表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

Q? あの、俺からも質問いいっすか? A. ハイ?

 広報部から来たインタビュアーのお兄さんは、感嘆の声をあげた

「おおー」身を乗り出し、小声で聞いてきた。「それで、デートして、よし、ここに就職、決めちゃうぞ! とか、そんな感じもあったり?」

 秘密結社・異世界に送る会(株)の本社近くにある喫茶店で、そのインタビューは密やかに行われていた。『実行部のオフィスでやればいい』と部長は言っていたが、冗談じゃない。榊さんに聞かれたらと思うと、まずい話題が多いのだ。

 ゴチになったアメリカンコーヒーを一口。薄すぎだろ。

「いや、まぁ、色々あったんですけど、それはプライベートなんで……ボカしてもらってもいいですかね?」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。教えてくださいよー」

「いや、マジ、無理す……そんな良い話でもないというか、なんだろう」

「あれ? 浮かない声ですね、いいじゃないですか、美人の先輩とのデート。やっぱりそういう話もあった方が広報で受けるんですよねぇ。ダメですか?」

「いや、ほんとに無理っす……まぁ、一緒に働こうって言ってもらえたってのはあったんですけど、なんていうか、うーん。やっぱコレは書かないでもらえます?」

「ええー?」お兄さんは大袈裟に身を引いてみせ、笑顔を浮かべて言った。「まぁ、でもプライベートって大事ですもんね。大丈夫ですよ。ここまで色々お話しいただけたので、充分パンフに載せられます」こちらに向かって、ペコリとお辞儀をする。

「ありがとうございました」

「あ、こちらこそ。結局インターンの話しただけになっちゃって、すいません」

 ペコリとこちらも一礼して、おやつのデニッシュを一口。やっと終わった。

 長いインタビューだった。これだけ色々話しても、多分使われるのは、せいぜいが一ページの隅っこ一角程度なんだろう。しかし、こちらは答えたのだ。責務は果たしたのだ。さぁ、俺の質問にも答えてもらおう。

「あの、俺の方からも質問してもいいですかね?」

「え?」ボイスレコーダーを止め、撤収の準備を始めていたお兄さんは、手を止めた。「えぇと、僕にですか?」

 うんうんと頷いてみせる。可能な限り、真剣に。

「えぇっと……なんでしょう?」

 落ち付いて、深呼吸。ここが一番大事なポイントだ。

「あの、広報部に転属ってできないですか?」

「は?」

 鳩に豆鉄砲を食らわせたことはないが、きっと今のお兄さんのような顔を言うのだろう。そりゃそうだ。ついさっきまで実行部でのインターンシップの経験を語っていたその男が、今は転属できないかと聞いてきている。そりゃ、そうなる。しかし俺はめげない。いま上手いこと言質を取ってしまえば、卒業までのあと一カ月で、なんとか実行部から逃げられる。かもしれない。

「お願いします! お兄さんからも頼んでください! 辛いんです! 研修が辛いんです!」

「そ、そんなこと言われても! 大体、実行部のインターンシップあがりで、ウチの実行部に入ることに決めたって、そう聞いてるんですけど!?」

 言いながら逃げようとするお兄さん。

 逃がすか。

「待って下さい!」立ち上がろうとしたお兄さんの腕をスパっとキャッチ。アンドロック。「お願いします! お願いします! 早くしないと、また技術開発部に連れていかれちゃうんです!」

「イダダダ!! 離して! 手を離してください! 痛い! 何すんだ!」

 しまった。連日の研修のせいで、極めにいってしまった。しかし、離すわけにもいかない。

 あの日、後楽園ホールでルチャを取り入れたというプロレスを見たあと、榊さんに一緒に働こうと言われたのは事実だ。そして、テンションが上がりまくっていた俺が、それを受けたのも事実。

 そしてその週明けに、是非ここで働きたいと言った。それも認めよう。

 しかし、そこから始まった研修が、あまりにも過酷。

 

 技術開発部で連日繰り広げられるスパーリングに、筋トレ、無茶な食事。しかも、たまにキラキラした目の榊さんが来て、飛び技の練習をさせられる。生傷が増えるどころの騒ぎじゃない。

 最近じゃ、こっちが慣れてきたからか研修もハードさを増した。そのうえ、通常業務の方にまで駆り出され始めていた。『異世界送りから守り隊』との抗争こそ、いまは沈静化している。しかし、佐藤淳平みたいな連中が異世界から帰れば、抗争が激化するのは目に見えている。怖い。

 だから、早く転属したいのだ。俺も必死だ。

「お願いします! お願いします!」

 なおも腕を極めつつ、さらにお願いする。一心不乱にお願いする。

「痛い! 痛いって! 考えるから! 考えるから離して!」

「本当ですか!? 本当に考えてくれますか!?」

 手を離すか? いや、多分この男は嘘を――

バゴヮン

 喫茶店のガラスを叩く音に驚き、外を見る。

 怯えた男が張り付いていた。ちょっと着古した感じの、みすぼらしい格好。どっかで見た顔だ。

「いせかぁい!」ガラス越しにも轟く、聞きなれた声。

 ヤバい。

「伏せて!」そう言って、俺はガラスの方を見ながら、インタビュアーのお兄さんを床に引きずり倒した。

 ガラスの向こうから、こっちに走ってくるのは、やっぱり榊さんだ。

「ドロップキック!」

 うわ、アスファルトの上で飛んでるのに、打点が超高ぇ。どんなバネしてんだ。

――バゴシャァン

 ガラスを突き破り、店内に蹴り込まれる男。テーブルの上で跳ね、床に転がった。

 そしてぱわゎゎあっと光って、消えた。

 窓の外を見ると、榊さんが心配そうな顔をしてこちらを見ていた。着ていた服は、後楽園ホールで買った団体Tシャツ。なんでそう、プロレス縛りなんだ。

「大丈夫!? コンくん!」

「……うす。なんだったんすか、さっきの奴」

「『異世界送りから守り隊』! コンくんが、ちょっと前に送った奴」割れた窓ガラスを乗り越えて店内に入ってくる。「復讐目的だったみたい。広報部のインタビューは終わった?」

 あ、そうだ、広報のお兄さん。

 辺りを見回してみると、いねぇ。逃げやがった。

「……終わりました」

「じゃあ、今日の仕事、行こっか?」

 自動スキル『社畜』、発動。

「……うす」

 窓ガラスを乗り越え、退店。店員は追ってこないようだ。助かった。まぁ、ガラスについても、あとで斎藤さんが処理してくれるはずだ。

 視線の先には、こっちに向かって走りくる、バットを持った男が二人。『異世界送りから守り隊』の連中だろう。

 俺の脳裏に、額にMと入ったマスクマンが浮かぶ。

「さぁ、仕事っすね」

 今さっき転属を願い出ておいてどうかとは思うが、意外と、この仕事を気に入っている自分もいる。どうせ来年四月から秘密結社・異世界に送る会(株)の正社員だ。

 諦めて残り一カ月、魂のマスクに誓って、頑張ってみよう。 

 ちらほらと読んでくれた方もいらっしゃるので、後書きを追加です。

 実は最終話一個前のデート(というかプロレス観戦)は、書くかどうかすごく迷ったところです。そして今回は、私のエゴで強引に切ってしまった。つまり、インターンシップ編なので、業務外は書かないでいいだろうという判断だったのです。


 今は冷静に考えれば休日の過ごし方ってインタビューもあるだろう、なんて考えております。というわけで最後の二話は(いつになるかはともかく)修正の可能性があります。


 これだけではアレなので、一応コンセプトとプロットの紹介だけ。

 コンセプトは単純明快に異世界に送る側。トラック=衝突という発想からプロレスネタ。くわえてプロレスネタと言っても古いのを使いたかったので、主人公はプロレスに詳しくなくなりました。多分、読者の方々も古いプロレスネタは良く分からないだろう、という判断です。


 ちょっと不思議な擬音を多用しているのは、擬音をギャグに出来ないかと思ったからなんですが……ちょっと失敗していますね。その辺りを修正してみたのが、カクヨムに置いてあったりしています(追記:なんか誘導してるみたいで気持ち悪かったので、移植)。

 行間詰まり過ぎてて読みにくい、とかあるかと思います。

 空けてもいいのですが、現状だと無駄に長大になっちゃうから避けている感じ。

 行間空けて! とか要望があるようなら、ちょっと考えます。


 長々と後書きを書いてしまいましたが、これも読んでくれた方への感謝を表わすためなのです!

 改めて、半ば実験作のような本作ですが、お読みいただき、まことにありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ