メンテナンス
「すごいよシアちゃん! 指名で依頼を貰えるなんて! これでギルドを畳まずに済むって、ばあちゃんすっごい嬉しそうだったね!」
先ほどシアとジークはマスターに第2のクエストの達成報告をするためにギルドに立ち寄っていた。大物クエストの達成にマスターが大いに喜んでいる最中、その通達は届けられた。
トールドシャドラーを届けた研究所、カザシス研究所から複数のクエストが届けられたのだ。
中にはシア指定で依頼してきているクエストもちらほらと見受けられる。
それもそのはずだ。そのクエストの全てが上位クラスの魔物の捕獲ばかりだった。これは普通に敬遠される難易度のクエストだ。
「あの男……やってくれたな」
ジークとギルドマスターが喜んで浮かれている傍で、ジャバスのやってやったという得意げな顔が頭に浮かんできたシアは、1人ムカッとしていた。
「で、シアちゃん。次はどうするの? またクエストに行く?」
ムッとした気持ちを思い出してモヤモヤしていると、ジークが顔を覗かせてきた。
のほほんとしたジークの顔に、シアの中で巣くっていた感情はどこかへ吹っ飛んだ。
「あっ、うん、そうだね。でもその前に、まずはゴールドホーンでボロボロになってる冒険者を助け出そうと思うんだ」
「ボロボロって……ええーっ、僕らが動かなくても、気づいてみんな勝手に移ってくるんじゃないの?」
普通に考えればそうなのだが、おそらく彼らだけの力では難しいだろう。
ブラックギルドの冒険者たちがシア達のいるギルドに移るためにはまず、現状所属しているあのギルドから除籍しなければならない。除籍を申請し、認められることで他のギルドに登録する権利を取り戻せる。
ギルドの仕組み上、勝手に別に移りますという事は残念ながら出来ないのだ。
シアにはあのギルドがそう簡単に金づるを手放すとは思えなかった。
「たぶん無理じゃないかなぁ。何かしら無理難題を条件に移籍を妨害してくると思う」
「それって違反じゃないの?」
「最初に契約してなければ違反だね。でも、何年以内に移籍する場合は違約金としていくら必要になるとか契約の上でなら違反ではないかなぁ。ただ金額によってはグレーゾーンになりそうな気はするけど。たぶんギルドの登録時に署名でも貰ってるんじゃない? 知らないけど」
「げぇっ‼ ぼ、僕あのギルドに移籍しなくてよかった」
ジークは本気でそう思っていますという嫌そうな顔をしていた。
それなりに観察力はあるけど、それをうまく扱えないうえにこの性格だ。もしジークがあのギルドに行っていたら間違いなく良いカモにされていたに違いない。
シアはジークに憐みの目を向けた。
「ジーク……あんたはもうずっとあのおばあ、じゃなかった。マスターのところにいた方がいいよ。なんだかんだマスターはあんたの事孫みたいに大事にしてくれてるんだから」
「う、うん? なんか馬鹿にされてる気がするけど、僕だって他に移る気は全くないよ」
「ならいいや」
そんな話をしながら帰り道を歩いていると、シアが寝泊りする宿に辿り着いた。
「じゃあ、私ここに泊まってるから」
「えっ、ここって……めっちゃ高いところじゃん‼」
ジークが驚くのも無理はない。
シアが泊っている宿はこの辺りの宿の中では高級な宿に分類される。
すでに月単位で支払いを終えているのでシアの財布はすっからかん。ギルドの立て直しをする間居続ける予定なので、それなりのクエストに挑み続けるしかない。
とはいえ、稼ぐための目星は着いたので一安心だ。
「ね、ねぇ! シアちゃんってお金持ちだったの⁉」
「うーん、1人でもある程度強い魔物倒せるし、ハイドもいるから普通に旅してるだけで結構高価な素材集められるんだよね。そういうの売ったら、まあそれなりに」
ジークはシアの泊まっている宿を見上げながら固まっていた。
「えっと、私疲れたから部屋に戻るね? また明日、ジーク」
「また明日って……ええー……」
シアは唖然として佇んでいるジークを置いて、宿泊している部屋へと戻って行った。
近いうちにジークを招き入れたらまた面白い反応を見られるかもしれない。
数週間の旅で疲れていた先日のシアは部屋を探索することなくベッドへ直行し、即寝てしまった。
今日は疲れはしているものの倒れ込むほどではなかったため、シアは部屋の中を歩き回ってみた。喜びの声を上げたのはバスルームを見た時だった。
「あ‼ バスタブ‼ やった、お湯につかれる‼」
シアはバスルームから飛び出した。
荷物の中から着替えを引っ張り出すと、鼻歌を歌いながら意気揚々とバスルームへ戻ろうとした。
「おふろ、おっふろ~」
「シア」
ハイドの声がして立ち止まった。
その声は自身の内面から響いてくるものではなく、背後から声が聞こえてきた。おそらく出てこようとして、顔を覗かせている状態なのだろう。
「どうしたの、ハイド」
「メンテナンス、ついで、俺も入る」
「……後でよくない?」
「服脱ぐ、ついで」
「うーん……」
ハイドは男性体をしていても同じ人間の男性ではない。
そう割り切ってしまっているため、多少恥ずかしさは残っているけれど別に一緒に入ること自体に抵抗があるわけではない。
今シアが悩んでいるのは、ハイドをバスタブに入れるとゆったりと湯につかれないということに対する抵抗からだった。シアの影響なのか、いつの間にかハイドも湯に浸かることを気に入ってしまっていた。メンテナンスを終えてもハイドは湯に浸かり続けるだろう。それが嫌だった。
と、悩んではみたものの、シアが嫌だと言っても頑固なハイドが言いだしたことを曲げるわけがない。なので答えは決まっていた。
「わかった。いいよ」
「ん」
シアは先にシャワーでハイドを洗うと先にバスタブに浸からせた。なかなか大きく作られていて、大きな体のハイドも心地よさそうに寝そべり首まで浸かっている。
シアも体を洗い終わるとタオルを巻いてバスタブへと向かった。
「ハイド、私も入りたいんだけど」
ハイドは起き上がってシアが入れるスペースを作った。
「いいよ」
これは前に座れという事。しばらく出る気は無さそうだ。
シアは促された通りに浸かり、ハイドの体を背もたれにして使った。
「はぁぁぁ。生き返るぅ」
「生き返ったなら、見せて」
「そんなの後よ、後。今はゆっくりさせて」
「ダメ。こういう事、忘れないうち。シア、すぐ忘れる。それに、俺、寝る、かも」
「はぁ……わかったよ」
シアはタオルを外しその場所で膝立ちになった。
ハイドの目の位置辺りにシアの腰がくる。けれどその腰には人間の白い肌はなかった。
腰付近の肌と肉は丸状に抉られ、大きな宝石のようなものが代わりに埋め込まれている。それは腰だけでなく腹部も。抉られたというより貫通したという方が正しいだろう。
ハイドはその石の部分に手を置いた。
「いい?」
「うん。いいよ」
直後、シアの体に痛みが走った。
「うぐっ!」
声を上げないように必死に歯を食いしばって耐え続けるけれど、想像していた以上の痛みに襲われ、どうしても苦痛の声が漏れてしまう。ここまで抑え込んでいるのを褒めて欲しいくらいだ。
しばらくしてハイドの手が離れると、シアはやっと痛みから解放され、ほっと一息付くことができた。
「終わり。とりあえず、魔核の進行、戻した」
「ありがと」
痛みから解放されると、シアはそのままハイドの体へもたれかかった。
「今回のは死ぬかと思った」
「久々。魔核、進行、だいぶ危なかった」
「そっか」
「うん」
シアの腹部の宝石はただの宝石ではなく、魔核だ。そしてそれはハイドの魔核。
ハイドに腹部に開けられたシアが未だこうして生きていられるのは文字通りハイドのおかげなのだ。
「これから、放置、ないように」
「だね。こんな痛い思いするのは、もう嫌だしね」
「はあ……だから、いつも、言った、のに」
魔核は放置すればシアの体を魔核化させてしまう。
けれど、持ち主のハイドが手を加えてくれれば魔核化した部分も元に戻すことはできる。だから定期的にハイドに見てもらう必要がある。
進行がそこまでではなければたいした痛みではないのだが、野宿続きで最近はハイドにメンテナンスをしてもらっていなかた。そのツケがあの強烈な痛みとしてやってきたのだ。
今後は野宿をしていたとしても絶対に怠らないでおこう。
そう思いハイドに背を預けたまま、シアは目を閉じた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新時期は未定です。しばしのお待ちを。
でわ、また次回!




