49 森の奥へ
49 森の奥へ
ギルドマスターとフェルナンドは結論を出した。
騎士団の三分の二が町に残り、残りが瘴気の浄化に向かう。
かつてこの町を守り抜いた経験のある騎士たちなら、留守は任せられる。
そして、冒険者は、希望者全員が同行することになった。
「全員……か」
思わず独り言が漏れた。
「そりゃそうだろ」
隣でダグラスが肩をすくめる。
「あのフェルナンドと一緒に戦えるんだ。冒険者にとっちゃ誉れだよ」
クリフも苦笑しながら頷いた。
「断る理由がないな」
ナタリーが静かに、自分に言い聞かせるように呟く。
「怖い……けど、それでも行きたいの」
その言葉に、誰も反論しなかった。僕も、全く同じ気持ちだった。
◆◇◆◇◆
僕たちは三日の行軍を開始した。
大所帯であること、そして森の中では馬よりも足の方が確実だというフェルナンドの判断による徒歩の旅だ。
「無理はするな。ペースを崩すな」
出発前のその一言だけで、荒くれ者も多い冒険者たちが自然と統制に従った。
だが、森に入った瞬間、空気が一変した。
胸を内側から圧し潰されるような重さ。息が浅くなる。
あの瘴気だまりのそばにいる時の感じ。ただ、あれよりずっと濃く、禍々しい。森の入り口でこうなるとは、さきがどうなっているのだろう。
経験のある騎士団とクリフたち。彼らは知識があるから余計に表情が固い。
また、経験のない冒険者はおびえているようだ。それは無理のないことだと思う。
「なんだ……これ……」
誰かが呻くように言った。
じわりと怯えが広がった。
するとフェルナンドがすぐに対処した。
その場で足を止めた。そして低く、だが全員の鼓膜に届く声でこう言った。
「こんな圧力は前回ではなかった。これからはなにが起こるかわからない」
そして、むしろ優しいと思える口調でこう言った。
「自信のない者は、今のうちに帰れ」
全員がフェルナンドに注目している。
「無理をすることはない。命は一つだ。それを守れ」
厳しい言葉だ。けれど、突き放しているのではない。僕たちを守るために言っているのだと分かるからこそ、その言葉は静かに胸に刺さった。
誰も動けない。重苦しい沈黙が場を支配する。
その時、赤毛が、沈黙を破るように大声を出した。
「おい、みんな! 手元の石をしっかり握れ!」
「石?」「これのことか?」
皆が戸惑いながらも、懐の石を握りしめた。
すると、どうだろう。
「っ、軽くなった!」
「どうして? でも、確かに効いてるぞ!」
「さっきまでの吐き気が消えた!」
僕が浄化の魔法を付与した石。
それを握るだけで、肌を刺すような圧力が和らいでいく。完全ではない。けれど、その「少しの差」が絶望を希望に変える。
「いけるぞ!」
「これなら戦える!」
沈んでいた士気が、一気に跳ね上がった。
「行くぞ野郎ども!」
赤毛の男が叫び、続いてクリフも声を張り上げた。
「遅れるな、前に出るぞ!」
その様子を見て、フェルナンドがわずかに目を見開いた。
何事にも動じないあの鉄の騎士が、ほんの少しだけ驚いた顔をしている。
それを見て、僕の口元は自然と緩んだ。
「行きましょう、フェルナンド」
声をかけると、彼がこちらを見た。
ほんの一瞬の間があってから、彼は答えた。
「あ、あぁ。行くぞ!」
少しだけ、声が裏返っていた。
あのフェルナンドが、どぎまぎしているなんて……
「あぁ、この人も人間なんだ」
そして僕は、そのフェルナンドを可愛いと思った。
足は止まらない。
フェルナンドがいて、仲間たちがいる。
怖さなんて、もうどこかへ吹き飛んでいた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
よろしくおねがいします。




