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メロデロイス攻防戦

「敵はガーミング伯爵だ! 我が国に仇なす反逆者として儂が成敗してくれる! 者共かかれぇぇぇぇぇぇ!」

「「「おおおっ!」」」


 蒼天の青空にレモードルツとその兵達の声が(とどろ)く。

 メロデロイスの西門を前にしたヤデランの兵が、門を突破せんとカタパルトに乗せた石を次々と放り込む。

 撃ち終った頃には新たな石が追加されており、投石に途切れる様子はない。


「くそっ、このままじゃ不味い。早くカタパルトを破壊するんだ!」

「無茶言うな、重装兵がきっちりと盾でガードしてやがるのにどうしろってんだ!」

「なんでもいいからブッ放せ! 牽制してでも投石を鈍らせろ!」

「ダ、ダメだ、もたもたしてると外壁まで崩れる!」


 メロデロイスの守備兵が口々に叫ぶ。

 兵力差は勿論のこと、投石器を破壊できなければ勝ち目はない。

 叫んでる間にも一人、また一人と矢を受けて倒れていった。


「ヌァッハッハッハ! 見たかガーミング、これが儂の力であり、貴様との力の差だ!」


 一方的な展開に、腰に手を当て鼻高々な代官。

 このままいけばメロデロイス陥落は間違いなく、中に居ると思い込んでいるラーズグロムを捕縛するのは時間の問題だと考えた。


「レモードルツ様、南門や東門からは攻め入らないのですか? 包囲すれば向こうの士気も落ちると思うのですが?」


 部下の一人が進言を行った。

 兵力差を生かすなら包囲してからジワジワと攻め立てるのが得策と思えたからだ。

 代官そんな発言を鼻で笑うと……


「フン、戯けめ。この状況を見て分からんのか? 我らの勢いに敵は怯み、圧倒的に押しているではないか。ならばこのまま押しきってやればよいのだ」

「ですがまだ始まったばかりです。いずれは向こうも立て直し――」

「バカモン! 貴様の目は節穴か! 状況判断のできない奴がいちいち口を挟むな!」

「で、ですが……」

「くどい! 無駄口を叩くほど暇なら貴様も前に出て戦ってこい!」

「し、失礼しました!」


 再三による部下からの進言を代官は切り捨て、上手く連動しているカタパルト隊を労う。


「ウォッホン! 状況はどうだね?」

「ハッ! 効率よく成果を出せていると思われます。魔法士と重装兵の支援もあり、このままいけば西門を突破できるのは時間の問題と言えるでしょう」

「うむ、ご苦労ご苦労。そのまま続けたまえ」

「ハハッ!」


 状況は一目瞭然なのだが部下からの現状優勢な台詞を聞きたいがため、わざとらしく咳払いをして尋ねた。

 当然返ってくるのは先の台詞で、これにより満足げに頷いた代官は再び西門を見据える。


(クッククク……もうすぐだ、もうすぐ栄光が我が手中に……)


 代官は絶対の自信を持っていた。

 その理由はワドムンド侯爵が組み立てた戦略方式にあり、カタパルトに乗せる石に対して魔法士が硬化付与と速度付与を行うという戦略にある。

 これにより威力を増した投石が行えるようになり、カタパルトの前面を重装兵が盾を構えることで弓の半数を退けているため、守備側視点だと苦しい戦いになるのだ。


 しかしそんな自信満々だった攻撃側に陰りが見え始める。


「ギャッ!」

「おい、どうした? いったい何が起――グワッ!」

「ま、まさか狙撃か! いったいどこから――グフッ!」


 せっせと石を運んでいたカタパルト隊に弓矢が突き刺さったのだ。

 しかも一人だけじゃない、二人三人と立て続けに倒れていき、周囲に動揺が広がっていく。

 すると投石間隔がガタ落ちとなり、眉を潜ませた代官が近くの兵を呼び止めた。


「おい貴様ら、いったい何が起こっているというのだ!?」

「そ、それが遠くから狙撃が行われているらしく、カタパルト隊が次々と負傷しているようでして……」

「戯けがぁぁぁ! さっさと狙撃してるクソを始末せんかぁぁぁぁぁぁ!」

「は、はいぃぃぃ!」


 先ほどまでの穏やかなご老体から般若と化した代官が、顔を真っ赤にして激怒する。

 代官にしてみれば、華々しく飾る勝利に対して水を差す行為に他ならない。


「前列前進! 外壁の上にいる弓兵を叩け!」


 代官に唾を飛ばされた部下は、やむを得ず前進を開始させた。

 接近しなければ矢が届かないため、苦肉の策とも言える動きである。

 しかし彼らを待っていたのは、待ち構えていた守備兵による弓矢の洗礼であった。


「射て射てぇ! 門に近付けさせるなぁ!」

「「「おおっ!」」」


 投石が鈍ったところで何とか立て直した守備側が、お返しとばかりに弓矢の雨を降らせていく。


「く、くそぉ、これでは近付けない!」 

「確かに。こんなんじゃ弓を構える隙さえありゃしない」

「一度下がろう。このまま前進しても無駄死にするだけだ」

「け、けれど下がったところでもう一度行けって言われるだけじゃ……」


 前進した兵にも動揺が広がる。

 後方支援の途切れた今、前進すれば格好の的になるだけだ。

 だがしかし、そんな彼らを更に驚愕(きゃうがく)させる事態が後方で発生した。


 ボゥゥゥゥゥゥ!


「ヒィッ! カタパルトが炎に!?」


 突然カタパルトが炎上を始めたのだ。

 既に消し止めるのが不可能なほど燃え広がっており、隊員達は慌ててカタパルトから避難を始める。


「バカモノォォォ! 何をやっとるか貴様らぁぁぁ! 誰だ、カタパルトで火を使った奴はぁぁぁ!?」

「ちちち違います! 我々ではありません!」

「ならあの炎はなんだ! ()()()()()()()()で炎上を始めたとでも言うつもりかぁぁぁぁぁぁ!」


 炎上するカタパルトと共に、代官も顔にも燃え移ったように真っ赤になる。

 事実火矢は一度しか撃ち込まれておらず、それだけで炎上したとは考えられない。


「レモードルツ様、カタパルトが一機大破しました!」

「ぐぬぬぬ……残り2機で門を破壊しろ!」

「ハッ!」


 焼け落ちたカタパルトを放棄し、残りの2機で攻略を続ける。

 相変わらず隊員が狙撃を受けている中で投石を続行するのだが、なんと、再び射られた火矢により残りのカタパルトまでもが炎上し始めたのだ。


「クソォォォウ! いったい何がどうなっている! どうして簡単に炎上するというのだぁぁぁ!」


 ドガッ!


「ヒィィィッ! も、申し訳ありません!」


 地団駄を踏んで悔しがる代官が、通りかかった兵士を八つ当たりで蹴りつける。

 当たられた兵士――いや、その他の兵士を含めても、なぜこのような事態になったのかがまったく分からない。

 そこへ疑心暗鬼となった代官による次の一言が、更に混乱に拍車をかける。


「そうか、分かったぞ、この中に敵の工作員が紛れておるな! そうだ、そうに違いない!」

「し、しかし、メロデロイス側にそのような手を打てる隙はなかったかと――」

「ええぃ黙れ! 貴様はどっちの味方なのだ! さては貴様がガーミングが送り込んだ工作員だな!? おい、コヤツを捕らえろ!」

「そ、そんな!?」


 半狂乱となった代官の命令により、部下の一人を拘束してしまう。

 これが切っ掛けで代官を見限る者が現れ始め、メロデロイスへの投降が相次いだ。


 するとどうだろう。

 実に8割がメロデロイスへと下り、代官は味方であったはずの兵に囲まれてしまうのだった。


「な、なんだこれは!? 貴様らぁ、敵を前にして何をしておる!」


 いまだ威勢よく吠える代官であったが、兵達の台詞を聞いた途端、徐々に顔が青ざめていく。


「ふざけるな! テメェのおかしな作戦のせいで俺達ぁ散々だ!」

「なぁにが儂の兵だ! 俺達ぁワドムンド侯爵に従ってはいるが、テメェの兵になった覚えはねぇ!」

「そもそもメロデロイスを攻める目的からして馬鹿げている! 貴殿は代官の器ではない!」

「な、なな……」


 口々に不満をブチまけられた代官が、気迫に圧されて尻餅をつく。

 護ろうとする者も既に居らず、抵抗むなしくそのまま拘束されてしまった。


「き、貴様ら、こんなことをして只ですむと思っているのか? 今ならまだ――」

「うるさい! 只じゃ済まないのはお前の方だ! ワドムンド様にはキッチリと報告してやるから、それまではガーミング伯爵に捕虜として扱ってもらうんだな!」

「ままま待て待て、落ち着けお前達!」

「いいからさっさと歩け!」

「や、やめろ、やめてくれぇぇぇぇぇぇ!」


 これまで好き勝手にしてきた代官の転落が始まった瞬間であった。




 そんな代官が連行されていくメロデロイスでは、弓を手にしたレシルが周囲の兵士達によって勝利の女神だと崇められていた。

 窮地を救った彼女の功績は実に計り知れないものとなっている。


「ありがとう、キミのお陰だよ!」

「ああ、素晴らしい腕前だ!」

「え、ええっと……ありがとう」


 持ち上げられてアタフタとするレシルがやったことは、デールが指示した通りに矢を射る――只それだけだった。


 詳細はこうだ。

 デールが付与した風魔法によりレシルの弓は遠距離での狙撃を可能にし、遠く離れたカタパルトにまで届くようになった。

 更には矢に仕込まれた油が下地を作り、火矢を放った瞬間に燃え広がったのである。


「レシルちゃん、ラーズグロム君が戻って来たよ。もうすぐ東門に着くんじゃないかな?」

「ラーグ兄ちゃん!」


 駆け出す彼女の顔に悲壮感はない。

 居るのは新たな居場所を護ったという誇らしげなレシルであった。


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