第12話 希望を守れアクトナイト!
「俺はアクトナイトを続ける」
いつもと変わらない昼休み、食堂にて奏芽と弁当を食べていた将矢がそう告げた。
「そう…だったら私も」
「待て奏芽…本心はどうなんだ?」
「え…」
今の奏芽は将矢に合わせて戦いを続けようとしていた。難しい顔で将矢が聞くと、奏芽は首を横に振って「もうやめたい」と呟いた。
「だったらやめよう。今日の放課後、剣と石を返しにいこう」
「でも将矢は続けるんだよね?それなのに私がやめたら…」
「俺は街を守りたい。今度こそ希望になりたいんだ…中学の頃、告白する時になんて言ったか覚えてる?」
そう尋ねられて奏芽は将矢に告白された時のことを回想する。その時の台詞はとても印象的で、今でも鮮明に思い出せた。
「好きだ水野。いつも不器用だけど頑張ってるお前が好きなんだ。だから俺はお前の希望になりたい。俺と付き合ってくれ」
「はいストップ…聞いてみると凄い…痛いな」
「…将矢は私の希望だよ。今までも、今も」
奏芽の中学時代はあまりいいものではなかった。人と関わりたがらなかった彼女は物静かで、いじめを受けた時には泣き言一つ吐かなず、やりかえさず、そして誰にも相談することがなかった。どうしてそんな子どもだったのかは本人もよく覚えていない。
ただ静かに生きている。それだけの少女だった。
ある日、いつものようにいじめを受けていたところに将矢が姿を現した。当時は彼とは面識もなく、「知らない人が来た」というのが奏芽の思ったことだった。
中学生だった将矢は荒れていた。偶然いじめの現場に通りかかって、楽しそうにいじめをしている生徒たちを泣かしてやろうという思いで、五人の生徒を病院送りにした。
それでも将矢が処分を受けなかった。自分が助けられたから、今度は自分が助ける番だと奏芽がいじめを告発。気付かれないように集めていた証拠を公表したからだった。
「助けてくれてありがとう…その…あの時、凄くカッコよかったよ」
「そっちこそ…嫌だったろうに勇気を出して叫んでくれて助かった」
これをきっかけに二人は仲良くなった。奏芽は将矢を通して人と関わるようになり今の様な明るい性格になった。そして将矢も奏芽の優等生とも言えるカッコいい姿に影響を受けて、ただ喧嘩が強いだけの不良から文武両道に近くカッコいいと言える人間へと生まれ変わったのだ。
そんな将矢にとって奏芽は憧れであり希望だった。彼女みたいになりたい、希望になりたいと思った将矢は徐々に距離を詰めていき、そして中学の卒業を前にして告白し、付き合い始めたのだ。
「うん…返しにいこう。私はもう戦わない」
「分かった。その代わり、俺が絶対にお前を守るから」
ここまで戦って来て引退というのは、少し勿体ないような気もしたがこれでいい。二人は食器を返却しに席を立った。
「そうだ。土曜日何時集合にする?」
「あ~そうだな~」
二人の話題はアクトナイトから土曜日に待つルノー祭へと移っていた。
放課後、啓太と千夏は駅まで向かって同じ道を歩いていた。
「…ねえ」
「何?」
「啓太はアクトナイト…続ける?」
千夏は迷っていた。自分たちは三度メルバナイトという強敵に敗北した。アクトブレイドという強化アイテムを使っても勝つことが出来なかったのだ。
そんな戦いを続けても意味はないのではと…諦めかけていた。
「僕はやる。これしか出来ることないし…」
それから口を閉じて千夏のことをジーっと見つめ、静かに呟いた。
「それに…守りたい人がいるから」
「ん?なんて言った?」
「なんでもない。それより土曜日…どうする?」
「多分みんな行く相手決まっちゃってるだろうし、二人でいいなら行く」
「本当!?………そっか。それじゃあ…」
啓太は千夏に戦うことを強要したり辞めるように言う事はせず、自分は戦い続けるということだけを伝えた。
それを聞いて千夏がどう思ったが定かではないが、彼女も選ぶ道を決めたようだ。土曜日のことを考えているというのもあるが、その顔に曇りは見られなかった。
「信太郎。家に帰らなくていいのか?もう暗くなっているぞ」
月が昇っていた。アクトナイト公園にはベンチに座る信太郎ただ一人。信太郎はスマホをポチポチと弄っていて、時間のことなど一切気にしていなかった。。
「父さん仕事だから母さんの彼氏がいて…」
「え、ちょっと待て…一体どういう家庭環境しているんだ?」
「多分そろそろ離婚するんだろうね。もうなんか家の空気ギスギスしててさ…そうだ、宇宙船の部屋貸してよ?」
「ダメだ。住んでる家があるのならそこに帰るべきだ」
宇宙船に入ろうと、信太郎は銅像を押してみたがピクリとも動かなかった。アクトナイトが操作しない限り宇宙船への入り口は現れないようだ。
「えぇ…嫌だよ。あの家は母さんと彼氏と息子のみたいなもんだから」
「お前は母親の息子だろ?」
「違うよ!今の息子はお腹の中にいる子。彼氏と母さんの子だから」
「マジか…なんか大変な時にアクトナイトになってもらって申し訳ない」
隣に空になったコンビニの弁当箱を置いて愚痴っていると、ブブッとスマホが震えた。
「………アクトナイト、次の土曜日って怪人出るかな?」
「分からない。メルバド星人がいつ襲ってくるか。それが分かれば対策が出来るのだが…」
メッセージアプリに通知が一件。校外学習の班員が集まったグループで陽川芽愛が呟いていた。
「みんなで土曜日のルノー祭に行きませんか?」
信太郎は戦いや家庭の事情で祭りの事などすっかり忘れていた。
「いいねいこう」
「気が向いたらいく」
参加を表明した朝日昇士に続いて灯刀那岐が曖昧な返事をしていた。
「いく」
そしてぶっきらぼうだが愛澤真華も参加する意思を見せていた。
「祭りか、いいんじゃないか。息抜きは大切だ」
「でも怪人が…」
「邪悪なエナジーを感じたら連絡を入れる。それまでは楽しんだらどうだ」
信太郎は「参加します」という簡単な言葉を送信した。当日に怪人が出たらいつものようにアクトナイトから連絡を入れてくれるので、出現するまでは祭りを楽しむという事になった。
自分では気付いていないが、信太郎は怪人関連で少し神経質になっていた。
「なあ…俺アクトナイトやめてもいいか?」
「やめたいならやめればいい。奏芽はソードとマテリアルを返しに来た」
「ええ!清水の奴、やめちゃったの!?」
信太郎が公園に来る前、将矢と共に奏芽が武器を返しに来ていたのだ。その時奏芽は複雑そうな表情をしていたという。
「信太郎。これまで一緒に戦ってくれてありがとう」
「あぁ…ごめんな。こっちの身勝手な都合でやめちゃって」
銅像の前に置いていたアクトのアイテム一式は目を離した隙になくなっていた。また謎の力によって宇宙船の中へと吸い込まれたようだ。
「それじゃあな」
信太郎はアクトナイトをやめた。やめたらスッキリした。
そう思えるはずだったのに少し歩いたところで、自分の行動は正しかったのだろうかと悩み始めた。
次の日、信太郎は那岐以外の祭りに行くメンバーで集合場所や時間を話し合っていた。
「端から回りたいよね。どこ集合にしよう」
芽愛はスマホの地図アプリを開き、祭り会場である海沿いの道付近を確認していた。
「だったらホームセンター前でいいんじゃないかな。あそこなら人も集まらないだろうし」
信太郎と芽愛はそれに賛成。真華は誰の意見でもいいということで、昇士が言ったホームセンター前が集合場所になった。
「灯刀さんには…」
「じゃあ俺から伝えておくよ」
那岐は窓際の席で遠くを眺めている。何か近寄りがたいオーラを放つ彼女に、昇士は近付いていった。
「…って次体育か。それじゃあまたあとで」
信太郎は体育館用のシューズを取って教室を出て行った。
昇士も信太郎と同じく体育館でバレーボールなのだが、その前に那岐を祭りに誘っていた。
「ねえ灯刀さん。土曜日は6時にカシオペセンター前集合になったよ」
「………」
「あの~灯刀さん?」
「うるっさい。一度聞けば分かるしそれに気が向いたら行くって言わなかったかしら」
かなり失礼な態度の那岐。だがしかし、それでも昇士は優しい口調で話を続けた。
「もしかしてカシオペの場所分からない?久里田駅からバスに乗っていくんだけど…」
「………」
「じゃあ5時半!5時半になったら久里田の改札口前で待ってるから!」
次の授業が始まるので、昇士は大急ぎで体育館へと走ったがその後すぐにシューズを取りに戻ってきた。
結局チャイムは鳴ってしまい、彼は一分ほど授業に遅刻した。
(あ…ボールあっちにいくな)
試合中、信太郎はボールを目で追っていた。運動は得意な人間だが、彼はアクトナイトとして戦いながら成長し、通常時の身体能力が向上していた。
それは彼だけでなく他の四人もだった。
「待って鈴木のスパイク速すぎ!」
コートの真ん中に啓太が打ったボールがバシン!という音を立ててバウンドした。ボールを打つ直前にもその足で高くジャンプしていたのだが、これまで運動音痴のイメージを持っていた周りの生徒たちがそれを見てとても驚いていた。
(あいつはまだ戦うんだよな…)
「ってやば!」
気の抜けていた信太郎はボールが向かってきているのに反応が遅れて、ダイブしてボールを上へ。その時、肘が擦れてとても痛かった。
(俺ってば腕が切られたり全身焼けたりしたんだよな…)
「ボーっとしてんなー怪我すんぞー」
気が付けばアクトナイトとして戦っていた時のことばかり考えていた。まるでこれでは未練があるみたいではないかと自分を責めても、考えることはやめられなかった。
それから昼休み、将矢によってアクトナイトの四人が校舎裏に集められた。
「大切な話がある…奏芽、言えるか?」
「うん…私はアクトナイトやめた。理由は単純にあんなこともうやりたくないから」
「え…それじゃあこれからは四人で戦っていくってこと?」
仲間が一人減る。啓太はこれからの戦いを考えると不安でしかないが、そこに追い討ちをするように信太郎が喋った。
「俺もやめたから三人だな」
「えぇ!?どうして信太郎もやめるんだよ!意味分かんないよ!」
「やめなよ啓太!…そっか。ちょっと大変になるかもね」
千夏は動揺を隠して弁当箱に箸を伸ばしたが、震えた手では箸は上手く使えずに中のニンジンを掴めていなかった。
「…ごめん」
「謝るなよ。俺たちは好きで続けてるだけだし」
こんな時でも将矢は明るかった。五人の中でも彼はムードメーカー兼リーダー的存在であり、五人が初めてアクトナイト公園に来た日も彼の提案によるものだった。
「それじゃあ…この話おしまい!」
将矢の号令により話しは終わった。
この日から、信太郎は再び普通の人間として暮らすようになった。
「誰もいない…か」
信太郎は家に帰ってきた。父親は仕事だが、母親も働いているのかそれとも愛人と遊んでいるか定かではない。
「…やっぱやめなきゃ良かったかなー…」
テレビを点けるとちょうど、街中でアクトナイト達が怪人と戦っている映像がライブ中継されていた。
フレイス、ジュピテル、ビヴィナスの三人は見事な連携で怪人を包囲し、街への被害を最小限に留めようと努力していた。
映像は切り替わり、番組に呼ばれた専門家が話し始めた。
「えー彼らは100年前の戦いに基づいて、剣士たちはアクトナイト、そして怪人の方はメルバド星人と呼んでいいでしょう。しかし何故今になって彼らが戦うのかが疑問ですね~」
「アクトナイト…それが一人から五人に増えたのには何か理由があるのでしょうか?」
「個々の戦士たちが弱い…というのが妥当でしょうね。これまでの戦いでも彼らは単独で戦うことはありませんでした」
「戦士たちが弱い」。その一言を聞いた途端に信太郎の機嫌が悪くなり、テレビは真っ暗になった。
「チッ…いやいやもう俺は関係ないんだから…さ」
その日両親が帰って来ることはなかった。信太郎はいつも通りにやることをやり、そして寝た。
数日が経過した。頭の中からアクトナイトのことを忘れ始めた金曜日。
明日は誰もが待ちに待ったルノー祭だった。
「灯刀さん来るかな?」
「きっと来るよ。駅前集合にしたから大丈夫」
「ねえ信太郎君?」
「どうしたの愛澤さん」
科学の教科書を持った真華が信太郎に声をかけた。
「これってどういうことか分かる?」
「どれ?…あ~ごめん。無理。清水に聞いてみようか?あいつ頭いいから」
真華から教科書をもらった信太郎は奏芽に分からなかった部分の解説を受けた。
「どう?分かった?」
「うん、なんとか。ありがとうございます、清水せんせ」
「キモイからやめて」
「…アクトナイト、やめてよかったのかな?」
今の一言を聞き、教わったことを真華に伝えに行こうとしていた信太郎が足を止めた。
「…やっぱりそう思うよね」
「うん…テレビに出てくるし…三人は頑張ってるのに」
「でも頑張ったのは俺たちも同じだし…」
「前の戦いの後、みんなボロボロだったんだ。それでも将矢は元気そうに振る舞ってた。私たちも戦ってれば何か変わったのかなって思っちゃうんだ」
信太郎もボロボロになった。腕を切られて火傷を負って苦痛に襲われた。
まだ今は大丈夫かもしれない。しかし再びメルバナイトと戦うことになったり、これまで以上に強い怪人が現れたら、彼らは信太郎以上の怪我を負う可能性もあった。もしかしたら死ぬかもしれないのだ。
「私、アクトナイトに戻るつもり。みんながいるからこそ私も逃げちゃいけないって思うんだ」
「そっか。清水って凄いね」
信太郎は今度こそ真華の元に戻っていった。臆病者の彼には戻るという選択はできなかった。
(俺はなんて情けないんだろう)
その話の後、放課後まで信太郎は涙を堪えながら授業を受けた。
臆病な自分に嫌悪感を抱き泣きそうになっていた。万が一涙が溢れても、あくびの仕草で上手く誤魔化していた。
「それじゃあまた明日!」
放課後、ルノー祭に行く生徒たちは受かれた様子で教室を出ていく。
信太郎は、そう言えば自分も明日の祭りに行くのだと思い出した。
「明日ね!大月君!」
教室を出ようとするとこれまではなかった別れの挨拶が飛んできた。
友達と会話途中の芽愛が教室から出ていく信太郎を見て挨拶したようだ。
彼女も明日が楽しみなのか、それとも友達との会話が楽しかったのかは定かではないがとてもいい笑顔だった。
「うん、また明日」
信太郎もニコッと笑って挨拶をして廊下に出た。
信太郎は自宅に帰ってきた。今日は父親がリビングで酒を飲んでいた。テーブルには空き缶が並べられており、いつものようにリビングが臭かった。
「ただいま」
「あ?」
睨み付けられた信太郎は体操服を洗濯機に入れると、駆け足で自分の部屋へと逃げていった。
「はあ…マジでなんなの」
これでも母親とその愛人がいる時に比べればマシなのだが、信太郎にとってはどちらも最悪だ。
(早く仕事場に帰ってくれよ…)
嫌なことは忘れてしまおうとスマホを開く。何気なく開いたニュースサイトには、またアクトナイトたちが戦っているという情報が上がっていた。
SNSでは現場の映像がいくつも投稿されており、そこから分かるのは三人のアクトナイトがマジクとカイジン、二人のメルバナイトと戦っているという事だった。
「無理じゃん!こいつらに勝てるわけない!」
届くはずもないのに思わず叫んだ。信太郎は三度、メルバナイトに敗北している。一人でも勝てないメルバナイトが二人も揃っていることの恐ろしさを、信太郎は誰よりも理解していた。
(いや…もう俺には関係ない話だ…)
戦いの舞台となっているのは明日、ルノー祭が行われる予定の海沿いの道路だった。海を背景に戦っている光景は絵になっていた。
(これじゃあ…明日の祭りは中止になるだろうな)
「明日ね!大月君!」
突然、信太郎は帰る時に見た芽愛の笑顔を思い出した。
ルノー祭を回ろうと提案したのは彼女だった。きっと五人の中で誰よりも楽しみにしているだろう。
もしも祭りが中止になってしまったら、一番ガッカリするのも彼女だろう。
(なんでここであの人が出てくるんだ…)
三人ではメルバナイトに勝てない。いや、五人いても勝つことは無理だ。
だがしかし、現地の被害が最小限に抑えられたのなら祭りは中止にならないかもしれない。運が良ければ敵に勝つなんてこともあるだろう。
「ちっくしょおおお!」
信太郎は久しぶりに自転車に乗った。そして記念公園へ向けて全速力でペダルを漕いでいた。
「あっ!」
それから間もなく、自転車のブレーキが壊れてコンクリートの壁に激突した。信太郎は頭から血を流して自転車も前輪が潰れていた。
しかし信太郎はすぐに立ち上がり、壊れてしまったのなら足で走ればいいとその脚で公園に向かった。
走っている途中、左目が急に痛くなった。頭から流れる血が流れ込んだのだ。汗を拭こうと額を拭えば袖が真っ赤になっていた。
「いてえええええ!」
遂に悲鳴をあげた信太郎だがその走る速度は変わらなかった。頭から血を流した少年が奇声をあげて走っているので当然注目されたが、アクトナイトとして戦っている時に比べたら大して気にならなかった。
やっとのことで到着した公園には先客が。息を切らし汗を流す奏芽がいた。
「アクトナイト!ソードとマテリアル!」
「信太郎!?どうしたその怪我!」
「大丈夫大月君!?」
「いいから!」
銅像の前にトロワマテリアルが現われた。中にはアクトソード、セルナマテリアル、そしてアクトブレイドが入っていた。
「行こう清水!」
「うん!」
二人はボードモードのトロワマテリアルに乗って仲間たちのいる戦場へと赴いた。
「大したことねえな!」
三人のアクトナイトはメルバナイトカイジンと激突していた。それを後ろから呑気に見物しているのがマジクだった。
フレイスの剣はカイジンによって弾かれた。次に背後から奇襲を仕掛ける二人を目視せず、カイジンは剣を振って二人に反撃した。
「そんな!」
ジュピテルは植物をカイジンに巻き付けようとするが、それさえも叶わず背中を引きずって着地した。
「この前のパワーアップアイテムはどうした?あれ使ってかかって来いよ!」
「お前なんぞに必要ねえから使わねんだよ!」
強気なフレイスが勢いよく跳び起きて攻撃を仕掛けた。
二人の剣が衝突し火花が飛び散る。だがフレイスは何度も攻撃を受けており、腕に力が入っていなかった。
「疲れちゃったのか!?おい!オラア!」
カイジンはフレイスの姿勢を崩して回転で威力を増したキックを繰り出した。
戦いを見物していた人々も、このままではアクトナイトが負けると思ったのか、大急ぎで現場から離れていった。
「奇襲に気付かないと思ったか!」
空から現れたセルナバスターとアーキュリー。二人の存在は既に気付かれており、カイジンは死角からの攻撃を全て回避した。
セルナはアクトバスターを分離して二つの剣で斬り込みカイジンに防御を徹底させる。その間にアーキュリーは海の水を操って円盤状のカッターを幾つも生成していた。
「させるかヨ!」
それを見たマジクが流石に危険だと判断したのか、声を出して動き出した。
アーキュリーの必殺アクアカッターはマジクへと放たれたが、マジクは魔法でカッターのコントロールを掌握し、全て海へと返していった。
「だったら!」
アーキュリーは能力に頼るのをやめてマジクに剣での戦いを挑んだ。
マジクは軽々とアーキュリーの攻撃を回避する。余裕なのか魔法は使わず、数発の斬撃を入れ込みアーキュリーを圧倒した。
そしてマジクの一振りがアーキュリーの変身が解除させるほどのダメージを与えた。
打ち上げられる奏芽。将矢は動けるはずのない身体を動かして、彼女をキャッチして倒れた。
「お前生きてたのか!?凄いな!」
「黙れえええええ!」
セルナは二本の剣で攻撃を次々と繰り出す。それをカイジンは一本の剣で全て防いでいた。
セルナバスターとなった信太郎は確かに強くなっている。しかしそれでもカイジンには敵わない。彼では勝つことは出来ないのだ。
「うおおおお!」
「ハイッ!」
倒れていたはずの啓太と千夏が再び背後から斬りかかった。
だがそれもカイジンには見破られていた。セルナはカイジンに腕を掴まれてブンブンと振り回された。
回される彼は奇襲を狙った二人を巻き込んでフレイスたちの側へと投げ飛ばされた。
「もう終わりか…案外呆気なかったな」
全員の変身が解かれた。全員苦しそうな表情をしているか、カイジンを睨み付けているかのどちらかだった。
(やっぱり…無理だった)
信太郎は左手に握るアクトブレイドを見て、これでも勝てないのかと非力を嘆いた。
明日の祭りどころではない。アクトナイトたちが排除されたことでメルバド星人は総攻撃を仕掛けてくるだろう。
「諦めるな!信太郎!」
「アクト…ナイト…?」
叫んだのはアクトナイトだけではない。すぐ隣でフラつきながらも立ち上がろうとする将矢もだ。
「啓太!千夏!立ち上がれ!まだ終わってねぞ!」
「そうやって…いっつも無茶苦茶言うんだから」
「やろう啓太…私たちも負けてられない!」
「将矢…お願い…手、貸してぇ」
「奏芽…俺からも頼む。俺と一緒に戦ってくれ」
将矢に引っ張ってもらい奏芽も目をパチパチとさせながら立ち上がった。
「信太郎!」
「…これを使うのは…俺じゃない」
信太郎も立ち上がった。そして身体を支えていたブレイドを将矢へと投げ渡した。
信太郎から将矢へとアクトブレイドが移った。今の彼を見て、これは自分が使うべきものではないと信太郎は感じたのだ。
「よし…もう一度行くぞ!」
その時だった。突然景色が変わった。メルバナイトたちとの戦いで荒れた道路から一変。道路に沿って屋台が並び、そこには笑顔の人たちがたくさんいた。
明日の祭りの光景だ。今見ているものが未来なのかそれとも別のものかは、五人にはよく分からなかった。
「俺たちが…この笑顔を守らないといけないんだ!」
「そうだった…自分の事でいっぱいになってた」
「右に同じ」
「二人ともだらしないなぁ…啓太、まだ頑張れる?」
「そりゃもちろん!明日の祭り、絶対に中止にさせないから!」
「俺たちが守るんだ!街を!そこに住む人たちの希望を!」
将矢が腕を伸ばす。今見ていたルノー祭の光景が手のひらに収束していき、気が付けば元の景色に戻っていた。
そして将矢は新たなるマテリアルを手にしていた。
「感じる…希望の力を!」
将矢はソードとブレイドを連結させたアクトバスターを完成させた。
そしてフレイスをソードに。新しいマテリアルをバスターにセットした。
「やれるのか将矢?」
「あぁ。だからアクトナイト!お前にも頑張ってもらうぜ!」
「分かった!文字通りの出血大サービスだ!エナジー全開!全員でいくぞ!」
「「「「「アクトベイト!」」」」」
「アクトナイトセルナ!アーキュリー!ジュピテル!ビヴィナス!そして!」
将矢が二つのマテリアルを使用したことにより、バスターを超える新たなるアクトナイトが誕生した。
「闘志を燃やす希望の戦士!アクトナイトホープフレイス!」
初めて五人のアクトナイトが並び立った。撮影すればいい絵になるのだが、既にギャラリーは避難している。だがそのおかげで五人の正体は晒されずに済んでいた。
新たなる戦士アクトナイトホープフレイスは炎の力だけでなく、希望の力も有している。
剣で繋がる五人の心。将矢の希望が四人の元へ。希望の力がみんなを強くした。
「いくぞ!」
将矢の掛け声で一斉に走り出した。マジクとカイジンは彼らからこれまでにはない勇気を感じていた。
「こりゃあ手強いぞ…」
「なんダ!何が起こったんダ!」
湧き溢れる希望の力により各々のスペックは上昇し動きが速くなっている。アーキュリーとフレイスは目にも止まらぬ速さで、前後からマジクに挟み撃ちを仕掛けた。
「こいツ!いつの間ニ!」
アーキュリーの攻撃を防ぐのにも精一杯なマジクは、背後からの攻撃に対応出来るわけもなく背中に傷を付けられた。
「燃えロ!」
マジクが剣をクルクルと振る。すると彼の周りにいくつもの火の玉が出現した。そしてアーキュリーに剣を向けると、火の玉は彼女に向かって一斉に発射された。
「させるかよ!」
フレイスがアーキュリーの前に立ちバスターを構えた。火の玉はバスターの両刃へと吸い込まれていき、フレイスをパワーアップさせていた。
「いくぜ!」
マジクの目の前に一瞬で来たフレイスは、強烈な刃を攻撃を何度も繰り出した。
「グアァァァ!」
その横でカイジン相手に三人も戦闘を繰り広げていた。
「チッ!雑草が絡まって…ウザイ!」
ジュピテルの能力によって足を掴まれたカイジンに、ビヴィナスが必殺のビヴィナススラッシュを振った。当たった物を原子まで分解させる恐ろしい技だ。
カイジンはビヴィナスの必殺技の性質を一目で見抜いた。身体の一部分を切り離して、それを剣に向かって投げた。
「いてぇ!…が、これで大丈夫だな」
ビヴィナスの刃に集まっていた原子化エネルギーはカイジンの皮膚を分解することで全て消費されてしまった。
なので刃がカイジンに触れた時には何も起こらなかった。
カイジンはビヴィナスを投げ飛ばしたが、その陰からジュピテルとセルナが現れた。
「そう言えばお前の必殺技も危なかったよなぁ!」
攻撃に移ったことによりジュピテルの能力が弱まった。カイジンは絡まっていた植物たちを無理矢理引きちぎり自由を取り戻した。
そしてジュピテルの腕を掴んで、その刃先をセルナへと向けた。
「避けて信太郎!」
信太郎の身体に剣が傷を与えた。ジュピテルスラッシュは傷を付けた場所から植物を誕生させ、宿っている生命体の命を吸って成長するという恐ろしい技だ。
本来なら既に芽が出てきてもおかしくないはずだったのだが、剣が傷を付けた信太郎の首からは何も現れなかった。
「それは俺のデコイだ!」
いつの間にかカイジンの背後には本体のセルナが立っていた。ジュピテルスラッシュを受けたセルナデコイはブロックのようにバラバラになり消滅した。
「啓太を離してよ!」
駆けつけたビヴィナスとセルナは同時に攻撃を繰り出して、カイジンに大ダメージを与えてジュピテルを救出した。
「こいつラ…強くなってやがル」
「おもしれぇじゃねえか!」
「次で終わりにする!」
戦いの幕引きを宣言したフレイス。ソードとブレイドにセットされた二つのマテリアルを素早く叩いた。
「絶望を燃やし尽くす業火の乱舞!ホープフレイススラッシュ!」
アクトナイトの口上が始まった時には既にフレイスは走り出していた。
マジクが様々な魔法でフレイスを妨害するが、今の彼を止めることは出来ない。
迫りくる障害を踊るように剣を振っては破壊していき、二人に剣が届く位置まで接近した。
「ホープフレイススラッシュ!」
カイジンとマジクは後ろにステップして刃を避けたはずだった。
しかし炎によって作り出された刃が彼らに届いていた。
フレイスがその場で舞い躍る。するとその動きに合わせて、炎が揺れてカイジンとマジクを襲った。
「なんか踊ってる…」
それから一分間の間、フレイスは踊り続けた。最後にソードをバトンのように投げると、巨大な火柱があがった。
「…ふぅ」
剣をキャッチしたフレイスの背後には変身の解けたエルビスとバッドが黒焦げになって倒れていた。
「やられタ…悔しいが撤退するぞバッド」
「あいよ…それにしてもアクトナイトセルナ…ありゃ面白くなりそうだ」
両者とも既に力を使い果たしていた。この場を去っていく二人を追撃する余裕はなかった。
「勝った…勝ったぞおおお!」
フレイスが剣を掲げた。すると剣が光を放ち、その光に照らされた一帯が戦う前の状態へと修復されていった。
「これなら明日の祭りやれるかも…凄いよ将矢!」
「みんなよく頑張ったな!とりあえず公園まで来るんだ。傷を治してやる!」
一同はアクトナイト公園に戻り、戦いの傷を治してもらった。
そして次の日、ルノー祭当日…
「昨日ここでアクトナイトと怪人が戦ったって聞いてたけど…全然そんな風には見えないね」
「う~ん、だね。完全に直ってる」
集合場所のホームセンターカシオペ前には信太郎と芽愛、真華の三人が集まっていた。
「朝日君遅いな…灯刀さんは来てくれるかなー」
芽愛は正直なところ、那岐はルノー祭に来ないと思っていた。
しかし集合時間から五分後、向かい側の歩道に停まったバスから昇士と那岐が降りてきた。
「ごめん!遅くなった」
「暇だったから来たわよ」
「灯刀さん!…ところでその背負ってる物は?」
那岐は身長よりも長く細い筒のような物を背負っていた。
「みんな揃ったね。それじゃあ行こう!」
芽愛は四人を率いてたくさん並ぶ屋台を見て回った。
「朝日、あの小さな氷山は何?」
「え、灯刀さんかき氷知らないの?」
「ねえ朝日君!綿菓子があるよ!」
「信太郎君は来たことあるの?」
「うん…小学校に入る前に何度か。あんまり覚えてないけど…射的なんかあったかな」
くじ引きやヨーヨーすくいで遊んでから、たこ焼き、ベビーカステラ、焼きそばなど食べられる物をたくさん買った。
信太郎はたこ焼きを食べ、真華はタピオカミルクティーを飲んでいた。昇士と芽愛は綿菓子を千切ってシェアしており、かき氷を食べ終えた灯刀は水風船で遊んでいた。
時間になると祭りのフィナーレを飾る花火が上がり始めた。
周りの人たちが夜空に咲く花に見とれている中、信太郎は周りを見渡していた。
(俺たちが負けてたら…戦わなかったら、みんな祭りに来れなかった。今笑ってる人たちは残念だとガッカリしてたのかな)
祭りの会場に昨日の傷痕は何一つ残っていない。将矢のホープマテリアルは今日への希望の力を使い完璧に修復していた。
「綺麗…!」
「…っ!」
信太郎は無意識の内に見つめていた。自分の隣で、可愛らしく目を輝かせながら花火を眺める少女を。
(そうか…)
昨日、芽愛のことを思い出して彼は走り出した。それを思い出した信太郎は、自分は芽愛に恋しているのだと自覚した。
後日、信太郎はアクトナイトとして戦うことを再び決心した。そのきっかけとなったのは何よりも、芽愛の笑顔を自分が守ったということだった。