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先輩、クリスマスはお好き?

作者: 炭酸水『しっぽのきもち』

 街は押し付けクリスマスモード。

 忘年会シーズンと花金も重なって、無駄に賑わってる。


 歳末に盛り上がってる人々と我関せずを装う人々が交差する駅の構内を抜けて、居酒屋とオフィスが混在する通り。私は、目の前のビルから彼が出てくるのを待っている。


 彼ピでもない

 彼ピッピでもない


「タイチセンパーイ!」


 部活を引退して予備校通いで忙しくなった先輩を突撃する。まぁ、いつもなら学校の廊下でなんだけど。


「うわっ!……お前か」


 ビルの階段を休憩で降りてきた先輩に突撃というか、もはや激突。


 ボスッ!!!


「うっ!」


 一応、先輩が倒れたりしない程度には手加減してるよ。

 先輩も、条件反射で受け身を取るのが上達しちゃってる。


 激突して先輩の腕をガッツリとホールドする。残念ながら、押し付けて男の本能に訴える胸はないんだけどね!


「わかった!わかったから!」と、先輩が言うけど、何が分かったのか、さっぱり分からないんですけど!


 馴れ馴れしくして二年間弱……先輩に彼女を作らせないように、たとえ彼女ポジションが取れなくても、そのスペースに他の女の子を入れさせない努力はしてきた!


「タイチセンパイ!お疲れ様です!」


「いや、お前、なんでこの時間知ってるんだよ」


「またまた〜〜!私が名マネージャーだってお忘れですかぁ?」


 予備校の休憩時間ぐらい、リサーチするし!先輩がコンビニに行って毎回買うものぐらい把握してる!


「お前なぁ〜〜」


 と、まぁ、名前を言ってくれないところが、悲しいかな。先輩は、いつもの呆れた態度で予備校のビルの一階にあるコンビニに入っていく。もちろん、私もついていく。


 ほら、先輩と私が一緒にいるのを見てる女の子達がいるよ。予備校に通う受験生かな?先輩と同じクラスかも知れないわ。店内を流れるクリスマスソングに、私の戦闘コングが鳴り重なる。


 ヒソヒソ話をしているのをチラリと確認して、私はお菓子の棚からチョコを一枚取って、先輩の手の上に押し付ける。


「えへっ」


「……おいっ!」


 と、言いつつ、先輩は突き返すのも面倒に、チョコを受け取り、自分の買うものといっしょにレジに向かう。


 私たちを追いかける女の子達の視線に、落胆の色が見える。明る過ぎるコンビニがそこだけちょっと暗くなる。


 そう、先輩にこんなに親しく出来る子は早々いないの。私みたいなのがもう一人いたら、先輩、ストレスでキレちゃうかもね。


 レジを終えた先輩の後ろにピッタリとくっついて、コンビニを出ると、冬の外気に先輩が身震いする。コートを羽織らずに降りてきちゃうんだもんね。確かにコンビニ直ぐだけどさ。


「さ、っむ」


「メリークリスマス!タイチセンパイ、受験生が風邪ひいたらダメですよ!はい、お守り!」


 と、私はバッグから、この日のために用意したマフラーを先輩の首に巻く。巻くというか、縛る。


「こらっ!風邪どころか、あの世に行かせる気かよ」


「そうです、いっそ、ひと思いに♡」


 どう?この連携のとれたコント!執拗にボケを繰り返しまくったおかげで、先輩はツッコミを覚えたのよ!?開拓するの大変だったんだから。


 恨めしそうな周囲の目線を先輩と私に集めて、私は退散する。予備校生の先輩達には目に毒だったかしら?いいの、私にとっては、全員先輩のライバルだから。


「じゃ、私帰りますね〜センパイがんばってね!風邪ひかないでね!」


 もう、駆け出し始める私。


「えっ?ちょっ、エマ……(チョコは?)」


 先輩が、首元のマフラーを抑えながら、声をかけてくるけど、私は手を大きく振りながら、駅の方へと走る。


 引き際、肝心。


 って、先輩、お前じゃなくて、名前で呼んでくれた!

 よし!今日の大収穫。



 月曜日、私は風邪をひいて学校を休んだ。

 火曜日、3日間寝込んだ風邪がようやく治って、登校中。


 突き刺すように風が冷たい。マフラーをグルグル巻いて、校門を通り抜けると、車がいちいち避ける邪魔な胸像の前に先輩が参考書を手に立っていた。


「おはようございます」


「お前、昨日、休んでたのか?」


 本当なら飛びつくところだけど、正門で先輩に会うって、ほとんどない。病み上がりでいつものテンションが出ない。不意打ちするのは慣れてるけど、されるのは苦手。


 先輩が口をへの字にして歩み寄ってくるから、私は怯んで足が止まる。……しまった。


 受験生に強引にマフラー押し付けて、彼女でもない私がお揃いしてたら、流石に気持ち悪い!?呪いのマフラーって、感じ?受験生のナイーブを無視し過ぎた?


 寒いのにまた熱でも出てくるんじゃないかって、汗をかきたいのか、鳥肌を立たせたいのか、私の身体が混乱する。


 先輩が、自分の首に掛けてる私が渡したマフラーを外して、私の首のマフラーをクルクルと外す。


 ぴゅうと、首が寒くなると、私の心までが一気に凍りそうになる……


「お前ね……」


 参考書を小脇に挟んで、両手それぞれにマフラーを持った先輩に、私、泣いちゃうかも。


 マフラーを突き返されるのを覚悟して、ギュッと視線を地面に落とす。


「……こっちがお守り」


「えっ?」


 と、先輩が、私の首から取り上げたマフラーを自分の首に巻いて、もう1つを私の首に巻き直す。


「……なんか、いい匂いな」


「えっ!ちょっと、嗅がないでください!」


 超恥ずかしい!やめてやめて、臭いかもしれないから! そういうの、本当、やめて!!やられるのは苦手みたい!!!


「ん?ちょっと臭い?」


「わー、タイチセンパイ、やめて下さい!捨てていいですから!ごめんなさい!」


 って、自分の首に巻かれたマフラーは、先輩のいい匂いがするから返したくない〜〜!周りが超見てる!先輩、カッコいいから、超目立つし!


 って、先輩、なんで昨日私が休んだの知ってるの?もしかして、昨日の朝もここで待ってたの?


「エマ、俺に散々、恥ずかしいを強いてきて、それ?」


「うわぁ、ごめんなさい。謝りますから……えっと、あ……の、お守りの匂いの本体の方もお守りにどうですか……」


「……お前の、そういうところ苦手」


 先輩がにっと笑う。


 先輩が校舎に向かって、私に背を向けると、私はいつものように先輩の背中に激突した。今朝はちょっとそのまま抱きついても……いいかな?



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