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えぴそーど 〜にじゅうさん〜


「ほんわか堂」の店先には、小さな黒板が立てかけてあります。

そこには、ほとりの手書きで、こんなふうに書かれているのです。


人生って、いろんな事のれんぞくですよね。

楽しいこともあれば、そうでない事もたくさんあります。

わたしには、それを変える事はできないけれど

少しだけよくするために


「おくり物」をひとつ、おわたしします。

よかったら受け取ってみませんか?


「ほんわか堂」

今日も ふわっと あいています。

あなたのお悩み、少しだけこぼしてみませんか?


~ひとことの重み~


***


正直(まさなお)は、普通の営業マン。

仕事も順調で、特に不満などもないのですが、最近気にしてしまう自分自身の癖があります。

思った事を多く語らない事、特にあと一言言えば状況が変わるような状況で尻込みしてしまい、口に出さず、事後で考え過ぎてしまったり、激しく後悔してしまうんです。

そんな自分を変えたいと、何とか発言しようとしますが、どうしてもあと一言が出ない。結局いつもと変わらずまたもや後悔して眠れなくなる……そんな事を繰り返しています。


「何でいつもあと一言が出ないんだろう……」


まさなおは、仕事の帰り道にそんな事をつぶやきながら歩いていました。

ため息をつき、ふと顔を上げるとそこは、見知らぬ商店街でした。


「あれ?ここどこだろう?」


キョロキョロしているまさなおの視界に、懐かしい佇まいのお店「ほんわか堂」が入ってきました。


「あのお店で聞いてみようか」


***


ほんわか堂ののれんが、風にふわりと揺れました。


(こんにちは)


「いらっしゃいませ」


やさしい雰囲気の女性が出迎えました。店主のほとりです。


「あの、道に迷ってしまったんですが、ここはどこですか?」

「そうなんですか。ひとまず、お席へどうぞ」

「それと…」

「はい」

「いえ…何でもないです」

「ひょっとして、お店の看板についてですか?」

「え?は、はい。なぜ分かったんですか?」

「わたし、テレパシー能力があるんです」

「テ、テレパシ―?!」

(すごい。あ、この思考も読み取られてしまうのかな?)

「ぷっ…ふふ。冗談です」

「へ?」

「ここに来て下さるお客さんは、だいたいその質問をされるので」


ほとりは、少し意地悪そうな顔をして答えました。


「悩みがありますね?」

「へ?……そ、そんなにないです」

「そうですか。でも何か隠している気がします」

(え?……本当はこの人テレパシーあるんじゃないだろうか?)

「話してくれますか?」

「大した事ないですが……」


まさなおは話し始めました。どうしても、思ったことや、話したいことを口に出せないこと。特に、あと一言言えばよかったと後悔して思い悩んでしまうことを打ち明けました。


「なるほど。あの、お茶を飲む時間はありますか?」

「あ、はい。大丈夫です」


ほとりは、お茶を淹れました。


「あなたにお出しするお茶は“留まるお茶”です」


まさなおは、ひと口飲んでみました。


「ふぅ。何か焦りが消えるような味ですね」

「まさなおさん、言えなかった時って、鼓動だけ早くなってしまいませんか?」

(何でわかるんだろう)

「そんな時は、このお茶の味を思い出して下さい」


ほとりは、奥の棚から小さな箱を取り出してきて、まさなおに渡しました。


「あなたに、この“おくり物”をさしあげます」

「これを、僕に?」


箱を開けてみると、そこに入っていたのは青い巾着袋でした。そして小さなメッセージカードが添えられていました。

『そのブレーキがあなたの強みですよ』


「まさなおさん、この巾着袋に、その日言えなかった一言を紙に書いて、袋に入れて、次の日にその紙を捨てて下さい。わたし、頑張って言おうとしなくてもいいと思うんです」


まさなおは、お店を出ると、青い巾着袋を眺めながら、商店街を歩いていました。


(そか、頑張って言おうとしなくていいのかぁ。)


「……あ、道を聞くのを忘れた。もう1回お店に行ってみよっか。あ、あれ?ほんわか堂はどこにあるんだろう?」


まさなおは慌てますが、周りを見渡すと見慣れたところにたどり着いていました。


***


ある日、まさなおはやはり思った一言が言えませんでした。


「あの時、もう一言言えていたら、取引先の人も即答して契約できたかもしれない。結局保留になってしまった」


そして巾着袋に言えなかった一言を紙に書いて入れ、次の朝には捨てました。


「ふぅ。なんか、スッキリするなぁ。さ、今日も頑張るか」


まさなおは出勤しました。

取引先に同行した同僚が話しかけてきました。


「まさなお、昨日の契約、さっき連絡があって決定になったよ」

「え?なんで?」

「条件提示も良かったけど、何でも、まさなおの押してこないところが信用できた、って」

「そ、そうなの?僕、もっと話せばよかったって帰ってから反省したんだけど」

「あれくらいでちょうどよかったと思うよ。まさなお、いつも余計な事は話さないし。それが良かったと思う」

(そうなんだ。僕、すごいじゃん。あの言葉「ブレーキがあなたの強み」……不思議だ。何であの人はそれが分かったんだろう)


まさなおが思いに耽っていると、同僚が話しかけてきました。


「おい、まさなお、どうした?何か言いたい事あったか?」

「え?あ、ごめん。何でもないよ」

(本当は言うことあったんだけど、やっぱり言わないでおこう)


こうして、まさなおが言わなかった事が、結果的に良い結果をもたらす事になったのでした。


***


その後、ほんわか堂では──

まさなおが記した“ありがとう帳”の名前の下に、こんなメッセージが浮かび上がりました。


『一言足りないくらいが、ちょうどよいですね。でも、たまには一言言ってみます。……心のなかで。 一言足りない男、まさなお』


ほとりが、いつものように看板を書きながら、ぽつりとつぶやきました。


「きょうも だれかの一言が 心のなかで やさしく 溶けますように」


【おくり物】

青い巾着袋

メッセージ:

『そのブレーキがあなたの強みですよ』


**次にのれんをくぐるのは、もしかすると“あなた”かもしれませんね**

        

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