01 プロローグ
プロローグ
散歩がてら、少し遠回りをして普段は行かないコンビニに立ち寄った。
似ているようで違う商品が並んでいるのを見るのは、思った以上に楽しくて、つい長居してしまう。
レジを済ませて外に出ると、太陽はもう傾きかけていた。
家へ向かって歩き出した、その時だった。
向かいから、見慣れた顔が歩いてくる。
そして、僕が一番会いたくないやつ。
やつは僕を見つけた瞬間、口元をゆがめた。にやり、と。
そのまま足早にこちらへ向かってくる。
最悪だ。
そう思った、その瞬間。
足元に、光が走った。
思わず視線を落とすと、そこにはマンホール。
だが、ただのマンホールじゃない。
淡く光りながら、ゆっくりと回転している。
ぞっとして後ずさる。
だが、それは逃げる僕を追うように、音もなく滑ってくる。
「なんだ、これ……」と僕は思わず声に出した。
逃げても、逃げても、ついてくる。
その間にも、やつはどんどん距離を詰めてくる。
そして。
やつが近づいた瞬間、マンホールは一度だけそちらへ向かった。
やつの足元で、強く光る。
だが。
するり、とすり抜けた。
次の瞬間、再び僕の足元へ。
「ちょ、待て――」と僕が言いかけた時だった。
やつが飛びかかってきた。
肩を掴まれる。
そのまま、押し倒されるように。
僕たちは、同時にマンホールへと引きずり込まれた。
それは、人が通るための穴だった。
落ちる。
ひたすらに、落ちる。
どれだけ落ちているのか、わかるほどに。
落ちて、落ちて、落ちて。
落ち続けた。
やがて。
ドン、と。
音がしたのか、衝撃だったのか、それすら曖昧なまま、全身に痛みが走る。
意識が途切れた。
「神子様、よくおいで下さいました。歓迎いたします」と老いた神官が言った。
低く、厳かな声だった。
目を開けると、二人の男が僕にひざまずいていた。
一人は神官。いや、それよりも上の存在だろう。豪奢な衣装をまとった老人だ。
もう一人は、誰が見てもわかる。王子様だった。
「どうぞ王宮へ。旅の疲れを癒して下さいませ」と王子が柔らかく微笑んで言った。
「教会は全力で神子様を支援いたします」と神官がうやうやしく頭を下げる。
神子様?
「ありがとうございます……ですが、なにもわかりません。神子様とは……僕が、ですか?」と僕は戸惑いながら答えた。
口が勝手に動く感覚があった。
「まずはお座りになって、お話を」と王子が手を差し出す。
僕はその手を取り、立ち上がった。
は?
今、立った?
誰が?
僕は、床に倒れていたはずだ。
じゃあ。立っているのは、誰だ。
「神子様……あの男は」と王子が僕を見ながら言う。
違う。あれは、僕じゃない。
なのに。
「彼に悪気はありません……罰を与えないで下さい……彼は決して――」と、僕の声で誰かが話している。
僕の顔で。
僕の声で。
あれが話している。
なんだよ、これ。
「大丈夫だ。悪いようにはしない。安心してくれ」と王子が優しく言う。
完璧な王子様の微笑みだった。
その頃になって、ようやく体の痛みが戻ってきた。
僕はゆっくりと体を起こした。
「神子様、お名前を」と神官が静かに尋ねる。
「……ミツルギ・ダイト。ミツルギが家名です」と、僕の体の方が答えた。
違う。
それは僕じゃない。
僕は震える手で髪を掴んだ。
視界に入ったのは、茶色の髪。
あれが僕?
じゃあ。
これは。
やつ、なのか。
神官は別の男を呼び、何かを耳打ちした。
その男は僕の前に来て手を差し出す。
「立てるか?」と男が言う。
僕はその手を掴み、立ち上がった。
そのまま連れられて、その場を離れる。
振り返った。
そこには。
僕の顔で、にやりと笑うやつがいた。
見慣れた笑い方。
ミツルギの笑い方。
「……嘘だろ」と僕はつぶやいた。
悪夢すぎる。
目を覚ませ。
覚めてくれ。
頼むから。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




