表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/65

第二十八話

本章から技術開発は急速に進みます、この時代にこの技術進歩は余りにも早く あり得ないと思われる箇所が多々有ります、しかし痛快娯楽小説という観点で書いておりますので、細かい御指摘は御容赦下さい。

 誠二郎は踏鞴たたら製鉄炉を見ていたが心此所に在らず想いは昨年の激動の一年を振り返っていた、そのとき不意に熱気を感じ右手を見た。


右手にはキューポラが熱気を発し轟音を放っていた、その熱気に誘われるようにキューポラの前まで歩いた。


今キューポラ内ではコークスの炎で踏鞴より生成された銑や歩鉧・屑鉄が溶融され、空気により溶融鉄は還元反応し工作機械のフレームや各種鋳物部品に適した鋳鉄が出来上がろうとしていた。


そのとき横から声がかかった「御奉行、これより鋳型の組立を開始致しまするが御申し付けの鋳型修正が終わりましたゆえ確認を願い上げまする」との太田源三郎からの声掛かりである。


「よし分かった」と応え源三郎の後に続きキューポラ近くに設えられた型場へと向う。

型場では旋盤の鋳物部品を鋳込む大小様々な鋳型が所狭しと並んでいた。


大きなものは旋盤ベッドで、以下は主軸台・芯押し台・往復台・横送り台・刃物台・スクロールチャックボディ・面盤・各種ハンドル類の鋳型である。


鋳物は誠二郎の得意分野である、元世ではこれまで大きなものは船舶スクリューシャフト加工用の数十メートル級旋盤ベッド鋳型から特殊金属鋳型、またアルミダイキャストの金型まで一通りは設計と鋳込み立会など百回以上は経験し自らをベテランと自負していた。


しかし鋳物図を描きそれに基づき木工職人に木型を造り、いざ砂型造りにかかった時点で はたと鋳砂調達に窮してしまった、いくらベテランと自負していても鋳砂のノウハウまでは熟知していなかったのだ。


誠二郎が勤めていた工作機械メーカーでは鋳砂はこれまで蓄積された膨大なデーターから適切な配合量が決められ、鋳込む物の種類に応じ鋳砂表から「何号砂」と選択すればそれでよかった、しかし今は何号砂を下さいと言っても誰も出してはくれない。


鋳砂は通常山砂、珪砂、粘着剤、添加剤を用途に応じ配合し砂処理機によって調合処理される、例えばケイ砂40%、山砂20%、古砂15%、粘土10%、ベントナイト4%、石灰粉1.5%、ピッチ粉1.5%、水分8%といった配合具合だ。


また山砂は志摩1号・津2号といったように産地によって化学成分や粘土分布も異なり、珪砂も知多1・三河6といった具合で同様である、依ってこれをどういった配合率で混ぜたら適正な鋳砂が出来るかは工作部鋳物課鋳砂係のノウハウに依るものだった。


以前の技術管理の誠二にとってそんなノウハウなど知るよしもない、だが知らないと言えばそこから先には進まない、ゆえに今の誠二郎にとっては一か八かの砂選びになってしまう。


元世では何十回と鋳砂を見た、また手で触り口に含んだ経験もあった、それを頼りに山砂を選択するより他はない、山砂とは珪砂と粘土鉱物との混在物で本来はそのまま あるいはわずかに粘結剤を調節する程度で型砂として使用出来るものだ。


よって良質の山砂ならそのままあるいはわずかな処理を加えるだけで使用は出来る、誠二郎は正月明けから近隣の山を歩き露天に砂層を見つけると採取し良質と分かれば職人を呼んで掘らせた、そんな日々が二ヶ月も続いた頃 中津から四里北の八面山南山麓に良質な砂層を見つけた。


誠二郎はすぐに人夫を呼び大八車に満載すると製鉄場へと持ち込んでふるいに掛けた。

それに粘土と水を混ぜ混練し、あの手触りの感覚を得るまで何度も調合を繰り返しようやく納得する鋳砂を造り上げたのだ。


そして大小のダミー木型を造り実際に砂型を造った、結果は造形性に優れ中子も多少の振動では型崩れもなくその保持性も充分と感じられた、これにより早々に注湯作業に入ったが…粘土質過多であろうか通気性が悪く、注湯と同時に多量のガス体が発生すると鋳物巣やガス吹かれなどの不良部が各所に生じた。


このガス体の正体は水蒸気や砂に含まれる有機成分が原因だ、ゆえに鋳砂の砂洗いと粒度・粒形・粘結剤・水分量、そのほか型締めの圧加減を調整すればガス抜け改善は可能と考えた。


二回目の試作は砂篩の目を変え、粘結剤の粘土分を減らし水分量も僅かに減らし再チャレンジした。

すると先より格段に改善したが依然薄肉部や角部表面層に巣や欠損が残った、誠二郎は根気よく試作を繰り返し五度目のチャレンジでようやく満足する鋳砂を作り上げたのだ。


いまその砂型が鋳枠に固められ目の前にあった、昨夕この鋳型を見たとき湯上がり・ガス抜きの施工位置が若干気になり変更を頼んだ、誠二郎はその変更部を細かく点検していった。


それは湯溜まり・押し湯の容積・肌砂の硬さも納得のいくものだった、誠二郎は太田源三郎に向かって「これならいいだろう、上下砂型と中子を慎重に組み合わせ鋳込んで下され」と言った。


「分かりもうした、ではこれより組み上げ注湯作業に入りまする」と緊張した面持ちで応えた。


「でっ、注湯は何時頃になりもうそうか」


「はっ、この分であれば…そうですなぁ、夕七ツ頃になりましょうか」


「分かった、ではその頃に又来る事にしよう、では頼んだぞ」と太田源三郎の肩をたたき鍛冶場に向かった。


鍛冶場では現在三人の鍛冶が赤熱した鉄に槌を振り下ろし火花を散らしていた、その一人の肩越しに成形途中にある工作物を見た、それは荒巻きされ沸かし付けが済んだ長尺管に帯鉄を葛巻かずらまきにしている最中だ。


鍛冶は火鋏で器用に長尺管を掴みながら帯鉄を螺旋状に叩き込め、定期的に長尺管に装填された真金(銃口径維持棒)の左右を軽く叩いて焼き付きを防ぎみるみる内に葛巻を進めていく、誠二郎はいつもながらその見事な手筋を感心しつい見とれてしまった。


誠二郎に気付き鍛冶らが振り返った「あっこれは御奉行殿、見回りご苦労様でござる」と立ち上がって一礼したのは鍛冶の作左右衛門である。


「これこれ作左右衛門殿、帯鉄が冷えてしまう作業を進めて下され」そう言うと、作左右衛門は恐縮するように座り、工作物を炭の中にごそごそと入れふいごを漕ぎ出した。


「作左右衛門殿、いつもながら貴公の手並みには感心する、して その銃身の鍛錬は今日中に終わりそうかのぅ」と聞いた。


「へぇ、あと半時ほどで葛巻と沸かし付けを終え 外径を真円に整え申す、そうですなぁ昼八ツ半には仕上に回せるかと、それと強力歩兵銃と申しましたかのぅ、その銃身ならば二日前に仕上班が引き取りに来ましたが」と振り向いて応えた。


いま作左右衛門が造作しているのは重機関銃の銃身で、「ブローニングM2重機関銃」を模したものである、これは以前 佐八郎が短機関銃(MP5短機関銃)は重量も軽く銃身も短いゆえ火縄銃より携帯し易いが…出来れば重量など犠牲にして破壊力と有効射程の長い銃も欲しいものよとボソっと洩らした事が有り、それに応えるつもりで試作を進めている銃である。


誠二郎はこの数年で量産する銃火器は既に決めていた、その内訳は9x19mmパラベラム弾が使用でき、現在完成をみている短機関銃(MP5短機関銃)と将校携帯銃(ワルサ-P38拳銃)それと歩兵小銃であった。


しかし佐八郎が洩らした本音から、先月新たに大型銃で12.7x99mm NATO弾を使用する強力歩兵銃(バレットM82ライフル)と重機関銃(ブローニングM2重機関銃)の二機種の試作を始めたのだ。


佐八郎が9x19mmパラベラム弾では威力が低いと言うから意地になり 高威力弾を撃てる銃を造ってやろうじゃないのと若干は思ったのかもしれない、しかし一気に飛躍しすぎたかと思うもこの時代の火縄銃では12.7mm口径などは小径の部類に入り、15~20mm口径が当たり前の時代であった。


バレットM82ライフルとは米国バレット・ファイアーアームズ社が開発・製造している大型の狙撃銃で、模したライフルは機関部を若干簡素化し造り易く設変した程度で殆どは丸写しに近い設計で銃名も「強力歩兵銃」とした。

その仕様は、銃身長:二尺四寸(727mm) ライフリング:六条右回り 装弾数10+1発

作動方式:ショートリコイル式 全長:四尺七寸(1,424mm) 重量:三貫半(13kg)

発射速度:32発/(セミオート) 銃口初速:850m/s 有効射程:2,000m

因みにスコープはこの時代レンズが無いため取付の見通しは立ってはいない。


またブローニングM2重機関銃は米国のジョン・ブローニングが第一次世界大戦末期に開発した重機関銃で信頼性や完成度の高さから現在でも世界各国で生産配備が継続されている火器である。

これも殆ど丸写しの設計で銃名は「重機関銃」とし その仕様は以下の如く。

銃身長:三尺八寸(1,151mm) ライフリング:八条右回り 装弾数:ベルト給弾(1帯100発) 

作動方式:ショートリコイル式 全長:五尺四寸(1,636mm) 重量:本体10貫(37.5kg) 

発射速度:700発/分 銃口初速:880m/s 射程:2,000m(有効射程)・6,000m(最大射程)


以上の如くその弾の初速はマッハ2.5の超音速で有効射程も9x19mmパラベラム弾の十倍ほどもあり威力もパラベラム弾使用の銃とは格段の開きがあろう。


しかしこの威力格段の差は銃の耐力に跳ね返ってくる、薬室内の猛烈なる爆発応力に耐え機関部も恐ろしい衝撃に耐えねばならない。


それには踏鞴製鉄法で造った不純物の多い銑を作左右衛門がどれほど上手に脱炭したとしても所詮勘に頼る製鋼であり、うまく焼き戻しを行っても粘さは不確実で破壊する危険性は非常に高い。

(出来た試作品は遠隔操作で試射しないとヤバイだろうな…やはり転炉を急ぎ築炉し 優れた鋼を何としても造らねば…)と誠二郎は思った。


鉄鋼材料に限った話ではないが「硬さ」と「粘り強さ」の両立は難しく、一般に硬い材料は強い衝撃を受けると脆く 折れたり破壊してしまう、反対に粘り強い材料、靭性じんせいとも言うがこういった材料は一般的に柔らかく衝撃には強いが硬さが足りず耐磨耗性は低い。


ゆえに折れずに良く斬れる、つまり粘さと硬さの両方を兼ね備えた日本刀が優秀とされるのは鋼材の使い方とその熱処理法が優れているからだ。


日本刀のごとく炭素量の異なる二種鋼材の混成と優れた熱処理技術で硬く粘い日本刀は生まれるのだが、では銃器も同様の手法で製造すれば摩耗・爆発衝撃に強い銃身・薬室は出来るであろうか。


火縄銃の銃身を造る方法は、赤熱した短冊板を心棒に巻きつけパイプ状にし、その継目を沸かし付けという手法で接合、次ぎにパイプの外周を赤熱した帯板で螺旋状にグルグル巻きにし、巻き終わった外周を沸かし付けてから叩いて六角形や円形に成型し銃身は出来上がる。


ここで短冊板を玉鋼にし帯板を包丁鉄にすれば弾が擦れ通る銃口内面は硬く摩耗に強い、また銃身外皮は螺旋巻の包丁鉄の粘さに包まれているため爆発圧(内圧)に強い、また焼刃土の塗りは日本刀と同様に銃口内は薄く銃身外面には厚く塗る、そして赤熱し冷水に浸けると同時に銃口内に勢いよくポンプで冷水を流し込み水蒸気泡を高速排出すれば日本刀と同様の焼入れ効果が得られよう。


だがいざ量産となったらどうだろう、今でも火縄銃の銃身造りに鍛冶はその仕上げまで十日を要するという、ましてやライフリングを切り熱処理を施しラッピングまでするとなれば二十日以上は係ろうか、とても量産には向かない工法と言えよう。


そこで登場するのが肌焼鋼・強靭鋼だ、肌焼きというのは日本刀の硬さと粘さを両立させるのと同様な熱処理が生かせる材料である、つまり鋼材の表面だけを硬度を上げ芯の部分は生材の粘り強さを残しておくことが出来る熱処理材料のことである。


しかし肌焼き鋼の多くは硬度と粘さは両立するが、ただどちらかの特質だけを極めた鋼材 (例えば硬さのSK材や粘さのS10C材)には及ばない、しかし両者のバランスをとった合理的な鋼材の一つと言えよう。


「肌焼鋼」にはSCM415、SCM420(クロームモリブデン鋼)などが有り、Cr鋼にMoを添加することにより機械的性質が改善され肌焼きに適した合金鋼になる、但し低炭素鋼であるため靭性は高いが焼入硬度は低い。 (SCM415の下二桁は炭素量を表す15→0.15%)


そのため「浸炭焼入れ」という肌に炭素を浸み込ませる特殊焼入れがある、この焼入れは浸炭炉という炉で木炭粉と共に焼入れ対象物を密閉し加熱することで発生する一酸化炭素が炭素源になり これが対象物の肌に浸み込んで硬度を上げていく。


但しこの方法は簡単ではあるが加工品質にばらつきが有り、特に細長い銃口穴全域を浸炭するのは難しい、ゆえにこの固体浸炭法は現世では廃れ、代わりにプロパンガス:23.1%CO、ブタンガス:23.5%CO を吹き付けるガス浸炭法が主流になっている。


また「強靱鋼」はSCM435、SCM440などが有り、肌焼鋼と同様Cr鋼に少量のMoを添加することにより軟化抵抗が増し、含有する高炭素により焼入れ硬化は高く適切な焼き戻しで優れた強靭性が得られる、そのため硬度を上げ靱性を高める材料として最も多く使用される合金鋼であろうか。


しかしいずれもレアメタルである遷移元素Cr・Moをこの時代にどうやって得るかにある、今試掘り中の鉄鉱山にも寡少ながら存在していようが、それらを採取精製する方法が誠二郎には分からなかった。


このようにいくら優れた材料を知っていても添加剤が生成できねば画餅に過ぎない、誠二郎は考えあぐねた末「構造用炭素鋼」へと辿り着いた。


この炭素鋼は硬度・靱性は先の二種の合金鋼に比べ劣るが、Cr・Mo元素は必要とせず含有炭素量の調整次第で造る事が出来る。

中炭素鋼(S28C~S48C)は焼入れ焼き戻しにより強靭性が増大するため銃の諸部品に使える、またS40C~S48Cは高周波焼入れにより表面だけ硬化させ、疲れ強さを高める効果も有り、磨耗・靭性度も高い。


そんな想いから合金鋼はひとまずあきらめ量産火器材料は構造用炭素鋼でいこう考えた、先の合金鋼の焼入実用硬度はロックウェルCスケールで60°構造用炭素鋼は50°その差は10°、これに対し弾の被甲は銅のためその硬度は余りにも低い、であるならば硬度50°もあれば充分すぎると思えてきたのだ。


そうなると局部のみを表面硬化させる高周波焼入機(高周波発生コイル)が欲しいところ、この装置を作る電気技術は誠二郎にはあった…しかし肝心要の電気が無ければ話にならない。


(はぁ…ようも次から次へと課題ばかりが…発電はいずれやらねばと思っていたが、こうも早くに来るとは思わなかった、そうとなれば発電機が出来るまでの間は構造用炭素鋼を素材調質にとどめ硬度はHRC23~32程度で使用するか…まっそれでも錬鉄より機械的性質は数段上だろう)

それ以降 製鋼はそっちのけで発電の事だけで頭の中が一杯の誠二郎であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] この時代の日本にない耐火レンガが知らない間に作られていて、材料やなぜ作ったのかという理由が無いとも思ったけど正直どうでもいい部分なのでスルーしてもらっていいかとは思うけど気になった。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ