もたらされた情報(三)
◆ ◆ ◆
「ちょっと!!マックス―――!!」
「今度は何ですか?」
先日に引き続き、断りもなしに突然部屋に押し入ってきたセシリアを見て、マクシミリアンはまたかという表情をしてそれを迎えた。
「カレルに……正体がバレた……」
神妙な顔をして切り出したセシリアの言葉にマクシミリアンは絶句した。
「……本当ですか?」
「うん……カレルに言われたから確実。しかも相手からスライブの正体を言ってきた」
「そうですか。それは……困りましたね」
「ど、ど、どうする!?私、トーランドに連行されちゃうの!?ってそれよりもマスティリア存亡の危機だよ!」
国王が女だと分かったら一大事だ。国の行く末さえも大きく変わるだろう。内外に混乱をきたす極秘事項が漏れた今、セシリアができるのはただ一つだった。
「殺るしかない……」
「ちょっ、セシリア様。落ち着いてください!!」
「私は落ち着いているわ。目撃者は殺す。これは犯人の鉄則よ!」
「なんの本の影響ですか!!とにかく、トーランド王太子を殺すのはダメですからね」
「冗談よ」
冗談と言いつつもセシリアの目は本気だった。
危うく国際問題になるところを何とかなだめたマクシミリアンは、コホンと咳ばらいをして場を改めた。
「それより本当どうしようかしらね」
「私としてまずは相手の出方を見るのがいいかと思います。カレル殿がセシリア様の正体を知って、逆にカレル殿の方もスライブ殿の正体をこちらも知ったという事ですから」
「そうね……。でもあっちから何か言ってきたらなぁ。従者ルディが実は王太子スライブだったとばれてもあっちは痛くもかゆくもないわけよ。こっちの方が被害は大きいし」
「逆に3年前の恩を盾にして秘密にするとか、トーランドに有利な条件を飲む……という風にするのが妥当ですね」
「まぁ、そこは同盟を結ぶ時の最初の条件だったから仕方ないけど……」
一瞬3年前にスライブを助けなきゃ良かったかもと思ったが、すぐさまセシリアは否定した。
あの状況でスライブを見捨てることはできなかったし、今でもそれは間違ってはいなかったと思っている。
そもそもこの状況を作り出したのは、元はと言えばライナスが出奔したからだ。
(そうよ!!ライナスさえ出奔しなければ!!)
思わず心の中で歯ぎしりしていると、マクシミリアンが無言のまま怪訝そうな顔をしていた。
表情にこいつ頭おかしくなったんじゃないかと書いてある。
セシリアはそんなマクシミリアンに冷たい視線を投げつけた。
「大丈夫よ。私は冷静よ。それより、もう腹を括ったわ。トーランドに行けというなら行くわよ」
スライブの事は嫌いではないし、好意的に思っている。恋心なんていう抽象的なものがあるかは分からないが、結婚しなくてはいけないなら別にしても構わないと思っている。
それよりもマスティリアの事である。
「最悪はトーランドの属国になるしかないかもね。その場合には経済特区として属国だけど自治権を持てるように交渉はしてみる」
「そこは、私の方でもなにか交渉材料にならないかも探ってみますね」
「スライブは私の事、諦めては……くれないわよねぇ」
「それは無理だと思いますよ。かなりの執着ですし」
「とりあえず、今そんなこと話していても仕方ないから次の話題に移るわ」
「え?いいんですか?」
「だって悩んでも仕方ないじゃない。なるようになれよ」
セシリアはこういう割り切りをするが、自分の進退もかかっているのに流石だとマクシミリアンは思った。
普通はもっと動揺するだろうに、仕方がないと片づけられる性格はある意味凄い。そういう性格だからこそ兄ライナスの代打を引き受けることができたのだと思う。
その辺の貴族の女性とはやはり異種類の存在だと思いながらマクシミリアンはセシリアの顔をまじまじと見つめた。
そんなマクシミリアンの心中も知らず、セシリアは話題を変えようと口を開いた。そのタイミングでドアがノックされた。マクシミリアンがそれに答えると、入ってきたのはスライブだった。
「ル、ルディ!?えっと…どうしたんだ?」
「あぁ、陛下も来ていたんですね。時間ができたのでマクシミリアン殿のお見舞いにと思いまして」
今さっきまでスライブ対応の検討をしていただけに(しかも殺ると言っていたのだ)、その顔を見てセシリアは動揺を隠せなかった。
それを隠すようにマクシミリアンは自分に注意を向けるべくスライブに話掛けた。
「わざわざ申し訳ありません。こちらこそ、お仕事を押し付けてしまいまして。ただ、私ももうかなり回復したのでルディ殿はもう気にせず自国に帰られてもいいんですよ」
「いえいえ、私も勉強をさせていただいているので全然気にしてません。それよりも宰相殿には折角ですから休養ということでもっとゆっくり休んでいただいた方がよろしいかと」
セシリアには両者の間に何故か火花が散っているように見えるのだが気のせいだろうか。
ただ居たたまれない気持ちになり、セシリアは先ほどの話題の続きをして空気を換えようと試みた。
「えっと、とりあえずその話は置いておいて。今日はマックスに報告があって」
「では私は席を外しましょうか?」
「ううん。ルディもいてもらって構わないよ。ワイン価格の件についてだから」
「あぁ、それでしたら」
スライブは一度浮かした腰を再び椅子に戻した。セシリアはそれを認めると今までの調査の経緯をマクシミリアンに説明した。
先ほどのグレイスからの報告の件についてはスライブも初耳だったので神妙な顔で聞いている。
一通りの報告をすると、マクシミリアンは眉間に皺を寄せて唸った。
「テオノクス侯爵・セジリ商会・ラバール伯爵ですか。なかなか面白い組み合わせですが…後は裏付け捜査というところですね」
「僕もそう思ってる。裏帳簿とか物品の確保とか。まぁこれを機にアレクセイ叔父さんの方も片づけられるといいんだけどね」
「あぁ、ラバール伯爵はアレクセイ様の派閥ですからね」
「トカゲのしっぽ切りにしかならないかもしれないけど、アレクセイ派に牽制は掛けられるし」
スライブもこの会話を聞いて王位を巡っての争いのことを思い出していた。
サティが前王弟派がいることと、それを我々が滞在中に片付けられれば同盟を結べると言っていた。ここはセシリアの為にも是非頑張ってほしいところだ。
「トーランドも前王弟派を退けられれば同盟を結ぶと言っていたので、この件には私も引き続き調査のお手伝いをします」
「いいえ、これは"わが国の問題"なので、"他国"のお手を煩わせるわけにはいきません。あとは宰相である"私"が対応しますので」
スライブの申し出にマクシミリアンはトーランドの干渉を辞退するようなことを口にしたが、正直なところはこれ以上セシリアとスライブの距離が縮まることを恐れて言ったことだった。




