もたらされた情報(四)
マクシミリアンの笑顔の裏に隠れているそんな思惑にスライブも気づいたようでやはり黒い笑みを浮かべて言い返す。
「いえいえ、これまでの詳しい経緯はいくら"宰相"のマクシミリアン殿でも把握しきれないでしょうから"私"がやりますよ。その方がトーランドへの報告に説得力もありますし、何より現在"陛下の片腕となっている私"が対応します」
何となく室内の空気が冷たくなったことを感じて、セシリアもどうしていいか分からずとりあえず行方を見守ろうとしたが、次の一言でその目論見も崩れた。
「「私に任せてくれますよね、陛下!!」」
異口同音にそう迫られてセシリアはその気迫に押されてしまった。
マクシミリアンに手伝ってもらいたいが、しばらく政務を離れていたこともあって引き継ぎは必要だ。
その引継ぎの時間と今回のワイン価格の件を考えると時間的ロスも出てしまう。ワイン価格の脱税の件は早急に対応したいところだった。
悩んだ末にセシリアが出した結論は次のものだった。
「分かった。ワインの件は私が対応するよ。2人は政務を頑張って……」
「「却下です!!」」
またもや2人の言葉がハモった。
この2人は実は仲が良いのではと思う程のタイミングだった。しかも怒りの矛先がセシリアに向かっているではないか。
「ライナス様にこの件を任せたら突っ走って何をしでかすか分かりません!貴方一人にお任せなどできるものですか!」
「そうですよ。陛下は無茶しすぎです。陛下に何かあったらどうするのですか!?そんなことするなら私は陛下の首根っこを押さえさせていただきます」
「確かにスライブ殿の言う通りです、あなたは国王なのですからね!!監視が必要ですね」
「宰相殿の代わりに監視します!絶対に一人で行動はさせませんからね」
「私も監視しますから!!絶対に逃しません」
「分かった……分かったから。2人にもワインの件を対応してもらうよ。マックスは政務に復帰。ルディはその引継ぎをメインに行う。これでいいでしょ」
セシリアは観念して提案すると、2人は仕方がないと言った態で納得してくれた。
どちらが政務に着くかよりもセシリアを一人で行動させないという事の方が重要だったらしい。
(これで監視の目が2つに増えた……)
内心がっくりとしつつもこの話は決着を迎え、次にマクシミリアンは別の話題に移った。
「はい、結構です。それで思ったのですが視察の帰りに遭った刺客もラバール伯爵のものでしたね。この件に関係があるかもしれません」
「どういうこと?」
「元々あの視察は予定外のものでしたから事前に情報を得ているとは考えにくいです。それなのに何故あの場所でライナス様を襲ったのでしょうか?」
「という事は、もともとはあそこで僕達を襲おうと思ったんじゃないってこと?」
「はい、不測の事態が生じて排除しようとしたのかもしれません。あの道はあまり人通りがありませんから」
マクシミリアンの疑問を更に裏付けるようにスライブは次の事実を口にした。
「あそこの猟師小屋は陛下が使うためのものですか?」
「大昔に過去の国王が猟をするための資材置き場みたいになっていたと思うんだけど、ここ何代かは使われてなかったよ。僕もあそこに猟師小屋があるって知らなかったし」
「でも、最近誰かが使った形跡がありました。椅子やテーブルも綺麗なものでしたし、多少埃っぽくはありましたがとても長年放置されていたとは思えませんでした」
「という事は、ラバール伯爵はあそこに何か隠している。それをバレないようにするために僕たちを襲った……と」
セシリアの言葉に2人も同意見のようで、小さく頷いていた。
猟師小屋を探る価値は十分にありそうだ。幸い腕に多少は覚えがあるセシリアだったので2人には悪いが単身で乗り込んだ方がいいだろう。
大人数で行けば相手にバレる可能性もある。それに2人も監視がついては動きたくても動けない。スライブとマクシミリアンの監視が入る前に早々に対処しよう。
そんな不穏な事を考えているのが伝わったのか、マクシミリアンが目を細めて威嚇した。
「ライナス様、また何か無謀なことを考えてらっしゃらないですよね。くれぐれも単独では行動はとらないようにしてくださいね」
「わ……ワカッテイルヨ……」
「……本当ですか?そう言って何度も街に行ってらっしゃいますし、前回のサージルラーナンドとの戦いでも本当に……あの時は本当に尻ぬぐいが大変だったんですからね!!」
「あーもう、その話は言わないで!!」
「もし今度変な真似したら、分かってますよね」
「う、うん……それよりもうそろそろマックスも疲れたよね。じゃあ僕はこれで行くよ……」
このままこの場に留まったら何を言われるか分かったものではない。セシリアは早々に退散することにした。
スライブも一緒に退室することになったが、なぜか廊下を一緒に歩いていてもスライブの表情は曇ったままだった。
さっきマックスの復帰を認めたことが不服なのだろうか?
「ルディ、どうしたの?顔怖いよ」
「あ……いえ……。やはりマクシミリアン殿と仲がいいんですね」
「え?まぁ……幼いころから面倒を見てもらっているし付き合いが長いからね」
「ふーん、そうですよね。私が入る隙が無いくらいですしね。私と2人で過ごすのはそんなに嫌ですか」
スライブの少し刺々しい言い方に、セシリアも戸惑ってしまった。
スライブといるのは嫌ではないし、寧ろ2人でいることに慣れてしまっている。嫌だと思うどころか2人でいる時間が心地よいとも思っているのだ。なのに何故こんなに不機嫌なのだろうか?
「えっと…別に嫌じゃないけど。ルディと一緒にいると楽しいし」
「楽しい?」
「だって街に行った時とても楽しかったから。また一緒に行きたいと思っているくらいには好きだけど」
別にスライブに気を使ってそう言ったわけではなく、本心がポロリと漏れたのだったのだがその事にセシリアは気づいていなかった。
だがそれを聞いたスライブは満面の笑みを浮かべて途端に機嫌が良くなった。
「そうですか!!」
「う、うん……」
「じゃあ、また街に行きましょう」
先ほどの機嫌の悪さが嘘のようにスライブの周りに花が舞っているように見えるのは気のせいだろうか?
セシリアは首を傾げつつ、スライブの後を追ったのだった。
一応4分の3ちょっと前まで掲載完了です。
また来年もよろしくお願いいたします。




