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Zero[外伝]  作者: 山名シン
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空の王者サタン

クライム会場の先端、星形の一角がはっきりと見え始めた時、向こうの中心部から靄のようなものが飛び出てきて、総督の視界の端に漆黒を捉えていた。

その靄は徐々に形を変えて、こちらに近付いてくる。

上下左右に合わせて四つの顔を持ち、そのどれもが目玉をくり貫かれている。

ねばついた粘液を纏い口からは泥のような酸が滴り落ちる。筋肉隆々とした体つきに、羽根が映えておりボロボロの扇形である。

黒と茶を混ぜたような皮膚とは違い、顔は妙に白い。

ズシンッと音を立て現れたその怪奇な男は、尻尾をプラプラさせながら、仁王立ちで立ち塞がった。

「お前が新しい(ユピテル)か?」

驚くほどの透き通る声だった。

その場にいるだけで、小声でも大陸(ヒールタウン)全土に届くかもしれぬ。

ビリビリとした威圧感が総督を襲うも、それは脅しにはならない。

総督は既に、全身より自然を借りて、樹力に変えて緑色に身体を染めている。

そしてベール状に青い筋が入る。

これは新たに手に入れた海の紋章の力だ。

これにより海を潜っても息が詰まる事はないし、自由自在に海を操れる。


サタンの後ろで構えている三人の強者が徐々に囲むように総督に敵意を向けている。

蛇でできた弓、蛇でできた矢を持ち、牙が剥き出しになり睨み付ける。岩石が浮かび、いつでもそれを飛ばそうと息が荒い岩石男。何かをぶつくさと呟きながら妖気のようなオーラを発し腕を動かす大男。

三人を視界の端に捉えながら、目の前の四面の男を見る。


「そうだ……」

低い声で言う。総督もサタンに負けじの威圧感を発するが敵も動揺はない。

それまで、他の無数の悪魔達が総督を襲っていたのだが、主であるサタンが登場した途端にガタガタと震えだし、二人の醸し出す威圧感にひれ伏され、身動き一つ出来ずにその場で立ち尽くしている。

それほどに、サタンとその御供に出てきた三人の強者は桁違いに強いのだ。


「やはりな。にしても(ネプチューン)(ユピテル)もこんな人間風情に殺られるとは堕ちたものだ」

サタンがニヤリと笑うも、その表情は読み取れない。

このまま睨み合っていても埒があかないので本題を切り出す。

「空の紋章を渡せ。大人しく渡せば苦い血を舐めなくなくて済む」

樹力を上げた、緑色の目でサタンを睨む。

サタンは大袈裟に笑っていた。

四面だからか、声が何重にも響いており妙に気に障る。深く息を吸ったかと思うと、そのまま吐くことはせず空気を飲み込んだ。

「出来れば私もそうしたいのだがな。しかしそれでは私の為に王という最大の力を失ってしまった者に対して示しがつかないだろう?だから、答えは[断る] 」


唐突に攻撃が繰り出されると予想したが、異様な空気にどちらも手を動かさないでいる。

ここまで時が流れるのが遅いと感じた事は久し振りだろう。ゆっくりと時が流れるのに苛立ちは感じない、むしろ爽快な気分だった。


「……メドゥーサ、ヘカトン、ゴーレム。お前達は下がっていろ。決して手を出すなよ?」

「はっ!!」

サタンの言葉を聞いて、三人は回りに蟻の大群のように群れていた悪魔の仲間を呼び戻し、帰るようにと指示を出した。ぞろぞろと足音が鳴り響くなか、総督とサタンはずっと互いに睨み合っていた。


サタンの後ろ姿を悲哀な顔をして見詰めるメドゥーサは密かに、自分の髪を抜き息を吹き掛け命を宿らせる。透蛇(とうじゃ)と呼ばれる透明な蛇は誰にも気付かれずにサタンの足元に縛りついた。

サタンの身に何かがあればいつでも駆け付けれるように、メドゥーサは手を打った。

(サタン様……ごめんなさい。必ず戻ってきて下さいね…メドゥーサはいつでもサタン様を信じて待っております!)

そして後ろを振り替える事なくメドゥーサは冥界に帰っていく。


風が強くなってきた。風の音以外何も聞こえない程、静かな真昼だった。雨雲が散々に余っており、隙間から太陽の光が降り注ぐ。

それでも二人はまだ睨み合ったまま、動こうとしなかった。

風が急におさまった。

それを待っていたかのように、嵐が始まった!


ボンッッッッ!!!!!!


総督とサタンの拳がちょうど対になるようにぶつかり合う。

やや総督の方に軍配が上がるも、サタンは続けざまに二発目を入れる。

それに合わせるようにまた総督も二発目を入れた。


ボンッッッッ!!!!


鳴り響く拳のぶつけ合い。まるで鏡を見ているように、二人の動きは全く差異がない。

突き、裏拳、蹴り、掌底、振り上げ、頭突き、体当たり、正拳と攻撃という攻撃を繰り返すが、そのどれも完全に真似しているのは、サタンの方だ。

サタンの四面によって、上下左右の全てをいっぺんに見る事によって成される[完全模倣]は、並の達人であれば心が折れて敗けを認めてしまうだろう。

そしてもう一つ、サタンの模倣には続きがある。

それは攻撃の[上乗せ]だ。

相手の繰り出す攻撃を完全に真似た上で、全く予知していなかった場所からの腕の攻撃。

さらに腕を重ねて威力を増して、相手の力にもう一つ同じだけ力が加わり圧倒する事が出来るのだ。

サタンの腕は普段は隠れているが、その内には、片方ずつ100本の腕を隠している。

両方合わせて200本の腕を自由自在に生やしたり、重ねたりする事が出来る。

さらに四面で見る、上下左右を見ることが出来る死角がない視界の広さで、完全に圧倒する[ただの物真似]は総督でさえも手を煩わす程だった。


互いに傷付いていると思われたが息を切らしているのは総督だけだったようだ。しかし、そのダメージの蓄積も樹力によって体力を回復させていた。


[自然がこの世にある限り自然は樹力に変わり力を貸し続ける]


だが、総督は陸の紋章を持ち王の力を扱えるとは言え、自然神の「継承者で無い」為に樹力を無限に使う事は自分の寿命を縮めているのと同じなのだ。

ユピテルは自然神の継承者でもあったからこその雷、風、火の力を存分に使えたのであって、陸の紋章の力はあくまでも、限界のある樹力を底上げ出来るというものに過ぎない。

たとえ、自然神の継承者以上に力を使えるとしても、無限に樹力を使えるという事は「決して」ないのだ。

総督はそのことを知りながらも、あえて自然神の継承者にならなかったのだ。


「どうした?陸の王者よ。もう諦めるか……それもいいだろう。私が[世界の王]に成るのに手間が省けるといったものだ。ん?」

「………」

総督は答えない。

いや、答えても仕方の無いことだ。


また、風が止み、嵐の第二波が起こった!

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