子爵との再会
クライムの街から南の海を越えた位置にある王都トラッドギル。
ラーズグロム一行はガーミング伯爵の私兵に警護されつつ、城下にあるドミニク子爵の邸宅を訪問。
無事子爵と再会を果たすのであった。
「ラーズグロム殿、よくぞご無事で!」
「ありがとう御座います、ドミニク子爵。色々とありましたがガーミング伯爵の協力を得られましたので、こうして王都までたどり着くことができました」
再会の熱い握手を交わすと、今度は伯爵が子爵に頭を下げる。
「ドミニク殿、先日はすまなかった。情けない話だが息子を人質にとられ、やむ無くラーズグロム殿を捕らえたのだ」
「勿体無い、お顔をお上げください! こうして訪ねていただいたという事は、ご子息様はご無事で?」
「うむ。全てラーズグロム殿のお陰だ。彼と出会っていなければ、今も忌々しい連中の言いなりだったことだろう」
経緯を簡単に説明すると、ドミニク子爵も納得して頷いた。
元々ガーミング伯爵が平和主義者だったのもあり、子爵も不審に思っていたのだ。
しかしこれにて一件落着とはならない。
拘束したレモードルツ代官を連行し、登城せねばならないのだ。
「では失礼する。早く登城し、ワドムンド侯爵に会わなくてはならぬのでな」
ガーミング伯爵は長居をせずに城へ向かった。
現在のヤデランは領主不在のため、諸事情により城勤めをしているワドムンド侯爵に知らせなくてはならないのだ。
一方のラーズグロムも国王と謁見するつもりなので、もしかしたらワドムンド侯爵と顔を合わせることになるかもしれない。
「恐らくは近日中に登城することになると思う。それまではこの邸でしばし寛いでてもらいたい」
「はい、お言葉に甘えさせてもらいます。――そういえば、ダンジョンマスターのナレック殿の姿が見えませんが……」
「ああ、ナレックなら一度ダンジョンに戻っていったよ。長期間ダンジョンを空けるのも不用心だしね」
「なるほど」
なんでも来ようと思えばすぐに来れるらしく、ナレックはダンジョンで待機してるのだとか。
その辺は守秘義務があるのか詳しくは明かせないらしいが、国王との謁見が決まればすぐに駆けつけるのだという。
とにもかくにも日程が決まらなければどうにもならない――という事で、子爵との会話もほどほどに、一行は街中へと散策に出かける。
邸には夜までに戻るつもりだ。
「んん~、こうやってのんびりと散策するのも久しぶりよね~」
「久方ぶりだとは思うが、ジュリアが言うとどうにも説得力に欠けるな……」
「どういう意味!?」
人の疎らな大通りでジュリアが大きく伸びをする。
そして先の台詞によりフールに噛みつくのだが、このような光景も今やすっかり馴染みのものと化していた。
言うなればボケとツッコミ――コンビネーションは抜群といったところか。
「そういえばあの人達、いつの間にか居なくなってるでしゅね?」
「カズヨ達かい? 王都までの護衛が正式な任務だったから引き上げていったよ」
カズヨ達4人は王都に着くなり早々と姿を消したのだ。
その際カズヨからはまたねと言われたので、いずれは再会するのだろうと考えたが。
「あの串焼き美味しそう! ラーグ兄ちゃんもそう思うよね?」
「え? う、うんまぁ、食欲を誘ういい匂いだとは思うよ」
「だよね!? ――オジちゃん串焼きちょうだい!」
「あ、ジュリアにも寄越しなさい!」
一行の中で唯一変わったのがレシルだろう。
以前の彼女なら遠慮がちで口数も少なかったのだが、ここ数日は水を得た魚のように活発になったのだ。
追記すると、その理由は本人から直接聞いており、心なしか顔付きも凛々しくなったように思える。
(居場所か……レシルも頑張ったんだし、僕も取り戻すために頑張らないとな。あとカタコンベから救いだしたメッツもね)
以前に言われたジュリアからの側室要請はともかく、レシルとメッツはキチンと保護しようと心に誓うのであった。
「和んでるところ悪いが、尾行されているぞ?」
「え?」
ボソリと発したフールの一言により、一行の雰囲気が一変した。
「人間1人に獣人が2人。この反応は【貴人の密会】だな」
「やつらか……」
ラーズグロムは素知らぬフリをして歩き続けた。
こちらが気付いてないと思わせた方が都合がいいと考えて。
「……で、どうするのだ?」
不安材料を残したままだと後々厄介事になりかねない。
彼らとは命をやり取りしてる以上、いずれは決着をつけなければならないだろう。
「一度王都から出よう。街中で戦闘を起こしたくないし、人気の無い場所まで誘導すれば姿を現すと思う」
「まぁそれしかないだろうな」
頷くフールを頭に乗せたまま、さりげなく郊外へと足を向ける。
レシル達3人娘も後に続き、フールから念話で指示を受けたライザとリオンが後ろについた。
そのまま東門を出ると北と東には海が広がっており、南の森の中へと街道が続く。
この辺りは行き交う者が多いため敢えて森の奥へと歩を進めると、ご挨拶とばかりにダガーが飛んできた。
ガキィン!
「ようやくお出ましですか」
振り向き様にダガーを叩き落としたライザが口を開くと、そろそろ見飽きたと言いたくなる黒装束が姿を現す。
「うぃ。綺麗な姉ちゃんに誘われたとあっちゃあオジサン達も断れませんや。世間じゃ据え膳食わぬは何とやら――とは言ったもので御座いましょうが、オジサン達に言わせりゃそろそろ本命を頂きたいところでしてねぇ……」
ザルムスの目がラーズグロムに固定され、隠しきれなくなった殺気が一気に膨れ上がる。
どうやら誘導されていたのには薄々気付いていたらしいが、それでも襲ってきたという事は勝算があるのだろう、懐から怪しげな瓶をとりだした。
「……よっと、コイツぁちょいと特殊な物でしてね、一定時間極限まで身体能力を高まるっていうレアな代物でさぁ。これをグイッと飲み干しゃ――」
まさに実演という感じに、ザルムスを含む3人の構成員が一気に飲み干す。
すると殺気が更に倍増すると共に彼らの身体が徐々に膨れ上がり、一回りは大きな体格へと変貌を遂げた。
「ご覧ノ通りっテやつでさァ! 覚悟シテもらいやすゼ旦那ぁぁァ!」
ところどころ片言な喋りになったザルムスだが意識はハッキリとしてるらしく、真っ直ぐにラーズグロムへと突進してくる。
「――くっ!」
たまらずラーズグロムは横へと転がる。
体格はデカくなっても機敏さは落ちてはいない――いや、寧ろ増していると言ってもいいかもしれない。
「へへっ、このテいどはまだまだ序ノ口でさァ。他ノ面子もおたノしみ中ノ様子。旦那にァオジサンノお相いテしてもらいやすゼェ?」
他2人の構成員はライザとリオンが既に相手をしており、彼女達のフォローをメッツが行っていた。
「ラーズグロム、この二人は引き受けますから、貴方はザルムスを始末なさい」
「分かった、二人とも気を付けて!」
「フン、誰に言っている。我々よりも自分を気にかけろ」
口振りから大丈夫だろうと察しザルムスに向けて構える。
離れたところでは、フールが召喚したグレーウルフ達がレシルとジュリアを護っているので、こちらも心配はないだろう。
「いくぞザルムス!」
ラーズグロムが地を蹴り、真っ直ぐに向かっていく。
それを迎え撃つべくザルムスもいざ駆け出そうとする――が!
「ガルルル!」
「ちぃ、こっちにモいやがったカ!」
駆け出すすんででグレーウルフが飛びかかり、ザルムスの動きを妨害する。
その隙を逃さずラーズグロムが飛び上がった!
「くらえ、二天一流天地斬りぃ!」
ズバッ!
「グウォアァァァァァァ!」
頭からカチ割るように斬り下ろしを叩き込む。
血しぶきを上げたザルムスが倒れ――
――はしなかった。
「な、なんだこれは!?」
「今ノはちぃト痛かったデすぜェ? ま、秘薬ノ回復力にゃ敵いませンがねェ!」
「くっ……」
強靭な回復力により、みるみるうちに再生されていく。
数秒後には流血も収まり、斬られた黒装束だけが斬撃の後を残している。
「さァ続きト行きやしょうカ!」
首をコキコキと鳴らしたザルムスが、再びダガーを構え直した。




