあるのに……。ナナシさん、聞き流そうとしていますね?」


 悪びれもせず、舌を出して応える。


「なにを勘違いしているのか知れないが、俺に学はねぇし、なれるわけでもない詠術師に興味あるわけないだろ。もっと現実的な話をしようや」


「現実的なお話……。と、仰いますと?」


「この先の話さ。あんたの言う通りなら、今心配しなきゃいけないのは神罰獣のほかはこの先の軍だろ」


 補給物資を運ぶ輜重しちょう部隊の荷は空ではないことをナナシは見ている。その先に展開している軍はいるのだ。


「この先にいる奴らの目的は神罰をくい止めることだろう。でもそんな奴らが、あんたを目撃したらどうなるんだ?」


「不審者扱い、ですかね。良くて亡命しようとしている貴族とその護衛、といったところでしょう。私たちをどう見るかは立場によって異なるでしょうけれど、どう見られたとしても、道を譲ってはくれないでしょうね」


「将校でも?」


「最後に私が公式に姿を現したとき、私の髪色は金色でした」


「は?」


「1年以上も前の話です。私、朝起きたら髪の毛の色が変わっていたんです」


「むしろどうやったら、その話を信じられるんだ」


「そうですよね。でも本当なのです。今でも思い出します。朝、私が起きあがっているのを見たクラリスが起きていることにびっくりして私に抱きついてきたと思ったら、この髪に気付いて、物凄い声で泣き出して。離れ中に響き渡たるかと思いましたよ。もっと静かに目覚めたかったのに」


 ナナシはこの話をどう受け止めればいいのか分からず沈黙する。もし本物を装うなら、今の話はむしろしないほうが都合がいい。


「黄金よりも輝く艶やかなる髪をもつ」


 興味が無さ過ぎてナナシは今の今まで失念していたが、流れてくる噂のアリスティア姫の容姿はそう讃えられていたはず。


「急に褒められると照れますね」


「いや、褒めたんじゃねえよ」


(あとあとアリスティア姫が金髪だったと分かった時の布石のつもりか? にしても言い訳が荒唐無稽すぎる)


「全部、本当のことですからね。言ったでしょう。私、嘘はつかないのです」


 ナナシは深くため息をついた。


「軍を率いるお偉い貴族でも、あんたをアリスティア姫だと認識できないってことか」


 ティアって呼んでって言っているのに、とかぶつぶつ文句を言う姫を目線で遮る。そんなに睨まなくても、と言いながら姫は話を戻した。


「将校なら頭ごなしに偽物と決めつけないでしょう。神器であるペンダントもありますし。でも王都に確認はするでしょうね。その間私は軟禁、あなたは」


「言わなくていい、大体わかる。ま、軍は避けなきゃいけねぇとは思ってた。問題は俺に土地勘が全くないってことだ。どうやって軍を避けて、狩師の集落へ向かうかが、全く検討もつかない。まさか戦闘地域を突っ切るわけにもいかねーだろ」


「我が国の方面軍が、戦闘教義通りに展開しているならば、必ず街道に布陣しています。神罰獣はより人が多い所へ群がる習性がありますからね。狩師に関係する街道ならば、有事の備えとして、軍が展開できる箇所を要所要所に設けてあります」


「それは初耳だな」


「少なくもとラティカでは、という話です。そして狩師の里は、街道沿いではなく山の、道とは言えないような道を通ってこそ辿り着けるのです。その道の辿り方は、彼ら自身を除けば、王族にのみ連綿と受け継がれています」


「途中、街道から逸れるのか」


 それならば二重の意味で好都合だった。軍にも補足されず、神罰獣もまた軍に引きつけられる。


「もちろん、神罰獣に遭遇する可能性は少なくないでしょう」


「ん?」


 ナナシは図らずも疑問の声をあげた。


「どうしました?」


「軍は神罰獣の被害をくい止めるために派遣された、で間違いないんだな?」


「そうですね」


「神罰に飲まれたのは、なんでわかったんだ?」


「北の狼族の神山が山火事になったと比較的近い農村から通報されたからです。そこから先遣隊が派遣されて発覚しました。それが?」


「あーあ、いやなんでもない。どうせ進めばわかることさ。当面心配しなきゃいけないのは神罰獣なわけだ」


「私の想定通りなら」


(どうやってあんたは狩師を皆殺しにしたのが、大剣使いだと知ることができたんだ?)

 その疑問をナナシは胸にしまう。


(俺にとって重要なのは、こいつの情報が正しいかどうかだけ。もし俺を騙して利用しているんなら)

 ナナシは背負う剣の柄をコンコンと叩く。


「どっちにしても、俺は剣でしか解決できない

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