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三章 その参

 ミツアキの部屋にはテツヤの姿があった。持参した書類をミツアキの机の上に置く。

「何人集まった?」

「五人です。募集が急なことなので身元確認ができたのがそれだけでした」

「仕方がない。いないよりはましだろう」

 このところの騒動を受け、黒真珠卿は私兵の増員を決めた。今はまだ問題ないが、この先大きな事件に繋がらないとは言えない。

「一人面白いのがいるな。年は若いが、領主様のお屋敷で働いていたのか」

 ミツアキが言う領主とは、東霞ひがしかすみを治める公爵のことで、一般的には東公とうこうと呼ばれる。

「ええ。五人とも明日面接を行います」

「全ておまえに任せる」

「承知致しました」

 一礼をしてミツアキに背を向けたテツヤが足を止めて振り返った。

「その後、奥方様はいかがですか?」

 ミツアキは一瞬目を見張り、穏やかにほほ笑んだ。

「笑いはしない。だが、あの芸人たちと過ごす時間は楽しみにしているようだ。毎晩、今日はどんな芸を見たか話してくれる」

「……それは、よろしゅうございますね」

「ありがとう」

 主の妻の変化は喜ばしいことだが、テツヤの心には何故か黒い靄のようなものが渦巻いていた。


 四人の面接を終えて、最後にやって来た男を見てテツヤは息を飲んだ。自分より顔半分は高い身長にも驚いたが、武人であるならばそうおかしいことではない。それよりも彼の目を引いたのは、男の顔だった。

「……その眼帯はどうした」

「以前の仕事で怪我をしました。もう慣れましたので、片目でも仕事には差し支えありません」

 まだ若さを残した低めの声からは、実年齢以上の落ち着きが感じられた。手元の書類には十九歳と書かれている。

「そうか。そのひげは剃れないのか?」

 テツヤの隣にいた警護隊長が声を掛けた。

「申し訳ありません。頬に生まれつきの痣がありまして、一番初めにお仕えしたお屋敷で隠すようにと言われて、それ以来伸ばしております。剃らなければなりませんか?」

「いや、そういう事情ならそのままでかまわない」

 彼のひげは、顔の下半分全てを覆うように生えている。前髪も長く、顔のほとんどが見えない彼は、通常なら雇うことをためらってしまうような風貌だ。

「左目の怪我は東公様のお屋敷で?」

「はい。侵入者を取り押さえたときに。そのことがありまして東公様が紹介状を持たせてくださいました」

 東公の屋敷で働いていたということは、これ以上ない身元の保証がされているということだ。そのうえ紹介状まであるとなると、東霞で彼が働けない場所がないということでもある。テツヤが隣を見ると、警護隊長が無言でうなずいた。

「わかった。明日から頼む。詳しいことはこの警護隊長に聞くと良い」

「わかりました。よろしくお願いします」

 新しく雇われることになった男がテツヤの執務室から出て行く。そのとき、男から何か小さな紙のようなものが落ちた。

「タロウ、何か落としたぞ」

 テツヤが声を掛けたが、男は立ち止まらない。

「おい。聞こえてないのか?」

 ようやく振り返った男は、気まずそうな表情で頭を下げた。

「申し訳ありません。今頃になって緊張してきてしまったようで。──木の葉ですね。外で捨てておきます」

 拾い上げた葉を片手に、タロウは今度こそ部屋を後にした。


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