帝都攻略作戦
多少のアクシデントに見舞われながらも、ヴォルテール公爵を撃破したラーズグロム達。
以降も戦線連勝を重ね、旗色を伺っていた貴族達も徐々に味方するようになり、兵力は当初の倍以上に膨れ上がっていた。
残るは帝都に入るのみで、やや離れた所に広がる平原のど真ん中に陣取ると、少数の幹部を交えた作戦会議を始めた。
「帝都まであと一歩というところまできた。こちらに協力する貴族が増えたお陰で、補給の方も問題ない。残る障害は帝都に残っている正規軍と騎士団、それから少数の貴族による私兵だけだ」
メガネをクイッと持ち上げ、これまでの経緯を振り返りつつメガロディウスが語る。
ヴォルテールの娘――キルレインを迎え入れた経緯は急速に広まり、敵対姿勢を見せていた貴族らが次々とラーズグロム派へと鞍替えし始めたのだ。
暗殺を目論んだ公爵令嬢を己の陣営へ迎え入れるなど、普通なら考えられない。
つまりは相当のインパクトがあったのだと言えよう。
「それに帝国民からの反発の様子は見られないんだよね? これなら戦後も安心だ。後は一刻も早く帝都を掌握しなくては……」
思わず熱くなる目元を押さえるラーズグロム。
彼が前皇帝を暗殺したという話はすでに風化しており、国民からすれば勝利した方を歓迎するだけ。
玉座に腰を下ろせば、晴れて新しい帝国が誕生するのである。
「ですがそこが最大の難所だと言えましょうな。ザファークは自分に従う貴族を帝都に呼びつけ、強固な守りを築いている模様。これにより帝都の兵力は我らの3倍近くにのぼり、さすがに勢いだけで攻略はできますまい」
一筋縄ではいかない現状を、神妙な面持ちをしたヴァレリーが告げる。
私兵を引き連れた貴族達の存在は、決して甘く見て良いものではない。
何故ならば、彼らが帝都に集まっただけで二倍だった兵力差が三倍に開いたのだ、何とか切り崩しを計らなければ勝利はあり得ないと見ていいだろう。
「メガロディウス、兵力差を縮める策はないだろうか?」
「物理的には可能だが、恐らく悪手だ。こちらの兵を民間人として紛れ込ませて内部から破壊工作を行うというものだが、国民の不安を煽ってしまうので民の心は離れてしまう」
せめて野戦であるならばその心配はないがと付け加えるが、わざわざ帝都から打って出てくるはずもなく、破壊工作は断念せざるを得なかった。
「このまま攻めても返り討ちは確実。せめて帝都の軍を分散させる方法があれば……」
メガロディウスが腕を組み、脳裏で策を組み立てては壊してを繰り返す。
他の面子も同様に思案するも簡単に思い浮かぶはずもなく、太陽が真上にきている時間だというのに真夜中のような静けさが天幕の中を支配する。
「待て、何者だ?」
「――――よ」
「確認を行う。しばし待て」
あまりにも静かすぎたのか、天幕の外で行われてた会話が各々の耳に届いた。
内容から察するに、部外者が訪ねてきたようだが……
「失礼します。ボルチェ殿の雇い主のアイリと名乗る少女が、ラーズグロム様を訪ねて参られました。いかが致しましょう?」
「ア、アイリさんが? すぐに通してくれ! あとくれぐれも粗相のないように!」
「か、畏まりました!」
最初はアイリを不審がっていた見張りが慌てて戻っていく。
ラーズグロムが生きてこれたのも、彼女の配下であるカズヨ達の助力があってこそだ。
本来なら落ち着いた後にでも礼を言いに伺おうと考えてはいたが、先に向こうからやってきた形になった。
「さ、先ほどは失礼しました。ラーズグロム様がお会いになられるとの事ですので、どうぞお入りください」
「うん、失礼するわね」
頭を下げた兵士の横から、庶民の娘と変わらない格好をした少女が天幕に入ってくる。
ラーズグロム以外の者がよく分からないといった顔を見せる中、とりあえず空いてる椅子に座ってもらい、簡単な自己紹介に移った。
「こうして会うのは初めてだけど、私が魔女の森にダンジョンを構えているダンジョンマスターのアイリよ。以後宜しくね」
「こちらこそ初めまして。僕は――」
「ちょ、ちょっと待ってほしい!」
アイリに続きラーズグロムが形式的に名乗ろうとしたところで、メガロディウスが割って入る。
「まさかキミがあのアイリーンのダンジョンマスターなのか!?」
「ちょ、顔が近っ――コホン……。確かに、私のダンジョンはアイリーンって名前よ」
「やはりそうか!」
身を乗り出して目を輝かせるメガロディウス。
アイリーンの存在は広範囲に広がりつつあるので、当然のように彼も知っていた。
これはヴァレリーやエボルガントも同じであり、同様に驚いた様を見せる。
そこで改めて、ラーズグロムの口からこれまで助けられた数々を語られるのであった。
「……なるほどな。彼女がついててくれるなら、これほど心強いことはない。だが……」
「問題は帝都の兵力だね……」
アイリという心強い味方を得たものの、再び一同は顔を俯かせる。
するとアイリの口から思わぬ言葉が飛び出す。
「あ~、なるほどね。それならいい方法があるわ」
「ほ、本当かい!?」
「ええ。すぐに依頼してくるから、ちょっと待っててね」
何かを思いついたアイリが転移により姿を消した。
何をするつもりなのかを聞きそびれた一同。
だが数日後、誰の目から見ても明らかな成果を目の当たりにする事となる。
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「陛下、オードリー伯爵から、軍資金と兵糧を融通してほしいと打診がきております」
「できないとハッキリ伝えろ。そしてさっさと登城しなければ謀反の罪で捕らえると脅しておけ」
「ハッ!」
「陛下、こちらはビルグーク侯爵からで、同じく軍資金と兵糧の打診です」
「騎士団を差し向けろ。ビルグークは狡猾だ。恐らく金と食糧を手土産に反乱軍に寝返るつもりだろう」
「ハッ!」
「陛下、レヌレクス子爵が疫病が原因で兵の多くが出撃不能だと――」
「疫病は去年で収まったはずだ。どうせどちらにつくか決めかねてるんだろう。御託はいいから帝都に来いと伝えろ」
「ハッ!」
ひっきりなし寄越される報告に追われ、さすがのザファークもやつれた顔を見せる。
ラーズグロムの軍勢が目の前に迫っており、慌ただしく動く貴族の思惑に影響されている形だ。
それらを何とか捌ききり一息ついたところで、傍らにいた本城直哉――に扮したクロカゲが、周囲に聴こえないようコッソリと耳打ちしてくる。
「苦労しているようだな。やはりさっさと始末すべきだったのではないか?」
「今さらだよ。詰めが甘かったのは認めるが、後悔したところで後の祭だ」
ザファークとしては、ラーズグロムの軍勢が疲弊し弱まったところで撃破しようと考えていたのだ。
しかし蓋を開けてみれば、弱まるどころか膨れ上がっているではないか。
この現状に思わず唇を噛んでしまうのも仕方のない事であった。
「今からでも取りかかれば、傷が浅くてすむぞ?」
「……まぁ、仕方ないか。ならクロカ――コホン。勇者本城に命ずる。混乱を来すラーズグロムを討ち、我が帝国に平和を――」
ゴゴゴゴゴ……グラグラグラグラグラ!
「じ、地震か!?」
「大丈夫か? けっこう大きいぞ?」
「いや、大丈夫のようだ」
「しかし最近多いような……」
突然地震が発生し近衛兵らが若干狼狽えるも、揺れはすぐに収まった。
(チッ、またアレが暴走してるのか……)
ザファークが心の中でぼやくと、クロカゲへと向き直る。
「本城、前言を撤回する。いつものやつだ」
「承知した」
渋々ながらラーズグロム討伐を取り下げ、別件を命じた。
(やむを得ん、ラーズグロムは後回しだ。まずはアレを安定させなくては)
先の地震に心当たりがあるザファークが、それを納めるのを優先させた。
(幸い帝都の守りは固い。さすがにこの状況で決戦を挑もうとはしないだろう)
ところがだ。
直後ザファークを揺るがす報が、舞い込んでくる。
「た、大変です、陛下!」
「落ち着け。貴族らの報告は後で――」
「いえ、そうではありません! グロスエレム教国が越境し、領内になだれ込んでまいりました!」
「な、なんだと!?」
この一報により、ザファークが玉座から飛び上がる。
グロスエレム教国は南西にある大国だ。
最近は国境間際も落ち着いており、侵略する動きは全くなかったのだが……。
しかし、ザファークを揺るがす報はそれだけではなかった。
「たたた、大変です、陛下!」
「今度はなんだ!?」
「ミリオネック方面にて魔物の大群が確認されました! 恐らくスタンピードだと思われます!」
「スタンピード……だと?」
先ほどとは別の兵がもたらした一報は、これもまた無視できない。
(クソッ、あまりにもタイミングがよすぎる! まさかラーズグロムは他国の勢力にまでコネがあるとでもいうのか!?)
「すぐに迎撃を命じる! 帝都の兵が半減するのもやむを得ない。グロスエレムの侵攻を阻止し、スタンピードを食い止めよ!」
帝都の守りに綻びが出始めた瞬間であった。




