潜入! カタコンベ総本山
「なぁ、酒場での一杯を賭けて勝負しようぜ?」
「お、いいぜ。どうやって賭けるんだ?」
「これから交代までの間、ここを通るやつがいるかどうかさ。俺はいない方に賭けるぜ」
「よし乗った! 俺はいる方に賭けてやる」
すっかり日が落ちウェスタンシティにも夜が訪れ、スラム街の奥まった所にあるここ――カタコンベの本拠地でも、入口を封鎖してる見張り2人が交代の時間を待ちわびていた。
呑気に賭けを行ってはいるが、ここをカタコンベのテリトリーと知って訪れる物好きは殆どいないため、通過するのは同じカタコンベの構成員くらいだ。
そのため大抵は退屈な時間を過ごす羽目になるのだが希に一般人が迷い込む事もあり、その時は丁寧にお帰りいただいている。
「お前ら、交代の時間だ」
「しゃあ、俺の勝ちだ!」
「チッ、しゃあねぇな……」
ほどなくして交代の時間となり、髭の濃い中年男がガッツポーズを決める反面、細身の青年は悔しそうに舌打ちした。
勿論勝ったのは、通過する者がいない方に賭けた男だ。
「ハッ、あの野郎も可哀想にな。俺らが通過したのを知ったら悔しがるだろうぜ」
そう言って鼻で笑うのは獣人のハット。
彼の言うとおりラーズグロムを含む5人は、ノアーミーによる幻覚魔法によって堂々と見張りの前を通過したのである。
「そう思うんなら、あんた一人だけ姿を見せてやんな。お礼に一杯奢ってくれるかもよ?」
「冗談じゃねぇや。末期の水なんざ一滴たりとも御免だね」
「もう二人とも、真面目にやって。ここには侵入者避けの仕掛けが施されてるんでしょ?」
ノアーミーとハットと馴れ合いを止めたカズヨは、簡易的に作成した見取り図を手に先頭を走る。
それによると、パスコードが必要な場所が所々に設けられており、当然間違うと即座に罠が発動するようになっているらしい。
らしいといっても実際に発動したところを見たわけじゃないので、どんな罠かは不明だが。
「パスコードなら既に調べてあるぜ。けど問題は人質のほうなんだけどな」
「え? そ、それってまさか!」
まさかレシル達に何かあったのか?
もしくは拷問まがいな事をされたのかと不安にかられたが、どうやらそういった心配はないらしく、ハットは手をパタパタと振って否定した。
「そういうんじゃねぇから安心しな。ただちぃとばかし、人質を説得する必要がありそうだと思ってな」
「説得?」
「まぁ行けば分かる――っと、そろそろ最初の関門だぜ?」
ハットの曖昧な言い回しにラーズグロムは追及したかったが、一旦は奥にしまう。
時おり現れる構成員の脇をすり抜け、頑丈そうな石造りの通路をひた進んでいると、馬車一台がギリギリ通過できる大きさの扉が行く手を阻んだ。
左壁面には珍妙な小箱が取り付けられており、そこにパスコードを打ち込む使用になっているようだ。
「パスコードは問題ないけれど、他の構成員が周囲にいない時じゃないと開けられない。辺りは大丈夫?」
ノアーミーに言われ、他の面子が散らばって人気を探る。
幸いにして邪魔者はいないようで、各自でGOサインを送ってきた。
「了解。パスコードは――」
ノアーミーが手際よく入力すると、鈍い音を立てて扉が左右にスライドした。
「よし、次は突き当たりまで進んで右折。あとはこのまま進めば、捕らえた連中を監禁してる部屋に着くはずよ」
ノアーミーが扉の先へと足早に移動し、カズヨとラーズグロムもそれに続くと、カンマとハットが後ろを走る。
しばらく直進すると予定通り突き当たりに到達し、右の通路を進んでいく。
と、ここまでは予定通りだったが、レシル達が監禁されているであろう部屋の前にきて、足踏みをする事態に陥ってしまう。
「この扉はパスコードじゃ開けられねぇ。こりゃブラフをかまされたか?」
ハットが扉に張り付きくまなく探っていく。
しかし目の前の扉には、鍵穴もなければパスコードを打ち込む仕掛けも存在ない。
「……仕方ない。やるか?」
「まぁそれしかないかもなぁ」
カンマが言ったやるという言葉は、力ずくという意味合いを持つ。
つまり扉を壊すという事なのだが、やむを得ないとハットもそれに賛同した。
「しゃ~ない、ちょいと離れて――「そういえば、コレは使えないかな?」
改めてハットが指を鳴らしたところで、ラーズグロムが割って入る。
彼の差し出した手には、元カタコンベの構成員――ヴォイドから貰ったバッチが握られていた。
「カタコンベの構成員から入手した物なんだけれど、どこかに填める場所はないかな?」
「この形は――」
再びハットが探ってみる。
すると扉の中央付近に、バッチと同等の窪みがあるのを発見した。
「これか!」
パチリ!
見事バッチはピタリと填まり、ゆっくりと扉が開いていく。
するとそこには……
キィン!
「――っと危ねぇ、随分と物騒なお出迎えだな?」
飛んできたナイフを叩き落とし、行ったであろう相手を睨み付けるハット。
一方の相手は、真っ白で短い髪を下ろしたおかっぱ頭の女の子であった。
左右に角があることから、羊獣人だろうと予想がつく。
その奥にはレシルとジュリアが驚いた表情でこちらを見ている。
「レシル! ジュリア! 無事だったか!?」
「ラーグ兄ちゃん!?」
「ラーグ!」
再会を喜び近付こうとしたラーズグロムの前に、羊獣人が立ち塞がる。
見た目の年齢はレシルとジュリアに近い感じがする事から、二人が意図して逃げ出さないよう仕組んだものなのだろう。
「あ、あちゃいはメッツ。それ以上近付くな! 近付けばこの子たちの命は……」
そう言って震える手でナイフをレシルに突き付ける。
「メッツちゃん……」
そして怖がる素振りを見せないレシルとジュリアを見て確信した。
このメッツという子はソレを望んではいないと。
「大丈夫だから落ち着いて、ね? メッツちゃん」
「ほら、そんな物騒なものはしまって」
よしよしとメッツの頭をレシルが撫で、手にしたナイフをジュリアが下げさせる。
「ゴメンねラーグ兄ちゃん。あたし達が逃げちゃうと、メッツちゃんが殺されちゃうの。だから一緒にはいけない……」
「……レシル?」
「あ~ゴメン。右に同じで、ジュリアも逃げるわけにはいかないのよ。自分のせいで他人に死なれるのはね……」
「……ジュリアもか」
ハットが言っていた説得が必要だという意味をようやく理解した。
これもカタコンベが上手く仕組んだことであり、正直ラーズグロムとしても舌を巻く思いである。
だが彼としても彼女達を助けたいという思いに偽りはない。
「彼女達3人を助けたい。いいだろうか?」
「「「え?」」」
その台詞に彼女達は驚きの声を上げると、レシルとジュリア、それにメッツが一斉にラーズグロムへと視線を合わせた。
「僕は誰も見捨てたりしない。メッツ――と言ったね? キミも僕たちと一緒に来てほしいんだ。ここにいても殺されるだけ――なら一緒に逃げればいいじゃないか?」
「うぅ……」
ラーズグロムの説得を受け、メッツがハラハラと涙を流す。
元々孤児だったメッツをカタコンベが拾っただけに過ぎず、用が済めば消されるのを待つだけだったのだ。
「一緒に……行ってもいいの?」
「ああ、勿論。その方がレシル達も喜ぶ」
「あ……ありがとう!」
「ありがとう、ラーグ兄ちゃん!」
「うんうん、さっすがジュリアのラーグ!」
パァッと顔を輝かせたメッツが立ち上がる。
それに続いてレシル達も立ち上がるとラーズグロムに抱きついた。
「と、とりあえず落ち着いてくれ二人とも。色々と話さなきゃならない事もあるし、走りながら説明するよ」
ラーズグロムは簡単に経緯を説明する。
この街に来るまでにフールとはぐれた事。
ダンマスであるナレックの気転で自分達が捜索されていた事。
カズヨ達の助力を得てレシル達を助けに来た事――等々だ。
「フールがいないって、それ大丈夫なの!? 今のラーグって役立たずじゃん!」
「おいジュリア……」
言いたい事をズバリ言ったジュリアの一方で、ラーズグロムが青筋を浮かべる。
剣術ならそこそこの腕前なので、ある程度の自衛はできるのだ。
しかしいざ仲間を護れるかというと、フールやカズヨ達が居なければ無理だと言わざるを得ない。
やはり早めにフールと合流するのが望ましいだろう。
「もうすぐパスコード付の扉に着くぜ。そこまで行きゃ楽勝だな」
と、ハットが余裕をかましたその時だ。
カーン! カーン! カーン! カーン!
「な、なんだこの音は!?」
ハットが慌てて立ち止まると、他の面々も急停止した。
「こ、これは侵入者を知らせる音でしゅ。多分あちゃし達が脱走したのがバレたと思うでしゅ!」
「チッ、ハットが余計な事を言うからよ」
「おいおい、俺のせいかよ!」
メッツによれば、鐘を打ち付けるようなこの音は、本拠地内を索敵せよという知らせらしい。
すると間もなく、ドタドタと足音が接近してくるのに気付いた。
「でもノアーミーの幻覚魔法で私達の姿は見えないから――」
「それは危険でしゅ。非常時にはこの本拠地全体の魔法が無力化される仕組みになっているでしゅ」
「え!? それじゃあ――」
もし今、敵と遭遇したらどうなるのかと言いかけたカズヨ。
その答えは向こうからやって来た。
「いたぞ、あそこだぁぁぁ!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!」」」
血気盛んな男達が正面から現れた。
「やっぱりハットのせいじゃない。以前ボスが言ってたけれど、こういうのをフラグって言うらしいわよ?」
「わーーったよ! 俺が何とかすりゃいいんだろ!」
ノアーミーに責任を押し付けられたハットが、アイテムボックスから何かを取り出した。
よく見るとそれは、小型の大砲のようにも思える。
「こいつぁパンツァーファウストっつ~強力な武器でな、固い壁をも難なく吹っ飛ばせるらしいぜ? 結果はその目で御覧あれってな!」
ズドォォォン!
「「「ひぃぃぃぃぃぃ!」」」
肩に担いだソレを発射すると、撃ち込まれた天井にポッカリと穴が開き、そこから星空が見えていた。
それと同時に爆音で驚いた構成員たちが、揃ってその場で腰を抜かす。
「ヒュゥゥ♪ やるじゃないハット」
「ってかこの武器のおかげなんだがな。それより上から脱出するぞ!」
腰を抜かした構成員にトドメを刺し、屋根を伝って外へ出る。
そのまま本拠地を出て地上に降りたところで、厄介な相手が待ち受けていた。
「ガッハッハッハ! やはり来やがったか!」
「お前は……バニッシュ!」
「スピニーごときに捕らえられたと聞いたときは腸が煮えくり返ったがな。無様に逃げ帰って来たのを見て笑い飛ばしてやったぜ!」
戦斧を担いだ熊獣人――バニッシュが、一行の前に立ち塞がる。
見れば周りを大勢の獣人に囲まれており、戦いは避けられそうにない。
やむ無くラーズグロムは剣を手に取り、バニッシュへと切っ先を向けた。




