第84話VS元一級魔術師③
俺はそう思って目をつぶった。
「まだ、生きているのか。しぶとい奴め」
はっ。俺はその声で目を開けた。
目の前に広がっていたのは真っ白な空間ではなく周りにある木々によって夜にでもなったかを思わせる森の中。カワラルーンももちろん目の前に存在していた。先ほどの声はカワラルーンのものであった。
俺は戻ってきたのか……。
どうして戻ってこられたのかは分からない。先ほどの出来事が白昼夢のごとく幻だったのかもしれない。でも、俺はあれは本当に起こった不思議な出来事だと何となく実感した。あれは、邪悪な存在からのある意味プレゼントだったのだな。まあ、感謝することなどないけどな。闇は所詮は闇だ。
俺はそれらを考え終わる前に気持ち新たにカワラルーンの方を向いた。
カワラルーンは俺を先ほどと同じように冷たい目で見ていた。ただ、その目は先ほどの俺を格下だと決めつけているものとは少し違うように感じた。
俺はカワラルーンを睨み返す。
「いいじゃないか、そんな目もできるか。いいぜ、受けてやる」
カワラルーンは満足そうにそう答えて構えた。先ほどは構えすらも出さなかったのでなめ切られていたが今度は違った。しっかりと構えを取っていた。それは俺を認めたということに他ならない。
俺も再び構えを取る。
しばらく俺とカワラルーンの間では沈黙の時間が続いた。それはほんの数秒であったが俺にはものすごく長く感じられた。
俺とカワラルーンの間を近くの木になっていたであろう葉っぱがひらひらと落ちてきた。それはゆっくりと地面に向かってひらひら落ちて行った。それが地面に落ちた次の瞬間に俺達は動き出していた。
「はああああああああああああ」
俺はカワラルーンとの距離を縮めるため速攻で走る。カワラルーンもまた俺との距離を縮めるために俺に向かって走ってくる。
俺はそれを予期して接近戦になってもいいように手には魔法で出現させた刀を握りしめている。一方のカワラルーンもそれぐらい想定内であったのか彼もまた手には刀が握りしめられていた。俺のよりも長く分は完全に向こうにあった。だが、長い分攻撃の速度は遅くなる。俺はそう考えてもっと速くだ、もっと速くと一歩、また一歩と自分の速度の限界以上の力を出してカワラルーンに近づいた。
俺の目の前にカワラルーンの体があった。すでに刀は俺に向けて振り下ろされている。俺はその動きを注意深く見てから横にかわす。かわしてからカワラルーンに向けて刀を差すように突き出す。
カキン
刀と刀がぶつかる音がした。
俺の攻撃はあっさりとカワラルーンの刀によって止められてしまった。
「なっ!」
さっきまでカワラルーンの刀は俺が避けた時に勢いのまま地面に刺さっていたはずだ。それなのにこの一瞬で刀を抜いたというのか。俺は驚いた。そして、警戒をし再び後ろへと大きくジャンプした。
「どうした? こないのか。だったらこっちから行くぞ!」
そう言うと長い刀を手に持ったカワラルーンがものすごい速さで俺の目の前までの間合いを一瞬にして縮めてきた。
「ちっ!」
俺はその動きを注意深く見ていたが見切ることはできず、どうにか刀をぶつけるのが精いっぱいであった。刀を顔の目の前に横になった状態でその上からカワラルーンの長刀がぶつかっている状態だ。
「ふん。それぐらい受け止めなきゃダメだろ」
カワラルーンはそう言うと力を強めていき俺はその力に徐々に押されていた。
ドッガン
俺のいた地面があまりの力に耐えきることができなかったのであろうか日々が割れて地面に俺の体は沈みかけていた。
「ぐっ」
正直やばい状態であった。このままだとやられる。俺は必死に力で押し返そうとするも力の差は歴然としており状況は悪化していた。
くそう。こうなったら……。
「風の舞」
俺は風の舞を魔法を発動した。近接勝負でも魔法を使うのが俺だ。刀を持っているからといって魔法を使わないようなことはしない。
俺の放った風はカワラルーンめがけて飛んで行った。この近距離だ。かわすことはできないだろう。俺はこの隙ができた一瞬のうちにカワラルーンの長刀を思いっきり叩いて後ろへと動いた。
どうだ。俺はカワラルーンの方を見る。
バシャーン
風が裂かれた。
カワラルーンは風の舞を避けることもせずに長刀で真っ二つに切ったのであった。
ウ、ウソだろ……風って切れるのか。
俺は信じられないものを見ていた。風の舞は技ランクは低いし威力もほとんどないカワラルーンぐらいであったらぶつかっても傷を負うようなことはないだろ。だけれども、風を切るなんてそれは悪い冗談だ。カワラルーンは風を切っても何とも思っていない。当たり前のようだとその顔から物語っている。
「どうした? 何か信じられないものを見ているようだな」
何だよ。その余裕。化け物だ。流石元一級魔術師。これがその力か。俺は恐怖を覚えた。先ほど消えていたはずの負けるという概念が再び俺の頭の中の大半を占めるようになっていた。
ここは逃げるべきなのか。
俺の額からは変な汗が流れてきた。
くそう。どうすればいいんだ。どうすれば。
俺は考えても考えてもこの状況を好転させるような秘策は相変わらず思い浮かばなかった。いや、逃げるという選択肢だけは出てきた。やはり、逃げるべきなのか。
俺は一歩、また一歩と足を後ろの方へと下げていく。
「逃げるのか?」
カワラルーンはそんな言葉を言ってくる。
逃げる。いや、逃げたくない。でも、現に逃げるしかないんだ。俺じゃあ勝てない。俺では俺1人では無理だ。
「じゃあ、私がいればどう?」
絶望の底にいた俺に一筋の光が差した。俺は後ろの方へと振り向く。そこにいたのは───。




