帝国軍ガニー将軍
白髪をカールにしたガニ股の老人が、両手を後ろに組んで偉そうに佇んでいる。
ダンジョンの入口付近には、老人が引き連れてきた多くの兵士達も待機中だ。
「グーチェス殿、どうかなさいましたか?」
『あ、ああ、すまない。プラーガ帝国の新手がやって来て、こちらに降伏勧告を迫ってきたんだよ』
「帝国軍が!?」
状況を知らないラーズグロム達へグーチェスが説明する。
勧告を行ってきたのはプラーガ帝国のガニーという老将で、およそ3000の兵でダンジョンを包囲していた。
仮に地上へ戻ったとしても、彼らとの戦闘は避けられそうにない。
「……相手はガニー将軍か。彼は短気で自信過剰なのが欠点の名ばかり将軍だ。但し、戦闘指揮は部下に任せっきり(押し付ける)で手柄は自分のものにしてるらしく、将軍としてのさばっているって噂だよ」
心底嫌そうな顔でラーズグロムが語る。
敵でも味方でも面倒な性格らしい。
「ね、ねぇ、ソイツらと戦うんでしょ? 大丈夫なの?」
『大丈夫――とは言い難いな……』
「ちょ!」
一難去ってまた一難な状況に、ジュリアの顔が青ざめる。
さすがに数で押されては勝機は薄いらしく、グーチェスの苦し気な声が響く。
『だが悲観する必要もないぞ? 知人のダンマスに助力を願い出てるから、協力してくれれば現状打破も可能だろう』
「本当? 信じていいのね!?」
希望を見出だしたジュリアが、クタッとした猫耳をピーンと立たせる。
まだ決まったわけではないが、彼女の頭の中ではプラーガ軍を蹴散らしてる謎の魔物集団が浮かんでいた。
『すまないが、援軍が到着するまで足止めを頼めるかい?』
「分かりました。元々は僕のせいでもあるし、協力致します」
『すまない』
ここで足止めを断る理由はない。
どのみちプラーガ軍を蹴散らさなければ、助からないのは明白だ。
「俺が足止めをしてやろう。しばしダンジョンを借り受けることになるが……今更だな」
『あの不可解な現象は、やはりキミが操作してたんだね?』
「まぁな。だが他言無用で頼む。他者に広まるのは避けたいのでな」
『勿論だとも』
やはりグーチェスはフールの正体に気付いてたようで、あまり驚いた様子は見せない。
「どうしたダンジョンマンター、儂を前にして臆したか! 潔く姿を現すのであれば、命だけは助けてやってもよいのだぞ!?」
軍を引き連れてるせいか、ガニーは強気の姿勢を崩さない。
それどころか既に勝った気でいるあたり、将軍としての器ではなさそうだ。
『お断りする。貴様こそ、勝手に俺のダンジョンに踏み入り降伏勧告という馬鹿げた真似をするとは、相応の報いを受ける覚悟はできているのだな?』
「やかましいわい! 姿を見せぬ臆病者め、貴様がラーズグロムを匿ってることは分かっておるのだ! 刃向かうのであれば、貴様も血祭りにあげるまでよ! ――突撃ぃぃぃ!」
単細胞なガニー将軍が突撃を命じた。
同時にフールが展開する罠も牙を剥くと、先頭を走っていた兵士の頭上に切っ先の生えた天井が落下する。
ゴォォォーーーグシャ!
「「「ギャァァァ!」」」
「吊り天井だ! 重装兵を先頭に突撃せよ! 他は別ルートを進めぇ!」
数名を犠牲にしつつも動揺する様子は全く見えず、仲間の屍を越えて来た。
更に後ろではガニー将軍がふんぞり返っており、代わりに若い指揮官が命令を下している。
「まだまだ!」
ガコン!
「うわぁぁぁ!」
次に発動させたのは落とし穴だ。
代わりに先頭に立った重装兵が、奈落の底へと落ちていく。
「魔術隊!」
「「「底なき足場に架け橋を――ストーンブリッジ!」」」
しかし彼らも負けてはいない。
素早く足場を築くと、左右に展開した重装兵が魔術師を護る形で挟み、再び前進を始めた。
以降も次々と罠を仕掛けていくが、物量で押してくるプラーガ軍に手を焼き、1階層のボス部屋を突破してくる。
「くそっ、やはり数が多いのは厄介だ。もうすぐここまで来るだろう」
「ちょ、またなの!? もぅいい加減にしてよぉ……」
「落ち着きなさいジュリア。雑魚兵ごときに遅れをとったりはしません」
再び敵が現れると聞いてジュリアがウンザリしながら天を仰いぐと、傍らのレシルが背中を擦って落ち着かせる。
その前ではライザがスタンバイしており、やる気は十分。
「あそこだぁ~!」
「「「オオーーーッ!」」」
ついに2階層のセーフティエリアまでやって来るプラーガ兵。
ラーズグロムを目視したため、目の色を変えて突っ込んできた。
『ライザ!』
「お任せください――ハァァ!」
ドスッ! ガスッ! ゲシッ!
「「「ぐわぁぁぁ!」」」
フールが罠で連携を崩し、ライザが次々に仕留めていく。
「くたばれぇ!」
「甘い!」
ザシュ!
「ゲハッ!」
ライザが打ち漏らした敵兵をラーズグロムが仕留め、コボルトが弓兵との撃ち合いを展開し、ギリギリの状態を維持していた。
それでも数の暴力というのは時として実力をひっくり返す事もあり、彼らだけでは長くは持たないだろう。
「前列を重装兵と交代、弓兵は援護せよ!」
拮抗してると見るや指揮官が手際よく指示を出していき、重装兵が先頭に立つ。
先程までの軽装兵とは違い、肉弾戦で挑むのは少々部が悪い。
更に弓での牽制により、ジリジリと後退するのを余儀なくされる。
「げっ、コイツめっちゃ優秀じゃん!」
名前:バロミド
性別:男
種族:人間
職種:プラーガ軍中隊長
レベル:52
【スキル】 指揮Lv6 剣Lv4 体術Lv2 話術Lv6 罠回避Lv3
【魔法】 光魔法Lv3
ジュリアが後方で指揮を執ってる人物を鑑定すると、指揮Lv6という異常な数値が明らかになる。
これに関しては大半の隊長はLv3が精々であり、Lv6ともなれば戦争の全体指揮を任されるレベルと言えるだろう。
ついでにレベル52というのはベテラン冒険者よりも上だったりするので、冒険者としても実績を残せるレベルだ。
なぜこのような実力者が出来上がったのか――その理由はズバリ上官がアレのために、必然的に上昇してしまったと考えるのが妥当だ。
話術に関してもアレを上手く誘導してる内に身に付いたことが想像できる。
「ライザ、あの指揮官を狙って!」
「フッ!」
シュシュシュシュシュ!
ジュリアの進言により指揮官目掛けて爪を飛ばす――が!
「隊長を護れぇ~!」
「「「オゥ!」」」
カカカカカン!
重装兵の楯に阻まれ、それは叶わなかった。
「魔術隊、あの獣人に狙いを定めろ! さすればラーズグロムを討ち取るのは容易い!」
「チッ!」
ラーズグロムは思わず舌打ちすると、ライザと共に後ろへ飛び退く。
相手は憎たらしいほど優秀なのを身をもって実感しているのだ。
二人が飛び退いた直後、前方から火の玉が飛来し数体のコボルトが火だるまになる。
「ヒィッ!」
「ジュリアちゃん!」
炎に包まれるコボルトを前にしてジュリアが立ち竦む。
危険を察知したレシルが手を引き更に後ろへ下がるが、残念ながら背後は行き止まり。
壁を背にしてプラーガ軍と向き合った。
「くそ、このままじゃ……フール!」
「ダメだ、この近距離で罠を動かすのは自殺行為だ」
ラーズグロムがダメ元でフールに顔を向けるが、やはりどうにもならない。
この状況で罠を発動すれば、彼らも巻き添えを食うからだ。
「よし、追い詰めた、このまま押し潰せ!」
「「「オゥ!」」」
好機と見ると、バロミドは一気に兵を突撃させた!
プラーガ兵はコボルト達を勢いのまま飲み込み、ラーズグロムへと殺到する。
もう後がない!
ズドォォォォォォン!
「「「グオワォァァァァァ!?」」」
覚悟を決めたラーズグロムであったが、迫ってた重装兵が勢いよく吹き飛ぶ。
そのまま後ろに控えてた弓兵と魔術師を巻き添えに、指揮官であるバロミドへと覆い被さった。
「今のは!?」
「……い、いったい何が?」
突然の出来事にラーズグロムもライザも理解が追い付かない。
「なななな何事!?」
「…………」フルフル
両手で視界を覆ってたジュリアが、恐る恐る手を避け尋ねる。
しかし、分からないのはレシルも同じで、黙って首を左右に振った。
(む? コヤツがやったのか!?)
最初に気付いたのはフールだった。
ラーズグロムの頭上にいた彼が下に視線を動かすと、見覚えのない少女が拳を前に突き出していたのだ。
「間に合って良かった」
そう述べると、ラーズグロムへと振り向く金髪の少女。
レシルよりも更に年下に見え、外見だけでは強そうには見えない。
「え……と、キミが助けてくれたのかい?」
「イェス。マスターの命令で来ました」
彼女の言うマスターとは、グーチェスの言っていた知人のダンマスの事なのだろう。
「こ、このような娘が……」
ライザが本能的に後ずさる。
見た目はともかく、自身よりも格上であることは理解してるようだ。
「ちょっ、この娘ったらトンでもない強さじゃない! こんなの化け物クラスよ!」
透かさずジュリアが鑑定した結果、驚きのステータスが明らかになる。
名前:ルー
性別:女
種族:オリハルコンゴーレム
職種:アイリの眷族
魔物ランク:SSランク
レベル:315
【スキル】 体術Lv10 暴食Lv6 破壊光線
【魔法】 なし
まず目を引くのはSSという魔物ランクだ。
これは世界中の国々が共闘しないと倒せないほどで、一国の一部隊が相手にできるレベルではない。
次にレベルだが、地上に生きる者達が生涯で到達可能と言われてるのがレベル100であり、それを超越してる存在は滅多にお目にかかれない。
そしてスキルの体術Lv10というのはスキルレベルの最大値であり、格闘で彼女に勝てる者はいないと思っていいだろう。
「終わったらご褒美のお菓子を要求する」
何故かお菓子をねだると、ルーはプラーガ兵に突撃していった。




