闇ギルド――カタコンベ
カタコンベ――それは近年チョワイツ王国にて急成長を見せ、かの【貴人の密会】と並ぶほどに名の知れた闇ギルドである。
彼らは複数の街を傘下に治めており、グアデラの街もその一つであった。
但し、グアデラにいた構成員の殆どは下っ端であり、その辺のチンピラと同等の戦闘能力しかなかったが。
「俺達は戦闘のプロだ。本部には俺と同等かそれ以上の奴が多くいる。アンタらが生きてられるのも今のうちだぜ」
薄ら笑いを浮かべながらヴォイドは言う。
複数を傘下に治めてるなら手慣れが多いのも頷ける。
「でも今のアンタが言っても説得力がないけどね~」
「……フン」
ジュリアの言う事も間違いではないが、今回はフールの方が一枚上手だった。
並の冒険者なら尾行されてる事も気付かずにアッサリと拘束されてたであろう。
「そういえば気になったんだけど、どうやって僕達にたどり着いたんだい? 目撃者はいなかったはずだけど……」
「フン、簡単だ。そこのジュリアとかいう小娘が、闇ギルドから脱け出したのを武勇伝のように喋っていた――それだけだ」
なんと尾行されたのは、ジュリアが周囲に聴こえるほどの声で自慢気に話してたのが原因であった。
皆の視線が一斉に集中し、さっきまで強気だつた彼女は口笛を吹きながら後ろに下がっていく。
「……仕方ありません。ジュリアの失態はいつもの事ですし、先の事を考えましょう」
ライザの一言により皆の表情が真剣になる。
ヴォイドが言うには、ここから二日ほど北に歩いた場所にウェスタンシティという大きな街があり、カタコンベはその街を拠点にしてるのだとか。
今後も襲撃を受ける可能性があるなら潰しておきたいところだが……
「放置したくないのはヤマヤマだけど、大きな街なら貴族との繋がりもあると見た方がいい。結局のところ連鎖的に敵が増えるだけで、僕らのメリットは少ない」
眉間に皺を寄せたラーズグロムが、頭痛を堪えるかのようにフゥッと息を吐く。
ただでさえ追われる身だというのに追っ手を増やして何になるのか。
答えは勝手にやって来るだろう。
「無視して進むのですね。賢明です」
フールの代わりにライザが評価する。
第一の目標であるクライム街はまだまだ先にあり、更には王都にも向かわねばならない現状、時間を浪費するのは下策だ。
最終的に目的地は変わらず、このままクライムの街を目指す事に。
捕虜であるヴォイドは用済みになるが、情報提供をしてくれたというのを踏まえて次の街で衛兵に突き出すことで決定した……
が、その日の昼。
早くも歓迎したくない連中が一行を追跡してるのに気付く。
襲撃に失敗し、転移石で逃走したペニーも一緒だ。
「数は12。人間や獣人、先日現れたエルフもいるようです」
フールの念話を受け取ったライザが呟く。
数もそうだが、トルネードホースで移動中の一行について来ること自体異常だと言える。
「何かのスキルか? だとしたら止まるのは危険だ。どうにかして各個撃破できれば……」
ヴォイド(す巻きにされている)から見るとラーズグロムは一人言を言ってるだけなのだが、フールにはしっかりと伝わっておりラーズグロムの耳元で微かに呟く。
【そのまま走れ】
ならばフールに任せようと、ラーズグロムも盛大に演じてみせる。
表向きの彼は魔物を使役できるのだから。
「僕が何とかする。皆はそのまま走ってくれれば大丈夫だ」
「うん。ラーグ兄ちゃん頑張って!」
微妙に分かっていないレシルの返事があった直後、追っ手の12人が次々と脱落していく。
1人に対してCランクもある人狼を2体も召喚したため、彼ら――カタコンベにとってはたまったものではない。
結局5人が犠牲になったところで、カタコンベの構成員は引き上げていった。
「生き残りがいるようです。捕らえて引き渡しましょう」
5人の内の2人が人狼に食われつつも生き残っており、ヴォイドと同様に拘束する。
もちろん止血以外の手当ては行わない。
次の街に着くまでに死んでしまえばそれまでである。
それでも拘束するすんででセルフヒーリングを行ったペニーは、やはり強者の部類に入るのだろう。
「無事でしたか、ヴォイド……」
「ああ。何とかな」
捕らえた2人の内1人はペニーであった。
左腕は失ったままで痛々しい状態ながらもヴォイドを気遣い、ヴォイドの方もペニーを気にかけてる様子だ。
もう1人の人間は無関心であったが、次の街――オルベノに近付くにつれて徐々にソワソワし出す。
そしてついに本人が口を開いた。
「おいアンタら、オルベノに行くんだろう? だったら俺が口利きしてやるよ」
「は? なんでアンタに頼まなくちゃならないわけ?」
透かさずジュリアが噛みつく。
敵対者に助言され、じゃあヨロシクと素直に従うバカはいないだろう。
だが当の男は自信たっぷりに返す。
「あの街には顔見知りの兵士が多くいる。俺を素直に解放するんなら、アンタがラーズグロムだってことを黙っててやってもいいんだがなぁ?」
「……コイツ」
思わず苦虫を噛み潰した顔に急変するラーズグロム。
自身の名前を聞いた兵士がどんな反応を示すか分かったもんじゃない。
かといって構成員を引き渡すには街に立ち寄るしかないとなれば……
「猿ぐつわしとけば? そうすれば喋れないと思うし」
「いいアイデアです」
「そうだね」
「この人うるさいからそれがいいと思う」
「なっ!?」
ジュリアの猿ぐつわ案が全会一致で可決され、哀れ男は喋る機会を失った。
念のためペニーとヴォイドにも猿ぐつわを施すと、オルベノへ向けて動き出す。
墓穴を掘った男は恨めしそうな視線を一行に向けてくるが、誰も相手にはしない。
昼下がりにオルベノの街に到着した一行。
このまま無事街に入れるか――というところで、なぜか偶然現れた巡回中の兵士によって詰所まで連行される事に。
「あのぅ……なぜ我々は詰所に?」
恐る恐るラーズグロムが尋ねる。
すると驚くべき言葉が返ってきた。
「決まっているだろう? お前が指名手配犯だからだよ」
「なっ!?」
しまった! ――と思うも既に手遅れ。
一行は兵士達によって拘束され地下牢へと放り込まれる。
「ムムーーーッ!」
と、ここで一行が簀巻きにした構成員の男が、全身を捩って何かを訴える。
「なんだぁ?」
「プハァ!」
兵士が猿ぐつわを外すと、口の自由を獲た構成員はニヤリと不適な笑みを浮かべ、馴れ馴れしく兵士に話しかけた。
「おいおい、俺だよスミスだ。なにも一緒に放り込むこたぁないだろう?」
どうやらスミスという構成員と兵士は顔見知りらしい。
「ああすまんすまん、お前にはこっちをくれてやらないとな」
ズバッ!
「ぐわぁぁぁぁぁぉ!」
顔見知りの兵士が突如斬りかかる。
てっきりグルだと思ってた一行は理解が追いつかず、ヴォイドとペニーは次は我が身と身構える。
「ゴフッ……で、でめぇ、なにをじて――」
「お前の仲間から頼まれたんだよ。いらなくなったから処分してくれってな」
ここでようやく理解が追い付く。
カタコンベという組織はオルベノにも深く根を張っており、一部の兵士は彼らと繋がっているのだ。
そんな彼らは二度目の襲撃を失敗した場合に備え、とある保険を掛けた。
気になる内容は、オルベノに立ち寄ると予想されるラーズグロムの正体をバラし、検問を行う兵士によって捕らえさせるというシンプルな罠である。
カタコンベは襲撃の際にラーズグロムを鑑定スキルに掛け、正体を看破していたのだ。
「ぐぞぉぉぉ……」
しかし、役立たずという烙印をおされたスミスには作戦は伝わっておらず、バッサリと斬られた後に事切れてしまった。
「お前らはどうする? 抵抗するんなら、ソイツと同じ末路を辿ることになるが?」
こうなっては従うしかない。
ラーズグロム達はヴォイドとペニーの二人と共にしばし監禁されることになった。
「すぐに領主様が来てくださる。それまでおとなしくしてるんだな!」
「言っとくが、妙な真似をしたら即座に斬り殺す。忘れんなよ」
見張りを2人残して兵士達は戻っていく。
装備品も取り上げられ、もうお手上げ。
――というわけにはいかない。
このまま待つのは下策中の下策、逃れる機会が減るだけだ。
なんとしてでも領主が来る前に脱出を図りたいところだが……。
「……これからどうするの?」
「まさかこのまま待機するって言うんじゃないでしょうね?」
レシルとジュリアが小声で囁く。
兵士に聴こえないよう奥に固まった状態でだ。
「勿論脱出するよ。但し、極力犠牲者は出さないようにする必要があるけども」
一部がカタコンベと繋がってるとはいえ、兵士の多くは無関係である。
彼らを害すれば敵対者を増やしかねない。
「その2人にも協力してもらいたいね」
ラーズグロムがヴォイドとペニーに顔を向けると、ライザ達もそちらへと視線を移す。
特に拒否反応は無かったため、一度は縛り上げた2人の拘束を解き、猿ぐつわも外して尋ねてみる。
普通なら協力を得られるはずはないが、闇ギルドから捨てられた2人が生き延びるには選択肢は一つしか残されていなかった。
「俺達に何をさせようってんだ?」
「言っておきますが、あまり高度なパフォーマンスは出来ませんよ? 特に私は片腕を失ってますのでね」
どうやら腹は決まっていたようなので、軽く頷いたラーズグロムが具体的な説明に入る。
「さほど難しい事じゃないさ。君達はこの街に詳しいだろうから、僕らの荷物を回収してほしいんだ」
それならば難しくないと納得の2人。
どうせ今頃は兵士長――彼らの顔見知りが荷物を物色してるに違いないのだ。
「だが俺達がそのまま逃げ出すとは考えないのか?」
「考えてないわけじゃないよ。ただ現状は君達2人で逃走するより、僕らと共に脱出した方が生存率は高まるのは確実だ。強さは既に証明したと思うけれど?」
「「…………」」
これには2人も納得せざるを得ない。
カタコンベの襲撃を二度も掻い潜ったのは紛れもない事実であり、運が良かっただけでは今頃生きてはいないだろう。
「……確かに。アンタらと一緒に脱出した方がよさそうだ」
ヴォイドが目を細めて言うと、ペニーも無言で頷く。
完全に信用したわけじゃないが、少なくとも邪魔をすることはないだろう。
「……ふぅ。それじゃあ作戦を伝えるよ? 今から――」
一度大きく深呼吸を行うと、気を落ち着かせて内容を伝える。
はたしてその作戦とは……




