策士メガロディウス
「僕がメガロディウスを引き受ける。二人は他の傭兵を! できれば殺さないように頼む」
言われるまでもないといった感じに、ライザは雑魚を捌きつつダルバへと肉薄する。
「オリァァァァァァ!」
ズガン!
だが目の前に巨大ハンマーが迫りヒラリと回避すれば、振り下ろされた地面が大きな陥没を起こす。
これを受けてしまえば、ライザといえど致命傷は免れない。
「せぃ!」
ガスッ!
「むむ!」
お返しとばかりに回し蹴りを当てようとしたが、上手くハンマーを盾にして防がれてしまう。
「お主、中々やるではないか! 大抵の者は恐れをなして儂に近付こうともせんわぃ!」
「でしょうね。わたくしとしても汗臭い男には近付きたくありませんので」
「何を言う! 湯浴みは月一で充分じゃ! 若い連中にはそれが分からんのじゃ!」
「っ! 今すぐ離れなさい、汚物!」
会話をやり取りしてる間も攻防は続く。
振り回されるハンマーを回避して死なないよう爪を当てていく。
途中ダルバのカミングアウトにより遠距離からの攻撃に切り替えたライザではあるが、如何せんダルバはタフだった。
ドワーフの身体能力考えれば当たり前なのだが、それゆえに手加減が難しい。
「ならばこれでどうです――アクアスプラッシュ!」
「グォォォォォォ!?」
勢いのある水弾をダルバ目掛けて撃ち込んでやった。
的の大きいハンマーを手にしているのもあり、ダルバは大きく後ろへと飛ばされる。
ここで勝機を見いだしたライザは手刀を打ちこんでやろうと背後へ回った。
「これで終わ――何!?」
「くそっ、避けられたか!」
しかし、突然横に現れた雑魚に斬りかかられ、即座に飛び退き回避する。
(おかしい……横にいたのに気配を感じなかった?)
結局ダルバも体勢を立て直してしまい、不可思議な現象に首を傾げながらも振り出しに戻った事を実感したのである。
ライザがダルバを相手取っている時、リオンは男エルフのナレーツと戦っていた。
「フリーズ!」
「ストーンバレット!」
「ヴァーチカルショット!」
「ロックキャノン!」
ナレーツが氷を撃ち出せばリオンは石の弾丸を撃ち込み、また貫通性のある水撃を行えば岩を投げ込むという撃ち合いが発生し、自然と周囲から傭兵達は遠ざかる。
「チッ、エリアフリーズ!」
「フン、サンドストーム!」
ズザザザザ――バシュゥゥゥゥゥゥ!
同時に広範囲の魔法を放ち、相殺されたところで互いに距離をとった。
「な、中々やるな。高貴なわたくしに食らいつくなど、凡人にしては大したものだ」
「肩で息をしておいて何をほざいている……」
どうみても強がりを言っているナレーツに、若干の哀れみの視線をくれてやるリオン。
そもそもリオンの魔力はBランクの魔物と同等であり、上位の魔法士であっても単独で戦うには無理がある強さなのだ。
それでもナレーツが生きているのは、リオンにより手加減をされているからに他ならない。
「! ――フッ、そろそろ本気で行くぞ!」
一瞬だがナレーツがリオンの後ろへと視線を逸らした気がした。
しかし他の傭兵の気配は感じられず、気にはとめなかったリオン。
「フン、何度やっても――グァッ!?」
突然背後から斬りかかられ、背中に浅く切り傷が浮かび上がる。
障壁が間に合わなければ致命傷だったかもしれない。
「貴様ぁぁぁっ! ゴッドファイヤーストーム!」
「ギャァァァァァァ!」
「グォォォ!?」
リオンの逆鱗に触れた傭兵は火柱によって焼殺され、ナレーツも巻き込まれる形でその身を焦がす。
「グゥゥ……後少しというところで……」
障壁を展開したものの、上位の魔法を防ぎ切れなかったナレーツが悔しそうに膝をつく。
そんなナレーツの胸ぐらを掴み上げたリオンは、先ほど起こった不可思議な現象を問い詰めた。
「貴様、さっきのはどういう事だ?」
「な、なんの事だ?」
「いきなり雑魚が現れた現象だ。まったく気配を感じさせずにどうやって背後に回りこんだのだ?」
「……シェマーシートだ」
「シェマーシートだと?」
観念したのか、ナレーツがあっさりと口を割る。
シェマーシートとは被せた対象を感知出来なくするマジックアイテムで、使用中に動かなければ効果は永続、動けば即座に切れるという使いどころが難しいアイテムだ。
「なるほど。仕掛けが分かればどうってことはない」
不可思議な現象の真相は、予めシェマーシートを被った傭兵が背景に溶け込んでいたのである。
ならばとリオンは動き出す。
「ファイヤーストーム!」
「「「ギャァァァァァァ!」」」
感知できないのならできるようにすればいいと考え、周囲を満遍なく焼き尽くしていく。
するとシェマーシートで偽装していた傭兵が火だるまになった状態で露になった。
(さて、こっちは片付いたな)
遠くに視線を向ければいまだにダルバやりあっているライザが確認できたため、すぐに移動を開始した。
「ハッ!」
「おっと――」
ガガガガガン!
ハンマーを盾にしたダルバがライザの飛ばした爪を防ぐ。
その隙に肉薄してダルバに手刀をいれようとするのだが……
「そこだぁ!」
「チッ!」
突然現れた傭兵により阻止されてしまう。
先ほどから同じような光景が繰り広げられており、殆ど進展がない状況が続いていた。
「しぶといですね……」
「ダーーァッハッハッハッ! タフな身体が俺の売りよ。お前さんもいい加減諦めな、綺麗な顔が傷物になっちまうぜ?」
「ご冗談を。それに貴方のようなムサイ男は売り物には適しません」
「ヘッ、男の価値ってなぁ見た目で決まるもんじゃねぇ。なんならお前さんに売ってやってもいいぜ?」
「いりません!」
ドガッ!
「――っと、いい蹴りだ。ますますお前さんを殺っちまうのは惜しいぜ!」
まだまだ余裕のありそうなダルバ。
このまま同じ状況が続くのかと思われたが……
「ファイヤーストーム!」
「「「ギャァァァァァァ!」」」
リオンが割って入ると一転、伏兵となっていた傭兵を一掃し、ダルバは孤立させることに成功した。
「リオン?」
「コイツらはシェマーシートという感知を掻い潜るマジックアイテムを使用している。それにより近くにいても気付かなかったのだ」
「むぅぅ、そういう仕掛けであったか。お陰で喉のつっかえが取れたわぃ」
何故か敵であるダルバに礼を言われたが、そこは敢えて気にしない。
「これで最後です!」
トスッ!
「くぅ……やるなお前さん……」
見事ライザが手刀を決め、ダルバは巨大ハンマーを手離し気絶した。
二人の強さに傭兵達も手が出なくなっていき、後はメガロディウスを残すのみのなる。
ガキン! ギギギギ……
「チィ、しぶといやつめ!」
「それはこっちの台詞だ。いい加減諦めろメガロディウス、お前では僕に勝てない」
「黙れ! 温室育ちの坊っちゃんが偉そうにほざくな!」
キィィィン!
鍔迫り合いを解いて互いに切っ先を向ける2人。
彼らの周囲はグレーウルフに囲まれており、他の傭兵からは手出しされない状態を作り上げていた。
「チィッ、まさかシェマーシートが役に立たないとは……」
最初こそ他2人のように苦戦を強いられたラーズグロムであったが、幾度となくグレーウルフが壁となり奇襲を無効化したのである。
結果傭兵は数を減らしていき、メガロディウスを遠巻きに眺める現状に落ち着いたのであった。
「剣を捨てろメガロディウス、僕はキミを斬りたくはない!」
「うるさい! 僕はまだ終わってはいないんだ!」
キィィィン!
「くぅっ……、メガロディウス、なぜそこまで……」
「お前には分からんさ、居場所を失った僕のことなんかはな」
「居場所を?」
「そうだ、我が家は常に武勲を示してきた。帝国のため、陛下のため、民のため、時には魔物を刈り時には暴動を鎮め、懸命に尽くしてきたのだ」
「…………」
「それがどうだ? 必要なくなった途端、我が家は目障りとばかりに罠に掛けられ、そして崩壊した。自国の誇りだと称えてくれた陛下ですら見て見ぬフリだ。――そう、我が家の居場所は既に無かったのだ!」
メガロディウスが語っているのは本当の事で、ムンゾヴァイスはなすがままに放置していたのだ。
結果イルニア家は没落し、メガロディウスは僅かな財産を持って姿を眩ました。
それから5年後、巷で活躍中の傭兵団のリーダーがメガロディウス本人であると断定され、現在にいたったのである。
「もう終わりです。おとなしく降参なさい」
「ドワーフとエルフはあっちで寝ている。後は貴様だけだ」
そこへライザとリオンも合流し、もはやメガロディウスには後はない。
「だが俺は――」
「すまねぇリーダー、あたしらの負けだわ」
「アルネーダ?」
「ごめ~んリーダー、この地味な女に負けちゃった~」
「レミューまで!?」
更に抵抗しようとしていたメガロディウスが、口を半開きにして剣を手離す。
彼の視界にはキッチリと縛り上げられた2人の仲間が写っており、自分以外の全ての幹部が敗北したことを意味していた。
「ちょっと目を離した隙にすぐ戦闘を起こすよねアンタらって……」
「ラーグもラーグよ。知らせてくれれば援護したのに――って誰が地味な女よ!」
ゲシッ!
「いった~い! 地味女に蹴られた~!」
アルネーダとレミューを拘束したのは、ノアーミーとカズヨの黒装束コンビだ。
この2人は冒険者に扮してメロデロイスに潜入した際に、うっかりラーズグロム捕縛を歩きながら口走ったため、偶然耳にしたカズヨ達によって即座に取り押さえられたのである。
「……俺の敗けだラーズグロム。さぁ、早く首を跳ねるといい」
メガロディウスは力なく跪くと静かに目を閉じた。
「ま、待ってよリーダー、何も首を差し出さなくたって~」
「そうだぜリーダー、降参しろって言われたのは殺さないためだろうが!」
「ダメだ!」
「「リーダー!?」」
アルネーダとレミューが説得を試みるも、彼は頑として受け入れない。
「敗者としてのケジメはつけねばならない。御家復興も叶わず、もう僕の居場所は残されていないんだ……」
全てを諦めたメガロディウスは、心なしか一回り小さくなったようにも見える。
そんなリーダーの背中を、2人の幹部は黙って見ている事しかできなかった。
「諦めるのか?」
「!?」
丸まった背中をビクンと跳ねらせ、メガロディウスは顔を上げた。
「僕は諦めてはいないぞ? 育った環境こそ違えど、僕もキミも居場所を奪われたことには変わらない。けれど僕は戦うと決めたんだ、バドラーゼやニースレイをのさばらせておくつもりは微塵もない」
「…………」
「僕は自分の居場所を取り戻す。もしも僕が無罪だと認められ、あの2人を断罪できた暁には、キミの――イルニア家の復興を手伝わせてほしい」
「ラ、ラーズグロム……」
引き込まれる感じがした。
それだけ目に力が籠っており、本気であることがメガロディウスへと伝わった。
「あの2人とぶつかれば、いずれ内乱に近い戦いが起こる。その時、是非ともキミの力を借りたいんだ!」
しばしの沈黙の後、決心がついたのかメガロディウスが顔を上げる。
「……分かった。この命、貴殿に預ける――最後まで足掻く貴殿に!」
「うん、ありがとうメガロディウス!」
すっきりした顔のメガロディウスが立ち上がり、残った団員に指示を出す。
アルネーダとレミューも拘束を解かれると、死んだ団員達を1ヵ所に集め出した。
「アンデッドにならないよう火葬してやるつもりです。彼らの冥福を祈るのも残された僕に出来る事の一つ。キチンと埋葬してから祖国に帰ります……」
焚き火で揺らめく煙を眺めてメガロディウスが呟く。
後に彼が力になると信じ、一行はメロデロイスへと引き上げていった。




