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第十三話

 洗い場で食器を洗うと部屋に上がった、しかし四半時も過ぎようというに治兵衛は帰ってこない、(まいったなぁ)さぞ佐八郎殿が首を長くして待っているだろうと気が気ではない。


仕方なく白綿布の巻物を行李こうりより出すとその巻物から十尺分の綿布を切り出した、次いで綿(わた)も両手一杯ほど千切ると麻糸で綿がほぐれぬよう巻き縛り それを持って台所に戻った。


ちょうど釜の湯は煮え始め、棚の糠桶ぬかおけから二掴みほどの糠を巾着袋に入れた、その口を引き絞りそっと釜に漬け込む。


湯が白く濁ったのを見計らい用意した綿布と綿わたを釜へ放り込む、かまどの火を弱火にし棒で釜内の綿布と綿を掻き回したり突っついたりしながら治兵衛の帰りを待った。


次第に綿布と綿は白くなっていく、やがて脂が湯面に浮いてきたのを見て誠二はこの時代に落ちなければ一生 ガーゼや脱脂綿など作ることはなかったろうと苦笑しながら額の汗を拭いた。


頃合いを見て隣りの煮えたぎった釜に綿布・脱脂綿を絞って移しかえ再び棒で突っつき始める。


それらを釜から上げ薬房外の物干し竿に吊るし始めた頃 昇華院の西角に肩を落とした治兵衛がとぼとぼ歩み寄る姿が見えた、遠目にも落胆が見てとれるほどの歩き方だ。


「白兵衛、どうやらおみゃぁが鉄炮を作る羽目になったんは儂のせいらしい、久右衛門様曰く おぬしが入らぬ事を儂の耳に入れるからこうなったんだ、以後陰口をたたくんじゃないと怒鳴られちまった…。


散々待たされたあげく訳も分からず叱責しっせきを受けるなんぞ儂しゃぁ何が何だかはさっぱり分

からんわ、久右衛門様はお前のことで知っとること全部話せちゅうから喋ったんだろうに何んで儂が叱られんといかん、もうやっとれんわ!。


おみゃぁもおみゃぁだ、大工のくせしてなんで出来もせん鉄炮なんぞ出来ると言ったんだ、久右衛門様を欺すのはおみゃの勝手かもしれんが おみゃぁの悪行状で弦斎様まで連座ちゅうことになったら腹切ったぐりゃでは済まんのだぞ。


ふん、まぁ鉄炮なと大筒なと好きなもん造りゃええがや…どおせ出来せんわ、ええか 言っとくが儂等に害が及ばんよう たったいま医療班からは除籍じゃ、じゃからおみゃぁはもう戻ってこんでええ!、鉄炮組なと何処へと勝手に行きゃぁがれ!ええか二度と帰ってくんなよ!」

そう言うと荒々しく草履を脱ぎ散らかし部屋に上がって戸を閉めてしまった。



 誠二はコソコソ荷物を纏めると治兵衛がふて寝する寝所に行き「治兵衛どの、お世話になりました…あのぅ、この鉄炮は貰っていってもいいでしょうか」と小さく声を掛けた、だが治兵衛は布団から顔も出さず「おみゃぁなんぞにやるか、そこに置いてさっさと消えやがれ!」と言ったきり狸寝入りを決め込んでしまう。


白兵衛は仕方なく磨き込まれた火縄銃を治兵衛の枕元に置き、立ち上がるとさも惜しそうに銃を振り返りつつ寝所を出た、そして勝手場の火を始末すると手荷物を抱え外に出た。


たたき出されるくらいなら鍋に残った粟飯全部食ってやればよかったと 意地汚く悔やみながら二番組の組詰所に向かってとぼとぼ歩きだした。


(錆付いた火縄銃を磨いてやったのに、お前にやると言ったくせに今になってお前なんぞにやるか!消えやがれと偉そうに怒鳴りやがった…しかし死ぬほど殴られるかと覚悟していたが幸い殴られずに済んだは儲けもの、はぁしかし鉄炮組は俺を歓待してくれるだろうか…)


鉄炮二番組の詰所に着いたのは朝四つ半(十時半)を過ぎていた、詰所入り口で案内を請い早々に部屋に通されるとその小さな部屋は十数人もの人々で溢れかえっていた。


誠二はギョッとしその人々を見つめる、すると奥から佐八郎が人を押し退け破顔で現れた。

「師匠!よう参られた、今朝方 配下の者を御迎えに上がらところ治兵衛殿にこっぴどく追い帰されたよし、こうなったら鉄炮組総出で押し出してやろうとこうして出掛ける支度をしておったのよ」と佐八郎は誠二の手を握ってきた。


「しかしまぁこうして無事おいでになられ喜ばしい限りですが、しかしなんで治兵衛殿が我が配下を叩き帰したのか…何かこみ入った訳など…」


「佐八郎殿、治兵衛殿とはちょっとしたことで一悶着ござりましてな それで遅うなりました、まっ薬房はそのことで御役御免になった次第で…ご迷惑かもしれませぬが今日からはここに御厄介を御掛け致しまする…」と言いながら集まってくれた鉄炮組の小頭らにも丁寧に頭を下げた。


「さぁ、こうして師匠も無事に到着された、これで押し出す理由ものうなったゆえ各々方はもう持ち場に戻ってくぬか」そう言うと佐八郎は十人ほどの小頭連中を追い立てた、しかしその中で三人ばかり席を立たない者らが誠二の方を見つめていた。


誠二は不審に思い三人に一瞥をくれると「この方々は?」と佐八郎に問うた。


「此奴らは肥前を出る際に鉄炮修理のため連れてきた鍛冶かじらにござるよ、いずれも国友や堺で鉄砲鍛冶の修行をおさめた黒田家きっての銃工匠たちで、手前より五郎太、作左右衛門、最後が鍛冶頭の太田源三郎でござります」


「ほぅ、昨夜申されていた銃工匠の方々ですか それは助かる、それがしは白兵衛と申しまする以後お見知りおき下さい」そう言うと佐八郎の正面に座った。


座卓の上には昨日誠二が描いた種々の銃断面や機関部の詳細図が描かれた半紙の束が載っていた、どうやら誠二が来るまでのあいだ佐八郎は既にあらましを鍛冶らに説明したようだ。


「師匠、治兵衛殿がえろうご立腹のよし、師匠が出て行くのがそんなに惜しいのでござろうか」と佐八郎が聞いてきた。


「いえ治兵衛殿が怒ったのは それがし今朝は寝坊をいたし昨夜衣笠様の件を治兵衛殿にはまだ話しておらず、それゆえ何のことやら分からずに怒った次第で、その後 訳を話しますと衣笠様が勝手に命を下すは越権行為とまたもや怒りだし昇華院まで出向いたようで、しかし返り討ちにあったらしくその腹いせにそれがしを放逐した次第で…」


「なんとまぁ了見の狭い奴、そんなもん放っておけばよろしい、師匠は我が鉄炮組で丁重に面倒はみさせていただくよって、それとその件で儂の上司の鉄炮奉行がご挨拶にこちらに伺うよし、既に衣笠久右衛門様から御奉行には移籍の通達が下されているようです」


それを聞いて誠二は安心した、一人分の食い扶持が増えれば組全体に迷惑が及ぶと懸念していたからだ。


「師匠、そんなことより暮れまであと二ヶ月と少々…この機関銃とやらは本当に出来るでしょうか」

衣笠久右衛門の前で 暮れまで造れると豪語し胸を張った張本人が不安顔で聞いてくるとは…。


誠二はやれやれと思いながらも「出来ねば我々は一蓮托生いちれんたくしょう御咎おとがめを受けもうそう、何としても作り上げねば…それにはまず火床(ほど)ふいごを至急何処かに設ける必要が…」


「それらならすでにこの兵舎の裏小屋に出来ておりまする、それと鉄炮造りの道具も一通り取り揃えておりまするが」


「さすが手回しのよいこと、ではすぐにも始められますな、さすれば後は材料ですが鉄材がそこそこ必要になりますが…使い物にならなくなった火縄銃の銃身などはうってつけと考えますが、さよう十丁分ほど有れば間に合いましょう、手当はできましょうか」


「なぁに十丁と言わず二十丁でも用意はできまする」


「ほぅ二十丁も、それほどあれば機関銃の四・五丁は何とかなりましょう、しかし佐八郎殿 大きな問題が有ります、銃は鉄と有能な鍛冶さえおれば何とかなりましょうが問題は弾なんです、今ここには黒色火薬しかありませんが、この火薬は機関銃には向きません」


「えっ、それはどういうことでござろうか」


「黒色火薬は煙が出すぎ十発も連射すれば前さえ見えないほどの煙幕となりましょう、それに五十発も撃てば煤や脂で機関は固まり糞詰まり状態になるのです。


故に無煙火薬が必要になり、それと雷管用の雷酸銀も造らねばなりません、それがし無縁火薬や雷酸銀の作り方は一通り知っておりますが…これまで造った経験などありません、ゆえに試行錯誤から暴発などの危険が伴い、ある程度の事故は覚悟しなければなりません」


「事故と言われますと死者が出るほどのといった事態でござろうか」


「どうでしょう、大量生産するわけではありませんから死に至る懸念は薄いかもしれません、しかし誤って暴発し指をなくしたり失明する程度の覚悟はしておきませぬと」


「師匠、我等は朝鮮にいくさに来ておるのですぞ、命をまとに戦うは当たり前のこと、指や眼を無くすぐらいの怪我が怖くて朝鮮まで来ましょうや、我等とうに死ぬる覚悟は出来ておりますわい!」


「その御覚悟が有るなら頼もしい、意気込みはようわかりました、では早速に始めましょうか。

まずはそれがしが機関銃の部品絵図を描きますので 図面が出来るまでのあいだ鍛冶の皆さんは薬莢の抽筒板や弾頭被甲を造る鍛造金型から始めて下さい」


「んん鍛造金型ですと…」鍛冶頭の源三郎が“何それ”といった感じに誠二を見た。


「はい、抽筒板と弾頭被甲の鍛造金型というのは…」と言いながら机上の半紙をめくり実包図を探し当てると「この薬莢後部の金具と弾頭被甲金物(メタルジャケット)を打出し成形する金型を言います」とその余白部に簡単に金型図を描き寸法を入れ始めた。


「雌型は二つ割りにしてタガで締め、雄型は大鎚で叩きこむとして…相手の銅の伸展性を考慮すれば三工程で完成形のこの鍛造寸法に成形出来まする、ゆえにそれぞれ三工程分の型を用意して下さい。


成形品質を一定にするため雄型にはこの様に案内と肩を設け、この肩が雌型の上縁に当たるまで叩けば誰でもが寸法通りの抽筒板や弾頭被甲を造ることが出来ましょう。


抽筒板と弾頭被甲の材料はいずれも一分五厘(5mm)厚さの焼鈍した銅板で、径は五分(16mm)のものを用意して下さい、金型が出来あがり次第 先の銅板寸法のもので実際鍛造し余剰が出るようでしたら適宜 径か厚みで調節して下さい…取り敢えず最低三百個ずつは欲しいところです。


以上のようにこの金型で実包部品を成形すれば寸法は全て金型に倣って均一寸法のものが出来ることになります、お分かりでしょうか」誠二は言い終わって源三郎に確認を取るべく眼を見つめた。


「ほぅ…これは凄い、よく解りもうした出来上がりの寸法はそれぞれこの絵図面に従いますよって工程毎の金型寸法はそれがしにお任せあれ、しかしこの椎実形弾頭被甲の中身は空っぽですが鉛を溶かして流し込むということでよろしいのでござろうか」


「源三郎殿、貴殿は分かりが早い そのとおりです!」

さすが佐八郎が名工と言うだけのことはあると、頼もしそうに源三郎を見つめた。


「そのほか雷管片口容器や発火金の金型なども必要ですので後ほど図面を描いておきます、それと“まきしの”や“もみしの”は言うに及ばず螺子も数種必要になりますゆえ工具の図面も用意しましょう」


「師匠、銃身は如何ほどの長さになりましょう、まきしのの長さを予定したいよって…」

今度は鍛冶の作左右衛門が殊勝にも白兵衛を師匠と呼んで聞いてきた。


「銃腔径は二分七厘と小径を考えておりますゆえ、銃身長は一尺(33cm)以下としましょうか」


「たった一尺…そんなものではひょろひょろ玉しか撃ち出せませぬが…」と疑問顔の作左右衛門。


「銃腔には締め代と施条を施すゆえ一尺もあれば充分でござろう、施条の効果は佐八郎殿より聞いて下され、また施条用の“削りしの”は螺旋切りとするため倣い模範は木工細工となりまする、ねじれ率は後ほど計算しておきますよって。


さて、今度は実包の方ですが無煙火薬と雷酸銀の製造は佐八郎殿の差配で二番組の火薬扱いに慣れた者に担当させて下さい、それと無煙火薬の製造には綿が大量に必要となりますのでその手配もお願いします、なお製法と配合比は後ほど書いておきますよって。


それと硝石や硫黄の樽などは中身を点検し、湿っているようでしたら天日で乾かして下され、なお薬莢造り用の和紙と巻芯の棒やうるしにかわなどは佐八郎殿が御手配下さい。


私の担当は絵図面描きですが、先に部品絵図を描きますよって…五・六日ほどは係りもうそうか、その後 加工と組立の順序絵図を描きまする、なお製造過程では手厳しいことを言うやも知れませんので今のうちに謝っておきましょう」と誠二は座卓に頭を押し当て皆に向かって礼を尽くした。



 部屋には誠二と佐八郎が残った。

「師匠、それがしが先日申した朝鮮・明連合軍の南下の件、あながち噂だけでは終わらぬようで…。

師匠はご存じないかも知れませぬが、明朝廷では遼陽の副総兵祖承訓(ズウチオンシュン)が八月に平壌での敗北を受け この度朝鮮を本格的に支援すべく兵部右侍郎宋応昌(ソンインチオン)を総指揮官に任じ 李如松(リィルウソン)を軍務提督とし明の中央勢力を朝鮮に派遣されることが決定された由。


一方明朝廷の兵部尚書石星(シィミン)は遊撃担当の沈惟敬(チェンウェイジン)を朝鮮に送り込み八月二十九日に平壌に残る一番隊の小西行長様と会談を持ちもうした、このとき沈惟敬は極めて低姿勢で日本に対し和睦ではなく降伏を請う姿勢を見せたと言います。


これにより五十日間の休戦協定が結ばれもうしたが…しかしこれはどうやら明軍の援軍派遣準備の時間稼ぎのはかりごとにあったと憶測が流れておりもうす…。


また北の咸鏡道ハムギュンドで朝鮮王朝に謀反した者らを二番隊の加藤清正様が登用し現地の支配をさせておりもうしたが、八月中頃これらが卑怯にも朝鮮側に寝返った由。


全羅(チョルラ)慶尚(キョンサン)忠清(チュンチョン)そして我等が侵攻平定した黄海(ファンヘ)京畿道キョンギドにも義兵が決起し、朝鮮政府軍と合同して各地で戦果をおさめつつあり、このままではいずれ明川(ミョンチョン)以北の地は朝鮮義軍の手に墜ちもうそうや。


また道南でも同様に反攻が始まり今や咸興(ハムフンを窺う勢いにあり、清正軍が孤立する危険性は非常に高いという噂さえ流れておりまする、これら朝鮮反攻の勢いからして明軍が加わるは必定、鴨緑江を渉り義州(ウィジュ)に侵攻する数万の明中央勢力に朝鮮政府軍や義軍が加われば平壌(ピョンヤン)を護る小西行長軍も風前の灯火と申せましょう。


もし行長軍が破られ平壌城を奪われたなら敵は当然漢城(ハンソン)を目指しましょう、さすれば通過路を遮る竜泉城・白川城・江陰城など黒田軍が護る三城などは敵の餌食になるは必定、それがこの暮れか年明けに迫っておるというのでござるよ」


「んん…そのような事態になっていたのですか、それがしのような小者などそのような大事はとんと耳に届かず安穏あんのんに薬房で暇を持てあます日々、普請頭の後藤様があのように焦る意味がようやく分かってきました、しかし佐八郎殿 よくそのような切迫した情報など…何処から聞かれたのか」


「それは役目柄付き合いも多いゆえ…まっ殆どは昵懇じっこんにしていただいておる御重役の栗山善助様や母里太兵衛様じゃがな」


「あの御二方と昵懇の間柄とは…これは恐れ入りました」


「クククッ、それは儂が勝手に言っとるだけで向こう様は何と思っておるやは知れぬがの、しかしこのことは当然衣笠久右衛門様も御存知のこと、いやむしろ情報通の衣笠様が出所と覚えまする、その危機に呼応するようなこの度の新式銃器造り…どうやら我等は衣笠さまにまんまとめられたのやもしれませぬなぁ…」


「多分そうでしょうね…」


「やはり師匠もそう思われますか、あの御仁はなかなかの曲者と栗山善助様も申されておりましたゆえのぅ…」


「佐八郎殿、まっ我等が勘ぐるは不敬でありましょう、それより本題に戻しましょうか」


「そうですな、では師匠 製造の優先順位は銃身か実包いずれにしましょうや」


「実包は二分七厘を今後の標準としたいゆえ実包を先に完成させましょう、機関部の薬室は薬莢径に合わせて嵌合かんごうで決め、銃腔径の調整は出来た弾頭に合わせて嵌合しましょうか」


「そうですな、では早々に薬莢の紙筒を造ってみましょうぞ、筒の肉厚は三厘(1mm)程度で造ってみまするが薄紙に漆を引きながらろうを塗った棒に幾重にも巻き付ける手法で宜しいか」


誠二はルガーやマシンガンに使われる9x19mmパラベラム弾を思い出していた、このサイズは造り易く撃ったときの反動も小さい、また薬室に掛かる衝撃応力も少ないと以前から考えていたからだ。


「製法はそれでいいと思いますが筒の肉厚三厘はちと厚すぎやしませんか、出来ればその半分の厚さが好ましく漆量を増やし出来る限り硬質な巻き筒として下さい、長さは五分(16.5mm)で御願いします」


「長さは五分で宜しいのか、わかりもうした ではそれがしは和紙と漆などの調達に出かけまするが…この部屋はこれからは師匠が心置きなく使って下され、それと本日の昼飯は麦の握り飯二個と具無し味噌汁となっております、米飯は当分出せませぬゆえ我慢して下され、後ほど兵にここへ運ばせまする」そう言って佐八郎は部屋を出て行った。


見渡せば部屋は八畳ほどの板の間で、隙間は所々に見られ夜はさぞ寒かろうと思えた、それでも今日よりは上げ膳据え膳で飯が食えるとなれば寒さなどなんのその嬉しい限りだ。


(さて、落ち着き場所はこれで決まった、後は進めるのみだが…しかし工作機械が何も無いときている、んん機関銃など本当に造れようか、銃工匠三人の腕はたしかに佐八郎殿の折り紙付きではあるが現代の仕上工ほどの腕前だろうか…いやそれ以上の腕がなければとても使いものにはならんが数日でその結果は出るだろう、まぁ今日のところはなるようにしかならんということか)


(しかし気付けば機関銃を造ろうとしている自分、おれは一体何をしようと目論んでいるのだ…

これら行為は明らかに時代の流れを狂わす行為、こんなことしていいのか…もう未来に戻る気は無いのか)


(いやあきらめたわけじゃない戻れるものならすぐにも戻りたい、しかしどう考えようが戻る術など無いじゃないか、だったら今やりたいことをやってやるさ、おれはいま銃が造りたいんだ、若いころ銃が造りたくて何枚も図面を引き新案構造も案出した…だがいざ製造となれば機械など会社に売るほど有るくせに銃刀法の縛りで手も足も出ず結局は銃砲店で買うしかなかったじゃないか。


だが購入した銃を撃ったり眺めたり、はたまた磨くだけではどうにも満たされず遂には密造してやろうと卓上旋盤や卓上フライスまで自宅に買い込んで準備した、しかしそのころ妻になる志津江を見初みそめめてしまった…。


長いあいだ忘れていた銃製造の願望…治兵衛の銃を磨いている最中に再びその想いが蘇った、そして押さえられぬ願望にあの夜は銃を抱きしめとうとう眠れなかった、あぁぁ銃が造りたい。


思えば数億円の工作機械を造るより数万円の銃を造る方が何倍もわくわくするのは何故なんだ…)


飢餓の怖れが薄れたからだろうか再びこみ上げる銃への想い、誠二はいま生きる望みをこの銃製造に賭けているようにも見えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 日頃より貴殿作品拝読させて頂いております。 時代考証、主人公の心理描写、登場人物の人間らしさにいつも読み応えを感じております。 この話も先が長いとは思いますが、最後までよろしくお願いいたしま…
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