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Zero[外伝]  作者: 山名シン
9/16

王の力編ー陸の王者・剣山総督ー

テッラトゥッリスの最後の広間は天井が突き抜けており、青空がいつでも見えるようになっている。

太陽が真上にあり、ユピテルはその真下に位置している。

総督が剣を上げると同時にユピテルの一撃が(くう)を切った。

「落山……フジ(3776m)」

ユピテルは雷を全身に纏い高速の一撃をかます。

拳と山越の超重量がぶつかる。


ドォォォォォォォン‼


総督が立っていた地面が重さでえぐれて、ユピテルより視線が下に向いている。

ユピテルの二発目は火を纏った渾身のこれまた拳だった。

さらに風の力も借りて、火の勢いが増す。

下に位置している総督は、山越でそれを防ぐも、ほんの少しずれてしまい、腹に一撃が当たってしまう。

「………!!!!」

声にならない声を出すが、次々と攻撃が繰り出される。

雷を纏い高速移動し、炎を纏い鉄拳の威力を何倍にも上げて、風を纏い空まで飛びながら総督を追い詰める。

ドォォォォォォォン‼

ドォォォォォォォン‼

ドォォォォォォォン‼

一撃一撃が出鱈目な強さで、広間の壁という壁をぶち壊していく。

「落山‼」

一瞬隙が出来た、ユピテルの腹に落山の超重量が食い込む。

「ぐぉぉぉぉ‼」

ユピテルが壁にめり込んだ。

「はぁ……何故だ!何故だ総督‼何故武器を使う!!!!」

総督は質問には答えず、連発で落山の超重量をぶちまける。

その度に踏ん張った地面が重さに耐えきれずえぐれていく。

いくらユピテルは高速移動しているからと言ってもやはり対象者を見落とす訳にはいかずほんの一瞬だけだが、総督を凝視する時間に隙が出てくる。

「ウォォォォォ!!!」

ユピテルの咆哮がよりいっそう激しさを増していく。

全身が緑色の怪物は、雷、炎、風を自在に操り、出鱈目な強さを誇っている。

目の前にいる、奇妙な剣を抱えている男を、掴んでは地面に叩き付け、両手で右へ左へと地面に叩き付けると、ブンブンと振り回し壁に思いきり投げ付けた。

壁に人型の穴ボコが出来る。

その全てを総督は受けきっている。

剣で防ぎ、自身の樹力で雷などを受け流し、緑色の怪物を睨み続けている。


総督もユピテルももうボロボロだったが、まるでダメージを喰らっていないみたいだ。

双方を睨みながら、笑っている。

「ガハハハ‼やはり貴様でないといけないんだ!貴様が一番楽しい!」

「誉め言葉で受けとるよ。ただ、そろそろ終わりにしよう!」


ウォォォォォ!!!!!!!!


「落山………(どう)…フジ(3776m)」

山越の剣先から一直線にユピテルのみぞおち辺りに透明の道が出来ると、3776kgの超重量がその一点に襲い掛かった。

「ぐぉぉぉぉ‼………ちくしょうがぁぁぁ‼正々堂々拳で語れぇぇぇ‼総督ぅぅぅぅ‼」

一気に間合いをつめる総督。

落山を繰り出しながら、剣をユピテルの肩から腰までを切り落とす。

一瞬、時が止まったような感覚に襲われて、二人は視線をずっと離さなかった。


ドン‼


鈍い音が聞こえて、総督は目を見開いた。

総督が切り刻んだのは、記憶を失い視力も失ったはずのノストルドムだったからだ。


ズシャァァ‼


ノストルドムの体から血が吹き出した。

ノストルドムは仁王立ちで既に死んでいた。

唖然として目の前を見ていて一瞬、自分が何をしたのか分からなかった。

「お前。何故……」

総督は驚いたというより、恐怖を感じていた。

恐怖を通りすぎると怒りにも似た感情が沸き起こる。

ノストルドムは、記憶を失い視力を失ってまでも、主であるユピテルを守ろうとしたのだ。

その忠誠心に心を打たれた総督は、彼の想いを踏みにじったユピテルを許せなかった。

目に見えない怒りが込み上げてきて、だが、茫然とノストルドムの仁王立ちで死んでしまった彼の事を眺めていた。

「貴様か。ノストルドム……」

暗い低い声を出して、飛ばされたユピテルが起き上がり言った。

「俺の、邪魔をするとは。いい度胸じゃねえか。」

全身の緑色がよりいっそう濃い緑色に変色し、もはや真っ黒に染まっているようだった。

そうして、雷がバチバチとユピテルの体から吹き出している。

炎も纏い、熱を帯びて煙を出している。

風が、ゴォゴォとうねってその煙を撒き散らす。


バチンッ!!!


一瞬の閃光が走った瞬間、ノストルドムの上半身が全て粉砕していた。

「俺の邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

稲光がよりいっそうに激しさを増し辺りに飛び移り四方八方に雷が轟いた。

炎と風が混ざった火力最大の爆炎が崩れてボコボコになっている地面をさらにえぐった

音が後からついてくる。


ドォォォォォォォン!!!!!!!


その爆風に思わず総督は吹き飛びそうになるも、こらえて、目の前にいる真っ黒の怪物を睨み続けた。

「さぁ、総督邪魔者は消えた。ガハハハハ!!」

また、バチンッ‼と音が鳴りユピテルの姿が一瞬消えると、総督の腹に重い一撃が放たれていた。

樹力の受け流しで、雷、炎、風は防ぐ事は出来たが、相当な早さの拳の一撃は避ける事は出来なかった。

総督はそのまま吹き飛び、既に形を成していない、壁に叩きつけられた。

ドゴンッ‼

鈍い音が響くと、休む間もなく閃光が飛び交う。


殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。


ユピテルはこれでもかと言うほどに、総督を殴り続けた。

[落山………七大高峰(きょじん)]

重剣山越を手にし、名称を言うのも忘れ心の中で叫び技を放った。

肩で息をしているユピテルの腹に超重量の一撃を喰らわせる。

[コジオスコ……2228]

「キーン」と鈍い音を出しながら最強の重い一撃がユピテルに襲い掛かった。

一瞬で吹き飛んだユピテルに総督はその重量を落とさずに走って追い掛けた。

地面に足が落ちる度に地面にヒビが入っていった。

[マシフ……4892]

徐々に重くなっていく山越の剣を軽々く持ち上げられるのは総督しかいないだろう。

ブンッと降り下げて二撃目もユピテルに直撃する。

声にならない声を出してユピテルは打たれるままに打たれまくった。

三撃目、[エルブルス………5642]

四撃目、[キリマンジャロ………5895]

五撃目、[マッキンリー………6194]

六撃目、[アコンカグア………6959]


ズガガガガガガン!!!!!!


いつの間にか陸の塔の入り口付近にまで降りていた。

いや、塔の半分を、落山でえぐり割っていたのだ。

風に煽られるようにして、総督は陸の塔の頂上まで上がっていた。

最後の一撃を放つ為に距離を一瞬置いたのだ。

「落山……………」

「キーン」という鈍い音を出しながら決着の二文字を思い浮かべていた。

二人の戦いに終わりを告げるように、空は快晴で気持ちが良い。


この時の気持ちは総督にとって一瞬で忘れ去る些細な出来事に変わる。

ゆっくりと目を閉じ、下に落ちていく緑色の怪物の事を考えていた。

山越の重量によって勝手に総督の体は下に落ちていていく。

目を閉じたせいか、ユピテルの生命エネルギーがありありと感じる。

蝋燭のように赤く灯っている命を感じながら、総督は今からこの命を絶とうとしているのだ。


ヒュゥゥゥゥゥ!


落ちる恐怖は全くない。

全体重、全重力をただ一点に集中して降り下ろすだけだ。


下からユピテルが最後の力を振り絞って、雷と火と風を纏った最後の一撃を喰らわそうと襲う。

[七大高峰(きょじん)]の最高峰エベレストの標高8848mを重力の塊に変えて、半分に裂かれた陸の塔を横目に感じながら総督は山越を降りきった。


『ウォォォォォ!!!!!!』

二人の咆哮が轟いた!


威力でいうなら恐らくユピテルの一撃の方が強いだろう。

その証拠に、ユピテルの最後の攻撃は山越の剣を総督の手から突き放してしまった。

ブンブンと音を立てて回りながら上へ山越が吹っ飛んでしまう。

その衝撃で総督は背面に反り返る。

ちょうど総督とユピテルの二人は空中で仰向けになり頭を重ねる体勢になる。

だが、ユピテルの方は満身創痍で動けない。

総督は最後の力を振り絞り、右手を首の後ろへ回しユピテルの口を押さえる。

左手でユピテルの頭を持ち上げて首に負担がかかるように持つ。

空中で二人仰け反りながら、風圧のせいか反時計回りに回り始める。

総督はユピテルの首を締め上げて、地面に落ちるのを待つ。


ガシャァァァァァン!!!!


総督は腕を外し、大の字に倒れ込む。

それを全く裏返すようにユピテルもまた大の字に倒れた。

そして、ブンブンと音を立てて回りながら、山越がユピテルの腹に突き刺さった。

「ザクッ」との効果音と共に、ユピテルにとどめをさした。


ヒュウヒュウと荒い息を立てて、そのまま動けないでいる。

途切れた息をした荒い声でユピテルが怒りを込めて言った。

「そ、総督…………何故だ?何故………」

そのまま涙を流ししばらく黙っていた。

「………帰らなければならないからだ。俺を待つ者がいる………」

総督も同じく掠れた声で答えた。

ー帰らなければならないー

それは総督の本音では無かったのかもしれない。

自分から出ていき、また戻ってくるなど、自己中心的すぎる考えだ。

今ごろ、ゲーラの民は自分の事を恨んでいるだろう。

自分が勝手に来て勝手に出ていった為に、たとえ異端と罵られようと、これまで古き良き時代を築きゲーラの民はひっそりと生きてきた。

それを壊してしまった責任を背負いきれずに逃げたと、捉える者もいるだろう。

だが、それでも、帰らなければならないと、心の底から思っていると、ほんの少し前まで思っていた。

思いを変えたきっかけはやはり、ユピテルとの戦いだろう。


ユピテルとの戦い、素手では勝てないと分かってたからこそ、重剣山越の力を必要以上に借りたのだ。


「俺は、そんなお前と戦う気などなかった。だが、お前が正面きってここへ来てくれたのが嬉しくてな、だからこうして戦った。なのに……………」

ユピテルは拳を地面に叩きつけて、一気に体を起こし、総督を持ち上げた。

そして、総督の胸ぐらを掴み吠えた。

「俺は死んでも死にきれねぇぞ!!!!!」

フーフーと息を荒げながら総督を睨み殺す勢いで睨み付けた。

だが、その後数分に、ユピテルは総督を睨み付けたまま、静かに息を引き取った。

腹に刺さった山越の剣を引き抜き、血を拭い鞘に納めた。

睨んだままー総督を怨んだままー死んだユピテルの目を手で瞑らせてやり、その冥福を祈った。

誰よりも強く、誰よりも強情で己の肉体を最上に信じ疑わなかった。

真摯に素手で戦う事こそが、人間として最高の生き様だとおもっていた。

クールタウンの陸の王者と言われて恐れられた男の最期を、その男の信念を、総督はあっさりと絶ちきってしまったのだ。


ユピテルが死んで直ぐに、銀色に輝いた、丸い大理石のような物が、頭の中から湧き出てきた。

回転しながら宙を浮き、銀色に光を灯しながら、総督の胸元で止まった。

まるで、次の主を待ち受けていたかのように、銀色に輝く大理石は総督の中へ入っていった。

融合したと言った方が分かりやすい。

その瞬間、総督は力を野放しにするように、陸の紋章の力を使った。

銀色に輝く頭光が現れ、辺りを照らし、そうして今まで以上に、樹力を感じて、全身が緑色に染まっていくのを感じた。

自分が自分でないような気がしたが、しかし、その姿が今までで、一番心地良い最高の気分だった。


今、神になった。


緑色に染まりきった時、自然を全身から感じた時に、総督が最初に思った感想だ。

自分は今、神なのだ。


半分に割れた陸の塔を見上げて、空を見る。

深く深呼吸をして、目を瞑る。


「見つけた。海と、空の王者を。」


無意識に総督はヒールタウンの方向を向いた。

当時は、ヒールタウンの「ヒ」の字も知られていなかったが、その向こうに必ずタウン(国、大陸)があると確信していた。

師匠、劉と決別したあの日から、存在を知らなかったウォールタウンへ辿り着けたのと同じように、クールタウンだけではない。

必ず、他にもタウン(国、大陸)はある。

総督は、探検家ではなかったが、ウォールタウンで四年近く住んでいたからだろうか、もっと他の所へも訪れてみたいとも思っていた。


(テッラ)(トゥッリス)を後にし、総督は、次なる王者の元へと駆けていった。


ー青い怪物。青い魔物。青い王を倒し悪魔となる。我が王ユピテルをのした後、全ての王にとってかわるだろう。その後愛する者をも死に至らしめる。そしてこれから12年後に貴様は老衰で倒れるだろうー

予言通りであるなら、総督は海の王者と、悪魔を相手にするという。

そして、愛する者をも死に至らしめる。

妻、トリムール・ゲーラを総督が殺してしまうと言うことだろうか。

その後の事はかなりざっくりとしていたが、総督は35の若さで死ぬのだ。

20で故郷を捨てて、23で愛する者も捨てて、さらに12年後、35の時に己の命をも捨てるというのか。

予言を聞いた事は何か、総督を変えてしまうのだろうか。

それはまだ誰にも分からない。

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