第22話 「全てのクソゲーに愛を込めて」
『おめでとうございます、勇者アヘ顔ダブルピース様――ペンダントを手にしましたね。最高クラスのアビリティが開放されました』
俺の頭の中に、機械的な女性の声が流れてきた。
それと同時に、俺に“何ができるのか”が本能的に理解できた。
「リディア! 魔王! 下がっていろ!」
俺が鬼気迫る表情で叫ぶと、それを聞いた2人は即座に大部屋の隅の方へと走る。
「な、何をする気だ……!」
息も絶え絶えに、ゆっくりと立ち上がりながら言うロラン。彼の血走った眼は、ペンダントを握りしめる俺をまっすぐに見つめていた。
「何って……終わらせるんだよ、このクソゲーを!」
俺は、ロランの目を睨み返しながら力強く返した。
右手のペンダントをギュっと握ると、それに呼応するかのようにペンダントが熱くなっていく。
――いける。
俺は勝利を確信した。
「うおぉぉぉ!!!」
ドンッッッ!!!
ペンダントを握りしめた右拳を、勢いよく床に叩き付ける。するとペンダントが紫色にまばゆく発光し、まがまがしいオーラとなって俺の右腕を包んだ。
「なんだ、その力は……!」
「俺の能力が……限界まで強化されたんだ……!」
俺に与えられた能力。それは、“右腕で振れた対象の命を問答無用で奪う”というもの。ただでさえチート級のこの能力が、魔力を増幅させるペンダントを得たことでさらに強化された。
「!? こ、これは……」
その時、ロランは気付いた。彼の周囲を覆うように、床に紫色の魔法陣が生成されているということに。
「いつのまにこんな魔法陣を!」
そしてロランは、慌ててその場を離れようとした。しかし、俺の能力がそれを許さない。
「無駄だ!」
グオン!という歪な音が響き渡るのと同時に、魔法陣から無数の黒い腕が生えてきた。明確な意思を持った触手のようにうごめくそれらが、ロランの脚をガッシリと掴む。
「ひぃ!?」
短い悲鳴を上げるロラン。こうなってしまえば彼はもはや、袋のネズミである。
「アヘダブ様……す、凄い……!」
部屋の隅でじっと成り行きを見守るリディアは、目の前の壮絶な光景に思わず呆けたような声を出した。
「終わりだ……ロラン!」
そして俺は、紫のオーラに包まれた右腕を振り上げ、もう一度強く床に叩き付ける。
ガツンッッッッッ!!!!!
するとロランの足元の魔法陣が、その光をより激しいものにしていった。
「あ、ああ……そんな……そんな……!」
彼の表情が、どんどん怯えきっていく。魔法陣からまた数本黒い腕が生えてきて、今度はロランの顔面を無造作に掴んだ。
「う……あぅ……」
ロランは、声を上げることすらできなくなっていた。ペンダントを身に着けていた時のような傲慢な態度とは打って変わって、それはあまりにも無様で貧弱な姿であった。
「さあ――これで決めるぞ!」
俺が叫ぶのと同時に、ロランの全身を掴む無数の黒い腕が一斉に硬直する。これによって、彼は完全に身じろぎひとつできない体勢となった。
「うおぉぉぉ!」
対する俺は、雄たけびをあげながら敵目がけて一直線に走った。そして腕を振り上げると、ペンダントを握りしめた右拳で、拘束されたロランの胸を思いっきり殴りつける。
ドスン!!!
「!?」
ロランの目が、大きく見開かれた。そして次の瞬間、グルンと白目をむき――彼は、息絶えた。
ラスボスとしては、あまりにもあっけない幕引きであった。
『おめでとうございます、勇者アヘ顔ダブルピース様。見事、このゲームのラスボスを倒しましたね』
そんな声が脳内に響いてきたのは、ロランを倒してから実に3分後のことであった。
ロランを倒すのと同時にあの黒い腕と魔法陣は消え去り、床には彼の死体だけが無造作に転がっている。
終わった――そんな感慨が、俺の胸に去来した。1つのゲームの、1つの大きな目的を完了したという達成感が、そこにはあった。
『あなたが望めば、すぐにこのゲームを終えて現実世界に戻ることができます。しかし、その場合ゲームのデータは完全にリセットされますのでご注意ください』
なるほど、強くてニューゲームみたいな機能は無いのか。最近のゲームにしてはちょっと不親切だな。
まあこのゲームが不親切なのは今に始まったことではないが。
『どうしますか、勇者アヘ顔ダブルピース様。まだこの世界で残されたクエストを行うことができますが――ゲームを、終了しますか?』
問いかけてくる女性の声。
するとその時、聖剣を鞘に納めたリディアがはつらつとした表情で俺に尋ねてきた。
「やりましたね、アヘダブ様! さあ、次はどこに行きますか?」
「……そうだな――」
俺は、機会音声とリディア、その両方の問いに同時に答えた。
「まだ旅は終わってない。魔王の仲間たちを生き返らせるために、ふぇにちゃんがいる“不死鳥の霊山”に戻ろう!」
「おお! 本当か!?」
俺のその言葉を聞いて、目を歳相応にキラキラと輝かせる少年魔王。その胸元には、ペンダントが光っていた。ロランとの戦いが終わった後、俺はペンダントを魔王に返したのだ。
「ああ。お前の仲間たちを生き返らせるって、約束したからな!」
このゲームを始めたばかりの頃の俺は、一刻も早く現実の世界に戻りたいと思っていた。
実際、これがクソゲーであることには変わりない。
だが――いざ帰れるという状況になった今、本当に帰りたいかと聞かれると、その答えはNOだ。
俺はまだこのクソゲーの世界に居たい。なぜそう思うのか、正直なところ自分でも奇妙に感じる。
どうやら俺は、リディアや魔王、ふぇにちゃん、その他大勢のこれまでの冒険で出会ったNPC達に、愛着を持ってしまったようだ。だから、魔王と交わした“仲間を全員生き返らせる”という約束、その義理を果たすまではこのゲームを続けようと思う。
「お前も、来るか?」
俺が聞くと、魔王はコクリと勢いよく頷いた。
「ああ! もちろんだ!」
「うふふ! 今日から仲間ですね、魔王さん!」
優しく微笑みながら言うリディア。
「おう! 人間も捨てたもんじゃないな! これからよろしく!」
両腕を元気に振り上げ、無邪気にはしゃぐ魔王。
「よし! それじゃあ……行くか!」
そして。俺と、リディアと、少年魔王の3人は、次の冒険に向けて勢いよく部屋を飛び出した。
『まだゲームは終了しないのですね。分かりました。それでは、引き続きフェニックスワールドの世界をお楽しみください』
このゲームは、クソゲーだ。でも、たくさんの人達の思いが詰まった、愛のある“作品”だ。
そういえば、新元号は「異世界チート転生」じゃなかったですね。残念。




