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真の作戦

「けどさ、実際のところどうするの? 次のクエストって言ったってスルーアの討伐より効果がありそうなクエストなの?」

「うん。実のところ本命はこっちなんだよね。スルーア倒したって実績で次の依頼主の信頼を勝ち取っておきたかったんだけど、その辺は微調整すればどうにかなるかな」


 シアはスルーアの討伐と一緒に受けたもう一つのクエストの依頼書を取り出した。


「本命はこっち」

「トールドシャドラーのほか、く……って、捕獲⁉ トールドシャドラーってあれでしょ⁉ 物理攻撃効かないっていう、オバケみたいなでかいヤツ‼」

「ご名答! これをエサに依頼主と交渉をしようと思うの」

「でも捕まえるの大変なんじゃない? だって、ゴールドホーンでどうしようもないからうちにも流れてきたようなクエストだよ」


 シアは得意げに笑う事を我慢できなかった。


「ふっふっふっ……実はトールドシャドラーは、なんとぉ~、すでに私たちの手の中にいます‼」

「えぇ⁉ どういう事⁉」


 2つの依頼を受けてからジークはシアとほぼずっと一緒にいる。そう反応してしまうのも無理はない。


「ジークさんよ、ハイドの能力をお忘れかい?」

「ハイドさんの能力? 統率と支配と異空間……あっ! もしかして!」


 思い至ったジークは目を輝かせた。


「そう。クエストを受けた時点で既にトールドシャドラーは捕獲済みだったのです。ちなみに3体」

「違う。5体」


  割り込んできたハイドの発言にシアは目を見開いた。


「えぇ⁉ いつの間に⁉ 私知らないんだけど‼」

「野宿の時。シア眠ってた。だから、起こさず捕まえた」


 ハイドの無表情のピースポーズ。

 これは今までで1番してやったりと思っているに違いない。

 シアは返す言葉もなかった。


「まっまぁ、それはさておきこっちの方のクエストは依頼主に報告するだけだから大丈夫」

「それならそっちを先に終われせればよかったのに」

「だから依頼主の信頼を勝ち取っておきたかったんだってば。そういう事だから、もうここには用はないから早く撤収しよう。ハイド、スルーアの死体をこのままはまずいから、片づけといて」

「わかった」


 ハイドはスルーアの死体を異空間へと投げ込むと、再びシアの体と同化を始めた。

 出て来た時と同じようにシアの首の付け根から吸い込まれるように消えていった。


「どうなってるの? これ」

「話すと長くなるから、追々説明してあげる。とりあえず今はキャロンジアに戻ろう。こんなところウロウロしてたら他の魔物と戦うことになっちゃうからね」

「そ、それは大変! 急いで帰ろ! すぐ帰ろ‼」


 走り出したジークを追いかける形で、シアはキャロンジアへと帰還していった。







 シアとジークはキャロンジアに戻ると、ラビリスのギルドマスターへ報告を済ませた。もちろんハイドはシアの中に潜んでいる状態でいる。

 クエストもシアの隠している能力を使って倒し、麓に落ちたスルーアを探している間に他の冒険者に持ち去られてしまったとだけ伝えた。

 ジークもシアとの約束を守り、ハイドの事は胸の奥に秘めていてくれている。

 どうやらこのクエストは、先ほど完了の通知が届いたらしい。マスターによるとゴールドホーンの冒険者がスルーアの魔核を持ち帰り、スルディアート山付近のスルーアの反応が消え、討伐完了が認められたとの事だ。

 マスターは「仕方ないね」と残念そうにしていて、シアは悔しさで胸がいっぱいになった。

 しかしこんなことでいちいち気落ちしていては冒険者はやっていられない。気を取り直して、次に向かうは研究所だ。

 そこでは魔物の研究が日々行われている。だから“討伐”ではなく“捕獲”としてクエストを依頼している。

 研究所に着くとシアは堂々と中へ入っていった。ジークはビクつきながらシアの後を追いかける。


「すみません。先ほどギルド・ラビリスから連絡してもらった冒険者なんですけど」


 研究所の受付の受付嬢に話しかけた。

 当然の事、ここの受付嬢はゴールドホーンの受付嬢とは違い、とても感じの良い受付嬢だ。


「はい、伺っております。お名前をこちらによろしいですか?」

「はい、わかりました」


 差し出された書類に、シアは自分の名前とジークの名前を書いた。


「ありがとうございます。ではこちらを首にかけてください。そちらの者がご案内します」

「はい」


 案内人は女性だ。


「わーきれー……」


 ジークはその女性に見とれていた。

 シアも男だったら惚れていたかもしれないと思うほどの美人だ。それに羨ましいほどのプロポーションをしている。シアとは似ても似つかない体系だ。

 案内人はシアたちと視線が合うとニコッと笑った。


「では、こちらへどうぞ」

「お願いします」


 シアたちは階段で5回まで上がり、端の方にある部屋へ案内された。


「こちらです。ジャバスさん、冒険者の方が来られましたよ」


 ジャバスというのが第2のクエストの依頼主だ。

 研究職でこんな魔物の捕獲依頼をしてくるくらいだ。やはり、研究大好きのヨレヨレの人なのだろうか。


「はーい、入ってきてく……」


 ガッシャ――――ン!


 男の声が聞こえたかと思った次の瞬間、何かが崩れ去るような音が聞こえてきた。


「ジャバスさん⁉」


 案内人の女性が慌てて扉を開けると、部屋の中で荷物が崩れ落ち、その下敷きになっている男性の姿があった。

 案内人は急いで下敷きになっている男性のところへ走った。


「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。問題ないよ。いつもの事さ」


 いつもの事さとは。ならば片付けるべきではないのかとシアは思った。


「ほんとに大丈夫ですか?」

「ああ、平気だから君は自分の仕事に戻ってくれ」

「だから日ごろから片づけてくださいってみんなあれほど言ってるのに……」

「アハハハハ」


 案内人の女性はシアとジークに一礼すると、ブツブツと小言をつぶやきながら部屋を後にした。

 依頼主である男の胸にかかっている名札にはジャバス・グローリーと書かれている。

 予想通り衣類には頓着しないタイプのようで、服や白衣に実験の跡が多々残されている。


「すまないね君達。お見苦しいところをお見せして。片付けようとはしたんだけど、何をどう動かせばいいのかわからなくて。とりあえず机の上は片付けたんだけど、代わりにそこに山ができて」


 視線の先には山などない。


「ドバーっといっちゃったんだ」

「それは片づけたとは言わないでしょ」


 ハイドと対面したことで怖いという感情の閾値が上がりでもしたのか、ジークは失礼なことをサラッと言ってのけた。だとしてもその勇気は大したものだ。

 言われた本人は言われ慣れているのか全く気にしている様子はない。むしろ大笑いをしていた。


「だよねぇ。やっぱり私には片づける、なぁんてことは向いていないのかもしれないね」


 ジャバスという男は豪快に笑い続けた。

 珍妙な性格なのはジークといい勝負かもしれない。むしろ上な気がした。

 満足したのか、ふうと息を吐くと、ジャバスは突然仕事をする人間の顔になった。


「で、今回はトールドシャドラーの捕獲だったはずだけど、私が見る限りではそれらしいものはお持ちではないようだ。それはどういう事かな?」


 急に重苦しくなった雰囲気にジークから強張った気配がした。


「大丈夫です。ちゃんと連れて来ていますから。その前に私はグローリーさん、あなたと交渉させていただきたいんです」


 シアの予想外の言葉に一瞬じゃパスは目を丸くした。


「交渉? ふっ、まぁいいだろう。続けて」

「では、単刀直入に言います。グローリーさん。あなたが出されるクエストをゴールドホーンだけでなくラビリスというギルドに向けても依頼していただきたいのです」

「……私は一研究員だ。クエストの事は全てこの研究所の所長に任せてある。私の一存では決められないよ」

「けど、このクエストはあなた名義で出されたものです。つまり、これはグローリーさん自身もクエスト依頼はできる立場にあるという事ですよね」

「そうだね。けどこれは今回だけ仕方なしに自分名義でクエストを依頼したんだ。個人的な研究のためでね、研究所からは資金が出ないんだ」


 どんな契約があのギルドとなされているかはわからない。どうあっても今の体制を変えることはないという事なのだろう。

 そういう事なら。

 シアにも考えがあった。

 シアはいきなり立ち上がると片手を横に突き出し、何かを掴むような手の動きをした。


「シ、シアちゃん? どうしたの急に?」


 何も知らせていないジークは困惑を隠せずにいる。

 シアは思い切り手を引くと、何もない空間から自分と同じほどの大きさのトールドシャドラーを引き出し、それを机の上に叩きつけた。

 お読みいただきありがとうございます。

 次回更新は、たぶん近々、できると思います……だぶん……

 でわ、また次回!

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