ヴァリトラ傭兵団
ダンマスであるグーチェスの助言を受け、ラーズグロム一行はクライムという街を目指すことにした。
その街には彼の顔見知りのダンマス――ナレックという少年が居り、チョワイツ王国とも親しいと言うのだ。
具体的には、ナレックに頼んでチョワイツ王国との仲介をしてもらい、一時的に保護してもらうのが目的――なのだが……
「ダメだな。この先も待ち伏せされてるようだ」
「参ったね……こうも簡単に包囲されてちゃ、先には進めない……」
偵察に放ったチャージクロウの視点では、街道を進んだ先々に傭兵団らしき集団が待ち構えてるのが見えたのだ。
彼らの目的は定かではないが、ダンジョンを出た直後というタイミングを考えれば、ラーズグロムが獲物である可能性は高い――いや、現に拾った会話からは、プラーガ帝国やら金貨一万枚といったフレーズが飛び出しているので、目的は明らかだろう。
「どうする? 強行突破するなら、夜である今のうちだぞ?」
いつもの定位置にて、やるなら早くやるぞと言いたげなフール。
事実、強行突破するなら今が最適だろう。
「強行突破は賛成だけど、それだとすぐに追いかけられる。だったらいっそ、死んだ方が楽なんじゃないかと思ってね」
らしくない言葉に一同が耳を疑う。
これまでの苦労を無に返すような台詞だ。
「……お前は何を言ってるのだ?」
「そうだよラーグ兄ちゃん、おかしいよ?」
「ちょっと、勝手にジュリアを巻き込んどいて、簡単に死ぬなんて許さないわよ!?」
「言ってくれれば介錯いたしますが?」
若干1名物騒な者もいるが、殆どが気でも狂ったかと詰め寄る。
だがラーズグロムは慌てて首を振って釈明した。
「ち、違う違う、そうじゃない。死んだことにすれば追われないと思ったんだ。ライザ、頼むから爪を向けないでくれ……」
自身が発見されるのを危惧したラーズグロムは、追跡を免れるためある方法を思いつく。
それは……
「「「偽装した死体?」」」
「うん。僕そっくりな死体を用意して、プラーガ兵に発見させるんだ。そうすれば喜んで偽装死体を持ち帰るだろう。丁度後ろから追ってきてることだしね」
現在一行は北東を目指しており、そのまま直進すれば多数の傭兵が占拠した岩場に出る。
途中で枝分かれした先でも彼らの別動隊が待ち構えており、引き返そうにも背後からはプラーガ兵の残党が追ってきていた。
つまりラーズグロムの作戦は、傭兵の中で自分に容姿が近い者を選別し偽装させる。
そこへノコノコと現れたプラーガ兵に発見してもらえば作戦成功だ。
「ほぅ、上手く考えたな。本国に持ち帰られると鑑定されてバレるだろうが、時間稼ぎ程度なら可能か」
「うんうん! 鑑定スキルなんてレアスキルは大抵は持ってないだろうし、いい作戦かもね。ついでに言うと、ジュリアは凄く貴重な存在なのよ、うんうん!」
ズレた感想を溢すジュリアはともかく、フールの賛成によりさっそく行動を起こす。
ギリギリまで傭兵団に近付くと、透かさずフールが召喚に入る。
「出てこい――サモン・ウルフ!」
傭兵団の背後に魔法陣が浮かび上がり、中からグレーウルフが多数現れた。
当然これが奇襲となり、彼らは慌てふためく羽目に。
「グルルルル!」
「うわぁ! なんだコイツら、突然現れたぞ!?」
「お、おい、見張りは何をやって――ギャァァァ!」
「くそぅ、敵だ――敵襲ーーーっ!」
ピュイーーーッ! ピュイーーーッ!
予期せぬ魔物の襲撃により、傭兵団が慌てて武器を手に応戦する。
内一人の傭兵が笛のような物を取り出すと、耳に響く音を吐き出した。
「くっ、魔笛を持ってる奴がいたのか!」
ラーズグロムの言う魔笛とは、音を拾える範囲が普通の笛よりも5倍近く広いのだ。
離れた相手への伝手としては有力であり、すぐに別動隊の耳に届くだろう。
「何を焦ってるのです? さっさと殲滅すれば同じこと――さぁいきますよ」
「あ、ああ……」
ライザに背中を押され、二人も傭兵団へと突撃する。
「ハァァッ!」
ゴスッ!
「――グガッ!」
ライザの回し蹴りが男の顔面に炸裂!
首が90度以上曲がった状態で茂みへと飛んでいく。
「コ、コイツ、情報にあったラーズグロムの一味だ! 早く応戦し――「隙あり!」――ゲハァ!」
ライザに注意を向けた別の男は、ラーズグロムに背中を向けた状態で腹部から剣を生やした。
「さぁ、このまま蹴散らしましょう」
「ああ!」
夜襲が得意のグレーウルフで混乱してるのが幸いし、ほぼ一方的に殲滅することに成功。
程なくラーズグロムに近い男を探していく。
「この男の体格とかラーグにそっくりじゃない?」
既に絶命した一人を指して、ジュリアが尋ねてくる。
顔はともかく、背丈はほぼ一緒のようだ。
「うん、僕の代わりはこの男にしよう」
「ならば早くしろ。別動隊がやって来る前にな」
「分かったから焦らせないでくれ……」
顔の判別がつかない程度に切りつけ、ラーズグロムが身に付けてた装備を男に着せる。
代わりに男のレザーアーマーを身に付けると、フールの召喚したトルネードホースに股がり、急ぎその場を後にした。
上手く掛かってくれれば、今後の移動も楽になるだろう。
「チッ、本隊が殺られてやがる! 誰か生き残りはいねぇのかぁーーーっ!?」
ラーズグロム一行が立ち去った後、別動隊の傭兵達が現場へと到着。
血生臭い仲間の惨状に、左目に眼帯をつけた獣人の男が舌打ちした。
「本隊を離れたのが仇になったか……。どうだ、生き残りはいたか?」
「いえ、ダメです。ここで待ち伏せた30人、みな殺られています」
「チッ、俺が居りゃ全滅なんざさせなかったってのに――ん?」
ふと足元に視線を向けると、見慣れない格好をした死体が目に止まる。
よくよくランプで照らしてみると、仲間を見分けるトレードマークが無い。
この傭兵団は仲間がすぐに分かるように、レザーアーマーの胸部にデカデカとした羽マークを刻んでたのだ。
「団長、コイツは例のラーズグロムですぜ! 仲間の犠牲も無駄じゃなかったってことでさぁ! やったーーーぁ!」
「…………」
両手を上げて喜ぶ部下の一方、団長と呼ばれた獣人の男は違和感を覚える。
まるで無抵抗に顔を切り刻まれたように見えるのが、不自然だと思ったのだ。
それに……
「おい、ここに残ったのは30人だったよな? ならもう一人はどこだ?」
「そ、そういえば……」
もう一度辺りを見渡すが、やはり全部で30体。顔は正確に把握してなくても、団員の数は間違いようがない。
「そ、それじゃあ本物は……」
「ああ。この先に向かって漫遊中ってこった」
街道の先を睨み、悔しさを滲ませる。
まんまと突破された挙げ句、残した仲間も皆殺しにされた団長の心中は穏やかではない。
「このままじゃ終わらせねぇ……この俺様――ヴァリトラ傭兵団のガルミオが、キッチリと落とし前を――」
「団長、向こうから何か来ます!」
「なに?」
部下に言われて反対側に振り向くと、ドタドタと多数の何かが迫ってるのが見えた。
近付くにつれ、ガチャガチャと耳障りな音を撒き散らしているのに気付く。
「甲冑の音――王国軍か?」
しかし目に見える位置までやって来た彼らの胸部には、竜に股がった騎士がしっかりと刻まれていた。
この印は紛れもなくプラーガ帝国のシンボルを意味するものだ。
「プ、プラーガ軍だと!? 何故こんなところに……」
ガルミオは知らないが、彼らプラーガ軍はグーチェスのダンジョンで敗れた後、散り散りになったのだ。
結果、再度突入を試みた者、母国に帰還した者、出口でラーズグロムを待ち構えた者、前線逃亡した者と、大きく分けると4つに分類できる。
そして目の前に現れたのは、出口でラーズグロムを待ち構えてた者達だ。
「貴様らは傭兵か? 我々は指名手配中のラーズグロムを追ってきたのだが、やつの行方を知らないか?」
(チッ、コイツらもラーズグロムが目的か)
獲物が被った相手とは奪い合う――報酬が掛かってる以上、これが自分達のルールだ。
例え国が相手でも、見返りによっては噛みつく事もあるだろう。
しかしガルミオは口の端を吊り上げ、足元を指した。
「アンタら探してるラーズグロムとやらはコイツじゃねぇかい?」
「ん? ――こ、これは!」
プラーガ兵の一人が、マジックアイテムである光るガントレットで死体を探る。
「た、確かに情報通りだ! 顔が判別できないが背格好が一緒だ、間違いない!」
どうやらラーズグロムの策は、プラーガ軍に対して効果を発揮したようだ。
「これでめでたく任務完了だ。協力感謝する」
「そうかい、そいつぁめでてぇな」
満面の笑みを浮かべ、プラーガ兵達は引き上げていく。
やがて見えなくなると……
「フッ、つくづくめでてぇ連中だぜ」
プラーガ兵を鼻で笑ったガルミオは、仲間を一ヶ所に集めた。
「アホ共はお帰りなすった。俺達はこれから本物を追う。ぶっ殺しても構わねぇ、絶対に捕まえるぞ!」
「「「オオッ!」」」
20人近くのヴァリトラ傭兵団が指揮を高めて追跡を開始――しようとしたところで、ガルミオが団員を手で制する。
「おい、そこに居るのは誰だ!?」
いつの間に現れたのか不明だが、彼らの前には真っ白なローブで全身を覆った人物が立ち塞がっていたのだ。
ガルミオが剣に手をかけ様子を窺っていると、相手は軽いタメ息をついて声を発した。
「……私よ。依頼人を忘れるなんて酷いじゃない?」
「その声は! フルスト――だったか?」
相手の正体が分かったため、緊張を緩めるとともに剣から手を離した。
この二人は顔見知りで、ラーズグロムを捕らえるよう依頼したのが純白ローブの女――フルストなのである。
「フン。悪いが顔をろくに見せない相手なんざぁ一々覚えてないんでな。覚えてほしけりゃ顔くらい晒すんだな」
フルストが彼らに依頼する際も、ローブを外すことはなかった。
正体を晒さないクライアントも多いため、ガルミオは特に気にはしなかったが。
「余計なお世話よ。――それよりも、依頼は失敗だったみたいね?」
「今回だけはな」
作戦は失敗したが、ガルミオはまだ諦めてはいない。
やられたまま終わるのは、彼のプライドが許さなかったようだ。
「ま、見ての通り派手に殺られちまったがよ、必ずぶっ殺して――「殺してはダメよ」――うっ!?」
ぶっ殺してと言った瞬間、フルストから凄まじい殺気が放たれる。
殺気を当てられたガルミオは二歩三歩と後退り、ついには尻餅をついてしまった。
「け、けどよぉ、こっちは30人近くも殺られてんだぜ?」
「それはアナタ方の不始末でしょう? それとも――」
「ヒィ!?」
「契約を無視するというの?」
フルストが手をかざすとガルミオは飛び上がり、尻餅をついたままズリズリと後退る。
この二人はラーズグロムを生け捕りにするまで協力するという契約を結んでおり、それに反すると様々なペナルティーが発生するのだ。
中には死に直結する場合もあり、ガルミオはそれを恐れたのである。
「わわわ悪かった、つい頭に血が上っちまったんだ。契約を破るつもりなんてねぇ!」
「……まぁいいわ。破る気でいた場合だけでもペナルティーの対象となる場合もある――くれぐれも忘れないことね」
「わ、分かった!」
「それはいいとして――」
言葉を一度区切ると、街道の先を見つめつつ話を続ける。
「次の指示を出すまで、アナタ達は待機しててちょうだい」
「は?」
「言った通りよ。襲撃するタイミングはこちらで指示を出すわ。何度も失敗されたくないし」
「……分かったよ、好きにしてくれ」
(やはり素行の荒い傭兵じゃダメね。もっと忠実な手駒でないと……)
謎の女――フルストの出現は、ラーズグロムに対しどのような影響をもたらすのか。
それはまだ分からない……。




