第13話 刀を振るう少女
「イーグル?…イ~グル~?」
シャオが宇宙船の中で何かを探していた。棚を開けたりベッドの下を覗いてみるが、探している何かは見つからなかった。
探し物を見つけるため、シャオはいつものようにテレパシー能力を使い5人のトロワマテリアルへと呼び掛けることにした。
「お~い、誰かいるか?」
「千夏と~」
「奏芽で~す」
すると金石千夏と清水奏芽の女子二人が反応してくれた。どうやら二人は一緒にいるようだ。
「怪人ですか?」
「いや違う。実はアニマテリアルの1体が消息を絶った。エナジーが感じられない」
アニマテリアル。それはシャオが開発した人工マテリアルで、動物に変形するという機能を持っている。街の警備やアクトナイトの強化を目的としているマテリアルの内1体が行方不明になってしまったのだ。
「壊れちゃったとかは?」
「いやありえない。そいつは今ある中でも最強のアニマテリアルだからな」
「それってどんな動物なんですか?」
「イーグルアニマテリアル。ワシだ」
いなくなったのはワシ型のイーグルマテリアル。アニマテリアルたちにも性格はあるのだが、イーグルは一番真面目で街の警備をしっかりしていたという。
「その性格だと職務放棄とかじゃなさそうですね…」
「私たちも少し探してみます」
「頼む。三人にもこのことを伝えておいてくれ」
シャオはテレパシーを終えると、再び宇宙船の中でにいないかと探し始めた。地球人とはかけ離れていかつい見た目をしているシャオがイーグルを探している姿はどこか可愛げがあった。
「あれ?今日、灯刀さんいないんだ」
「本当だ」
先日の祭りをきっかけに大月信太郎と朝日昇士は教室で話す程度には仲良くなっていた。
「灯刀さん、中学の頃からお家の都合で休むことが多かったみたいだよ。忙しそうだよね」
一緒に祭りにいったメンバーである陽川芽愛は授業中に取ったノートをスマホで撮っては誰かに送信していた。
「二人もノート見せてくれない?多分私だけのだとよく分からないと思うんだよね」
「あー…俺ノート忘れちゃって」
信太郎のノートはある。しかし、他人に見せられるようなものではなく、忘れたと嘘をついた。心の中で信太郎は、ちゃんと綺麗にとっておけばよかったと後悔していた。
「そう…朝日君は?」
「ちょっと待ってて」
そうして昇士が持ってきたノートは、信太郎と比べると内容はほとんど同じだが綺麗な字でまとめられていた。
「ありがとう朝日君!」
芽愛が昇士に礼を言う光景を、信太郎はつまらなそうに見ていた。
「久しぶりにドライ信太郎降臨してるじゃん。ガムいる?」
「あ?いる」
千夏と一緒にやって来た鈴木啓太がからかうように声をかけてきた。肩がぶつかりそうなぐらい近い二人を見て、信太郎の機嫌は更に悪くなった。
(イチャコラしてんじゃねえよ…)
「大月君、ちょっといい?」
廊下に連れ出された信太郎は二人からイーグルアニマテリアルの話を聞かされた。だが機嫌が悪い信太郎にとってはそんな話どうでもよかったので、適当に聞き流していた。
「朝日君。ノートありがとう」
放課後、昇士は芽愛に貸していたノートを受け取った。
「そうだった貸してたの忘れてた…」
「凄い読みやすかったよ!朝日君、ノートまとめるの上手だね。今度見せてくれないかな?」
「俺ので良かったらいつでもいいよ。それじゃあまた明日」
芽愛に小さくお辞儀して別れを告げると、昇士は昇降口へと流れる生徒たちの中へと吸い込まれていった。
そして帰りの道中にて…
(あれ…)
長く美しい赤髪の後ろ姿。学校を欠席した灯刀那岐の姿を見つけた。
初めて見る私服姿にドキッとした昇士だが、それよりも彼女の険しい顔の方に注目していた。
(なにやってるんだろう…こんなところで)
昇士は話しかける…のではなく、どこかへ歩いていく彼女をこっそりと尾行した。
那岐はルノー祭の時と同じ筒状の鞄を肩に背負っていた。その大きな鞄によって小柄な那岐は昇士にはさらに小さく見えていた。
尾行を続けてやって来たのは人の寄り付かない山の中だった。
昇士は疲れていたが、那岐は歩き慣れているのか呼吸を乱すことなくどんどん山の奥へと進んでいく。見失わないようにと、昇士も力を振り絞って彼女を追った。
洞窟を見つけると那岐は足を止めた。
「ここね…」
那岐は手にポケットから小さな物体を取り出すと、それを洞窟に向かって投げた。
「行きなさいワシ丸!」
その物体は空中で変形して、小さいがカッコいいワシになった。
これこそアクトナイトが探していたイーグルアニマテリアル。それをどういうわけか、アクトナイトとは無関係の彼女が所持していた。
ワシ丸と名付けられたイーグルは洞窟の中へと進んでいく。その後に洞窟に入っていく那岐を昇士も追った。
洞窟の中はそれは暗かった。昇士は既に那岐たちを見失い、スマホのライトで足元を照らしながら進んでいた。
怖かったが、不思議と来た道を戻ろうとは思わなかった。なぜ那岐のような少女がこんなところに来るのか。その疑問がとても大きいものだったからだ。
しばらく進むと明るく広い場所に出た。しかし太陽の光が差し込むような穴はなく、光は人口的なものだった。
(あれは…なんだ?)
洞窟の奥には箱のような巨大な機械があった。メルバド星人の宇宙船だ。
「誰ダ!」
船の陰からニュースで見たことのある怪人が現れ、昇士は思わず身を隠した。だが怪人が怒鳴ったのは昇士ではない。堂々と立っている那岐に対してだ。
「宇宙人。あなたを斬りに来た。この波絶で!」
那岐は背負っていた鞄を降ろしてそこから身長よりも長い刀を取り出した。
鞘から抜かれたその刀、波絶の鍔は変わった形をしながらも刃と柄を繋いでいた。
「子ドモノ地球人ガ俺ヲ?…ハッハッハッ!笑ワセル!」
怪人は光線砲を組み立てると子どもの那岐だろうと容赦せずに攻撃を開始した。
「そんな物、狙っても私には当たらないわよ」
光線を軽々と避ける那岐の姿を、昇士はずっと目で追っていた。踊るように避ける彼女はとても可憐だった。
「紛レガイツマデ続クカ見モノダナ」
「その余裕はいつまで続くのかしら。楽しみね」
何度も伸びる光の一線はただ洞窟の壁を削るだけだ。那岐は光線を回避しながら徐々に怪人へと迫っていた。
「ハッ!」
遂に那岐が踏み込んでその刀を振った。すると怪人の持つ大きな光線砲が切断されて綺麗な断面を見せた。
昇士にその一太刀を目で捉えることは出来なかった。切断された砲口が地面に落ちたことで、那岐が刀を振ったと認識するほど速い一振りだった。
「ナ、ナンダオ前!」
「百年前…この星で戦いがあった。それから今、この時のために私は育てられた!」
ビュンッ!と音を鳴らして刃は風と共に腕を斬り落とした。
「ウギャアァァ!」
「今のアクトナイトたちはせいぜい数体…でも私は!お前で百体目!」
怪人は那岐を蹴り払い、仲間を呼ぼうと宇宙船の通信機へと向かった。しかし、仲間たちに繋がることはなかった。
「ドウシテダ!コイツニ搭載サレテルノハ最新型ダゾ!コンナ洞窟ノ中デモ繋ガルハズダ!」
「残念ね」
那岐はユラユラと身体を揺らしながら通路を歩いて、怪人の元へとやって来た。
「この対地球外生命体刀波絶は波を絶つ。この宇宙船の電波を遮断したわ」
「ヤ!ヤメテクレ!コノ星カラ出テイク!頼ム許シテクレ!」
「残念ね」
最後にそう言うと那岐は刀を振り怪人の首を跳ねた。返り血が付着しても気にすることなく、そのまま船を出た。
そして静かに、足音を立てずに、那岐は昇士のいる岩陰へと歩き始めた。
(や、やばい!殺される!)
宇宙船の中から叫ぶ声が聞こえた。宇宙船から出てきたのが青色の液体で汚れた彼女だけということから、大体何が起こったのか想像つく。
「待ってえええ!ストップ!俺だよ昇士だよ!」
「…え?どうしてお前がここにいるのよ?」
姿を現したのは宇宙人ではなく昇士だった。驚きはしたが那岐は鞘を広い刀を納めると、彼と共に洞窟を出た。
「私を追ってここまで…それってストーカーよね?犯罪よ」
「今日学校休んでたから、どうしたのかなって気になって…」
那岐は自販機で無糖のコーヒーを買うとクピクピと飲み始めた。
「さっきのは一体何なの…いや、話せないことなら無理には聞かないよ。ただ気になっただけなんだ。この事は誰にも話すつもりはないよ」
「そう」
二人の上をグルグルと回っていたイーグルが那岐の肩に止まった。
「それは何?鳥みたいだけど…」
「ワシ丸。少し前に怪人に破壊されそうになってたのを助けたら懐いたの。きっとアクトナイトたちの物でしょうね」
アクトナイト。昇士はニュースでその戦士たちの戦いを何度か見たことがあった。いつも街を襲う怪人と戦うヒーローだというのが、世間からの認識だ。
「灯刀さんはアクトナイトたちの仲間なの?」
「そこはまだ分からない。私の目的は宇宙人を倒すことただそれだけだから。正体不明の彼らが宇宙人と戦ってくれるなら放置しておいていいけど、邪魔になるようなら容赦なく斬る」
可愛らしい見た目の割に発言が物騒だなと昇士は言いそうになった。
「明日は学校に来るの?」
「さぁ…明日も任務が入ったら学校は休む」
「あんまり休むと留年しちゃうよ?」
「もう!うるっさいな!しつこいこのストーカー!」
那岐は並外れた身体能力で一軒家の屋根に飛び乗ると、そこから猫のように軽々しい動きで遠くへ行ってしまった。
「…確かに今のはしつこかったな………また明日―!」
昇士は身の振るまい方を反省。大きな声で届くかも分からない挨拶をすると家に帰っていった。
自分の知らない所で戦いが起こっているとは当然知らず、記念公園に来ていた信太郎は剣の素振りをしていた。
「精が出るな信太郎」
「みんなのフッ!足をフッ!引っ張りたくフッ!ないからフッ!ねフッ!」
画面の点いているスマホには剣道の素振りのやり方が映っていた。
「これからメルバド星人の侵攻はどんどん激しくなるだろう。フルパワーで全員同時変身したその後しばらくは1人しか変身できなくなると考えると、アレもなるべく奥の手として温存しておきたい」
「そんなデメリットあったんだ…」
ルノー祭前日、信太郎は5人同時にアクトベイトした。それから今日までの間、運良く怪人と戦うことがなかったのだ。
「…もしかしたら」
アクトナイトはしばらく考えてから口を開いた。
「俺たち以外にもメルバド星人と戦っているやつがいるのかもしれない」
「そうなの?」
「あぁ。アクトナイトたち戦士のエナジーや宇宙人、怪人のエナジーの他に、刃のような鋭いエナジーを感じることがあるんだ」
刃のような鋭いエナジーというものが信太郎にはよく分からなかったが、戦える人間だというのは分かった。
「それって…」
「仲間かどうか…それはまだ分からない。そのエナジーは一瞬感じることはできるが、何らかの術によって感じられなくなってしまうんだ。そのエナジーの主が何をしているのか検討もつかない」
素振りを終えた信太郎は地面に剣を突き刺すと、その場に座り込んだ。
「ふぅ…いい人だといいな」
「そうだな」
信太郎は10分ほど休憩した後、トレーニングを再開した。それを見るアクトナイトは彼の努力が実ることを祈っていた。
「私たちも新しいマテリアル、手に入るのかな」
啓太の自室で漫画を読んでいた千夏がふと思い呟いた。
将矢は人々の希望を見いだしホープマテリアルを入手した。千夏はいつかまた来るであろうピンチの時に自分も強くなれるのではないかと考えていた。
「アルティメットビヴィナスとか、スプレンディッドビヴィナスとか…」
「アクトナイトさんが言ってたでしょ。マテリアルの生成は容易なことじゃないって」
啓太も漫画を読みながら返事をした。そんなことよりも彼は今、どうやって千夏との距離を縮めようかと思考をフル回転させて考えていた。
「…ねえ、今何読んでるの?」
啓太は持っていた漫画を棚に戻すと、さりげなく千夏に接近した。
「え、これだけど」
千夏は啓太と肩が触れるくらい近いことを気にせずに、それどころか漫画のページを見せようとさらに頭を近付けた。
「…なんか顔赤くない?大丈夫?」
「え?えええ?…あーちょっと暑いだけ」
部屋の冷房は効いている。千夏は赤くなった啓太の顔を不思議そうに見ていた。
二人は漫画を読みながらもアクトナイトとしての役割を忘れず、時折トロワマテリアルに触れてはアクトナイトと連絡を取っていた。
その日は怪人が現れることなく、二人はのんびりと放課後を過ごすことができた。
「家まで送ってく?」
「大丈夫だよ。ソードの力で強くなってるんだし」
啓太は帰ろうとする千夏を玄関先まで見送った。
「それじゃあこれ、来週には返すから」
千夏の手には漫画の入った重たい紙袋があった。中のものは全て啓太が薦めた作品だ。
重たそうにしている千夏を見て、啓太は流石に貸しすぎたなと反省した。
しかしもう片方の手にあるトロワマテリアルの、その中にあるアクトソードの力を受け取ったことにより千夏の身体能力が向上、軽そうに腕を動かしていた。
「また明日ね」
「うん。ばいばい」
住宅地の角を曲がるで、啓太は彼女を見送った。
アクトナイトたちは怪人と戦わなかった。しかしそれは怪人が偶然出現しなかったたどという優しい理由ではない。
波絶を振る灯刀那岐。彼女が代わりに戦っていたからだというのをシャオを含めて誰も知らない。
そして自分たちが衝突する未来は、誰にも分からなかったのだ。




