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Zero[外伝]  作者: 山名シン
11/16

襲撃

実に4000km。

西の果てにある陸の塔から、クールタウンの東の果てのある海までの距離だ。

それを約7週間と4日で走りきった総督。

新しく手に入れた陸の紋章の力は想像以上のモノで、地面や風が自ら道を切り開いているかのようだ。

総督自身も自然の一部であるから、息を乱す事もなく呼吸の仕方から走り方から何もかもが、完璧であるかのように走り去っていく。

人目を避けて、あえて岩道を選び進んでいるから快適だが困難な道である。

しかし、鍛練には絶好の場所だ。

走れば走るほど、己の肉体に張りが出てくるものだ。

暴風を撒き散らし、鳥でさえその姿を確認出来るか出来ないかの速さで、海の王者のもとへ駆けていく。


海面に顔を出し、目を瞑り耳を澄ましている無精髭の男は独り言のように呟いた。

「恐ろしい速さでこちらへ向かってくるな。だが、まだまだ時間はかかる。先に仕掛けた方がいいか………」

海の王者ネプチューンは、ラージシャークを中心に、シャーク一族に招集をかけ、海から奇襲するように命じる。

少し大陸が縮む勢いで、下から狙えとの事だ。


ここクールタウンは実は所謂浮島のようなものだ。

放っておけばクールタウンごと、海を旅する事になる。

それを繋ぎ止めておく為に、ネプチューンを中心とした彼を慕うシャーク一族がいたのだ。

クールタウンが浮島だと最初に発見したのが、ネプチューンで彼のおかげで海をさ迷う事なく今の形があるといっても言い過ぎではない。

その功績を称えられて、海神ポセイドンが[神の審判]を告げると同時に、ネプチューンを海の王者として、海の紋章を授けたのだ。

「いいか、俺が行けと言ったら行くんだ!モルスシャーク達!貴様らが特攻だ!しくじるなよ!」

「はっ‼」

シャーク達は大陸の真下にあたる海から上を走っている総督に特攻を仕掛けるつもりだ。

ミデアシャーク達を指揮官に、下級戦士のモルスシャーク達が突撃し大陸に穴を開けた後にミデアがその穴を通り、先に行ったモルス達と共に標的を蹴散らす。

(クールタウン)に浮かぶ湖や川、池などは全て真下の海から来ている。

ミデアは、海と標的の距離と位置を、湖や川から測り特定する事が出来る。


「速いなぁ……よぉし。予測は出来たそろそろ範囲に入る。モルス共!準備しておけ!」

ミデアとモルス達は、泳ぎながら陸の真下を横切る。

その上を総督は何も知らずに走っている。


「………入ったぁぁぁ!!!行け!!!!!」


一番大きいミデアシャークが吼えると、モルスシャーク達は海を最大限に利用し加速する。

これは流石は鮫だ、と称賛すべきだろう。

ボコボコと泡をたて、ミデアが指差した方角へ、鱗を逆立てて突っ込んでいく。


ドドドドン!!!!!


全部で400頭はいるだろうか、全てのモルスシャークが(クールタウン)を一直線に割っていった。


どれか一つでも当たれば万々歳、だが、当たらなくとも、下の200ものミデアシャーク達が穴を抜けて、[水傷拳(すいしょうけん)]で押し寄せてくる。


「特攻+α追撃作戦」

シャーク一族の聖域と、ネプチューンの治める領有地へ近付いた時行われる、作戦だ。

陸上戦しか経験のない者にとっては、予想外の下から、それも海の底からの攻撃は誰者にも防ぎようがない。


1000年前まで、クールタウンとヒールタウンは、陸続きで自由に往き来出来ていたという。

400年前に、ネプチューンを始めにシャーク一族が海の底を支配するようになった頃から、徐々に大陸が削られていき、現在の形になったとまで言われる。

これだけ見れば、明らかにシャーク一族のやる事は、恐ろしい事だ。

だが、これには理由があったらしいが、その理由は遥か昔の、[創世記]の話で、どういう理由があるかはまだ誰も知る者はいないのだ。


ただ一つ言われているのは、[創世記]に彦五十狭芹(ひこいさせり)族と鬼が争っていた時代に、クールとヒールの両タウンに亀裂を生じさせねばならないと、昔から信じられていたからだ。

シャーク一族のみならず、クールタウンヒールタウンの境目周辺に住んでいた者達によって既に破壊工作は行われていたのだ。


衝撃によって、中空へ吹き飛ばされた総督は一瞬戸惑いを見せるが、直ぐ敵襲だと悟った。

目を瞑り、生命エネルギーを感じとる。

赤く灯るエネルギーは、およそ400はいる、いや、下にもまだ200ほどいる。

水柱が穴から吹き出し、柱の中から影が数体見える。

咄嗟に山越を抜き、落山の構えをする。


「水傷拳‼」


柱の中から声がし、柱ごとくねりと曲がって一直線に飛んで来る。

「落山……シナイ(2285m)」

向かってくる水柱に向けて2285mの透明の道が柱を覆い、真下に向けて2285kgの重量が落ちる。


ザッパァァァァァァァァン!!!


しかしそれは水柱を落としただけで、中にいた影の者には当たっていないようだ。

水しぶきに目を奪われていた矢先に、ぬぅっと目の前に鮫の目の大男が現れ、強烈な拳打を受けてしまった。

その一撃で地面に叩き付けられるが、その後まだ200はある水柱が全て落ちた総督に襲い掛かった。


ザザザァァァァン‼


水が引いていくと、柱にいた影達が、離れ仲間の元へ帰っていく。

「終わったな。意外と呆気ない気がするが、陸の王者はこんなもんだろう………」

シャーク達の誰かが言った。

モルス、ミデアが総督を円形状に囲みたとえ生きていてもいつでも襲える準備をしていた。


水霧がまだ散っているなか、総督は辺りの地面の形を見ていた。

あれだけの数で襲って来たのに、地面には一つも凹みがない。

恐らく、水柱だけが総督を襲い鮫の目の大男の一撃は地面に叩き付けたあの一発だけだったのだろう。

人間は水の中では息は出来ないのを利用したのか。

窒息死を狙ってのあの大技か、水圧で圧迫死を狙ったか、その両方だろうか。

いずれにしても、樹力を使える総督にとって、自分の体から1m程の水を操るだけで、あとの水は放っておけばいい。

それだけで、水は受け流せるし、水攻めも意味が無くなる。

陸の紋章の力を手に入れた今となっては、それぐらい容易い事だ。


霧が晴れると、円形状にシャーク一族が総督を囲っていたのに気付いた。

起き上がり、山越はまだ側に落ちていた。


一人のミデアシャークが総督が動いたのを見つけ、手降りで全員を一斉に向かわせた。

「生きていたぞ!かかれ!」

シャーク達は、口から貯めていた水を吐き出し一気に叩くように水を吹き飛ばした。


バシュン‼バシュン‼バシュン‼


合計で600程の水柱が再び総督を襲った。

前方に見える水柱だけを両手で弾きながら、前にいる巨大な大男目掛け走る。

濃い緑色の目、全身、緑色の化け物が恐ろしく速く水を弾いている。

さっき総督を殴ったミデアシャークの親玉が、今度は総督の拳打を喰らう。

シャーク一族の鱗はダイヤのように硬く決して壊れない事が売りで一定の海では最強を誇っていた。

だが、その鱗を意図も簡単に殴り砕いてしまった。

初めて露になった自分の肌に、一瞬戸惑いを見せるが少しの感動も覚える。

「こんな鮮やかな、水色をしていたんだな………」

そのまま、吹き飛ぶ事もなく、みぞおちに喰らった拳は、胸を貫き串刺しになった。


グシャ‼


緑色の化け物が、拳を引き抜き、隣にいたシャークを睨んだ。

その時、睨まれたモルスシャークは、ネプチューンの言葉を思い出していた。


ー純粋な肉弾戦ではわしらに勝ち目は無くなったと証明されたんだー

これは、そういう意味だったのだろう。

ただの言葉ではなく、本当に勝てないのを悟っていたのだ。

「海の王者はどこにいる?答えろ。」

静かな声でささやいた、緑色の化け物は血塗られた右手をかざしながら言った。

緑と赤が混ざり、奇妙な色に見えたその腕はまさしく化け物が一番似合うだろう。

だが、シャーク達にもプライドはあった。

「い、いくら脅しても長を売るわけに行くか‼!!」

下級戦士のモルスシャークが決意をだし、回りにいた、シャーク達も一斉にうなずいた。

「そうか……ならいい……」

そう言い、総督は能力を解いた。

緑色の化け物の姿を解き、元の肉体に戻った。

綺麗な肌色の姿で、再び歩きだした。


総督が見えなくなると、残ったシャーク達はしばらく腰が抜けて動けなかった。


山越の剣を納め、休憩出来る岩場に腰をかけた。

「…………陸の紋章。まだ慣れないのか、少し疲れたな。」

もうすぐ、クールタウンの東の果てにつく。

海はもう見えている。

シャーク達に聞かずとも、そこにいる事は分かっていたが、あの者たちが海の王者と関係があるのかを知りたかったからだ。

そして、長を売らなかった忠誠心、海の王者は、ユピテルと違って部下の事は信頼しているのだろう。

お互いに尊敬し尊敬されている。

実に素晴らしい関係だ。

まさに理想だろう。

この戦乱の世の中で、誰もが自分が一番だと思っているが、そんな気持ちもない。

皆が皆相手を信じ、強く逞しい。

「あれが王者に相応しい人格というやつだな。」

目を瞑り、紋章が共鳴しているのが分かる。

王者の印のこの紋章も、三つが分かれた状態ではなく、三つが重なった状態で初めて真の王者となる。

陸海空をまとめて天に繋がる太陽へと導いてくれる。


「行くか。太陽へと続く(みち)へ」

立ち上がり、海の方を見た。

ノストルドムの予言の通りならこの戦いは勝てる。

そして、すぐに悪魔とも戦う事になるだろうが、それは考えないでいい。

未来が見えるなんて、本当に嫌なものだ。

これから戦う相手の勝敗がもう決まっているのだから。

それでも、行くしかなかった。


再び、緑色の化け物に姿を変えて、走り出した。

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