22 ルークの能力 フェルナンド目線
22 ルークの能力 フェルナンド目線
ルークは三日働いて一日休む。
今日はルークの休みの日だ。
だから俺はギルドマスターを訪ね、戦力として当てにしている者の名前を挙げながら、これからの計画を打ち合わせた。
「ルークに危ないことはさせないでくれ。薬師ギルドが泣く」
ギルドマスターがそう言うと、俺は短く答える。
「そのつもりだ」
マスターは真剣な顔でうなずいた。
打ち合わせが終わると、俺は図書館へ向かった。
ルークがいるかもしれない、そんな期待を抱きながら。
だが、残念ながら姿はない。
俺はそのまま薬草の本を手に取り、静かにページをめくる。
薬草の話を、ルークとしたい。
その気持ちだけで、時間が過ぎていった。
早めにギルドへ戻ると、受付が声をかけてきた。
「護衛していただいて本当に良かったです。薬草の質も量もすごく良くなって、薬師ギルドがとても喜んでいます」
受付は少し身を乗り出しながら続ける。
「いいポーションを作っておきたいですしね」
俺は軽くうなずいた。
◇◆◇◆◇
その日の森は、明らかにおかしかった。
風は吹いているのに、葉が揺れる音が遅れて聞こえる。
気配はあるのに、輪郭が掴めない。
生き物の気配ではない。
だが、何かがいる。
俺は無意識に足を止め、周囲を見渡した。
その隣で、ルークの呼吸がわずかに浅くなる。
同じものを感じている。
休憩のために腰を下ろすが、気はまったく休まらない。
水を口に含んだ瞬間だった。
空気が、裂けた。
ルークの輪郭が、急に浮かび上がる。
ぼやけていた存在が、一気に現実へ引きずり出されたように。
その瞬間、理解する。
来る。
「行きます」とルークが低く言った。
言葉が終わるより早く、ルークは地面を蹴っていた。
速い。
一瞬で距離を置かれる。
反射で体を動かす。
追い越し、前に出る。
前衛は俺だ。
森の奥へ踏み込んだ瞬間、血の匂いが鼻を刺した。
いた。
鎧熊。
巨体がゆっくりとこちらを向く。
その足元には、倒れた冒険者が三人。
動かない。
呼吸も見えない。
遅れれば、終わる。
鎧熊が腕を振り上げる。
空気が唸る。
その直前。
見えない何かが、前足を絡め取った。
動きが止まる。
一拍遅れて、後ろ足も拘束される。
ルークだ。
迷う理由はない。
踏み込む。
地面を蹴る音すら遅れて聞こえる。
一閃。
刃が、鎧の隙間に沈む。
手応え。
重い肉を断ち切る感触。
鎧熊が崩れ落ちる。
地面が揺れた。
静寂が戻る。
だが、それで終わりではない。
俺はすぐに周囲へ視線を走らせる。
次が来る可能性を切らない。
その間に、ルークはすでに倒れた冒険者たちの側にいた。
早い。
戦闘が終わった瞬間には、次の行動に移っている。
「全員、ちょっとした怪我と気絶しているだけですね」とルークが言う。
その言葉が、理解に追いつかない。
視線を向ける。
血に染まっていたはずの服が、元に戻っている。
破れていた箇所も、跡形もない。
あり得ない。
さっきまで、致命傷だったはずだ。
「そろそろ気がつきますかね」とルークが続ける。
まるで、結果が決まっているかのように。
その言葉通り、三人が呻きながら目を開けた。
ここは俺の出番だ。
「気がついたか。運が良かったな。鎧熊に吹っ飛ばされて目を回しただけとは」と俺が声をかける。
「え?」
「あれ? 確か……」
「生きてる?」
三人が混乱した声を上げる。
「念のためポーションを飲んでおけ」と俺が指示する。
三人はルークを見て言った。
「あれ、ルークだ。大丈夫だった?」
「強い護衛が……」
ルークが俺を見る。
「フェルナンドさんが」とルークが言った。
「「「フェルナンドさん!」」」と三人が声を揃える。
「助かったんだ……」
「よかった……」
「死んだと思った……」
三人は互いの肩を叩き合い、そのあと俺とルークに深く頭を下げた。
「ありがとうございました!」と三人が声を揃えて言う。
気を許してくれたから、治癒魔法を見せてくれたのか。
三人に悟られないように治療したのは、その価値を理解しているからだろう。
それでも。
俺に対して、少しは心を開いてくれたのだと思いたい。
護衛を受け入れてくれた。
それだけで十分だ。
俺とルークは三人を連れて、ギルドへ戻った。
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