第34話 再会
一人だけのタイムライン。
私はまた写真を始めた。
一人駅旅とバイトも再開した。
店長はとても喜んでくれた。
糊さんがいなかった世界に戻りつつあった。
ぬい活沼さんとミルクティーさんともまた繋がれた。
私は、二人に謝罪して糊さんのことは濁してまた三人で通話をしたり他愛無いことを話せる関係に戻っていった。
なんだ。
糊さんがいなくても、呼吸は出来るし生きていけるじゃん。
そう気付いてからは軽かった。
糊さんが怖いって感情を抱いた時はどうしようかと思ったけれど、終わってみると確かに共依存は怖い。
でも、私はあれが恋だったって今でも思う。
引き出しの指輪。
三人で選んだ宝物。
いつか、それともお別れする時が来るのかな?
雪で視界が悪い。
バイトから帰宅途中の道も悪い。
親に意地を張らずに車で迎えに来て貰えばよかった。
でも、ようやく糊さんとの一件からも何も言われなくなって普通の生活になったんだ。
あんまり心配とかかけたくない。
雪が積もる道を傘を差して突き進む。
ゆっくり、滑らないように、下ばかり見ていたから目の前の靴に気がつくのが遅くなってしまった。
「あ、ごめんなさい!」
「こんな雪だもんね。謝らなくていいよ」
聞き覚えのある声。
何度も忘れたくて忘れられない声。
雪が音を吸い込んでいく。
世界に、私の息だけが響いていた。
——そして。
「家まで送ろうか?」
「二人とも、なんで」
いろんな『なんで』が私の中で渦巻く。
「話はどっか入ってからにしよう。ここじゃ風邪引いちゃうでしょう」
糊さんが手を引いてくれる。
弟の糊さんがもう片方の手を繋いでくれる。
また繋がれた。
胸の奥で何かが弾ける音がした。でも、涙は出なかった。
私は嬉しくて泣きそうなのに、笑顔で「おかえり」と言った。
二人とも、振り返ってこちらを見て「ただいま」と言ってくれた。
近くのファミレスの出入り口で雪を払ってから入店する。
奥の方の席に通されて、コの字型のスペースにそれぞれ座った。
もちろん、私が一番奥で逃げられない位置。
逃げないのにね。
「二人とも、急に転校してどうしたの?私のせい?」
「ううん。これは本当に家庭の事情。両親が離婚して離れて暮らすことになったんだ。僕は父に、こいつは母に引き取られてそれぞれの実家に預けられている」
「そうなんだ……」
私が嫌われたわけでも捨てられたわけでもなくてよかった。
「ずっと不仲だったとはいえ、やっぱり離れて暮らすのは苦しいよ」
糊さんが悲し気に言う。
私はなんて言ったらいいかわからず、ドリンクバーのホットココアを一口飲む。
「今までごたごたしていて、連絡が取れなくてごめんね」
「本当だよSNSのアカウントも消えちゃうし」
二人は顔を見合わせた。
「それはわざと」
「このままじゃ君まで壊れちゃうと思って離れようと思ったんだ。でも、やっぱり無理だった。またアカウントを作って君のアカウントを見る度に会いたさが募って仕方がなかった」
「俺も。SNSってだめだね。繋がれているようで、肝心な時に会えない。寂しかった」
「私だって寂しかったよ」
口を尖らせ抗議する。
「一人だけのタイムライン、どうだった?」
「寂しかった。世界に私一人かと思った」
「ぬい活沼さんやミルクティーさんとまた繋がれていたのに」
「うん……。でも、糊さんの事で頭がいっぱいだったから」
「そっか。寂しがらせてごめんね」
優しく頭を撫でられる。
嬉しくてすり寄ると、弟の方の糊さんも構ってというように指輪があった場所にキスしてくる。
「そうだ。新しいアカウント、教えていなかったよね」
「うん、教えて」
画面の光と店内の照明が、ひとつの白に溶けていく。
私のアカウントはまた消された。
そして新しいアカウントを作った。
一人だけのタイムラインが二人だけのタイムラインになり、三人だけのタイムラインになった。
世界に三人きり。
それでもいい。
だって、この狭い世界こそが、私の愛のかたちだから。
SNSでもリアルでも、私たちは繋がっている。




